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第2話 微睡みの廃殿

 翌日、ノアルは朝から冒険者ギルドにいた。


 周囲を見渡すがベルの姿は見当たらない。


 顔見知りに挨拶を済ませ、足早に依頼の掲示板に向かう。日々の生活のためには依頼をこなして日銭を稼がなければならない。


 (俺にできそうな依頼は……ないか。またダンジョンで雑魚でも狩るか)


 掲示板の依頼はモンスターのドロップアイテムの入手が多くを占める。ドロップアイテムは冒険者ギルドでも買い取ってくれるが、大抵依頼の方が金額が高い。


 掲示板から離れようとした時、誰かが肩に手を回してきた。


 「おはよう。ノアル君。いい話があるんだけど聞いていかないか?」


 それは昨日、絡んできたドルグだった。傍らにはゴルドーの姿も見える。


 「おはよう。いい話って何?」


 この二人の話を聞くのは嫌だけど、無視したら何をしてくるか分からない。

 

 ドルグは更に顔を近づけ、にやついた顔で話し始めた。


 「実はな、『微睡みの廃殿』に新しいモンスターが出たらしいんだ。なんでも新しいスキルを持っているらしくてな。レベルが低いまま使ってもかなり強力で格上のモンスターにも有効らしいんだよ。モンスターのレベルは5とお前より高いが、俺たちが一緒に行って倒してやるよ」


 『微睡みの廃殿』か……。

 

 あそこのモンスターはレベルが低く、倒しても何もドロップしないし、放っておいてもモンスターが増えることもないので、冒険者からは見向きもされていない。しかも理由は分からないがダンジョンボスを倒してもドロップアイテムはなく、ダンジョンも消滅しないことから、冒険者ギルドでも放置しているのが実情だったはず。

 

 そんな場所に新しいモンスターが?


 「ああ、なんだお前疑ってんのか!? 親切な俺たちが力になってやろうって言ってんじゃねーか」


 ゴルドーが横から話を割って入ってきた。どう考えても親切な人の言い方じゃない。


 でも、もしこの二人が言っていることが本当なら……。そう思うとノアルは安易に誘いを断ることができなかった。


 彼のレベルはひと月前から3で止まっている。格下のモンスターを倒しても経験値は入らないが、格上のモンスターを倒すこともできない。レベル3までは努力と地力で何とかなったが、それ以上は彼一人では無理だった。

 

 しばらく考えた後、ノアルは口を開いた。


 「ありがとう。二人が一緒に行ってくれるなら心強いよ」


 今のままでは父さんと母さんみたいに強くなれるとは思えない。この二人の言うことが本当かどうかは分からないけど、一縷の望みがあるならそれに賭けるしかない。


 「お! いいねえ! じゃあ早速行こうぜ! まあ俺たちに万事任せておけって!」


 気味の悪い笑顔を浮かべるドルグとゴルドーと共にノアルは冒険者ギルドを出ていった。


 …………。


 …………。


 それは古い神殿のような外観をしていた。だが、長い年月の結果か、崩れ落ちたのであろう大きな穴が目立つ天井からは日の光が差し込み、柱や壁の一部もまた崩れ落ちている。


 むき出しになった地面から生えた雑草が日の光を目いっぱい浴びる中をノアルたち3人は歩いている。


 「新しいモンスターってどの辺にいるの?」


 「まあ、まだだ。結構奥の方にいるらしいからな。まあ俺たちがいるから大丈夫だよ。なんたって二人ともレベル8だからな」


 このダンジョンのモンスターはこちらを見つけても襲ってくることはない。何もかもが異質なここは、本当にダンジョンなのか疑ってしまうほどだ。


 ドルグたちの後に従いながらしばらく歩くと両開きの扉の前に着いた。青銅製と思われるその扉はノアルたちの背丈を優に超える高さがあり、重厚な雰囲気を湛えている。


 「着いたぞ。ここだ」


 ゴルドーが扉の前に立ち止まった。


 「モンスターに少しでもダメージを与えないとラーニングはできないからな。先にノアルが入って不意打ちでダメージを与えてくれ。その後で俺たち二人が入って倒してやるよ」


 ドルグが扉を指さしながら話す。


 ここまで来る途中でも二人に不審なところはなかった。何かあったところで逃げればいい。


 何より、この先にいるモンスターを倒せば俺は強くなれる。憧れた父さんと母さんのように!


 ノアルは期待と共に扉を開けたが、同時にゴルドーの口がわずかに上向いたのが見えた。


 開け放たれた扉の先でノアルが見たもの……。


 それは、巨大な石斧を携えた牛頭人身の怪物だった。


 「こ、こいつはミノタウルス! ここのダンジョンボスじゃないか! ドルグ! ゴルドー! どういうことだ!?」


 ノアルが後ろを振り向こうとした時。


 「ぐあっ!!」


 ゴルドーが足裏でノアルの背中を思い切り蹴り飛ばした。


 そしてドルグがにやついた顔で扉を閉じていく。


 まさか、閉じ込められた!?


 「あーっはっはっは! バカじゃないかアイツ。新モンスターなんているわけねーだろーが!」


 「モンスターに少しでもダメージを与えないとラーニングはできないなんてことあるわけねーだろ! パーティ戦もしたことねーのかよ!」


 扉の向こうで心底楽しそうに笑う二人の話し声が聞こえてくる。


 「ふざけるな! 開けろ! 開けてくれ!」


 ノアルは力の限り押してみたが、何かが扉の前に置かれているのかびくともしない。


 「ずっと目障りだったんだよ! 弱いくせに頑張っちまってよ! お前みたいな役立たずは早く消えてほしいからな! 無事に勝てたらまた会おうぜ!」


 「俺たちが協力してギリギリ勝てるかといった相手だ。ま、頑張ってくれよ!」


 二人の声が扉から遠ざかっていく。このまま置き去りにするつもりのようだ。


 なんて奴らだ。まさかここまでやるなんて。俺がアイツらに何をしたっていうんだ……。


 様々な感情が渦巻く中、ノアルがミノタウルスの方を振り向くと、すでに相手は石斧を高く掲げ臨戦態勢に入っていた。

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