第12話 帰らざる坑道4
グールの襲撃を退けた後、数体のゴーストに遭遇したが、ノアルによって難なく倒され、ユアナのレベルも4まで上がっている。途中何度かスキル融合を試してみたがやはりうまくいかなかった。
「そろそろ帰ろうか。暗くなる前に街に着きたいし」
十字路の手前でノアルが腰のバッグから取り出した小さなものを見ながら言った。
「それは、なに?」
「ん? 色変わりの石だよ。一日のうち陽が昇ってから沈むまで、青色から赤色までだんだん色が変わるから大体の時間がわかるんだ」
ノアルは手の中の小さな丸い石をユアナに差し出した。
それは淡い黄色を示している。
「見て。この色だと大体お昼が終わって半刻くらいかな」
「本当だ」
「今から帰れば、明るいうちに街に着けると思うよ」
「わかった」
色変わりの石をしまった後、しばらく歩いたがモンスターが現れることはなく、正面に階段が見えてきた。この先の十字路を越えれば二層ともおさらばだ。
「階段だ。明日は三層に行ってみようか」
ノアルの気持ちは既に明日の探索に向かっている。
もはや二層に相手になるようなモンスターはいない。スキル融合の失敗はあったがそれもこれから覚えればいいだろう。そのようなことを考えながら歩を進めていた時だった……。
ーーグゥルァァァ!
静寂を切り裂くような叫び声。
ーーバリンッ!
左側の通路から飛び出した何かが、シールドを砕きながらノアルにドンッと飛び掛かる。
「うぐっ……!」
完全に不意打ちを受けたノアルはそのまま右側の通路まで吹き飛ばされた。
地面に倒れこむと同時に辺りを強烈な腐敗臭が漂い出す。
それはレベル5のものとは比べ物にならないほど大きいグールだった。グールは口や手足から体液を垂れ流し、荒く呼吸をしながらノアルを見ている。
「……鑑定」
倒れこみながらなんとかスキルを発動した。
種 族 グール
レベル 8
スキル 飛び掛かり
ダッシュしながら対象に襲い掛かる。
レベル8!? この階層の上限じゃないか!
立ち上がろうとするノアルだが、足元がおぼつかない。
完全に油断した……。レベル8になり二層に敵などいないと勘違いした結果がこれだ。ついこの前まで逃げ回っていたのに俺は何を考えているんだ……。
ノアルがおぼろげな意識で思考していると、グールは不意に右側を向くと、両手を上げた。
その先にはユアナがいる。
まずい! ユアナには攻撃する手段はないし、あのグールにシールドは効果がない!
グールは今にも飛び掛かろうとしている。ノアルのいる場所からはユアナの姿は確認できないが、通路では避けることもできないだろう。
俺のせいだ……。
ノアルを絶望が襲う。
しかし……。
「おいしい……」
脳裏に浮かんだのは昨日のユアナの笑顔だった。
違うだろう! 俺がすべきことは諦めることじゃない! 最後まで足掻くことだ! あの時のように!
ノアルはよろつきながらも右手で剣を強く握ると左に構える。
「ダッシュ! ブルスイング!」
両手から溢れた異なる二つの力は熱量を持った血潮のように体を巡っていき、そして渦の様に混ざりあった。
「一閃!」
それはグールの飛び掛かりが発動する瞬間。
剣が空気を切り裂く甲高い音と共にノアルは一瞬でグールを薙ぎ払いながら前方に移動していた。
ーーゴヴォゥァ……
全身の力を使い切り思わず倒れこんだノアルが見たものは、腹から真っ二つになり光の粒となって消えていくグールの姿。
「やった……。ユアナ!」
再び立ち上がり、急いでユアナの元に向かうと、そこには先ほどと変わらない彼女が立っていた。
『ユアナのレベルが6に上がりました。スキル『祓除の光球』を覚えました』
頭に響く声。
「無事だった!?」
「うん」
淡々としたその言葉にも異変は感じられない。
「良かった……」
全身の力が抜けていくノアル。
「ノアル」
「ん?」
ユアナは真っすぐにノアルを見ながら言った。
「ありがとう」
先ほど彼を救った笑顔と共に。




