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第13話 帰らざる坑道5

 「おかえりなさい。ユアナちゃん怪我してない?」


 心配そうにユアナを見ているベル。


 「だいじょうぶ。ちょっと怖かったけど」


 「ちょっとノアル君! 怖かったってどういうこと!」


 ベルが問い詰めるようにノアルを睨みつけた。


 「ち、違……わないかな……あはは……」


 レベル8のグールを倒した後、ノアルたちは『帰らざる坑道』から脱出し、クーリアの街に戻ってきていた。


 西日が差し込む冒険者ギルドでベルの詰問を受けたノアルだが、精一杯説明し、ようやく許してもらえそうな雰囲気が漂っている。


 「まあ、いいわ。ユアナちゃんに怪我はないみたいだし」


 両手を腰に当てながら諦めたようにベルが言う。


 「でも、忘れないで。ダンジョンの中では一瞬の油断が命取りになること。それに『帰らざる坑道』はこれまで多数の冒険者が行方不明になっている場所。何が起こっても不思議じゃないわ。ユアナちゃんを知っている人が見つかるまで、この子を守れるのはあなたしかいないのだから」


 ベルは真剣な眼差しでノアルを見つめている。


 「分かった。もう二度と油断はしない」


 その返事に満足したのかベルの表情が緩んだ。


 知っている人が見つかるまで……か。ユアナはいつまで一緒にいるんだろう。記憶が戻ればどこかに行ってしまうのかな……。


 ノアルは複雑な思いでユアナを見たが、不思議そうに小首を傾げるだけだった。


 「それはそうと。ユアナちゃんの冒険者登録しておいたわよ」


 ベルはユアナに向かって小型の金属製のカードを差し出す。


 「これは、なに?」


 受け取ったカードを見ながらユアナは質問した。


 「冒険者IDよ。あなたの名前と外見の特徴などの個人識別情報、それにここのギルド名が書かれているわ」


 「これは持っていないとダメなの?」


 「ダンジョンに行く時は必ず持っていて。冒険者IDは身分を証明するものであると同時に何かあった時にそれが誰なのか判別するためのもの。分かりやすく言えばあなたが死んだ時に、あなたであると証明するものよ」


 「わたしが、死んだ時……」


 ユアナは受け取った冒険者IDを見つめている。


 「大丈夫よ! ノアル君が守ってくれるわ! ね!」


 ノアルに向かってウインクをするベル。


 「もちろんさ! ユアナには指一本触れさせないよ!」


 「うん。ありがとう」


 ユアナは冒険者IDを見ながら何を思ったのだろうか。


 ノアルを見つめる瞳はいつもと変わらない。


 「明日からもダンジョンに行くのね?」

 

 ベルがユアナに問う。


 「うん。ノアルが守ってくれるから大丈夫」


 「わかったわ。明日からも頑張ってね」


 「うん」


 ユアナは小さく頷いた。


 既に窓から差し込む西日は消えかかり、夜が迫っている。


 二人は、ドロップアイテムを換金して冒険者ギルドを後にした。


 グールからドロップした『穢れた爪』が思いのほか高く売れたのが印象的だった。

 

 あんな気持ち悪い物を誰が欲しがるのだろうか……。


 …………。


 「はあ!」


 ノアルの剣がグールを切り裂く。


 翌日、二人は既に『帰らざる坑道』に来ていた。二層を探索するが、レベル7以上のモンスターには中々遭遇しない。


 「ユアナ。危険かもしれないけど三層に行ってみようか。危ないと思ったらすぐに二層に戻ってこよう」


 ユアナがコクリと頷くのを確認したノアルは二人で三層への階段を下っていく。


 「ここが三層か……」


 ノアルの視界に映るのは、整然と切りそろえられた長方形の石材で互い違いに組み上げられた壁と、平らに削り取られた不規則な石材を敷き詰めた道。


 石壁には燭台が並び、山吹色の炎が揺れている。 


 「さっきと違ってきれいな場所だね」


 ユアナの言うとおり二層までとは雰囲気が全く異なっていた。


 「油断しないで慎重に行こう。真っすぐ行った先に小部屋があったはずだからまずはそこを目指そう」


 どこから吹いてくるのか見当もつかない風の音を聞きながら二人は慎重に歩き出す。


 途中、分かれ道があったが特にモンスターが襲ってくることもない。


 「着いた」


 辿り着いた小部屋は静まり返っていた。中央には剣と盾を構えた全身鎧が飾られ、天井は簡易的なシャンデリアが吊り下げられている。


 「止まって」


 ノアルが手でユアナを制す。


 あの鎧はたしか……。


 部屋の中央の全身鎧に意識を向ける。


 「鑑定」


   種 族 リビングメイル

   レベル 10

   スキル ガード

       盾で攻撃を防ぐ


 鑑定を使用した直後、耳障りな金属の軋む音を立てながらリビングメイルの兜がノアルの方を向く。そして次の瞬間、兜の中には青白い炎の様なものが灯った。

 

 「リビングメイルだ! 俺が引き付けるから離れているんだ!」


 『鑑定』に気づかれたか!? 入り口で固まっていてはユアナが危ない!


 ノアルはリビングメイルに向かって真っすぐに駆けていく。


 リビングメイルがノアル目掛けて片手剣を振り下ろすと同時にノアルの剣がリビングメイルに迫った。


 --ガキィィン!


 剣と剣がぶつかり合う金属音が辺りに響き渡る。


 攻撃を防がれたノアルは後ろに跳び下がり、入り口の方を横目で確認した。


 ユアナはうまく横に逃げている。あそこならリビングメイルも届かないはず。


 ノアルの言葉を聞いた後、ユアナは右手に走り、リビングメイルから距離をとっていた。


 剣を握り直したノアルに向かってリビングメイルが迫り、片手剣を振り上げる。


 「ダッシュ!」


 自身の脇をすり抜けたノアル目掛けた剣が空を斬ったリビングメイルがよろけた瞬間。


 「一刀両断!」


 渾身の力を込めたノアルの斬り落とし。 


 ーーバギャリッ!


 が、その攻撃はリビングメイルの盾によって完全に防がれた。


 「くっ! 『ガード』か!」


 やはりレベルが上の相手に通常のスキルでは歯が立たないか。隙を見てスキル融合を使うしかない。


 一旦後ろに下がって、体勢を立て直そうとしたその時、後方から声が響き渡る。


 「地に宿りし星なる脈動

  闇を祓えし光を与えよ」


 ノアルが声がする方を振り向くと、胸の前で両手を合わせながら祈るように言葉を唱えるユアナが見えた。

 彼女の周囲には三つの輝く光の球が浮かび上がっている。


 「祓除の光球ホーリーオーブ


 言葉と共に突き出された両手に従うように、三つの光球がリビングメイル目掛けて放たれたそれは、不規則な軌道を描きながら、飛ぶ鳥に似た速さで進んでいきリビングメイルを直撃した。


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