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第10話 豊島区一家監禁殺人事件

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 日高奏は東京都豊島区で起きた殺人事件の被害者である。

 四年前。豊島区長崎。池袋から少し離れた豊島区の郊外。学生や若者が住む安い賃貸も多くある街。この穏やかな街で、事件は起きた。

 家族六人で暮らす日高家。家は新築の一軒家。ある土曜日、朝、男は侵入した。事件当時三〇代後半だった男は、奏の父と母を刃渡り一三㎝の包丁でめった刺しにして殺害。自宅内にいた兄妹四人へ、包丁を突きつけて脅し、ガムテープで四股を拘束した。

 日高家兄妹。奏は三番目。当時、八歳。兄が一人。妹、弟が一人ずつ。

 兄妹を拘束した犯人は、ひきこもりだった。定職に就かず、自宅にこもり、ゲームやインターネットをして日常を過ごしていた。

 その日、世話をしてくれていた両親を殺害後、日高家へやってきた。

 四人は、奥の四畳半の部屋に詰め込まれ、犯人はそこでスマホゲームをしていた。


 十二歳だった奏の兄は、隙を見て拘束を解き、犯人へ襲撃を試みた。が、返り討ちに遭い、その場で死亡した。

 畳は鮮血で汚れる。横たわった兄からは赤黒い血液。妹はショックで気を失った。


 それを見て、死んだ、と思い込んだ犯人は、とどめを刺すために妹の首や腹部を包丁で切り刻んだ。血しぶきが上がるが、犯人は平然としていた。


 両親、兄妹二人が目の前で殺害された。悲鳴をあげたい。叫びたい。泣きたい。でも……、奏は、大声を上げることが出来なかった。犯人に「声を出すな」と命令されていたためである。包丁を突きつけられ、脅されていた。逆らった兄妹は殺された。その事実が、奏の心を支配した。愛する家族が殺されても、泣き叫ぶことも出来なくなった。


 犯人はそれから四畳半にこもり、奏と弟とスマホゲームやアニメの話をした。奏たちは話せないので、うなづいたり、首を振ったりして会話をした。犯人が自宅から持ってきたリュックには、カードゲームが入っていた。奏や弟も知っているゲームだった。犯人と一緒に何時間もカードゲームをした。犯人の衣服は血だらけだったが、気にしている様子はなかった。ただし、カードに血がつくのは嫌がり、手だけは洗っていた。


 二日間が過ぎた。

 

 弟はとある提案をした。

「手に血がついてしまった。洗ってきたい」と提案をした。当時、六歳の弟だ。惨殺された姉の体に触れ、手に血をつけた。逃げだすためだ。弟は賢かった。

 ゲームを何時間もプレイし、犯人は姉弟を信頼し始めていた。許可を出した。弟は四畳半から廊下に出て、そのまま逃げだそうとした。が、警戒したのか犯人が後を着いてきたため、思惑が発覚。弟はその場で殺されてしまった。


 それから七日間が過ぎた。 


 奏は疲弊しきっていた。逃げだすことを恐れた犯人は、四畳半から奏を一歩も出さなかった。排泄はスーパー袋の中にさせた。食事は日高家にあったカップラーメンなどを与えた。

 四股は縛られたまま。食事は犯人が介助した。体はうっ血し、感覚はなくなってきていた。


 奏は夢を見ているような感覚だった。家族が殺された、という事実。監禁されているという事実。そこから逃げだすために、心を解離させた。自分を守るためである。


 それから二日後。

 

「異臭がする」という近隣住民からの通報により、警察がやってくる。死体から発生する匂いである。犯人は殺した人間の体を処理していなかった。

 奏の両親、兄妹、日に日に腐ってウジ虫が沸いていた。小バエが飛ぶ。

 季節は秋。風に乗って屋外へ飛んでいた。


 通報はそれだけではなかった。

 奏たちが通う小学校の職員。何日も無断欠席するために自宅へ連絡をした。犯人は電話機の電話線を抜いていた。連絡メールも返事がない。連絡が何日も取れないことを不審に思い、自宅へ教職員が来たが、返事がない。異臭もする。事件性を疑い、通報をした。


 犯人の両親の遺体も、発見されていた。犯人の家は、埼玉県にあった。殺害後、西武線に乗り、東長崎までやってきていた。日高家を選んだのは、たまたまである。襲撃する家族を探していた途中、軒先へ賑やかな笑い声が聞こえてきて、日高家を選んだ。面識は全くなかった。


 犯人は全国に指名手配され、足取りが捜査されていた。踏みこんだ警察官は八名。事件性を疑われていたため、大人数だった。

 犯人は四畳半の奥で奏とゲームをして遊んでいた。抵抗はしなかった。

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