episode12
話の動き始めというのはこう……力が入ってうまく表現できませんね。
で・す・がっ!
なんとかなるでしょ。
不屈のHERO episode12
師匠と千道が睨み合う。そして長い沈黙から先に動き出したのはやはり師匠からだった。
「大丈夫か凌。後は俺が何とかしてやる。ちょっとそこで待ってろ。」
「師………匠。ご……めんなさい。」
「気にするな。やり合った相手が悪かっただけだ。だからこんな目に合わせた奴には俺が罰を与えないといてやる。」
師匠はそう言うとゆっくりと歩き出した。そして千道も2人を地面に下ろして向かって来る。
episode12
師匠と千道の距離が目と鼻の先にまで迫った時それは始まった。瞬きするよりも速く2人はぶつかり合った。師匠の拳と千道の刀が交わる。その激しい攻防に見惚れる俺と大神。だが2人の戦いはそこまで長引くものではなかった。
「遅いぞ千道。」
そう言って茂みの奥から姿を現したのは腰が大きく曲がりその体には不釣り合いな長い杖を持った老人。千道は師匠から大きく距離をとった。
「どうしました藤堂教授。」
「そろそろくる頃と待っていたがいくらなんでも遅すぎじゃ。早よその小娘2人を連れて行くぞ。」
そう言うと千道は2人をまたも抱えて歩き出す。それを追うように大神が着いて行く。それを見て師匠が飛びかかろうとしたが。
「動くな綾鷹!お前が動けばそこで横たわっている小僧と私が抱えているどちらかが死ぬ事になるぞ。」
そう言われると動きを止めた師匠。俺はいいから2人を助けてくれ!………そう言いたかったが声はやはり出なかった。がその時。
「綾鷹!!!!」
その声と共に春が宙を舞う。投げたのは冬月だった。無理な状態で動く筈のない肩を無理矢理に動かし必死に託した最後の叫び。
「凌と春を連れて行け!!こいつらが見つけられないような場所に走れ!!」
師匠は俺と春を抱え冬月や千道に背を向けて走り出す。そして俺は意識が薄れるその時に冬月の安堵した顔を見る。それは俺がその時見た最後の光景だった。
綾鷹達が私の見えぬ所まで走っていった。
「どこ行くんや!!」
「待て輝。もう今から追いかけても逆に返り討ちにされるだけだ。今は夜城 冬月を連れて行くのが先決だ。」
「はい。」
「残念だったな千道。」
「いや、それほどでもない。まだ君がいるからね。だがよくその肩で夜城 春の事を投げる事ができたね。」
「お前に答える事など何もない。だがこれだけは覚えておけ。あの凌を殺さずに生かしておいたのは間違いだったな。凌と今後会った時、絶対にお前達を完膚無きまでに叩き潰すだろうな。」
「そこまで思ってもらえているとはね。あいつらと会うのが楽しみだ。あいつらは近々お前を助けにくるかもしれんからね、それまで楽しみに待つとしようか。」
「いや。それはない。あの2人は春を守ると私と約束した。それを破るような事はしない。こんなわざわざ危険を侵して来る筈ない!」
「いや。来る筈だ。あの2人はそうゆう男だ。」
そう言うと私の両手に枷をつけ歩かせた。私はこの時信じていた。
"私が居なくても春を頼んだぞ。"
あの事件から3日が過ぎた。この3日間雨が降り続け雨が上がる事はなかった。そして春は……部屋から一歩も出てして居ない。師匠は今全力で知人や仲間の力を使い情報収集しているはずだ。そして傷はそこまで深くはなかった俺だがそれよりも心に深く抉れたような傷が残った。約束を守れなかった。そして千道のあの言葉………。
【「君には『大切なもの』を守ることは出来ない。助ける力もない。想う愛がない。夢を死んでも叶えてあげたいという欲もない!相手を想うだけで相手の気持ちを受け取ろうともしない。そんな君が『HERO』の真似事などしても何も出来ることはない、出来る筈がない!!せめてそこで大切な人を想い死ね。」】
この言葉が俺の頭をぐるぐると回り続けた。あの日2人に会った公園に行き着いた。俺はヨタヨタと雨でびしょびしょに濡れたベンチに腰掛けると俺の目の前の景色が黒く染まって行く。そして何も見えなくなった。何も感じないし何もない。そんな中で遠くの方に淡い光を放つ1人の少女がいた。金色の長い髪に白のワンピースを着た少女が無邪気に走り回っている。幻覚まで見るようになったかとまた俯く。
「ねえ、お兄ちゃん。こんな所で何してるの?」
ついに幻聴まで聞こえてきた。だがその少女は俺の頭を撫でた。
「お兄ちゃん。こんな所で1人でいちゃダメだよ。こんな所にいたら私みたいになっちゃうよ。」
「いいんだよ。俺はここにいたいんだ。」
何となく返答してしまう俺だったが少女は俺の返答に答える。
「ダメだよそんなこと言っちゃ!お兄ちゃんにはお友達がいるでしょ?」
「………。」
「私は知ってるよ。お兄ちゃんの師匠。学校のお友達2人。そしてこの間出会った2人の可愛い女の子。お兄ちゃんの周りには楽しくて面白くて優しい人がいっぱいいるよ!」
「けど1人……守ってあげられなかった。」
自然と声が震える。両手の拳を強く握りしめる。痛みはなかったが血が流れ落ちる。
「お兄ちゃんは諦めちゃうの?」
その少女は俺の頬を両手で挟んで顔を上へあげた。
「本当に諦めちゃうの?大切な人なんでしょ?」
「ああ。俺の大切な人だよ。俺が守ってやるって約束した人。出来ることなら助けてあげたい。けど………。」
「けど?」
「俺には……あいつを助けてやるような………守ってやるような力はないんだ。」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんなら強くなれる、だってその人達の為にこんなにも傷付いてなんとかしてあげようって思てる。私ね、そういう人が強いの知ってるよ。身体が強いって意味じゃなくて『心』が強いって言うんだよね。だからお兄ちゃんは強くなれるよ。」
「俺なんかが『HERO』になれるのかな?」
「なれるよ!だって昔から私にとってお兄ちゃんは『HERO』だもん。」
「………。」
少女の言葉はどん底にいた俺の心を掬い上げギュッと包み込むようだった。なんて言えばいいのか表現が難しかったが簡単にいうと誰かに守ってもらっている様に感じた。
「それじゃあ私、そろそろ行くね。お兄ちゃんを待ってる人がいるんだからいつまでもこんな所にいちゃダメだよ。じゃあね『HERO』のお兄ちゃん……頑張って。」
そう言うと少女は走っていった。真っ暗だった周りの景色が元に戻り気が付けばあの公園のベンチに腰掛けていた。そして俺は立ち上がり上を向いて街を走り回った。ついでに恥ずかしさも忘れて大声で叫んで走った。声が枯れるかも。誰かにあいつは頭がどうにかなったんだと思われるかも。だがそんな事どうでも良かった。ただ自分のダメなものを吐き出す様に叫び、転けては誰かの為に自分の為にと立ち上がり、全力で走った。
雨は上がり雲の切れ間からは光が差し込んむ夕方。俺は家に戻っていた。家の中にはいると俺が家を出た3日前と変わらない状態だった。そして春の部屋の前へ。
「春……俺、凌だけど聞こえてても返事はいらないから、今から聞いてほしい事があるんだ。……約束破ってごめん。俺…何もかも中途半端だった。あんな事言ったくせに冬月を守ってあげられなかった。」
部屋からは物音一つしない。だけど話続ける。俺の気持ちが少しでも今の春に届く様に足りない頭で言葉を紡いで話続ける。
「勝手に『HERO』気取りで2人を守ってやるなんて言ってバカみたいだよな。………だけど、それでも俺はもっと強く……2人を守れるぐらい誰よりも強くなってみせる。だけど………その前に冬月を助けに行ってくるよ。1人で無茶かもしれないけどもう決めたんだ相手が誰だろうと……俺よりも師匠よりも強い奴がいようと俺は冬月を助け出さないといけないんだ。話はこれだけだからじゃあ冬月と一緒に帰ってくるまで待っててくれよな。」
俺はすぐに準備を進めた。黒のインナーを着てその上から道着を羽織った。そしてグローブを付けずにテーピングで拳を固め手甲を付けて表に出る。すると後ろから凄い勢いでドロップキックをされた様な衝撃が襲う。俺は前に飛ぶ様に倒れヨタヨタと後ろを振り向くとそこには春が立っていた。
「凌くんのぉ…バカーーーー!!!」
夕日の赤に染まった空に春の声が響き渡る。俺は驚きを隠せず口を開けたまま閉じることができなかった。春の腰には冬月の刀が。そして始めて会った時と同じロングコートを羽織っている。
「何で1人で行こうとするの。全部自分1人で背負って…皆を守ろる為に自分を犠牲にして……私だって……私だって行きたいよ!私もその半分でいいから背負わせてよ!私にも皆を守らせてよ!!」
啜り泣きながら俺に訴える春、目は赤く充血し声はガラガラ。あれからずっと泣いていたんだと少し心が痛い……だけどその春の姿に俺はなんてバカな事を言ったんだろうと。
「私だってバカだよ…特訓して強くなった気でいて。無理に千道と戦って…負けて…お姉ちゃんに助けられて。私はまだ弱いままだった。けどね、このままじゃ諦められない…諦めたくない。凌くんやお姉ちゃんはどれだけ傷ついても私を守ってくれた。だから私も弱くても未熟でも……進みたい、私もお姉ちゃんを助けに行く。」
力の入ったその瞳を見て春がどれだけ強い人間か理解できた気がする。力が強いんじゃない。心が強いんだ。
「行くか春!冬月を助けに!」
「うん!」
そして俺達は北ゲートに向かう。居場所は春が目星をつけてくれていた。あとはそこに行き冬月を助け出すだけだった。北ゲートに到着…がそこには師匠が凄い形相で仁王立ちして待っていた。
「お前達は何処に行くつもりなんだ。この俺を置いて。」
「しっ師匠…おっ俺達は……っ冬月を助けに行く!!」
「そんなこと言われんでもわかっとるわぁーーーっ!!!!」
後最もな意見で。だが師匠が怒るのも何と無くわかった。危険な場所にたった2人で乗り込もうとしているんだ。義理とはいえ娘である春を俺なんかと行かせるわけには行かないんだろう。
「……冬月ちゃんを助けに行くんだったら行く前に確認しておきたいことがある。お前達はそれだけの覚悟が出来ているのか?」
「俺は出来てる。今から行く所がどれだけ危険な場所かもだいたい予想出来る。だけど俺は冬月や春と約束したんだ!これから先も俺が守ってやるって。」
「凌…お前。」
俺の名を呼んで近づきそして…。
「『俺達』だろうがぁぁぁーー!」
とすごく痛い拳骨をくらった。泣きそうなほど痛かったがその言葉に俺は安心して涙が零れ落ちそうだった。
「私も凌くんと同じです!!どんなことがあってもお姉ちゃんを助け出して見せます!その覚悟は出来てます!」
「わかってんよそんなこと。お前達のその格好を見ればそれだけヤル気だってことはな。彼奴らの居場所は何とかわかった。この先の走っても3時間強って所にある森に囲まれた屋敷だ。そこに何故か人が集まってる。それにその屋敷を取り囲む様に警備員が巡回してる。」
「見てきた様な口振りですね。」
「そりゃそうさ。見てきたんだから。」
言葉が出ない。師匠は情報収集してるとは思っていたが自分の足で辺りを探し回っていたなんて。何て人だ。
「それじゃあ行くぞお前達!冬月ちゃんを助けに!!」
「おう!」
「はい!」
そして俺達は北ゲートを抜けて走り出した。
続く。




