第24話 料理人の俺も、実地訓練に同行するらしい
「はい。黒江様にも同行をお願いいたします」
騎士の人にもう一度言われても、やっぱり意味が分からなかった。
周囲を見る。
河井。絆奈。神代。月白。他にも何人か、今日実際に魔物と戦っていたクラスメイトたちが並んでいる。
その中に、俺? なんで?
訓練場の端からみんなが魔物を倒すのを眺めていただけなのに。
意味がわからない。
「でも俺、戦えませんけど」
「承知しております。黒江様に戦闘へ参加していただく予定はございません」
そこまで分かっていて、どうして俺の名前が呼ばれたんだ。
「今回の実地訓練は、王都から馬車で数時間ほど離れた地域で行います。近隣では低級魔物が確認されており、その討伐を皆様に経験していただく予定です」
騎士の人が全員を見渡す。
「もちろん、騎士団からも複数名が同行いたします。皆様だけで危険な魔物と戦っていただくことはありません。また、今回は一泊二日を予定しております」
「一泊するんですか?」
眼つきを鋭くした神代が問いかける。
「はい。実際の遠征では日帰りで済まないことがほとんどです。戦闘だけでなく、移動や野営も含めて経験していただきたいと考えております」
つまり、ただ魔物を倒して帰ってくるだけじゃなく、遠征そのものを経験させるわけだ。
「それで、俺は何を?」
「食事を担当していただきます」
「しょ、食事を?」
予想外の答えに聞き返す。
「遠征中の皆様の食事を、黒江様にお願いしたいと考えております」
「いや、保存食じゃ駄目なんですか?」
長旅だったらまだわかる。持って行った保存食が尽きて、野営をする際、料理を得意とする人がいれば、それは助かる。
でも、一泊二日でそれは必要か?
「俺もそれ思った」
横から声が飛んできた。
見ると、河井が珍しく厳しい目つきをしながら腕を組んでいた。
「わざわざ黒江まで連れていかなくても、パンとか干し肉持ってけばいいんじゃないですか?」
「それは士気の低下に繋がります」
「一泊ぐらいだったら耐えられる。なんの問題もない」
「我々ならまだしも、遠征に慣れていない皆様には、出来る限り万全な状態で魔物との戦いに慣れて頂きたいのです」
「今日の感じ、少しぐらい腹が減ってても魔物は倒せる」
「食が口に合わず、空腹で夜も眠れなければ、体調を崩す可能性もあります」
「その時はあなた達が戦ってくれればいい。違いますか?」
「それでは訓練になりません」
河井と騎士の口論が続く。
なんで河井がこんなムキになってるのかわからないけど。
俺が理由でこの場の雰囲気が悪くなっているのは居心地が悪い。
そんなことを考えていると。
「黒江はこの訓練にいらない。戦える奴だけで行くべきだ。そうだろ? 黒江」
いきなり俺に振られた。
「あ、ああ。まあ、そうだよな。俺もそう思うぞ」
戸惑いつつも、同意する
別に遠征に行きたくないわけじゃない。初めて王都の外へ行けるのは少し興味があるし、この世界がどうなっているのか見てみたい気持ちもある。
でも、それと俺が必要かどうかは別の話だ。戦えない人間が一人増えれば、その分みんなが気を使うことになる。足手まといはさすがにごめんだ。
だが、同意を求めてきた河井は目を見開いて驚いたように身動きを止める。
「河井の言う通り。俺は行かない方がいいと思うけど?」
「だ、だよな! 黒江、お前は城でお留守番してた方がいい」
「ああ。みんなの足を引っ張らなくて済むしな」
「その通りだ」
「なんでそこで意気投合してるんですか……」
神代が少し呆れたように言う。
「黒江がいたら足手まといだろ、初の遠征訓練で。神代もそう思うだろ? 」
「思いません」
真っ直ぐな言葉に、河井が怪訝な表情を浮かべる。
「私は黒江くんがいてくれると助かります」
「どうして?」
「食事を作ってもらえるからです」
「それはそうだけど、保存食でも――」
「黒江くんの料理と保存食では比べ物になりません。初の遠征訓練、不安が多くあるのなら、食の問題は黒江くんに解決してもらうべきだと思います」
迷いのない言葉に、河井が口をつむぐ。
「わたしも」
隣で聞いていた月白が入ってきた。
「黒江くんはいた方がいい」
「どうして?」
「普段と違う環境で、どんな料理になるのか確認できる。実験したい」
「な、なにを言ってるんだ? 訓練で実験?」
「……あなたにはわからない。とにかく、わたしは黒江くんが同行することに賛成する」
それだけ言って、月白は河井から視線を外した。
「黒江。お前、どういうつもりだ?」
河井がこちらに目を向ける。
「どういうつもりもなにも、俺はお前と同意見なんだけど……」
この状況でなんで俺が河井に睨まれなきゃいけないんだよ。理不尽だろ。
「ともかく」
騎士の人が話を戻した。
「今回、黒江様が同行するよう、上から申し付けられております」
「上って、誰ですか?」
騎士の人は少し困ったような顔をした。
「それについては、私から申し上げることではありません」
「……そうですか」
上からそんなことを言う人、俺が思い当たるのはたった一人だ。
『あなたが私を考えて作った料理を、食べてみたいのです』
そう言って、実際に厨房まで顔を出した王女様。
「……食事担当ってことなら、わかりました」
俺が頷くと、騎士の人も頭を下げる。
「では、詳細については明朝、出発前に改めて説明いたします」
明日からなのか、思ったより早い。
「……っち」
隣から露骨な舌打ちが聞こえてきた。
だからなんで俺が河井にそんな扱いされるんだよ。
なんて、余計なことを考えている暇はない
食材は何を持って行くべきか、すぐにガルドさんと相談しないとな。




