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【超短編連載作品】風鈴工房 〜不器用な職人と居ついた弟子の物作り手帖〜  作者: さくらもち


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4/43

4頁目 大口受注

4話目です!

よろしくお願いします

朝から工房に男の姿はなかった。

納品してくる、という書き置きだけあった。


少女は一人、紅茶を飲みながら書類を片付けていた。


昼を過ぎても工房主は帰ってこない。

作業台に頬杖をつきながら、時計を見る。


「……遅い。」


その時。


バァン!と扉が開いた。


「ルリ!受注取れたぞ!!」


男は帰ってくるなり報告した。


「しかも大口だ!」


いつになく上機嫌である。


「すごいじゃないですか。」


少女は淡々と言う。


「もっと驚けよ。」


男は少し不満をあらわにした。


「どんな依頼ですか。」

「託児所に卸すおもちゃの制作でな。手作りで良いから味わいのあるのが欲しいんだと。しかも五十個!」


男は早口でしゃべる。


こういう時はろくでもないことが起きるに決まっている。


「で、これがラフ図と見積もり。」

「…相棒。」

「ん?」

「なんで歯車回るんです?」

「楽しいだろ?」

「子ども向けだからって全部動かせばいいわけじゃないんですよ。」


大まかなスケッチには何度も付け加えたであろう注書きで埋まっている。そうとう白熱した打ち合わせだったのか。


「クライアントがわかる人でさ。つい盛り上がってな。」


少女は見積もり書を確認して驚いた。……この設計にしてはゼロがひとつ足りない。


「相棒、この設計のまま、この値段じゃ無理です。」

「え、そ、そうか?」

「朗らかに予算オーバーです。」


余計な機能ばっか付いている。


「なんとかなるだろ?」

「ゼンマイ外してください。」

「それが目玉なんだよ。」

「じゃあ報酬上げてもらってきてください。」

「お得意さんなんだよ…」


もうこうなっては何を言っても無駄。

少女はため息をついて言った。


「もういいです…ちなみに納期はいつなんですか。」

「…来週の金曜日です。」


はぁ!?と思わず大きな声が出る。

この作業量で五十個を一週間で。しかも人数は二人。もちろん応援なんて無い。


「こうなったら時間がもったいないです…。お説教はまたにして、すぐ取りかかりましょう…」

「あ、あと…」

「…まだ何か?」


少女はギロリと男を睨む。


「…押したら光るようにしたいです。」

「却下!!!!」


 

 

次の日。

試作品が出来上がる。

作りとしてはとてもシンプルだ。


木製の本体にタイヤを付けた、ゼンマイで走る汽車のおもちゃ。


「出来るだけ角は丸く。ケガしないように。」


ひとつ出来てしまえば、そんなに難しくない。

量が五十個ということを除いては。


「細かい処理と仕上げは俺がやる。動力部はこんな感じに。」


相変わらず教えるのは上手い。まだまだ未熟な少女でも、これだけならなんとかなりそうだ。


「五十個もやればそうとう腕も上がりそうですね。」


無理難題で受注した手前、大の大人がとても小さくなっている。

しかし、嫌味の一つくらいは許されるだろう。


「でも、全部同じじゃつまらないですね。少しバリエーションを加えますか。」

「お、じゃあ車種変えて、ついでに色も変えちゃうか!」

「調子に乗るな。」

「はぁい…」





三日目。

いつもより早めの出勤。

他の作業は後回しである。


「だんだん飽きてきました…。」

「オレも…。誰だよ、こんな依頼持ってきたやつ…。」

「相棒です。」





四日目。

集中力が切れてくる。

作業台に積まれる失敗作の山。

ゼンマイも巻きすぎれば切れてしまうので、子どものおもちゃといえど精密な作業だった。


「子ども向けって難しいですね…」

「玩具なめてたな…」

「予算……」

「……。」

「予算。」

「聞こえてる。」





五日目。

さすがに疲労が出る。


「押したら鳴ったほうがかわいくないですかっ。」

「だろ。」

「あとはパーツごとに色分けして。」

「いいな。」

「…待ってくださいなんで私まで盛ってるんですか。」





納品前夜。

机の上は木くずまみれだった。


「…だからここをこうーー」

「相棒。」

「ん?」

「三回同じ失敗してます。」

「……。」

「寝てください。」

「寝たら間に合わない。」

「起きてても間に合いません。」





納品当日。

託児所には台車に積まれたおもちゃの山が届けられた。

「うわーかわいい!ありがとうございますー!」

「またどうぞ、ごひいきにー。」


少女は笑顔を作ってはいるが、髪はボサボサだった。

隣の男に至っては、目の下にひどいクマを作って幽霊のようになっている。


「やり切りましたね…。」

「やり切ったな…。」

「帰って寝ましょう…。」

「そうしよう…。」


荷物は載ってないはずの台車を重く引きずりながら、商店街を進む。

屋台の香ばしい匂いが、一段と脳を揺さぶる。


 

 

「肉串美味そうだな…。」

「私は肉まんが良いです…。」

 

 結局、両手に食べ物を持ったまま、二人は吸い込まれるように工房へと戻った。

 

 

 

工房の明かりは、その日だけ少し早く消えた。



挿絵(By みてみん)

今回はオマケ回もあります

夕方更新予定です。

アクセスお待ちしております。

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