35頁目 雨漏り
35頁目です
よろしくお願いします
ザー……。
春の雨が、工房の屋根を叩いている。
「…………はぁ。」
少女は作業台に頬杖をつきながら、窓の外を眺めていた。
「今日はお客さん、来ませんねぇ。」
「雨だからな。」
工房主はいつものように、作業台で工具の手入れをしている。
「暇ですねぇ……。」
「そうだな。」
「マルシェのあとだから、もっと忙しくなると思ってました。」
「そんなにすぐ客が増えるわけじゃない。」
「ですよねー。」
少女は窓の外を見る。
ザー……。
部屋には雨音だけが響いている。
「……あ。」
「どうした?」
少女が天井を指差した。
「なんか、落ちてきてません?」
工房主が顔を上げる。
ポタ。
ポタ。
天井から、床に水滴が落ちている。
「…………。」
「…………。」
ポタ。
「相棒。」
「なんだ。」
「雨漏りしてます。」
「知ってる。」
「知ってたんですか!?」
「昨日からな。」
「なんで放置してるんですか!?」
「雨が降らんと場所が分からん。」
「いや今めちゃくちゃ降ってますよ!?」
工房主は立ち上がると、天井を見上げた。
「……確かに。」
「確かにじゃないですよ!」
少女が慌てて桶を持ってくる。
ポタ。
「ここです!」
ポタ。
「こっちも!」
ポタ。
「増えてません!?」
「増えてるな。」
「どうするんですか!?」
「うーん。」
工房主は少し考える。
「屋根裏に上る。」
「えっ。」
「直すぞ。」
「今から!?」
「今だからな。」
男は天井を睨むと、屋根裏に入りそうな場所を探していた。
「はしご持ってきました!」
「おう。」
少女がはしごをかけると、男が天井の蓋を開ける。そこから屋根裏へと侵入すると、木製の梁は男の体重でギシリときしんだ。
「けっこう怖いな。」
「相棒ぅ…気をつけてくださいよー。」
屋根裏から天井を見ると、雨水が染み出している箇所がいくつか見つかった。
男は補修用の板を取り出し、一つずつ手早く塞いでいく。
「相棒ー、どうですか。」
ギシ…ギシ…という音だけが聞こえる。
「…相棒ー?」
返事はない。
「え、どこ行っちゃったの。」
「ルリ。」
「うわ!びっくりした!」
にゅっ、と顔を出した男の顔は、ホコリで真っ黒になっていた。
「来てみるか?部屋になってる。」
「……はい?」
少女も足元に気をつけながらはしごを登って天井裏へと上がる。
灯りで奥を照らすと、異質な雰囲気をまとった小さな椅子と机が置かれていた。
「なんでこんなとこに?」
「さぁな。」
「相棒が置いたんじゃないんですか?」
「もしかしたら先代かもな。」
そう言いながら屋根材から染み出した雨漏りを、補修板で打ち付ける。
「先代って…。相棒がこの工房建てたんじゃないってことです?」
「元々は俺の師匠の工房だ。師匠が引退した時に俺が引き継いだんだ。」
少女は恐る恐る机に近づくと、年代を確かめるように机上を撫でた。
「歴史があるんですね。」
「俺にも知らんことが、まだまだあるかもな。」
「ここは隠し部屋みたいなものなんですか?」
「とにかく変わり者だった。奥さんからの逃走場所だったのかもしれん。」
それを聞いて、少女はふふっ、と笑った。
「絶対に見つからないでしょうね。」
「そうだな。お宝もあるかもしれんぞ。」
薄暗い中を、目を凝らして見る。
机と椅子以外にも、ガラクタのようなものがひっそりと置かれているのが確認できた。
乱雑に置かれたそれらに、思わず少女は眉をひそめる。
「……そのうちここも掃除しましょう。」
「そうだな。…よし、これで雨漏りも平気だろう。下に降りるか。」
二人が屋根裏から下に降りると、雨が上がったのか、窓からは光が射していた。
「…晴れましたね。」
「結果オーライだろ。」
降り注ぐ春の日差しを受けて、ホコリがキラキラと光っていた。
そのうち相棒の師匠のエピソードもやりたいですねえ
若き日の相棒…




