34頁目 マルシェその後
34頁目です!
よろしくお願いします!
マルシェが終わった翌日。
風鈴工房には、いつもの静かな時間が戻っていた。
「ふぅ……。」
少女は作業台の上を片付けながら、小さく息を吐く。
昨日まで使っていた箱。
値札。
ポップ。
そして、手作りの看板。
『風鈴工房 出張所』
昨日まであれだけ賑やかだったものが、今日は工房の隅にまとめられている。
「……終わっちゃいましたね。」
「終わったな。」
工房主はいつものようにコーヒーを飲みながら答えた。
少女は少しだけ寂しそうに、昨日の看板を眺める。
「なんか……夢みたいでした。」
「そうか?」
「だって、私がお店を出したんですよ?」
「そうだな。」
「お客さんもいっぱい来てくれて……。」
少女は昨日のことを思い出し、少し笑った。
「……買ってくれました。」
「あぁ。」
「私が作ったものを。」
工房主は何も言わず、コーヒーを一口飲んだ。
そのとき。
リーン
「こんにちは。」
扉が開いた。
入ってきたのは、見覚えのある女性だった。
「ヒスイさん!」
「昨日はお疲れさま、ルリちゃん。」
女性は笑顔で工房へ入ってくる。
「どうだった? 初めてのマルシェは。」
「はい!えっと……。」
少女は少し照れながら答えた。
「最初は、すっごく緊張しました。」
「あら。見てたわよ。」
「えっ!?」
「最初のお客様に、ものすごい声で『いらっしゃいませぇぇぇ!!』って言ってたでしょう?」
「見てたんですかぁ!?」
少女の顔が真っ赤になる。
「ふふ。でも、そのあとはちゃんとできてたじゃない。」
「……そうですか?」
「ええ。」
女性は作業台に並べられた商品を眺める。
「商品も良かったわよ。」
「え、ほんとですか!?」
「ちゃんとルリちゃんらしいものになってた。」
「私らしい……?」
「ええ。かわいくて、ちょっと変わっていて、それでいて蒸気石や歯車の使い方も自然だった。」
少女は嬉しそうに商品を見る。
「それにね。」
女性は少女の目を見る。
「自分で考えて、自分で作って、自分でお客様に渡したでしょう?」
「……はい。」
「それが一番大事よ。」
少女はしばらく黙っていた。
「……ありがとうございます。」
「こちらこそ。素敵なものを見せてもらったわ。」
そう言って、女性は微笑んだ。
「また出してみる?」
少女は少し考えてから。
「……はい!」
今度は迷わず答えた。
「それじゃ、楽しみにしてるわ。」
女性は手を振りながら工房を出ていった。
リーン
扉が閉まる。
「…………。」
少女はしばらく扉を見つめていた。
「……また、出たい。」
「ん?」
「マルシェ。」
少女は小さく笑った。
「また出たいです。」
「そうか。」
「はい。」
工房主は机の上に置かれた帳簿を手に取った。
「じゃあ、売上を計算するぞ。」
「はい!」
少女も隣に座る。
「えーっと……。」
昨日の売上を書き出していく。
「これだけ売れました!」
「結構いったな。」
「でしょう!?」
少女は嬉しそうに数字を見る。
「初出店にしては、かなり頑張ったんじゃないですか?」
「まあな。」
「えへへ……。」
二人でしばらく数字を眺める。
そして。
工房主が別の紙を取り出した。
「材料費。」
「はい。」
「出店料。」
「はい。」
「袋や包装材。」
「はい。」
「その他、細かい経費。」
「…………。」
少女の顔から、少しずつ笑顔が消えていく。
工房主が計算する。
「で、残ったのがこれだ。」
「…………これが。」
「そうだ。」
「……あれ?」
「どうした。」
「思ったより……少ない。」
「商売だからな。」
「現実ぅぅぅぅぅ!!」
少女は机に突っ伏した。
「昨日あんなに売れたのにぃ……!」
「売上と利益は違うからな。」
「分かってますけどぉ……!」
工房主は苦笑しながら帳簿を閉じる。
「初めてなら、こんなもんだ。」
「……はい。」
少女は顔を上げる。
しばらく、昨日の売上を眺めていた。
「でも。」
「ん?」
「ちゃんと売れたんですよね。」
「ああ。」
「私が作ったものが。」
「ああ。」
少女は、昨日売れたアクセサリーを一つ思い出す。
手に取ってくれたお客さん。
「かわいい」と言ってくれた声。
そして。
「これ、ください。」
その言葉。
「…………嬉しかったな。」
「そうか。」
少女は机の上に残っている自分の作品を手に取った。
「でも……。」
「どうした?」
「これ、もうちょっとだけ小さくしても良かったかも。」
「ほう。」
「こっちは色を変えてみてもいいし……。」
別の商品を手に取る。
「この形も、別の形にしたらもっとかわいくなるかも。」
少女は商品を眺めながら、次々と考え始める。
「それから……。」
「まだあるのか。」
「ありますよ!」
少女は楽しそうに笑った。
「次はこういうのも作ってみたいです。」
「そうか。」
「あと、蒸気石をこうして……。」
「ふむ。」
「こっちは歯車をもう少し小さくして……。」
工房主は少女の話を聞きながら、コーヒーを一口飲んだ。
昨日まで、何を作ればいいのか分からずに悩んでいた少女。
今はもう、自分から次に作りたいものを口にしている。
「……相棒。」
「なんだ。」
「次のマルシェって、いつですか?」
工房主は少しだけ目を細めて、口元を緩ませた。。
「もう次のこと考えてるのか?」
「だって!」
少女は作業台へ向かう。
「次は、もっとかわいいの作りたいです!」
「そうか。」
少女は材料を並べ始める。
「よーし……。」
工房には、工具の音が響き始めた。
カチン。
カチン。
そして。
「……あ。」
「どうした?」
「これ、ギアぽよにしたら売れるかな?」
「…………。」
工房主は少し遠い目をした。
「……また始まったな。」
「何ですか、その言い方!」
工房に、少女の明るい声が響いた。
ハンドメイドマルシェ編!
これにて終わりです!
思いがけず連作!




