33頁目 マルシェ本番
33頁目です!
いよいよマルシェ本番です!
リーン
朝。
風鈴工房の玄関の前。
師匠と弟子は商品を詰めた箱や看板などの資材を、外の荷車に運び入れている。
今日のために作った商品と、出店に必要な資材。
看板も、値札のついたポップも、どれも準備万端だ。
「はぁ………。」
少女がため息をつく。
男は工房の鍵を閉めながら、硬直している少女に向かって声をかけた。
「ルリ。」
「はいっ!?」
びっくりして顔を上げる。
「行くぞ。」
「はいっ!」
少女は、荷車の持ち手をグッと掴んだ。
「……緊張してるのか?」
「してませんっ!」
「そうか。」
「うう……。」
師匠は弟子の肩をポンと叩いた。
「顔が引きつってるぞ。」
「してますっ!」
「ホントに大丈夫か?」
「……ダメかもしれません。」
男はため息をつくと、腕を組んで叫んだ。
「忘れ物はないな!?」
「はい!」
「金は!?」
「あります!」
「釣り銭は!?」
「あります!」
「看板は!?」
「バッチリです!」
「商品は!?」
「自信作です!」
喝のような掛け合いをすると、男は少女の背中をドンと押した。
「じゃあ行くぞ。」
「…はい。」
少女は自信なさげに答える。
「どうした?」
「…売れるかなぁ。」
男は、またため息をつきながら頭をかく。
「売れるかどうかは、売ってみないとわからん。」
少女は肩を落としてつぶやく。
「それが怖いんですよぉ。」
二人は荷車を押しながら、マルシェの会場へと向かった。
市場の一角。
普段は空き地になっているイベントスペースがある。
市場の中にあることもあって、催し物の開かれる日には多くの人で賑わう場所だ。
会場ではすでに多くの出展者が準備を始めており、慣れた手つきで設営していた。
それぞれの店では、アクセサリーを並べていたり、オリジナルの工具や作業用品、服まで売っている出店がある。
その活気のある光景を目の当たりにした少女はボソリと口を開いた。
「…相棒。」
「なんだ。」
「帰っていいですか。」
「ダメだ。」
そこから、二人は出店を組み立て始めた。
男は手際よく机を設置して、白いクロスを敷く。柱を立てて帆布を張り、簡易な屋根を作った。
少女は自分の作ったアクセサリーを一つずつ丁寧に並べていく。
それぞれにポップを付ける。
値段の書かれた、イラスト入りのかわいらしいポップ。
机の前面には大きい看板を立てる。
全ての準備が整い、二人で一歩下がって自分達の店を見た。
『風鈴工房 出張所』
「できたな。」
「……はい。」
少女は改めて見た自分の店に、少し目を潤ませた。
「ところで。」
男が口を挟む。
「なんで『出張所』なんだ?」
「そりゃあ。」
少女は答える。
「まだまだ相棒の弟子ですからっ。」
———まもなく開場のお時間でーす!
運営の掛け声が聞こえる。
開場の時間と共に客が流れ込んできた。
一目散に目的の店に行く人もいれば、入り口近くから順番に覗く人もいた。
そして。
「すみませーん。」
「ひゃいっ!?」
さっそくのお客様、第一号。
少女は緊張のあまり硬直した。
「…………!」
目を見開いて口をパクパクさせているが、声は出ていない。
見かねた師匠が言う。
「いらっしゃいませ、だ。」
「い、いらっしゃいませぇぇぇ!!」
突然の大声と緊張しきった姿に、客もクスクスと笑った。
「これ、カワイイですね。見てもいいですか?」
「は、はい!もちろん!ごゆるりとどうぞ!」
少女は変なところから声を出している。
「ごゆるりと?」
客は質問する。
「ごゆっくりだろ。」
「ご、ごゆっくりどうぞ!」
お客の女性は変わらず笑っていた。
そして一通り見ると。
「スミマセン、これください。」
手に取ったのは、ピンク色の蒸気石を使った、小さなブローチ。
「え、いいんですかっ!」
「いいんですか、じゃない。ありがとうございます、だ。」
「すすすすすすみません!ありがとうございます!」
少女は品物を袋に入れる。
代金を受け取る。
人生初の、売上第一号。
お客は袋を受け取ると、笑顔で店をあとにした。
「売れました…。」
「売れたな。」
「相棒!売れましたよ!」
「そうだな。」
その後も、一人二人と立ち寄っては、じーっと商品を見て去る。話しかける人もいる。かわいい〜と言うだけ言って帰る人もいた。
次に立ち止まったのは、白髪の女性。
「ごめんください。これくださいな。」
「は、はい!ありがとうございます!」
少女は受け答えをしながら商品を袋に入れる。
「かわいいわねえ。よく店を出すの?」
「い、いえ!初出店です!」
白髪の女性は少し驚いた表情をして言った。
「あら、そうなの。頑張ってね。」
「あ、ありがとうございます!」
お客が立ち去っても、少女は男の方を見て口をパクパクさせている。
「また売れたな。」
「は、ははははい!また売れました!」
最初はガチガチだったが、売れるたびに、だんだんと緊張がほぐれていく。
少しずつだが、普段の調子で接客する少女を見て、男は後ろで満足そうに見守っていた。
何人目のお客だろうか。女性は真鍮の歯車のついたヘアピンを買って、ポップを指さした。
「ところで、このキャラクターって何ですか?」
「……え?」
値札に書かれた、歯車の顔に身体のついた、ラクガキのようなキャラクター。
「これ、売ってないんですか?」
「これはですねー…。」
「名前は?」
「えーと……。」
少女はしどろもどろに答える。
そして、何かを思いついたように言い放った。
「ギ、ギアぽよです!」
ブフッ!
男は少し後ろに立ちながら、口を抑えて吹き出した。
「そうなんですね。かわいいです!」
女性客は満足そうに、商品を受取り店を離れた。
お客の姿が見えなくなると、たまらず少女は男を睨んだ。
「……何ですか。」
「いや、だって。絶対に今思いついたろ。」
その言葉に少女は身を乗り出して男に迫る。
「あーもう良いじゃないですか!そこまで考えてなかったんですもん!」
「へーギアぽよって言うんだな、こいつ。」
「あ!バカにしてる!」
「してない。」
「してる!」
「さぁ、今日はどこまで売れるかな。」
「あー!誤魔化した!」
少女の元気な声はマルシェ中に響いていた。
いかがでしたでしょうか。
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