32頁目 マルシェ準備
32頁目です
よろしくお願い致します
マルシェへの出店が決まってから、少女はずっと机に向かっていた。
「うーん…………。」
紙を前に、腕を組んで考え込む。
「うーん…………。」
しばらくしても、何も変わらない。
「うーん…………。」
「悩んでたって、何も出来んぞ。」
「はぁぁぁぁぁ……。」
工房主がコーヒーを持ってきて、少女の前に置いた。
「ありがとうございます…。」
少女は困り果てて、泣きそうな顔をしている。
「ほら。」
「ずずず……。」
一口飲んで、少女は顔を上げた。
「相棒って、お店とか露店に出す商品って、どうやって考えてます?」
「ん?」
工房主は少し考える。
「あんまり参考にならんぞ?」
「大丈夫です。聞かせてください。」
「俺の場合は逆だ。」
「逆?」
「まず作る。それで、これは売れそうだとか、プレゼント用だとか、オマケ用だなとか、他のものに組み込む用だなとか。作った後で考える。」
「…………。」
少女はしばらく黙った。
「……本当に参考にならなかった!」
「だから言っただろ。」
少女はそのまま机に突っ伏した。
「何作ればいいんだろー……。」
「悩む暇があるなら手を動かせ。」
「でもー……。」
工房主は机の上に散らばった紙を眺める。
「そうだな、テーマは『桜』。」
「えー。でも、ありきたりじゃないですか?」
「じゃあ『団子』。」
「花より団子?」
「お花見でもいいな。」
「話が脱線してません!?」
思わず弟子が突っ込む。
「甘い物食いたくなってきたな。ちょっと買ってくる。」
「えー……自由……。いってらっしゃい。」
リーン
扉が閉まり、工房に少女一人が残される。
「…………。」
しばらくして、少女は小さく呟いた。
「……でも、そうか。」
机の上の紙を片付けながら、少女は顔を上げる。
「手を動かす、か。」
そして、作業台に材料を並べていく。
「とりあえず! 何か作ってみますかね!」
おもちゃ。
アクセサリー。
蒸気石。
歯車。
いろいろな材料を手に取り、試していく。
「あ、ここをこうしたら良さそう。」
形を変えてみる。
「こっちは……ピンクにしてみたり。」
少しずつ形になっていく。
「うん。かわいい。」
少女は夢中になって作業を続けた。
リーン
「ただいま。」
「えっ、相棒早い。おかえりなさい。」
「早いか?二時間は経ってるぞ。」
「うそ!?」
少女は時計を見る。
「夢中で気づかなかった……。」
「それだけ集中してたってことだろ。」
工房主が作業台に近づいてくる。
「それで。出来たのか?」
「え? あ、はい。いちおう、いくつかは……。」
「見てもいいか。」
「……はい! お願いします。」
少女は改めて、自分の作品を見られることに緊張した。
「…………。」
ドキドキしながら、工房主の反応を待つ。
「良いと思うぞ。」
「え!?」
「ルリらしくて。」
「ほ、ほんとですか?」
「ああ。これならマルシェに出していいだろ。」
「ありがとうございます!」
少女の顔がぱっと明るくなる。
「じゃあ、あとは量産と、店作りか。」
「店作り?」
「看板やポップなんかも、売れるための必須アイテムだからな。」
「な、なるほど……。」
「俺も量産を手伝うから、看板なりポップなりも作っていこう。」
「よろしくお願いします!」
その日からしばらく、二人はマルシェに向けて準備を続けた。
たまに依頼や修理も入ったが、その間は工房主が一人で対応した。
弟子には、自分の初めての店作りに集中させてもらえた。
そして数日後。
「……できました!」
作業台の上には、完成したアクセサリーがいくつも並んでいる。
その横には、手作りの看板と商品ポップ。
「こんな感じで、いかがでしょう?」
「良いんじゃないか。売れそうだ。」
工房主は、アクセサリーから看板、商品ポップまで、一つずつ確認していく。
「ちょっと待て。」
「はい?」
工房主が看板を指差した。
「なんだ、こいつは。」
「え?」
看板やポップのところどころに、小さなキャラクターが描かれている。
歯車に顔がついていて、その下には小さな身体。
「え? あぁ。なんとなく。」
少女は少し照れながら答えた。
「かわいいでしょ?」
「……あんまり店に関係ない気がするが。」
「かわいさアップで売れますって!」
工房主はしばらくキャラクターを眺める。
「……まあ、なんでもいいけどな。」
「やった!」
こうして、風鈴工房のマルシェ出店準備は着々と進んでいった。
そして週末は、いよいよマルシェが始まるのだった。
マルシェへの準備はできました
次回はいよいよマルシェ本番です




