↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【超短編連載作品】風鈴工房 〜不器用な職人と居ついた弟子の物作り手帖〜  作者: さくらもち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/43

31頁目 出張!ジュエル工房

31頁目です

よろしくお願いします

「あ、ヒスイさん!お待たせしました!」


「ルリちゃん、おはよう。場所、迷わなかった?」


「大丈夫です! 今日はお招きありがとうございます!」


今日は休日、工房はお休みの日だ。

少女は一人、蒸気石職人である女性の工房にお招きされていた。


「ワクワクします!よろしくお願いします!」


「ふふ。元気いっぱいね。じゃあ、どうぞ。中へ。」


「お邪魔しまーす!」


白く塗られた扉を開けて工房の中へ入った少女は、思わず足を止めた。


「うわ……!広い工房!」


そこかしこに、キラキラと輝く宝石や大きな原石が並んでいる。


白く明るい開放的な空間には、何人もの職人が働いていた。


ある者は原石を研磨し、ある者は石をカッティングしている。


別の場所では、職人同士が図面を広げて打ち合わせをしていた。


工房というより、むしろ高級なジュエリーショップに近い。


「ここがヒスイさんの工房……。」


少女は周囲を見回した。


「大きすぎません!?」


「ふふ。ありがとう。」


「え、ヒスイさん……ここの工房主なんですか!?」


「正確にはオーナーってところかしら。もちろん、私自身も技術者だけどね。」


「ヒスイさん……すごい人だったんですね……。」


改めて尊敬の眼差しを向ける少女。

とてもこの前工房で会った女性と同じとは思えなかった。


「さあ、アトリエに案内するわ。こっちよ。」


「お、お邪魔しまーす……。」


さっきまでの威勢の良い元気は、すっかりどこかへ行ってしまった。


大きな工房と、見慣れない職人たちに囲まれた少女は、すっかり借りてきた猫のようになっている。


階段を上がって案内されたアトリエでは、秘書のような女性がお茶を出してくれた。


「あ、どうもー……。」


「そんなに緊張しなくていいわよ。」


「あ、ありがとうございます。」


お茶を一口飲んで、ようやく少しだけ落ち着く。


「ここでは普段、蒸気石のプランニングをしているの。」


ヒスイは机の上に置かれたカタログを開いた。


「どんな目的で使うのか。どんな色を使うのか。どう加工するのか。それに、うちの伝統的な装飾をどう組み合わせるのか。そういうことを考える場所ね。」


「はぇー……すごいですね。」


ルリはカタログを覗き込みながら、ページをめくっていく。


色とりどりの蒸気石。


細かな装飾が施されたアクセサリー。


中には、宝石と見間違えるほど美しく加工されたものまである。


「蒸気石といえど、その価値も使い方も宝石と遜色ないわ。」


女性は一つの蒸気石を手に取った。


「やっぱり、どんなものでも美しくないとね。」


「……綺麗です。」


少女は素直に呟いた。


「原石からの加工って、やっぱり難しいんですか?」


「そうね。今はほとんど分業かしら。」


ヒスイは原石を眺めながら答える。


「昔は、それこそ一つの工房で一から全部やっていたのよ。でも今は作業量も技術量も途方もないから、現実的ではないわね。」


「じゃあ、全部できる人って……?」


「いるとしたら、バケモノよ。」


「バ、バケモノ……。」


少女は少しだけ想像してしまった。


「だから、こうして蒸気石専門の工房があるんですね。」


「そういうこと。」


女性は静かに笑う。


そして、ふと思いついたように少女を見つめた。


「ルリちゃん、加工してみる?」


「え?」


「蒸気石。」


「え、いいんですか!?」


「もちろん。それで呼んだんだもの。」


「嬉しいです! ずっと興味あったんですよ!」


「じゃあ、下の作業場に移動しましょう。」


「はい!」


再び元気を取り戻した少女は、女性の後について作業場へ向かった。


「まずは、好きな色の原石を選んで。」


作業台の上には、様々な色の蒸気石が並べられている。


「えーと……」


少女はしばらく悩むと、思いついたように一つの原石を取った。


「それじゃあ、やっぱり瑠璃色で!」


「さすがルリちゃん。」


「えへへ。」


自分の名前と同じ色を選んだことが、なんだか嬉しい。


「次はカッティングね。練習だから、自由にカットしていいわよ。」


女性が機械を指差す。


「この研磨機を使って、少しずつ面を出していくの。」


「うわー!すごい!」


少女は目を輝かせた。


「これ、楽ですね!」


「そうでしょう?」


「うわうわうわ……。」


夢中になって作業を続けていく。


シャーという音と共に、デコボコとしていた原石の表面に、少しずつ新しい面が生まれていく。


「あっ。」


「……どうしたの?」


「削りすぎちゃった。」


「ふふっ。」


「笑わないでくださいよー!」


そのまま少女は、女性に教えてもらいながら、原石の選び方からカッティング、研磨、仕上げまで、一つずつ体験していった。


「それじゃあ、ルリちゃん。今日はお疲れ様。」


「今日はありがとうございました! すごく勉強になりました!」


「ねえ、ルリちゃん。」


「はい?」


「今度、うちの工房主催のハンドメイドマルシェがあるの。よければ出店しない?」


「え、そうなんですね!」


少女は少し考えてから言った。


「相棒に伝えときます!」


「そうじゃなくて。」


「え?」


「ルリちゃんがお店を出すの。」


「…………え!?」


少女の目が大きく開く。


「私が!?」


「そう。ルリちゃんが作ったものを、ルリちゃんが売るの。」


「で、でも……私なんて、まだまだ半人前ですよ。」


「誰だって最初からできる人はいないわ。」


女性は穏やかに笑った。


「それに、私もサポートするし。商品はアクセサリーでも、オモチャでも、蒸気細工でも何でもいいわ。」


「そ、それなら……。」


少女は混乱していながらも、返事を絞り出した。


「がんばります!」


話は、そこからトントン拍子に進んでいった。


マルシェの場所。


開催日。


店の規模。


出店に必要なもの。


ある程度の予定が決まったところで、女性が言う。


「じゃあ、マルシェに向けてよろしくね。」


「はい!今日はありがとうございました!」


「気をつけて帰ってね。」


「はい!」




ジュエル工房を出た少女は、一人で帰路についた。


歩きながら、ふと空を見上げる。


「マルシェ……。」


自分が店を出す。


自分が作ったものを、自分で売る。


まだ実感が湧かない。


「私が……お店……。」


しばらく考えたあとに、少女は一人で叫ぶ。


「うーーーん!」


頭を抱えながら歩いていく。


「困った!何作ろう!?」

 

挿絵(By みてみん)

ルリさんはどんな出展をするのでしょうか

次回もよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。