30頁目 割れ物注意
いよいよ大台の30頁目です
よろしくお願いします
「はい、じゃあこれ、ハンコいただけますか。」
宅配便の男性は、荷物を置くと伝票を差し出した。
「はーい。じゃあこれで。」
工房の少女は自前の印鑑を押す。
猫と歯車がデザインされた、名前の入ったハンコ。
「たしかに、まいどどうもー。」
宅配便は元気よく扉から出ていく。
少女はご苦労さまです、と言うと荷物の送り主と宛先を確認した。
「工房宛なんて珍しいですね。誰から?ジュエル工房?」
聞いたことも無い工房名だった。
「品名は『割れ物注意』だけ?なんでしょう?」
開けようにも、送り先が工房なので、まずは工房主に確認が先だ。
こういう時に限って珍しく工房主は出掛けていた。
「とりあえず待ちますか。……紅茶でも淹れますかねえ。」
荷物の箱を抱えたまま作業台に向かう。ここに置いておけば、帰ってきたらすぐに気づくだろう。
抱えて荷物に顔が近づくと、箱の中から奇妙な音が聞こえた。
カチッ、カチッ、カチッ。
何かが、等間隔で動く音。
時計のような。でも、それにしてはズシッと重みがあった。
『割れ物注意』ということは丁寧に扱えってこと…。
想像はどんどん悪い方に向かっていく。
「いやいや、まさかね。小説じゃあるまいし。」
静まり返った工房に、荷物と二人きり。
いや、人ではないので、正確には一人と一箱。
本来は小さくて聞こえない音が、何故か大きく工房内に響き渡って聞こえた。
「うぅ…相棒〜早く帰ってきてくださいよ〜。」
淹れた紅茶を持つ手が震える。
万が一に備えて荷物からは出来るだけ距離を取った。
ガタンッ!
突然の大きな音。
びっくりした少女は思わず飛び退いて机の下に隠れた。
リーン
工房の扉が開くと、両手いっぱいの荷物を抱えた工房主が入ってきた。
「ただいま。……何してんだ。」
男は机の下に隠れた少女を見るなり、不思議そうな顔をする。
動揺が隠せない少女は声にならない言葉を発しながら、なんとか伝えた。
「い、いいいまの、おおお音。」
「音?あぁ、悪い。前が見えづらくて一回扉に強く当たったな。」
少女はどもりながら作業台の上に置かれた荷物を指差す。
「あ、ああああれ、ばばばばく…」
「あぁ?なに?ばばく?」
男は指し示されたほうに向かうと、荷物の伝票を見た。
「あぁ、なんだ?工房宛?」
男は少し不思議がりながら荷物の封を切る。
「あ、ああああああーーーーっ!相棒ーーーーーっ!」
「…びっくりしたな。なんだよ。」
少女は机の下から震えた指を伸ばす。
「相棒っ!危ない!………え?爆発しない?」
「は?爆発?」
男は箱の中から大きめの飾り時計を出した。
飾り時計は、カチッ、カチッと秒針を刻む。
「…はぁーーー。なーんだ。ただの時計…。」
「なんだとはなんだ。」
少女は机の下から這い出ると、恐る恐る荷物の箱を覗き込んだ。
「宝石の着いた飾り時計と…蒸気石?」
色とりどりの石が輝きを放っている。
「あぁ、ヒスイんとこからだな。きっと。頼んでたブツ。忙しいからって送ってきたんだろう。」
「そ、そういうことでしたか。あはは、てっきり…」
少女は言葉を濁して、気まずそうに作業台を離れた。
「まさかね、そりゃあそうですよ。うん。」
一人でブツブツ言っている。
「なんなんだいったい。」
男は首を傾げつつ、荷物を一つずつ箱から取り出していった。
お届け物って中身がわからないからドキドキしますよね
次週から少し大きいお話で続きます
お楽しみに




