27頁目 春の訪れ
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よろしくお願い致します
賑やかな商店街。
厳しい寒さも和らぎ、道の端の雪山もだいぶ高さが減ってきた。
この日、師匠と弟子は買い物のため、通りを進む。
買うものは、主に工房の昼飯用の食材。
料理担当はもっぱら弟子なので、献立決めも兼ねて商店街を歩いていた。
「さあ、一週間のお昼のメニュー、どうしましょうかね。」
少女はアイデアを求めてお惣菜屋の商品ケースを遠巻きに見ている。
「なんでもいいぞ。」
「なんでもいいが一番困るんですよ。」
男も多少は自炊ができるが、ほっとくと栄養など関係ないメニューしか食べない。
ある程度のバランスを考えると、適当にという訳にもいかなくなる。
そんなことを考えながら商店街を歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「うーん、いい匂い。」
「焼き鳥もいいな。」
「ダメ!お昼前!」
「一本くらい大丈夫だろ。」
ちょうど焼き鳥屋の目の前に差し掛かったが、焼いている様子はなかった。
「なんで点かないんだろうねえ。」
店主の丸い顔のおじさんがブツブツ言いながら焼きの機械の下を覗き込んでいる。
「どうしましたか?」
すかさず少女は話しかけた。
「いやね。蒸気コンロの調子が悪くて。さっきまで火点いてたんだけど。」
カチカチと音は鳴っても、火はいっこうに点く気配がない。
「そういうことなら!お任せください!」
少女は胸をドンと叩いた。
「さぁ相棒!お願いします!」
「勝手に仕事取ってくるな。」
文句を言いながらも、さっさと機械の前に座ってカバーを開けた。
どこに異常があるのか、探るようにじーっと覗き込む。
「あー…これはさすがに工具いるな。」
「買い物だけのつもりでしたからね。」
男は周囲を見渡すと、馴染みの店を見つけた。
「待ってろ、工具借りてくる。」
「悪いねえ。」
男は弟子を置いたまま、店へと向かっていった。
店主と少女は横並びに、機械の前に座って覗き込む。
「中はこうなってるんだねえ。」
「見る機会ないですよね。」
「お困りですか!お嬢さん!」
突然、後ろから話しかけられて驚きながら振り返ると、そこには見るからにチャラチャラした青年が変なポーズをして立っていた。
「うわ、なに。」
青年はポーズを変える。
「機械が壊れましたか!?この蒸気技師にお任せなさい!」
すかさず青年は店主と少女の間に割って入る。
「え、だれ。」
その見た目からはとてもじゃないが技師には見えない。
しかし青年は、サイドポーチから工具を取り出すと、あっという間に直してしまった。
「さぁ、直りましたよお嬢さん。」
「本当かい!?」
店主がコンロのツマミを回すと、正常に炎が点いた。
「おぉ、点いた!ありがとうねえ!」
店主は喜んで飛び跳ねている。
「お礼はけっこう。ところでお嬢さん、このあとお茶でもいかがかな?」
「え、イヤですけど。」
即答する少女。
「うちの弟子にちょっかい出すなナンパ野郎。」
ゴスッ!
男は戻ってくるなり鈍い音が鳴るほど、後ろから青年の頭を殴る。
「痛いな!?おや、誰かと思えば真面目くんじゃないか!」
「……シドウ。お前な。」
真面目くん、男にピッタリなあだ名だった。
「え、知り合いですか?」
男は変わらず仏頂面をしている。
「春になると変なのが増えるからな。変質者じゃないか?」
「なんだ、じゃあ警察呼びますね。」
警察と聞いて、慌てて手を振る青年。
「ノンノンノン!おいおい忘れたのかこの僕を!」
「忘れたい奴ではある。」
「ひどすぎる!」
青年はオーバーに仰け反っている。
「相棒、こんな知り合いいたんですか?」
「昔ちょっとな。」
男は露骨にイヤそうな顔をした。
「何した人なんです?」
「忘れた。」
「絶対覚えてますよね?」
「忘れたいんだ。」
青年は姿勢を戻すと、ポーズを取りながら男にまくし立てる。
「相変わらず愛想がないねえ、君は!」
「相変わらずうるさいな。」
「昔はもう少し笑ってくれたじゃないか!」
「お前がうるさくなかった頃だ。」
「ひどい!」
二人の口喧嘩は、いつまで経っても終わりそうになかった。
言い合いの外で、丸い顔の店主が少女に声をかけた。
「お嬢ちゃん、焼き鳥食べる?」
「え、いいんですかっ。」
「直してくれたお礼。」
「わーい!」
少女は焼き鳥を数本受け取ると、両手に持ちながら頬張った。
「いつまで言い合ってるんだろうねえ。」
「ほっときます。積もる話もあるのかもしれません。」
けっきょく言い合いは一時間ほど続いた。
昔話に花が咲くとはこのことかと、少女は間違った解釈で納得していた。
新キャラ登場です!
春は変な人出てきますねえ(すっとぼけ
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