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【超短編連載作品】風鈴工房 〜不器用な職人と居ついた弟子の物作り手帖〜  作者: さくらもち


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30/43

26頁目 デザイン教室

26頁目です

よろしくお願いします

昼休み。

 

いつもならさっさと昼食を終えて作業に戻る弟子が、今日は妙に落ち着かない。

 

午前中からそうだった。

 

作業をしながら、ちらちらと工房主の様子を窺っている。

 

「何なんだ……?」

 

男は気づいていたが、特に何も聞かなかった。

そして、午前中の注文分の作業がすべて終わった頃。

 

「ふぅ……。」

 

男が椅子に腰を下ろす。

 

「相棒。」

「なんだ。」

 

「午後から、暇ですよね?」

「……あぁ。これで今日の分は終わりだな。」

 

少女は待ってましたと言わんばかりに姿勢を正した。

 

「そこで相棒に、ご提案があります!」

「……。」

 

男の中で、嫌な予感がした。

 

「相棒って、デザインとか絵とか苦手じゃないですか。」

「いきなり失礼だな。」

 

少女は気にせず、紙と鉛筆を作業台に並べる。

 

「絵が描ければ、もっとセンス良くなると思うんですよ。」

「ちょっと待て。」

 

「はい?」

「何をするつもりだ。」

 

少女は満面の笑みを浮かべた。

 

「題して!」

 

ビシッ、と鉛筆を掲げる。

 

「ルリ先生のデザイン教室!」

「…………。」

 

なにかが始まった。

しかも本人はめちゃくちゃ楽しそうだった。

 

「ではまず、この前みたいに動物から練習しましょう!」

「……犬でいいか。」

「はい!」

 

男は紙に向かうと、鉛筆でサラサラと書き出した。

 

「できた。」

「…………。」

 

少女が絵を覗き込む。

 

「……どうだ?」

「……犬?」

 

「犬だ。」

「…………犬……?」

 

「なんだその間は。」

 

すでに地獄は始まっていた。

 

「じ、じゃあ鳥とか!」

「鳥?」

 

「はい!鳥です!」

 

男は悩む様子もなく書き始める。

 

「これでどうだ。」

 

男は自信満々に紙を差し出した。

 

「かわいいだろう。」

 

少女は絵を見る。

 

「…………鳥?」

「文句あるのか。」

 

「相棒。」

「なんだ。」

 

「鳥、見たことあります?」

「バカにしてるな?」

 

「してませんよ!」

 

少女は頭を抱えた。

 

「……いいでしょう。わかってました。」

 

そして、別の紙を取り出す。

 

「物のほうが簡単です!」

「ほう。」

 

「これを描いてください。」

 

少女が机の上のコップを指差す。

 

「見たまんま描くだけです。」

「それなら簡単だ。」

 

男は鉛筆を走らせる。


「どうだ?」

 

少女が絵を見る。

 

「…………。」

「なんだ。」

 

「池じゃないんですよ。」

「コップだろ。」

 

「コップを描いてください!」

「ちゃんと描いただろ。」

 

「これのどこがコップなんですか!」

「見たまんまじゃないか。」

 

「見たまんまって言葉の意味から説明したほうがいいですか!?」

 

こうして、その後もスケッチは続いた。

 

リンゴ。

工具。

花瓶。

小さな歯車。

 

少女が題材を出すたび、男は真剣な顔で紙に向かった。

 

そして。

 

「ここをこうしたら……。」

「はい?」

 

「立体にしたとき面白いな。」

 

「相棒。」

「なんだ。」

 

「これはデザイン画です。」

「わかってる。」

 

男の紙には、絵の横に寸法が書き込まれている。

 

材質。

構造。

可動部。

 

さらには簡単な分解図まで描かれていた。

 

「なんで寸法と注釈を書いてるんですか。」

「作るなら必要だろ。」

「そういうところです!!」

 

少女は頭を抱えた。

完全に方向性が違う。

 

しかし、そんな少女の苦悩など知らず、男は淡々と鉛筆を走らせている。

 

そしてついに。

 

「では、最後です。」

 

少女は教師らしく胸を張った。

 

「最後に自由にデザインしてみましょう!」

 

「自由に?」

「はい!」

 

「何を描いてもいいんだな?」

「もちろんです!」

 

男は紙を置いた。

そして、これまで以上に真剣な顔で鉛筆を握る。

 

カリ……

カリカリ……

 

少女は少し離れたところから、その様子を見守る。

やがて。

 

「できた。」

「見せてください。」

 

少女が横から覗き込む。

 

「…………。」

「どうだ?」

 

少女は絵を見る。

しばらく黙る。

 

「……なんですか、これ。」

「新しい工具。」

 

「なんで!?」

「この形なら使いやすいと思ってな。」

 

「自由にデザインしてって言ったじゃないですか!」

「だから自由に描いた。」

 

「私、工具の設計教室をやったんじゃないんですよ!」

 

「そうだったのか。」

「そうですよ!!」

 

工房に少女の叫び声が響き渡った。

 

そして作業台の上には、犬らしきもの、鳥らしきもの、謎の池、そして新型工具の設計図が並んでいた。

 

「……。」

「……。」

 

少女は並んだ紙を眺める。

 

「……相棒。」

「なんだ。」

 

「絵は……。」

「うん。」

 

「…………もうちょっと頑張りましょう。」

「そうか。」

 

「でも。」

 

少女は新型工具の絵を手に取る。

 

「これ、ちょっと面白いですね。」

「だろ?」

 

男の口元が少しだけ緩んだ。

 

「……でも今日はデザイン教室ですからね!」

「わかってる。」

 

「次はちゃんと絵を描きますからね!」

「……。」

 

「逃げないでくださいよ?」

 

男は黙って工具を片づけ始めた。

 

「ちょっと!?」

「午後の作業、まだあった気がする。」

 

「ありません!」

「そうか。」

「相棒ーーー!」

 

――ルリ先生のデザイン教室。

第一回。

 

結果。

大惨敗。


挿絵(By みてみん)

私もハンドメイドしますが、絵はかけないんですよ。線が安定しなかったり絵心がなかったり

相棒の気持ちすごいわかりますw

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