↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【超短編連載作品】風鈴工房 〜不器用な職人と居ついた弟子の物作り手帖〜  作者: さくらもち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/43

25頁目 羊毛フェルト

25頁目です

よろしくお願いします

「じゃあ、これで全部っすね。」


男は荷車から最後の箱を降ろした。


「いつもありがとう。」


託児所の職員が、受け取った箱を確認した。


「いえいえ。こちらこそ、いつもありがとうございます!」


弟子が元気よく頭を下げる。


ここは二人がよく納品に訪れる、馴染みの託児所だった。


修理した玩具や、小さな家具。

子どもたちが使う道具の修繕など、風鈴工房では何度か仕事を請け負っている。


「次回も何かあれば、いつでもお声掛けください!」


少女が笑顔で言う。


「そうだわ。」


職員が何かを思い出したように声を上げた。


「またお願いしたいことがあったの。」


「なんですか?」


「羊毛フェルトって知ってる?」


「……。」


少女の目が、ほんの少し輝いた。


「羊毛フェルト?」


「そうそう。あれがね、もうボロボロになってきちゃって。」


職員は奥から、少しくたびれた小さな人形をいくつか持ってきた。


「子どもたちが遊ぶものだから、どうしても傷んじゃうのよね。」


「へぇ……。」


少女が人形を覗き込む。


「十個くらいお願いできるかしら?」


「いやー……うちはそういうのはちょっと……。」


男が渋い顔をする。


「何言ってるんですか!」


少女がすぐさま口を挟んだ。


「いつもお世話になってるんですから! やりましょうよ!」


「お前な……。」


「いいじゃないですか!」


職員は二人のやり取りを見て、楽しそうに笑った。


「あらー。じゃあお願いね。動物の種類はおまかせするわ。」

「任せてください!」


少女は胸を張った。


男は嫌な予感しかしなかった。


「……十個だぞ。」

「大丈夫ですよ。」


少女は満面の笑みを浮かべた。


「私たち、風鈴工房ですから!」


男は小さくため息をついた。


「……帰るぞ。」

「あ、ちょっと!待ってくださいよ!」


二人は工房に戻ると、荷台を片づけて作業台に向かった。


「お前、羊毛フェルトって、やったことあるか?」

「え?いや、ないですけど。ぬいぐるみみたいなものでしょ?」


男は棚の上から箱を取り出すと、中から羊毛の毛玉と道具を取り出した。


「そうか。じゃあこれが羊毛フェルトだ。前に手出したことがあるから、材料だけはある。」


男は話しながら、作業を続けていく。


「綿状の羊毛を軽く形どり、このニードルを刺して固めていくイメージだ。何回も何回も刺していって、少しずつ輪郭を出していく。」

「前に店頭で完成品を見たことありましたけど、こうやって作っていたんですね。」


少女はまじまじと見ながら作業を見守っている。


「最後に目を着けてやれば…よし、これで完成だ。簡単だろ?」


男は少し小さめの試作品を完成させると、少女に見せた。


「……なんですか、これ?」


「……クマ。」


その発言を受けて、少女は思わず、ぷっ、と吹き出してしまった。


「クマですか!これが!?」


「うるせーな。」


自分のセンスを笑われて、男はかなり不満気な顔をしている。


「だって!もうなんか、ひどい。」


少女はケラケラと笑っている。


「だから引き受けたくなかったんだよ。」


「あーおかしい。…わかりました!相棒のセンスは知ってますからね。任せてください!」


少女は胸をトンと叩くと、羊毛とニードルを受け取り机に座った。


「じゃあ何作りましょうか。動物の種類はお任せって言われましたよね?」


「…十個だぞ?」


「はい!」


少女は元気よく返事をする。


「全部違う動物にする必要はない。」


「全部違うほうが楽しそうじゃないですか?」


男は頭をガシガシとかく。はっきり言って今回は自分のほうが力になれないことがわかっているので、何も言い返すことはできなかった。


「とりあえずやってみましょうかね。」


少女は少しずつ形を整えながらニードルで固めていく。


最初は毛玉のようでも、固めていくうちにどんどん動物の形になっていった。


「ほら、どうですかこれ?」


「……犬。」


「当たりです!」


見事に当てられて嬉しそうな顔を浮かべた弟子を尻目に、師匠も負けじと茶色い物体を作り上げていった。


「…猫?」


「クマだ。」


「どこをどう見たらクマなんですか。」


言いながらも新しい動物が、早くも姿を現している。


「コツつかみました。けっこう簡単ですね!」


「………」


男は無言でニードルを刺していく。


「違いますよ。もっと丸くしないと顔にならないです。」


いつもの師弟の立場は、まるで逆転してしまっていた。


「これでどうだ?」


「……羊?」


「……クマだ。」


工房の中を少女の笑い声が響く。

夕暮れに差し掛かる頃には、机の上はすでに十体以上の動物園となっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。