21頁目 トランクの修理
21頁目です!
よろしくお願いします
「今日は静かですねえ…。」
思わず溢れたひとりごと。
工房には弟子が一人。
今日の分の作業はとっくに終わっていた。
それでも時間があるので、掃除をしたり、工具を磨いたり。
…師匠がいないだけで、工房が少し広く感じる。
「そうだ、こういう時こそ、新作のアイデアをまとめちゃいましょう!」
誰に言うでもなく宣言すると、創作ノートと書かれた本に、ペンを走らせた。
…カリカリ。
………カリカリ。
……………コト。
おもむろにペンを置く。
「なんかイマイチ…。」
少女はカップを手に取ると、紅茶の香りを楽しんだ。
その時だった。
バンッ!
リーン!
「すまん!」
勢いよく扉が開くと、身なりの良い紳士が入ってくるなり、大きな革のトランクケースを作業台の上に置いた。
「トランクの調子が悪いんだ!蒸気式ロックがいっこうに開かない!診てくれないか!?」
少女は勢いに圧倒されたまま、少し間を置いて答えた。
「その…。」
「今、工房主は風邪で休んでまして…。」
とても少女一人で依頼を受けるわけにはいかない。ましてや修理など。
「なんと…困ったなぁ。大事な商談があるってのに…。」
紳士は頭を抱える。
少し考えると、紳士はとんでもない提案をする。
「お嬢ちゃん!その格好!工房の人間なら君でもいい!何とかしてくれ!」
「えぇぇぇぇ!?」
「頼む!最悪壊してもいい!」
紳士は鬼気迫る顔で、少女に迫る。
「…もう!わかりました!わかりましたからっ!離れてください!」
「す、すまん。」
紳士は一歩下がると、一つ一つ説明し始めた。
「中には大事な契約書類が入ってるんだが…。」
「これは…壊すにしても一苦労ですね…。」
そのトランクは最新式の物だった。
中身が盗まれないように、強固な造りをしている。
「とりあえず…診てみますね。」
少女はふと、工房主の席を見る。
今まで何度も隣で見てきた。
基本は徹底的に叩き込まれた。
何度も怒られた。
何度もやり直した。
師匠の言葉が頭をよぎる。
「まず原因を探せ。直すのはその後だ。」
スー…ハー…
少女は小さく深呼吸する。
「……いきます。」
カチャ…
カチャ…
工房には、工具の触れ合う小さな音だけが響いている。
ロック部分のカバーを外す。
歯車は…正常。
蒸気石の状態も…悪くない。
「違う…。」
「ここじゃない…。」
「相棒なら…。」
細かいパーツを、光を当てながら原因を探していく。
「焦るな…。」
「原因は必ずある。」
主軸を回す。微かな違和感。
「もしかして…。」
分解できる限りバラして、注油して組み上げる。
カチッ
「開いた!」
紳士がとたんに声を上げる。
シュー…
蒸気が抜ける音。
「直った…。」
その後、紳士は中身を軽く確認してトランクを閉めた。
「ありがとう!助かったよ!」
紳士は修理代を払うと、急ぎ足で工房を後にした。
リーン…
「はぁぁぁぁ…。」
今までで一番長いため息をつきながら、少女はその場にへたり込んだ。
「壊さなくて…良かった…。」
ふと時計を見ると、相当な時間がたっていた。
「……お見舞いがてら、報告に行かなきゃなぁ。」
少女は立ち上がると、乾いた口を潤すように飲みかけの紅茶を飲み干した。
工房の鍵を閉め、看板を見上げる。
「……ちゃんと、一人でできた。」
弟子は少しだけ胸を張って歩き出した。




