19頁目 初詣
まだ少し薄暗い冬の朝。
リーン
工房の扉が開くと、男が出てきた。
「おはようございます!」
「おは……。」
そこには振袖姿の少女が立っていた。
思わず言葉が詰まる男。
「どうしました?」
「いや。」
「似合ってないですか?」
「……いや。」
「なんですかその間!」
男は目を逸らしながら工房の鍵を閉める。
「行くぞ。」
「誤魔化した!」
神社への通りは、すでに大勢の人で賑わっていた。
屋台から甘酒や焼団子の匂いが漂ってくる。
通りをゆく人々はみな、新年の挨拶を交わしながら歩いている。
「風鈴工房さん、今年もよろしく!」
「あぁ。」
少女はあちらこちらで呼び止められていた。
「ルリちゃん振袖可愛いねえ!」
「えへへ、ありがとうございます。」
ようやく神社へとたどり着くと、二人は参拝のために小銭を握りしめて並んだ。
二礼二拍手一礼。
男も真面目に、深々と礼をしていた。
「…何お願いしたんですか?」
「秘密。」
「教えてくださいよ。」
「言うと叶わん。」
前を歩く男を、少女は呼び止める。
「相棒!おみくじやりましょうよ!」
男は少し面倒そうな顔をしながらも、初穂料を納めて、おみくじを引いた。
少女もおみくじを引くと、勢いよく紙を開く。
「……あっ!」
嬉しそうな声が境内に響いた。
「大吉です!」
紙を掲げて、満面の笑みを浮かべる。
「見てください、相棒!」
男も自分の紙を開く。
「……吉。」
「普通ですね。」
「普通だな。」
少女は二枚のおみくじを見比べた。
「交換しましょう。」
「なんでだ。」
「相棒にも良い一年になってほしいので。」
「お前のだろ。」
「じゃあ半分こで。」
「できるか。」
ちょうど近くで見ていた神社の神主が、小さく笑った。
「お嬢さん、おみくじは交換しちゃいけませんよ。」
「えっ、そうなんですか?」
「神様から、それぞれにいただくものですからね。」
少女は少し残念そうに、おみくじを大事に畳んだ。
「じゃあ、ちゃんと持って帰ります。」
「そうしろ。」
神社をあとにすると、参道にはまだ賑やかな屋台が並んでいた。
「相棒!お汁粉食べましょう!」
「朝飯食ったばっかだろ。」
「甘いものは別腹です。」
男は小さくため息をつく。
「……一杯だけだぞ。」
「やった!」
少女は振袖の袖を揺らしながら駆け出そうとして、
「あっ。」
慌てて足を止めた。
「走れないんだった……。」
男は少し先を歩いていたが、その声で振り返る。
「……。」
何も言わず立ち止まり、少女の歩幅に合わせてゆっくり歩き始めた。
「……ありがとうございます。」
「転ぶなよ。」
「はい!」
少女は嬉しそうに頷く。
冬の柔らかな陽射しの中、二人は屋台の並ぶ参道をゆっくりと歩いていった。
新しい一年が、静かに始まっていた。




