2頁目 羽のブローチ
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朝から雨だった。
軒先を打つ雨音が、工房の静けさを余計に際立たせている。
男は作業台に膝をつき、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
客は来ない。急ぎの依頼も無い。
工房の奥では、お湯の沸く音だけが小さく響いている。
「おーい。」
返事は無い。
「……ルリさーん?」
やっぱり返事はない。
イヤな予感がする。
男はゆっくり立ち上がる。
工房の奥を覗くと、少女が床に座り込んでいた。
「……何してる。」
「見れば分かるじゃないですか。」
分からなかった。
少女の目の前には、大きな紙が広げられている。
その周りには、絵の具と工具。
「ホントに分からん。」
「設計図です。」
設計図と言うにはあまりに粗い。
まるで子どもの落書きだった。
「カワイイでしょ。」
「かわいいのかそれ。」
デザインは良い。ただ、実用的か、実現的かは判断しかねる。
「ちょっと作ってみていいですか。」
「紅茶でいいか?」
少女は作業台に座り、自分の描いた設計図を元に何かを作り始めた。
拙い手つきで金具を切る。樹脂を入れる。接着剤を流し込む。
「雑。」
たまらず男が口を出す。
「それに左右もズレてる。削りもしっかり処理をしなきゃ。」
少女はぶんむくれている。
「…はい。」
それでも指示通り、丁寧な手つきで修正をする。
「ただ…発想は悪くない。」
「ホントですか!?」
ぱぁっと一瞬で顔が明るくなる。
「あとは、そう。ここをもう少し削って…」
いつの間にか一緒に作業を始めている。
少女はけして不器用ではない。
ただ、技術と言うにはまだまだ未熟である。
雨の音に混じって金属の擦れる音が響く。
「…できた。できました!かわいくないですか!?」
「まあ、合格点だな。」
「…偉そう」
「師匠だからな。」
そう、合格点。
接着剤ははみ出している。
左右のバランスはズレている。
でも。
色の組み合わせだけは異常に良い。
羽のついた、琥珀色のブローチ。
「良い色だな。」
「でしょ。」
完成したアクセサリーを窓辺に置く。
雨が止みかけている。
ガラス越しの薄明かり。
「……ちょっとだけ、売れそうじゃないですか?」
「調子に乗るな。」
二人はすっかり冷めてしまった紅茶を、ぐいっと飲み干した。




