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【超短編連載作品】風鈴工房 〜不器用な職人と居ついた弟子の物作り手帖〜  作者: さくらもち


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15/43

13頁目 暖房修理

夏休み企画週3更新です

よろしくお願いします

朝から、工房のストーブは全力だった。


ゴウゴウと蒸気を吐きながら、工房内を無理やり暖めている。


「寒い…。」


工房主はストーブの前から動かなかった。


椅子に座り、完全に魂が抜けている。


「まだ朝ですよ。」

「まだ朝なのか。」


今日が終わるまであと何時間あるのだろう。


「冬の朝は人類にはまだ早すぎる。」

「主語が大きくないですか。」


窓の外は白い。


昨夜から降り続いた雪で、蒸気街は一段と雪景色になっていた。


煙突から吐き出された白煙と雪雲が混ざり合い、通り全体がぼやけて見える。


「今日はお客さんも来ないでしょうねぇ。」


弟子もストーブの前でぬくぬくしている。


二人とも、もう働く気がなかった。


その時。


リーン!!


突然、風鈴がけたたましく鳴り響いた。


「うわっ!?」


扉が勢いよく開く。


「大変だよ!」


入ってきたのは雪だるま…ではなく、雪まみれのおばちゃんだった。


「ちょいと!暖房が壊れちまったから!直しておくれよ!」


工房中に声が響く。


「……業者呼べよ。」

「だからアナタんとこ来たんでしょうが!ほら!」


おばちゃんはずかずかと工房へ入り込む。


「いや、俺は暖房機器は専門外だから…。」

「だいたい一緒でしょっ!ほら!」

「いってらっしゃーい業者さーん。」

「ほら!ルリちゃんも!」


ストーブから引っ剥がされた二人は、半ば強引におばちゃんに連れて行かれた。


雪の積もる商店街。


天気の悪い日でも賑わうこの場所だが、さすがに今日は客足は無い。


「寒すぎて動けん。」

「もうちょいだよ!シャキッとしな!」


八百屋に着くなり、店内の置き型の蒸気式ストーブの前に座らされた。


「だいぶボロいな。」

「お店始めた時からあるからね。」


軒下に野菜が並べられた八百屋は、半分外のため、雪が吹き込んでいた。


「環境も最悪だ。」

「そりゃあ八百屋だからね。」


文句を言いつつ、部品をひとつひとつ確認していく。


時折、部品を外しながら新しいのを付け替えると、試すように火を点けた。


「お、点いたな。」

「さっすが!助かったよ!」


おばちゃんに背中を叩かれると、大きな音が八百屋中に響いた。


ーーそういえば、弟子の姿が見えない。


「おーいルリ。帰るぞ。」


返事がない。


あたりを見渡すと、八百屋の向かいの店で、少女と店主が話していた。

 

「任せてくださいよ!」

「悪いわねー助かるわ。」


……嫌な予感がする。


「あ、相棒!パン屋さんでも暖房の調子悪いみたいです!」

「仕事を増やすな。」

「良いじゃないですか。ついでですよ。」

「寒いから帰りたいんですよ。」




どこで借りたのか二重に上着を着ている弟子を横目に、男はしぶしぶとパン屋に入っていった。


中は焼きたての、香ばしい匂いで満たされている。


「相棒、直りそうですか?」

「稼働させすぎだ。石が悲鳴上げてる。」

「朝早く仕込みするからですかねえ。」

「いつも朝早くから買ってくるもんな。」


男は予備の蒸気石に交換すると、ストーブはゆっくりと暖気を吐き出し始めた。





「あー終わった。早く帰ろう…。」


男と少女は、震えながら商店街を歩く。


修理代と一緒にもらった、お礼の野菜とパンがどんどん冷たくなっていくのを感じた。


「ちょっと。工房のお兄さん。」


本屋の前で、店主のお爺さんが声をかけてきた。


「えーと、もしかして。」


弟子が尋ねる。


「ストーブの調子が悪くてね。ちょっと診てくれないかい?」

「やっぱりー!」

「ここまで来たらついでですよ。」

「また『ついで』かよ…。」


 

 

本屋に入ると、寒さで時間が止まったように静まり返っていた。


骨董品のようなストーブは、凍りついたようにたたずんでいる。


「うお!これ蒸気式じゃないな。」

「そんなことあるんですか。」


まるで博物館に置いてあるような年代物のストーブ。


「戦時中から使ってるからねえ。」

「マッチで点火するんだよ。昔はそうだったらしい。」

「ヴィンテージですね。」

「古いだけだ。」


見たことも触ったこともない機械だが、構造は単純だった。


サビで動かなくなった部分を洗浄し、磨いてやる。


油をさしてやると、ストーブに再び火は灯り始めた。


「ありがとうよ。これで冬が越せる。」

「……新しいのも検討してくれ。」




二人はようやく商店街をあとにした。


少女のいつの間にか三重にまで増殖している上着は、雪で覆われて真っ白になっている。


「やっと帰ってきましたね。」

「やっと暖まれる…。」


二人は工房のストーブの前に座ると、点火スイッチを押した。


カチッ。

 

「……あれ?」

 

カチッ、カチッ

 

「どうしました?」


何度もスイッチを押す。


スカスカと、虚しい音が響くだけだった。


「……壊れた…かも。」

「嘘でしょ。」


窓の外では、吹雪の音がよりいっそう大きくなってきた。


挿絵(By みてみん)

完全に現実の季節と逆をいってますねw

少しでも涼になればと思います

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