9頁目 秋祭り
9頁目です
よろしくお願いします
祭囃子が、街中に響いていた。
家々の隙間から細く立ち上る排熱の影を抜けるように、提灯の灯りが石畳へ揺れている。
年に一度の秋祭り。
普段は落ち着いた商店街も、この日ばかりは別世界みたいに騒がしかった。
中でも屋台の並ぶ大通りは、大勢の人でにぎわっている。
金魚すくい、くじ引き、射的。
色とりどりの浴衣を着た人々が往来を歩いていく。
「熱っっ!!」
「兄ちゃん手ぇ止まってる止まってる!」
そんな賑わいの片隅で、工房主は鉄板の前に立たされていた。
「……なんで俺がたこ焼き焼いてんだ。」
「なんか言ったか!?ほれ!次3舟ェ!」
ちょうど昼過ぎ。
食べ物の屋台は、どこも行列を作っている。
秋といえど、日中はまだ暑さが残っていて、さらに鉄板の火で、屋台の裏は蒸し返るような熱気だった。
工房で冷たいコーヒーが飲みたい…。
そう思いながらも、持ち前の器用さで、焼くスピードはどんどん上がっていった。
「さすが職人さん!上達が早いねぇ!」
「……どうも。」
「ねぇルリ、まだー?」
部屋の外から友人の声が飛んできた。
「ちょ、待って!帯ズレた!」
鏡の前で悪戦苦闘しながら、少女は髪飾りを整える。
金色をベースに、蓮の花が開いたような髪飾り。
今日のために自分で作った、浴衣に合わせたやつ。
「お待たせっ!」
「さあ、さっさとお祭り行こっ!もう腹ペコ!」
「じゃあまずは焼きそばだね。」
「もうちょいかわいらしいの食べようよ。」
浴衣を着付けた二人は、いつもより軽やかな足取りで商店街へと向かっていった。
「ルリ、あれ見て!金魚!」
「うわ、懐かしいー!」
祭りの会場についた二人は、童心に返ったようにはしゃいでいた。
提灯の灯りが、少しずつ橙色を濃くしていく。
焼きとうもろこしの匂い。
遠くで鳴る祭囃子。
子どもたちの笑い声。
友人に手を引かれながら、少女は屋台を巡っていた。
「あ、これ可愛い。」
歯車を模した真鍮細工。
小さなネジを花びらみたいに組み合わせた髪飾りだった。
「また工房っぽいの見てる。」
「ち、違うし。」
「今日何回目?」
「知らない!」
友人は呆れたように笑う。
「ほんと好きだねぇ、風鈴工房。」
「好き、っていうか。仕事だからね!」
秋の涼しい風が吹くと、通りの提灯にポツポツと灯りがともりだした。
「いやー今日は助かったよ!これ、お土産!」
「またご贔屓に…。」
袋に入ったたこ焼きを受け取ると、煙と臭いに包まれた男は通りに向かってとぼとぼと歩き出す。
「…暑い。まだ祭りはやってるか。冷たい…飲み物…。かき氷…。」
灼熱の鉄板は男の体力を確実に奪っていた。
「ん?」
人混みの向こうから女の子が手を振っている。青い浴衣に髪飾り。
ずいぶん祭りを楽しんでいるようだ。手にはりんご飴を握っていた。
「相棒ー!」
珍しいな。自分と同じ呼び方をされる物好きがいるとは。
「相棒ったら!」
「うお!ルリか!」
間近に来て、ようやく気づいた。
浴衣を着ているが、たしかに自分の弟子だった。
「え、気づいてなかったんですか。」
「……ずいぶんはしゃいだのがいるな、とは思った。」
「あのー…。こんにちわ。」
「あぁ、こんにちわ。」
友人と回っていたのか。
浴衣を着たもう一人に、男はじーっと品定めをされるように見られた。
「あ、そうだった。用事思い出した。」
「え?」
「ルリをよろしくお願いしますね。じゃ、またね。」
「は?はぁー!?」
そう言い残すと浴衣姿の片割れは人混みに消えていった。
ポツンと残された師匠と弟子。
雑踏の中なのに、二人の間だけ急に静かになった。
「えーっと。どうします?」
「あー…。かき氷食いたい。」
夜になっても冷めやらぬ、祭りの熱気の中をかき氷を探して歩く。
「…相棒は今日何してたんです?」
「言っただろ。たこ焼き屋。」
「そんな格好で?」
「…いつもの格好だろ?」
少し前を歩く下駄の音が、さっきより少し荒くなっている。
「なんかあったか?」
「別に。」
たまに何を考えてるかわからない時がある。
人付き合いの得意でない彼は、こういう時にどうすればいいか分からなかった。
「あー…そうだ。たこ焼き。食うか?」
「えっ!?あ、それ、もしかして。」
少女の顔がぱぁっと明るくなる。
男は持っていた袋からたこ焼きを出すと、すかさず差し出した。
「んー美味しい!」
「あ、かき氷あったぞ。ちょっと買ってくる。」
「私!いちご味!」
「はいはい。」
自然と奢る流れになっている。
機嫌が戻れば何でもいい。
たこ焼きにかき氷。
それに、さっきはりんご飴を持っていたな。
男はふと、少女の手元を見る。
あげませんよ、と言わんばかりに、かき氷を隠された。
「あ!提灯屋の兄ちゃん!」
前から見知った子どもたちが走ってくる。
「提灯屋じゃない。」
「あら、こんばんわ。お祭り楽しんでる?」
「うん!あ、提灯見たよ!スゴかった!」
「いっぱい光ってた!」
屈託のない笑顔に、工房主もどこか誇らしげだった。
そんな横顔を見て、少女も嬉しそうに笑った。
綿あめを奢ってもらうと、子どもたちはお礼を行って駆けていった。
「転ぶなよー。」
「「はーい!」」
人もだいぶ減ってきた。
楽しかった祭りも、終わりが近づいてきたようだ。
「…そろそろ帰るか。」
「そうですね、今日はありがとうございました。」
「おう、また明日な。」
「…はい。」
カランコロンと下駄が鳴る。
風が吹くたびに提灯は静かに揺れていた。
「…あとな。」
「はい?」
「似合ってたぞ。」
「…は?」
「浴衣。」
「な、なんで今言うんですか!?」
「人多かったし。」
「意味わかんないです!」
立ち止まる少女をよそに、男はすたすたと歩いていく。
「……バカ。」
二人の上に並んだ提灯は、名残惜しそうに赤く揺れていた。
お祭り…良いですねえ
夕方におまけアップデート予定と
今週は夏休みということで(日)(火)(木)の週3更新予定です
反応良ければ続けます
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