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第八話「シロガネ、冒険者になる」

 翌朝。


 シロガネは早起きをした。

 宿の窓から差し込む朝日を浴びながら、シロガネは静かに考えていた。


 金と仕事がない。


 正確には、金はまだ少しは残っている。素材を売って得た金が、当座の宿代と食事代を賄える程度には。だが、一週間も保たないだろう。


 定期的な収入が得られる仕事と生活基盤を、固めなければならない。


 それから、悪党の情報を集める。

 どちらも、冒険者ギルドで解決できるはずだ。

 シロガネは身支度を整え、宿を出た。


 冒険者ギルドの建物は、街の中央にあった。

 石造りの大きな建物で、扉の上には剣と盾を交差させた紋章が掲げられている。早朝にもかかわらず、既に何人かの冒険者が出入りしていた。


 シロガネは扉を押した。

 ギルド内は、想像していたより整然としていた。受付カウンター、依頼書が貼られた掲示板、酒場のような休憩スペース。前世の日本で言えば——役所と居酒屋を足して二で割ったような場所だった。


 ふむ。


 どこに行けばいいんだ……。


 シロガネは少し戸惑った。

 冒険者ギルドのシステムは、村にいた頃から噂で聞いていた。だが実際に登録するのは初めてだ。村育ちの男には、こういう建物自体が馴染みがない。

 幸い、入口近くに看板があった。


『新規登録の方は受付までお越しください』


 ——わかりやすいな。ありがたい。


 シロガネは受付に向かった。

 カウンターの向こうにいたのは、若い女性だった。髪を後ろで束ね、丁寧そうな顔つき。受付業務に慣れている雰囲気がある。


「いらっしゃいませ。ご用件は」

「冒険者登録を、頼む」


 シロガネは短く言った。

 受付の女性が、にこやかに頷いた。


「かしこまりました。登録料は大銅貨五枚です」

「ああ」


 シロガネは懐から財布を出した。

 大銅貨五枚を数えて、カウンターに置く。慣れた手つきだった。宿代も食事代も、大体これで済む。銅貨と大銅貨の感覚は、村を出てから身についていた。


「お預かりします」


 受付の女性が大銅貨を受け取ろうとした、その時。


 シロガネはふと、自分の財布の中身を見た。

 底に、銀貨が二枚あった。


 ——そういえば、これ、いくらなんだ?


 素材を売った時に、商人がついでに渡してくれた銀貨だった。シロガネは手元に銅貨があったから使う機会がなくて、財布の底に放置していた。


 シロガネは少し迷って、口を開いた。


「すまない、一つ聞いていいか」

「はい?」

「銀貨は、大銅貨何枚分なんだ?」


 受付の女性が、一瞬、目を瞬かせた。

 それから、にこやかに答えた。


「銀貨一枚は、大銅貨十枚分です」

「……ああ、そうか」


 シロガネは静かに頷いた。

 ——銀貨二枚で、大銅貨二十枚分。

 それなりの金になるな。


「ありがとう」


 シロガネは大銅貨五枚を渡した。

 受付の女性は、書類を進めながら、内心で少しだけ思った。

 この人、村育ちかしら。


「それでは、こちらの登録書類にご記入を」


 書類が差し出された。

 シロガネはペンを取った。

 書類を見る。


 ——名前、年齢、出身地、得意な戦闘スタイル、希望ランク。


 シロガネは静かにペンを動かした。


 名前——シロガネ。

 年齢——二十。

 出身地——東部辺境の小村。


 得意な戦闘スタイル——格闘術。

 希望ランク——最低ランク。

 書き終えて、書類を返した。

 受付の女性が書類を確認して、目を丸くした。


「あの、お客様。希望ランクが最低ランクの『F』になっていますが」

「ああ」

「失礼ですが、お見受けしたところ、それなりに鍛えていらっしゃるかと。最初からEランク、もしくはDランクで登録される方が——」

「最低ランクのFでいい」


 シロガネは静かに答えた。


 ——強さで目立ちたくない。


 俺はシロガネだ。シルバー・フィストとは別人だ。

 シロガネは、ただの新米冒険者であるべきだ。

 シロガネとして有名になってしまうと、動きづらさも増す。貴族なんかに目をつけられた日には最悪だろう。

 受付の女性は少し戸惑った様子だったが、やがて頷いた。


「……承知しました。Fランクで登録いたします」


 ギルド証が発行された。シロガネの名前が刻まれた、薄い金属の札。


「これでシロガネ様は冒険者です。依頼は掲示板から自由にお選びいただけます」

「ああ」

「それから、ランク別に受けられる依頼が決まっています。Fランクは——」

受付の女性が、少し言いにくそうにした。

「いわゆる、雑用系の依頼が中心になります」

「雑用系」

「はい。下水道の清掃、荷物運び、薪割り、農作業の手伝いなど。報酬も、それに応じたものになりますので——」

「問題ない」


 シロガネは即答した。


「金が稼げるなら、なんでもやる」


 受付の女性が、少しだけ目を見張った。

 新米冒険者の多くは、最初から少しでも上のランクを望む。雑用系を率先して受けると言う者は珍しい。


「……承知しました。それでは、掲示板をご覧ください」


 シロガネは頷いて、掲示板に向かった。


 掲示板には、依頼書が雑然と貼られていた。

 ランクごとに色分けされている。Fランクのコーナーは、掲示板の隅にこじんまりとあった。

 ——ふむ。

 シロガネは依頼書を一つずつ読んだ。


『下水道のスライム駆除。報酬:銅貨二十枚』

『東街区の老婆ジェナさん宅の薪割り。報酬:銅貨十五枚』

『ベルトル商会の荷物運び。報酬:銅貨三十枚』

『街の孤児院の子守。報酬:銅貨十枚』

『北区の屋根修理の手伝い。報酬:銅貨二十枚』


 ——多いな。


 しかも、どれも、長期間貼られているように見える。

 依頼書の角が、どれも黄ばんでいた。新しい依頼ではない。古くからあって、誰も受けないまま放置されている依頼たちだ。

 塩漬けというやつだな。

 シロガネは前世で会社員をしていた頃を思い出した。誰もやりたがらない仕事は、いつまでも棚に残る。


 そして、シロガネはそういう仕事を、進んでやる男だった。

 理由は二つ。


 一つ。誰かがやらなければならない仕事だからだ。

 二つ。誰もやらない仕事ほど、やった時に評価される。

 ——前世も、今世も、同じだな。


 シロガネは依頼書を、五枚ほど剥がした。

 下水道のスライム駆除。老婆ジェナさん宅の薪割り。ベルトル商会の荷物運び。孤児院の子守。屋根修理の手伝い。

 全部、まとめて受付に持っていった。


「これを、全部頼む」


受付の女性が、目を丸くした。


「五件、まとめてですか」

「ああ」

「あの、Fランクの依頼は、一日に一件ずつでも十分なご負担かと——」

「平気だ」


 シロガネは静かに答えた。


「全部、今日中に終わらせる」


 受付の女性が、しばらくシロガネを見つめた。

 それから、少し笑った。


「……承知しました。頑張ってくださいね、シロガネ様」


 シロガネは依頼書を懐にしまって、ギルドを出た。


 最初は、下水道だった。

 シロガネは下水道の入口に立った。

 入口から、独特の臭いが立ち上ってくる。並の人間なら、それだけで顔をしかめるだろう。


 シロガネは風魔法を使って匂いを完全に防いだ。


 下水道に潜った。

 スライムが、思ったより多くいた。


 派手に浄化魔法を使って全体を一気に綺麗にしてもいいが、今のシロガネはFランク冒険者だ。強さがバレるのは避けたい。普通のFランクはきっと浄化魔法なんか使えないはずだ。

 スライムを倒すくらいだったら、拳一つで充分だろう。


 シロガネは数百匹を、10分もかけずに全て爆散させた。

 下水道の中は、スライムの粘液が散乱していた。


 ……これは、片付けたほうがいいな。

 シロガネは依頼書をもう一度確認した。


『下水道のスライム駆除』


 スライムの駆除しか書かれていない。粘液の片付けは依頼内容外だ。

 だが、放置すれば誰かが困る。


 ——やっておくか。


 シロガネは下水道の壁にあったタワシのようなものが付いた棒を借りて、水魔法と組み合わせて粘液を凄まじい勢いで洗い流した。

 3分後。

 下水道は完璧なまでに綺麗になっていた。

 継続的に浄化されるよう密かに細工もしておいた。

 これくらいしてもいいだろう。

 細工がもし見つかったとしても、スライム討伐依頼を受けただけの俺がやったとは気づかんだろう。

 たぶん。


 シロガネは知らなかったが、冒険者Fランクでスライムを倒す際は半日で10匹倒せればいい方だった。


 ——よし、次だ。



 二件目は、ジェナさん宅の薪割りだった。

 ジェナさんは小柄な老婆で、東街区の小さな家に一人で住んでいた。


「あらあら、若い子が来てくれたのねえ」


 ジェナさんはシロガネを家の中に招き入れた。


「お茶を出すわね。座って待ってて」

「いや、すぐ作業を——」

「いいから、座って」


 シロガネは諦めて、椅子に座った。

 ジェナさんが温かい茶を出してくれた。


「ありがとうございます」

「最近、若い人があんまり来てくれなくてねえ。みんな上を目指して、こういう仕事は嫌がるのよ」

「……そうですか」

「あんた、東部の出だね? 訛りでわかるわ」

「ああ」

「うちの息子も、若い頃に村を出てねえ。今はどこで何してるか……」


 ジェナさんは少し寂しそうに笑った。

 シロガネは茶を飲みながら、黙って話を聞いた。

 ジェナさんの息子は何年も前に都会に出たらしい。手紙も来なくなって、五年が経つという。


 ——前世にも、こういう話があったな。


 シロガネは静かに思った。

 茶を飲み終えると、シロガネは庭に出た。

 薪は山積みになっていた。


 多いな。


 ジェナさんが一人で割るには、無理な量だ。

 シロガネは斧を取った。


 割り始めた。


 ぱきぱきぱきぱきと、軽い音が連続して庭に響く。

 シロガネの手は、薪を割るのに全く力を込めていなかった。それでも、凄まじい勢いで次々と薪は綺麗に二つに割れていく。

 ジェナさんが、玄関先からシロガネを見ていた。

 目を、丸くしていた。


「あんた、すごい腕ね」

「いえ」

「うちに来たお兄さんで、一番速いわ」


 シロガネは手を止めなかった。

 10分後、薪は全部割り終わっていた。

 ジェナさんが、新しい茶と、焼き菓子を出してくれた。


「ご褒美よ。一人じゃ食べきれないから」

「……ありがとうございます」


 シロガネは焼き菓子を齧った。

 ジェナさんが手作りした、素朴な味だった。

 前世の母親の味を、少しだけ思い出した。



 三件目、ベルトル商会の荷物運び。

 シロガネは商会の倉庫に向かった。


「あんたが新人か。荷物はあれだ。北区の倉庫まで運んでくれ」


 商会の主人が、巨大な木箱を指さした。

 シロガネは木箱を見た。


 ——三百キロは、ある。


 普通の冒険者なら、どうするだろうか。少し考えた。

 異世界だし、身体を強化する魔法もある。荷物運びだったら、これくらいなら大丈夫だろう。


 シロガネは、両手で木箱を持ち上げた。

 抱えた。

 歩き出した。


 商会の主人が、目を見開いて見送っていた。

 シロガネは知らなかったが、普通の冒険者は三百キロの箱を素手で持ち上げられる訳がない。

 半日かけて台車で運ぶのが普通なのだ。


「お、おい、台車は」

「いらない」


 シロガネは振り向かずに答えた。

 そのまま、北区まで歩いていった。

 通行人が、木箱を抱えた長身の男を、不思議そうに見ていた。


 シロガネは特に気にしなかった。

 変身していなければ、人間の身体能力の範囲内だ。


 ——たぶん。


 二時間後、シロガネは商会に戻ってきた。

 商会の主人が、まだ呆然としていた。


「銅貨三十枚、お渡しします」

「ああ。次の依頼があれば、また」


 シロガネは銅貨を受け取って、立ち去った。

 商会の主人が、後ろで何か呟いていた。


「あ、あれは、人間か……?」



 四件目、孤児院の子守。

 シロガネが孤児院に着くと、子供たちが目を輝かせて迎えてくれた。


「あ! 冒険者だ!」

「すげえ大きい!」

「ねえねえ、強い!? 強い冒険者!?」


 シロガネは子供たちに囲まれた。

 孤児院の修道女が、苦笑しながら歩み寄ってきた。


「すみません、子供たちがすぐに集まってきて。少しの間、相手をしてあげていただけますか」

「……わかった」


 シロガネは子供たちに目線を合わせるようにしゃがんだ。


「冒険者のお兄ちゃん! 冒険のお話して!」

「強い敵と戦った話!」

「ヒーローの話がいい!」


 シロガネの動きが、止まった。

 ——ヒーローの話。

 ——いいのか、それは……俺に語らせてくれるのか?

 子供たちが、目を輝かせてシロガネを見ていた。

 シロガネは、ゆっくりと口を開いた。


「……いいだろう」

「やったー!」


 子供たちが歓声を上げた。

 シロガネは床に座って、子供たちを周りに集めた。

 そして、語り始めた。


「昔、ある世界に……変身する英雄が、いた」

「変身!?」

「うん。光と共に鎧を纏い、空を駆ける英雄だ。普段は、普通の人の姿をしている」


 シロガネの声が、徐々に熱を帯びていった。


「その英雄は、悪を許さなかった。村を襲う山賊。子供を奪う悪党。弱い者を踏みにじる連中。英雄は、そういう連中の前に、必ず現れた」

「現れて、どうしたの!?」

「叫ぶんだ。『お前たちのような悪を許してはおけない!! 変身ッ!!』と」


 シロガネは小さく拳を突き上げた。

 子供たちが歓声を上げた。


「光が、爆ぜて。鎧が一瞬にして纏われて、翼がこう――バッと広がるんだ。そして、英雄は名乗りを上げる」

「なんて!? なんて言うの!?」


 シロガネは——

 ——いかん、これは、いかん。

 危ないところで、踏みとどまった。


「……そこは、英雄の名乗りは、いろいろある」

「えーっ、教えてよ!」

「教えて教えて!」


 子供たちが詰め寄ってきた。

 シロガネは咳払いをした。


「……『俺は悪を粉砕する、白銀の剣!』とか、そういう名乗りだ」


子供たちが息を呑んだ。


「かっこいい!!」

「めっちゃかっこいい!!」

「俺もそんなふうになりたい!!」


 シロガネは、目を細めた。

 子供たちの目が、輝いていた。

 四十年前、シロガネが四歳の時に変身ヒーローを見た時の、あの目だった。


 ——いい。

 ——とても、いい。


 シロガネは静かに頷いた。

 修道女が遠くから見ていた。

 シロガネが子供たちと話している姿を、不思議そうに見ていた。

 なんだろう、あの冒険者。

 子供たちと話していると、なんだか、楽しそうだ。

 しかも、自分の方が、子供よりも目を輝かせている……?

 修道女は首を傾げた。




 五件目、屋根修理の手伝い。

 シロガネは家主と一緒に屋根に登って、瓦を一枚ずつ並べ直した。

 家主が、屋根の上で苦笑した。


「あんた、本当に新米か? 手際がいいな」

「……前世で、似たようなことをしていた」

「前世?」

「忘れてくれ」


 シロガネは黙々と作業を続けた。

 夕暮れ時には、屋根は完全に修復されていた。

 家主が銅貨二十枚を手渡しながら、深く頭を下げた。


「ありがとう。本当に助かったよ」

「いえ」


 シロガネは銅貨を受け取って、立ち去った。


――――――――


 ギルドに戻った時には、もう日が落ちかけていた。


「シロガネ様!」


 受付の女性が、目を丸くしていた。


「本当に、五件全部終わらせたのですか」

「ああ」


 シロガネは依頼書を全部、カウンターに置いた。

 各依頼主のサインがちゃんと入っている。

 受付の女性が、書類を確認しながら、信じられないという顔をした。


「下水道のスライム駆除、薪割り、荷物運び、子守、屋根修理……全部、評価が最高ランクになっています」

「そうか」

「お客様、こんなに完璧に依頼を完遂する方は、Fランクでは滅多にいません。今度は是非、もう少し上のランクの依頼を——」

「Fでいい」


 シロガネは静かに答えた。


「明日も、Fランクの依頼を受ける」


 受付の女性は、もう何も言わなかった。

 ただ、シロガネをじっと見ていた。


 ——なんなの、この人。


 強そうだし、手際もいいし、なのに最低ランクで満足してる……?

 シロガネは報酬を受け取って、ギルドを出ようとした。


 その時。


 ギルドの扉が、開いた。


 入ってきたのは——

 リナ、メイファ、エルネだった。


 シロガネは、足を止めた。

 ——また、か。


 リナの目が、シロガネに止まった。

 その目に、僅かな驚きが滲んだ。


「……シロガネ?」


 シロガネは、何食わぬ顔で頷いた。


「ああ」

「なんで、ギルドに……?」


 リナの背後で、メイファが目を丸くしていた。

 エルネは、何かを観察するような目で、シロガネを見ていた。

 シロガネは短く答えた。


「冒険者になった」


 リナが、しばらく黙った。


「冒険者……あんたが?」

「ああ」

「ランクは?」


 シロガネは少し間を置いて答えた。


「F」


 リナの口が、少しだけ開いた。

 エルネが、僅かに眉を寄せた。

 メイファが、おっとりと首を傾げた。


「えっ……Fですか〜?」


 シロガネは答えなかった。

 ただ、ギルドの扉に向かって、歩き出した。

 リナの背中に、声を投げた。


「じゃあ」

「あ、ちょっと——」


 リナの呼びかけは、ドアが閉まる音に消えた。


――――――――


 ギルドを出たシロガネは、夕暮れの街を歩いた。


 懐には、今日一日で稼いだ銅貨が入っていた。合計、銅貨九十五枚。大銅貨に換算すれば、九枚と少し。

 生活費、数日分は稼げた。


 明日も、塩漬け依頼を片付ける。

 そうして、悪党の情報を集めながら、生活基盤を作っていく。

 シロガネは静かに微笑んだ。


 街の角で、シロガネは夜空を見上げた。

 星が、出始めていた。


 ——シルバー・フィストの仕事は、本格的にはまだ始まっていない。


 だが、シロガネの仕事は、今日、始まった。

 それでいい。

 シロガネは宿に向かって歩き出した。


――――――――


 その頃、冒険者ギルドでは。


「……Fランクで、塩漬け依頼を全部こなしたって?」


 リナが、受付の女性に聞いていた。


「はい。今日一日で五件です。全部、最高評価でした」

「五件……」


 リナは黙った。

 メイファが横で目を丸くしていた。


「リナ様〜、あの方、本当に変わってますね〜」

「変わってる、では済まないわ」


 リナの目が、細くなった。


「Fランクで、塩漬けを全部、最高評価で? しかも一日で?」


 リナはエルネを見た。


「エルネ、これってどう思う?」


 エルネは静かに答えた。


「……普通の新米冒険者の動きじゃないことだけは確かです」


 リナは、夕暮れの街を、ギルドの窓越しに見た。

 シロガネの長身が、街の角に消えていくところだった。


 ——シロガネ。あんた、何者なの?


 リナの胸の中で、何かが、また少し、動いた。

 それが何なのか、リナはまだ、自分でもわかっていなかった。



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