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第50章:火百合(ファイヤー・リリー) (Fire Lily)

ブザーが鳴り響いた瞬間、アリーナは巨大な一つの『動く塊』と化した。


モトは即座に標的を定めた――乱戦の端で『T』のシリンダーを握りしめ、自分が価値のあるものを持っていると悟られまいと必死に平静を装っている少女。彼は彼女に向かって地を蹴った。


頭部を狙った拳が飛んでくる。身を沈めて躱す。肋骨を狙った蹴り――それをシリンダーで受け流し、そのまま前転して加速する。組み合う二人の闘士の間を縫うように低く走り抜け、そして――。


鋭い鉤爪タロンが彼を捉えた。


ホーク(Hawk)が疾走するモトを地上から力任せにひったくり、激しく羽ばたきながら急上昇する。モトのブーツの下で、アリーナの地面がみるみるうちに小さくなっていく。


「その『A』が必要なのよ、モト!」風の音にかき消されそうな声で彼女が叫んだ。空いている方の手ですでにモトのシリンダーをこじ開けようとしている。「『H-A-W-K』のスペルを揃えるのも楽じゃないんだから!」


「……最悪の展開だな」モトが低く呟いた。


彼女は彼の抵抗を感じ取ると、無造作に肩をすくめた。そして、鉤爪を開いた。


地面が猛烈な勢いで迫ってくる。あまりにも、速い。


「俺をキャッチしろ!」彼は上空に向かって叫んだ。「そうすれば『A』をやる!」


ホークは翼を畳んで急降下した。地面まで残り一メートルのところで彼の襟首を引っ掛け、再び急上昇する。そして、それなりに丁寧な手つきで彼を地面に降ろした。「……払いなさい」


彼はシリンダーの封印を解き、『A』の紙片を一枚だけ抜き取って彼女に弾き飛ばした。彼女はそれを空中でひったくると、すでにスコアボードへと向かって飛び去っていた。敵が一人減った。彼はシリンダーを再び封印した。


彼はフィールドに向き直った。先ほどの『T』の少女は反対側の端まで移動していた。彼と彼女の間には、互いに殴り合う人間の壁が立ち塞がっている。


彼はムカイ(Mukai)とのシリンダー訓練を思い出した。――『障害物に集中するな。濡れずにゴールまで辿り着け』。


彼は動いた。


振り回されるメイスの下を滑り込む。組み合うペアを跳び越える。全力疾走のまま、タックルをサイドステップでかわす。彼は少女に追いついた。彼女は怯え、身構える。彼は攻撃しなかった――代わりに、圧縮された煙の塊を彼女の足元の地面に叩きつけた。

煙が爆発し、濃い灰色の雲が急速に立ち上る。傷つけることなく、視界と方向感覚だけを奪う。彼はその煙の中に踏み込み、彼女の足を払い、緩んだ手から『T』を抜き取った。煙が広がりきる前に、彼はすでにその外へと抜け出していた。


スコアボードを確認する。『M-O-T-O』。二つの『O』はすでに緑色に点灯している。リリー(Lilly)が素早く動いてくれたのだ。


必要なのは『M』と『T』。手元には『T』がある。


柱の陰で気配を消そうとしている、小柄で痩せた少年の手に『M』のシリンダーがあるのを見つけた。モトは彼に向かって歩き出した。


だが、ハンガイカ(Hangaika)の方が早かった。その巨漢の影が少年に覆いかぶさり、少年は要求されるよりも先に文字を差し出した。ハンガイカはモトの方を向き、指の関節をポキポキと鳴らした。


「もう逃げ場はないぞ、小僧」


彼は『M』を手に入れた。そして彼は『A』を欲していた。そして、アリーナで最も切望されている文字の行方を追っていた群衆が、状況が明確になったのを見て一斉に動き出した。


フィールドはもはやトーナメントの体裁を失い、『暴動』へと変貌していた。


モトは走った。ハンガイカの突進を跳び越え、巨漢の肩を蹴ってさらに跳躍する。あらゆる方向から手が伸びてくる。身をよじり、さらに加速し、シリンダーを胸に抱え込む。


緑色の残像が彼の速度に並んだ。シルクの戦闘用着物。袖から伸びる半透明の木の葉のリーフ・ブレード。――フローラの闘士、AJエージェー。彼女は挨拶もなしに刃を振るった。モトの首があった場所を空気が切り裂かれ、刃が地面に深く突き刺さる。


VIP席では、ナジョの知らない少年が、あざ笑うような表情で彼の隣の席に座った。「ファウナの連中ごときが、絶不調の時の姉さんにすら勝てるわけがない。姉さんに必要な文字は、あと一つだけだ」


ナジョは彼を見た。何も答えず、ただフィールドを見守った。


眼下では、追っ手たちがモトを包囲し、彼を地面へと押し倒していた。背後からのタックル。背中に押し当てられる膝。三方向からの重量が彼を圧迫する。それでも、シリンダーだけは離さなかった。


彼は、集中した。


――ドォォォォン!!


加圧された煙が彼の皮膚から爆発的に噴出し、黒い霧の壁がその区画全体を飲み込んだ。咳き込み、叫び声が上がる。周囲の闘士たちが呼吸困難に陥り、拘束が緩む。モトだけは、この中で呼吸ができた。彼は煙の端まで這い出し、低い姿勢で構えた。


その時、声が聞こえた。冷静で、平坦な声。


「――『光合成フォトシンセシス』」


煙の動きが止まった。それは『曲がり』始め――一点に向かって吸い込まれていく。煙が晴れると、そこには片手を掲げたAJが立っていた。黒い霧は彼女の掌へと吸収され、もう片方の手には物理的な質量を感じさせるほどの黄金の光が蓄積されていた。


「……勘弁してくれよ」モトが零す。


光線ビームが放たれた。彼は飛び込んだ。光線は彼の脇を通り抜け、背後にいた六人の闘士をなぎ倒した。彼らのシリンダーが弾け飛び、空中に文字が舞った。――『H』『B』『L』『S』。バラバラに散らばったそれらは、今やアリーナで最も重要な宝物となった。


まだ立っていた全員が陣形を崩し、紙片を奪い合おうと殺到した。モトの目が鋭くなる。もし自分が押さえ込まれている間にスロットが埋まってしまえば――。


彼は黒曜石の剣を抜き、素早い弧を描いて空を斬った。誰かが紙片を掴むよりも早く、その刃が舞い散る文字を紙吹雪のように切り刻んだ。

観客席でそれを見ていたナジョは、ある種のデジャヴを感じていた。


「……あいつ、今の俺から学んだな」彼が言った。


タナカが彼をちらりと見る。


「資源を破壊して膠着状態を作る。……アリーナをぶっ壊したのと同じ理屈だ」


AJが再びモトに向き直った。二撃目のための光がすでに掌に集まっている。

――カツンッ。

木刀が彼女の手首を叩き、狙いを逸らさせた。光線はモトの左側の地面を虚しく焦がした。


リリーがAJの背後に立っていた。木剣を構え、余裕の表情を崩さない。「私はあの子に『O』をあげたの」彼女は言った。「それを使わせる義務があるわ」


AJが鼻で笑った。「木のおもちゃでフローラの技に挑もうっていうの?」彼女は木の葉の刃を振るった。リリーは動じることなくそれを受け流し、鋭く平坦な音と共に、木とエネルギーが激突した。二人は完全に互いを拘束し合う形となった。


VIP席の少年が跳ね起きた。「なんでファウナの奴があんな動きに付いていけるんだ!?」


三つ隣の席に座っていたウィル(Will)は、顔を上げることすらしなかった。「リリーの剣術は無比だ。それが棒きれだろうが鋼だろうがな」


実況が叫ぶ。「残り二分! 七名の枠が埋まった! 空き枠はあと三つ!!」


AJが封じられた今、残るはハンガイカのみ。巨漢が突進してくる。モトはそれを剣で受け止めた。衝撃が両腕に響き、黒曜石の刃が耐える。彼には『M』が必要だ。


彼は剣の柄を地面に突き立てた。火山ガラスが摩擦を受け、内部圧力が上昇していく。刃の縁が、不安定な紫色を帯びて光り始めた。


「よし」モトの声が混沌を突き抜けて響いた。「……ここからは本気だ」

彼はまだ周囲で見計らっている闘士たちの群れを睨み据えた。「武器がない時の俺は見たよな。……次はこれだ。――『火百合ファイヤー・リリー』!!」


紫色の炎が刃を駆け上がった。黒曜石が危険な熱を放射する。最も近くにいた数人の闘士が、無意識に後ずさりした。


モトがハンガイカに向かって突撃する。


三人の闘士が同時に彼にぶつかり、残り数メートルのところで彼を地面に押し倒した。彼は抗い続けたが、背中と腕にかかる重圧は凄まじく、シリンダーを握りしめているのはもはや意志の力だけだった。


「残り二十秒!」


持ち上げることも、押し返すこともできない。


彼は他のすべてを捨て、煙を解放した。


濁流のような煙が彼から溢れ出した――濃密で、加圧され、炭素のように黒い霧がその場を飲み込む。AJが塞がっている今、それを吸収できる者はいない。彼の上にいた闘士たちが咳き込み、酸素を失って力が緩む。モトだけが呼吸をしていた。彼の肺は、この煙を知っている。


「5!」


彼は発光する剣を掴み取った。


「4、3――」


加圧された炭素ガスの雲の中で、彼は超高温の刃を力一杯振り抜いた。


「2、1――」


――ドォォォォォォン!!


大爆発が、その区画を飲み込んだ。

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