第40章:恩寵の反転 (Grace Inversion)
午後の穏やかな日差しが、訓練場を平らに照らしていた。ここ数週間の出来事を思えば、その静けさはかえって疑わしいほどだった。
タナカは草むらに膝をつき、ノートを開いてすでにペンを走らせていた。「よし」と彼女。「今日は、あなたたちの能力が実際にどう機能しているのか、じっくり研究させてもらうわよ」
グループの間に戸惑いの視線が交差する。モトは気乗りしない様子で、包帯を巻かれた腕を伸ばした。エイモンは観察者に徹すると決めたような姿勢で木に寄りかかっている。ナジョは腕を組んで立っていた。アンバーは近くの草むらにあぐらをかいて座り、すべてを見守っている。
タナカがシェウを手で示した。「まずはあなたから」
シェウが前に出た。タナカが彼女の背中に掌を当てる。「風を使ってみて」
シェウは息を吐き、両腕を前に突き出した。空気が外へ向かって流れる代わりに、彼女の両掌の間にパチンと『真空』が開いた――草の葉や小石がそこへ吸い寄せられ、空気が間違った方向へと圧縮されていく。彼女は目を丸くした。さらに力を押し込む。吸引力が強まる。彼女が両手を離すと、その虚無は密閉容器の蓋が開いたような「ポンッ」という音を立てて崩壊した。
「興味深いわ」タナカのペンが高速で動く。「ニカの標準的な風は『排出』する。でも、反転させると内側へ『吸引』するのね」
シェウは顔の汗を拭った。「これを使っている間は、感知能力が使えないわ。どちらか片方だけみたい」
アンバーが両膝を抱え込んだ。「気をつけないと、人を丸飲みしちゃいそうな力だね」
「それが」とシェウ。「懸念点ね」
タナカは目を輝かせて顔を上げた。「だからこそ、ゆっくり始めるのよ。この『未知』こそが醍醐味じゃない――反転の下に広がる、無限の可能性がね」彼女は姿勢を正した。「というわけで、私の能力について説明するわ」彼女は、誰かに質問される前からその答えを口にすることを楽しんでいるようだった。「『恩寵の反転』。私が誰かに触れている間、その人の能力の『正反対』のものを生み出すの――彼らのDNAが、本質的に逆の信号を送り始めるのよ。詳しいメカニズムの説明は省くけど」
ナジョが口笛を吹いた。「パシの能力にそんなことができるなんて、知らなかったぜ」
「パシの能力じゃほとんど無理よ」とタナカ。「私の能力は、デンガ由来だから」
庭が静まり返った。
「デンガ?」モトが繰り返す。
門が開いた。アッシャーとティナシェが、予定より早く戻ってきた。
アッシャーがその静けさに片眉を上げる。「何かお楽しみの邪魔をしたか?」
誰かが答えるより早く、アンバーが彼らに飛びついた。
ティナシェは彼女を抱き止め、笑った。「言ってなかったかしら? タナカは、チャンドラー(Chandler)の娘の一人なのよ」
その名前が、場の温度を変えた。
モトがタナカを見た。「お前、アリシア(Alicia)の妹なのか?」
タナカは、長年その人物の妹であることを強いられてきた者特有のうんざりした顔で、目を丸くした。「悲しいことに、イエスよ」
アッシャーの視線がモトに移る。「お前、アリシアを知ってるのか?」
「長い話になる」
「短くまとめろ」
モトは息を吐いた。「あいつの部下が、俺のダチを誘拐したんだ。俺が助けに行って、捕まって、平和なんて不可能だって長広舌を聞かされた後で、あいつの洞窟を吹き飛ばした。オリヴィア王妃が来て、残りを片付けてくれたよ」
アッシャーは彼をまじまじと見つめた。アンバーの表情はそれとは正反対で――純粋で、魅了されたような大喜びの顔だった。
タナカが鼻で笑った。「いかにもお姉様がやりそうなことね」
モトは彼女の顔を観察した。「お前も、あいつのことが嫌いなのか?」
タナカの声が、平坦で脆いものに変わった。「姉のせいじゃない。父親のせいよ。あんな父親、いっそ――」
「いい加減にして」シェウが言った。
静かな声だった。何かの背後に膨大な圧力が蓄積し、限界に達した後にだけ漏れ出るような静けさ。
タナカが振り向く。「自分の家族のことなんだから、私がどう言おうと――」
「ダメよ」シェウの声がわずかにひび割れ、決壊の兆しを見せた。「父親にもう一度会うためなら、自分のすべてを投げ出してもいいと思っている人間がここにいるのよ。あんたには、まだ父親がいるじゃない」彼女は首を横に振った。「自分の持っているものに、少しは敬意を払いなさいよ」
「他の誰かが父親を失ったからって、私が腐った男を父親として受け入れなきゃならない理由はないわ」
「おいおい――」ナジョが両手を挙げた。
アッシャーが割って入る。「落ち着け」
だが、シェウはすでに震えていた――数週間分の悲しみ、答えの出ない疑問、そして次々と明かされる秘密が、ついに噴出するための亀裂を見つけてしまったのだ。彼女の手が腰のナイフに伸びかけ、止まり、また脇へと戻る。「……あんたには分からないわよ」彼女は言い、最後の言葉で声が完全に裏返った。「憎むべき父親が、まだ生きてそこにいるんだから」
彼女は背を向け、深い草むらの中へと歩き出し、振り返ることはなかった。
モトが彼女の腕に手を伸ばした。彼女は振り返ることなく、その手を振り払った。
彼はその場に立ち尽くしていた。指先からゆっくりと煙が立ち上る。その煙には、罪悪感と、熱と、そして綺麗な名前のつけられない『何か』が混じっていた。
(あいつの言う通りだ)と、彼は思った。(もっと早く、俺の秘密を話しておくべきだった)
庭は、ひどく静まり返っていた。
タナカは気を取り直し、周囲を見渡した。「次は誰?」
モトが前に出た。彼は膝をつく。タナカが彼の肩に手を置くと、彼から黒い触手のような煙が滲み出し始めた――だが、それは霧散しなかった。内側へ引き込まれる。圧縮される。濃密で、漆黒の、ギザギザとした縁を持つ、微かに結晶質な何かへと限界まで凝縮されていく。
彼が拳を握る。その破片がチャキッと音を立てた。
彼は少しの間、それを見つめた。「……固体だ」
「『拡散』が反転したのよ」タナカが言った。「煙を物質へと凝縮しているの」
彼は一つの破片を拾い上げた。太陽の光がそれを反射する――硬く、暗く、不規則な刃。彼は立ち上がり、無駄のない一挙動で、庭の端にある木の切り株にそれを振り下ろした。それは何の抵抗もなく、切り株を真っ二つに切断した。
「黒曜石」彼が静かに言った。彼の顔に、ある種の安堵が広がった――自分でも欠けていると気づいていなかったピースを、ようやく見つけた者の、あの特有の表情。「そう呼ぶことにする」
アンバーが両手で拍手をした。「これでやっと、自分を燃やさずに戦えるね!」
モトは息を吐き、微笑んだ――ほんの一瞬だけの、本物の、小さな微笑み。「ああ。その通りだ」
エイモンが、自身の死刑判決に向かうような足取りで前に出た。「俺のは複雑だぞ」
「説明して」とタナカ。
「俺には、想像上の友達がいる。グリレットだ。あいつは俺の外に出ることができるが、長くはもたない」彼は言葉を切った。「説明はこれで十分だろ」
タナカは頷いた。彼女の手が彼の背中に触れる。
負の感情が、壁のようにエイモンを打ち据えた――圧倒的で、出所のない真っ暗な感情の波が、一気に彼の頭の中に流れ込んでくる。彼の目が大きく見開かれた。
彼の肩から拳が突き出され、タナカを後ろへ吹き飛ばした。
ナジョが彼女に届く前にその腕を掴み、乱暴に払いのける。グリレットが立ち上がり、その目をギラギラと燃やしていた。「この馬鹿ども――危うく『あれ』を解き放つところだったぞ!」
「そこまでだ」モトが言った。すでに両腕に煙を這わせている。
グリレットの唸り声が少しの間響いた。そして、彼は再びエイモンの中へと溶けて消えた。
アンバーの声は、ひどく小さかった。「エイモン。……痛いの?」
彼は自分の肩をさすった。彼女の方を見ようとはしない。「お前が思ってるのとは違う。だが……最近、あいつを繋ぎ止めてる鎖が弱くなってきてる気がする」
誰も、それに返す言葉を持っていなかった。
最後にナジョが来た。タナカの手が彼の肩甲骨の間に触れた時、彼は両腕を下げたまま立ち尽くし、長い間何も言わなかった。
「震えてるわよ」彼女が静かに言った。
「さっさとやれ」
彼は雷を呼び寄せた――しかし、あの鋭い破裂音やオゾンの匂いの代わりに、静寂が広がった。ガラス越しの雨音のように、空気が柔らかく共鳴する。彼の視界が黒と赤と青の霞へとぼやけ、模様が移り変わり、その霞の中で人影が動くのが見えた。
「何が見える?」タナカが尋ねる。
彼の声は震えていた。「形だ。人みたいな。色の線。静かだ。でも、間違ってる。狙いを定めようとしても、何も出ない――ただ、そこに『あるはずの線』が見えるだけだ」
タナカの目が、ゆっくりと複雑な畏敬の念で満たされていく。「あなたの雷の電子が、陽電子に反転したのよ。あなたはもう、雷を撃ち出しているんじゃない。生体エネルギーを――生命反応を読み取っているのね」彼女は一拍置いた。その興奮がわずかに薄れる。「それは武器じゃないわ。世界を見るための『窓』よ」
タナカが手を離した後も、その囁きは止まらなかった。第二の心臓の鼓動のように、静かに脈打っている。
アンバーが自分の体を抱きしめた。「全然、平和そうに聞こえないよ」
「ああ、平和じゃねえな」ナジョが言った。
モトはフェンスに寄りかかり、自分のチームを見つめていた――そこにある亀裂、恐怖、そして彼らがそれぞれ変化した新たな能力の奇妙な形。彼の指先で、黒曜石の破片が静かに回転している。
(反転は、何かを与えてくれるわけじゃない)と彼は思った。(何かを奪い、その裏側にあるものを見せつけてくるだけだ)
街のどこかから、サイレンの音が午後の空気を切り裂いて鳴り響いた。
アッシャーの動きが止まる。その声は、平坦で、絶対的な確信を持っていた。
「奴らが来たぞ」
誰も、「誰が」とは聞かなかった。聞く必要がなかった。




