第22章:恐怖なき世界 (A World Without Fear)
施設が眠る中、モトは鍛錬を続けていた。
ムカイが言っていた『風』のことばかりが頭を巡っていた。他者の力の根底に無意識に流れており、力学を導き、形作るという見えない気流。彼は地面に座り込み、ただしばらくの間、虚空を見つめていた。自分がこれまでの人生でずっと見落としてきた『それ』を探すために。
やがて、彼は微風を感じ取った。その微かな方向の変化を察知し、角度を掴むまで自分の煙を使ってその軌跡を追った。彼は立ち上がり、煙玉を手に取り、投擲した。
今日一日の中で、最も遠くまで飛んだ。
そして、水球を綺麗に捉えた。
――しかし、接触と同時に煙は霧散した。
彼は長く息を吐き出した。マシにはなった。だが、これでは足りない。
その時、背後から凄まじい熱波が迫った。
彼が振り返りきるより早く、顔の横を火球が金切り声を上げて通り過ぎた。灼熱の残像が水球に激突し、それを爆発四散させる。
熱がモトの肩を掠めた。鋭く、直接的な痛み。シャツに火が燃え移る。彼はそれを叩いて消した。
昇り始めた朝日を背にして、グウェン(Gwen)が立っていた。一人の人間が占めるべき空間を明らかに逸脱した、圧倒的な質量のシルエット。
彼は何も言わなかった。ただ手を伸ばし、モトの襟首を掴んで地面から吊り上げた。
「棄権しろ」その言葉は低く、そして決定事項として吐き出された。「王が私の時間を無駄にすること自体が屈辱の極みだが、私はすでに自分の生徒を選んでいるのだ」
モトは歯を食いしばった。「……断る。あんたの都合なんて知ったことか。脅されたからって、俺のチャンスを譲る気はねえよ」
グウェンの手が発火した。彼が中指を立てる――そこには光を反射する赤い指輪がはめられていた。「これが見えるか? 王も同じ指に同じ指輪をはめている。王が誰かに『メッセージ』を送りたい時、呼び出されるのはこの私だ。私は『王の剣』の中で、最も恐れられている男なのだぞ」
モトは拳を振るった。蹴りを入れた。持てる限りの力で。だが、グウェンの拘束は微動だにしなかった。
炎がモトの胸へと這い上がり、皮膚が水膨れを起こしていく。モトの顔は苦痛に歪み、顎は強く噛み締められていたが――彼は一切の音を立てなかった。
恐怖の悲鳴も。命乞いも。
グウェンは彼を見下ろした。
この少年が激痛の只中にいることは明らかだった。それなのに、彼は完全に沈黙していた。
予想外の反応に対する苛立ちから、グウェンの力が膨れ上がった。炎が彼自身の両腕を伝って固体化し、燃え盛る大気からガントレットと肩当てが形成されていく。
「モト!」
広場にムカイが足を踏み入れた。その表情は冷たく、平坦だった。
炎を這わせたまま、グウェンが振り返る。
「持ち場に戻れ」とムカイが命じた。
グウェンは長い間、彼を睨みつけていた。やがてモトを下ろすと、王子の肩を乱暴に擦り抜けながら歩き出し、モトの耳元に身を寄せて囁いた。
「辞退しろ。さもなくば、殺す」
その足音の残響が消える前に、彼の姿は消えていた。
ムカイはすでにモトの傍に跪き、火傷の痕に冷たい水を流し込んでいた。
モトはまだ怒りに燃えていた。「遠距離戦じゃ話にならない。俺が懐に潜り込む。ダメージは覚悟の上だ。その代わり、一撃の重い打撃を叩き込んでやる」
「正気か?」
「ああ」
ムカイは彼を観察した。そして、彼の瞳の奥で何かのスイッチが切り替わった。彼は再び水の球体を形成した。
モトは呻き声を上げた。「だから、遠距離じゃ無理だって――」
「待て」ムカイは水球の上空に、長い筒状の水を固定し、そこからゆっくりと不規則な水滴を降らせ始めた。モトと標的の間に、まばらな雨のカーテンが形成される。「あの水球を割れ」と彼は言った。「一滴も濡れることなく、だ」
モトは降り注ぐ水滴を見た。そして、その向こうにある水球を見る。彼は頷いた。
その列車は古かった。車両には錆の匂いと、その奥に潜む有機的な『間違った何か』の匂いが染み付いていた。
モトは八歳だった。彼はアンバー(Amber)を胸に抱き抱え、二人で窓際の隅に身を押し付けていた。彼女はまだ小さく、その体はすっぽりと彼の胸の中に収まっていた。彼女は泣いていた――ずっと泣き続け、とうに泣く気力すら使い果たしてしまった赤ん坊特有の、弱々しく、疲れ切った泣き声。
外では、列車に並走するように『怪物たち』が動いていた。赤い皮膚、黒い甲殻。奴らが外壁にぶつかるたびに、その衝撃が金属を伝い、床を伝い、モトの体へと響いた。見なくても、その音が聞こえた。彼は見なかった。窓に背を向け、アンバーへと顔を伏せ、不安定な声で彼女に囁き続けた。暗闇の中で、守れるかどうかもまだ分からない約束を並べ立てながら。
世界はきっと変わる。お前は安全な場所で大きくなるんだ。俺が絶対にそうしてみせるから。
列車の揺れが収まる頃には、彼女は泣き止んでいた。それが良いことなのかどうか、彼には分からなかった。
彼は草の上で目を覚ました。体から薄く煙が立ち上っている。早朝の鍛錬場は静まり返っていた。
彼は立ち上がった。煙玉を拾い上げる。そして、再び訓練を始めた。
その週は、煙と水と、燃え盛る筋肉の疲労が混ざり合った霞の中で過ぎていった。
モトが鍛錬場を離れるのは、シェウの様子を見に行く時だけだった。顔を合わせるたびに、彼女の意識は少しずつ鮮明になり、瞳の光は少しずつ鋭さを増し、悲しみから遠ざかり、代わりに『決意』と呼ぶべき何かに近づいていた。
彼女はスカイに、父親が最後に派遣された場所を調べてほしいと頼んでいた。スカイは父親であるダグラス王にそれを尋ねた。王の答えはたった二語――『機密事項』。それだけで十分だった。シェウはその会話の後、一直線に旅行管理局へ向かい、通行証の申請を出したのだ。ここで答えが得られないのなら、別の場所で見つけ出すだけだ。
『継承の儀』の前日。午後遅くの光が木々の向こうに長く伸びる中、モトは宙に浮いた筒状の雨雲の下に立っていた。五十メートル先には、水球が待っている。
彼は一度だけ息を吐いた。そして、動いた。
降り注ぐ水滴の隙間を縫い――身をよじり、潜り込み、転がり、空間を読み切る――完全に制御された動きの残像。最後の瞬間に、彼の片足から靴が弾け飛び、宙を回転しながら水球のど真ん中に直撃した。
パンッ!
水球が弾け飛ぶ。
彼には、水滴一つ当たっていなかった。
ムカイがゆっくりと歩み寄ってきた。彼は拍手をした――静かで、急ぐ様子もない、本心からの拍手だった。
「どうやら、死なずに済むかもしれないな」
モトは草の上に大の字に倒れ込み、激労で小刻みに震える腕で、無言のサムズアップを掲げた。
深い森に覆われた高山で、ナジョは膝に手をついて二つ折りに身をかがめ、荒い息をついていた。ドープとガンゴは、人を極限まで追い込み、その限界を超えて這い上がってくるのを見届けた者特有の、静かな満足感を顔に浮かべて彼を見ていた。
「よくここまで来たな」ガンゴが言った。
ナジョはまだ息を整えながら頷いた。「お前ら二人も、なかなか悪くないぜ」
ドープが兄弟を小突いた。二人の間に、共犯者のような視線が交わされる。「そろそろ時間だと思うか?」
ガンゴがニヤリと笑う。「俺たち自身は、未だに習得できてない代物だがな。こいつなら、できるかもしれないぜ」
ナジョが背筋を伸ばした。「何を習得するって?」
ドープの視線が、頭上の枝に止まっている一羽の鳥に一瞬だけ向けられた。小さく、静かで、周囲を全く警戒していない鳥。
「俺たちはそれを、『ハミングバード』と呼んでいる」
ナジョは彼をまじまじと見つめた。「それ、雷の技の名前かよ」
「習得したいのか、したくないのか?」
「当然だろ。それで、あのじいさんが俺の首根っこから手を離してくれるならな――」
「もっと標高の高い場所に行く必要がある」ガンゴはすでに、山の頂の方を見上げていた。「あの技は、目立ちすぎるからな。来い」
三人は木々の中へと足を踏み入れ、山が彼らを丸ごと飲み込んでいった。




