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7-5 簪と幻影

黑稻相癸です。第五節。


新しい出会いと、思わぬ繋がり。

ぜひ見に来てください。

 亜倫はすぐに足を速め、あっという間に神木の裏手の陰の中に消えた。


 心配だったが、今ついていくと邪魔になるだけだとわかっていた。だからあたしは帕夫を抱いて、樹幹の中層にある市場へ向かった。


 想像していたよりずっと賑わっていた。精靈たちは巨大な葉に包んだ発光する果実、精巧に編んだ蔓籠、あるいはガラス瓶に封じた朝露などを売り買いしていた。


「ねえ!珂拉!」


 澄んだ声があたしを呼び止めた。私服に着替えた艾琳が、買ったばかりの薬草の籠を手に提げていた。


「それ、星露果(せいろか)?目利きだね」彼女があたしの買ったばかりの紫色の果実を指差した。


「魔力の回復にとてもよく効くんだよ」


 木の根が自然に形作った長椅子に並んで座った。話しながら、艾琳がふっと何かを思い出したように、目が翳った。


「実はね、あちこち旅できる珂拉が羨ましくて」彼女は手の薬草をくるくると弄んだ。


「妹の艾拉……もう随分部落に帰ってきてない。落ち着きのない子でね、ずっと外の世界を見たいって言ってた。数年前に人間の商隊について出て行って、何か冒険団に入ったって言ってたけど……今頃どうしてるかな」


「艾拉?」あたしは少し固まった。


「その……法杖を持って、ローブに縁起物をたくさんつけてる艾拉?」


 艾琳がぱっと顔を上げ、翡翠色の目を丸くした。


「会ったことあるの?」


「会っただけじゃない」あたしは頷いた。今となっては少し遠い記憶の中の人影が浮かんだ。


「少し前、高原の遺跡のあたりで、レノという隊と出くわした。艾拉もそこにいた」


 あたしはその時のことをかいつまんで話した——石像鬼のこと、あの空箱のこと、そして彼女たちが勇気を持って帰郷していった後ろ姿のことを。


「星々に感謝を!」艾琳が興奮してあたしの手を握り、目の縁がほんの少し赤くなった。


「生きてるとわかっただけで十分……あの子、小さい頃からそそっかしくて、外でうまく騙されてないか本当に心配だったんだ」


 その時、慌ただしい足音が会話を遮った。


「艾琳!早く来て!」


 凡斯だった。息を切らして走り込んできた彼の、あたしを見る目は警戒だけでなく、まるで疫病でも見るような恐怖と敵意で満ちていた。


「その獣人から離れろ!」凡斯が艾琳を自分の後ろに引っ張った。


「長老が確認した!あいつと一緒にいる人間……あの亜倫……あいつは**『壊滅者(かいめつしゃ)』**だ!」


「え?」艾琳が固まった。


「伝説の、天空祭壇(てんくうさいだん)で願いをかけて大災変を引き起こし、無数の命を奪った**不死の罪人(ふしのざいにん)**のことだ!」凡斯の声が震えていた。


「くそ、あいつの体から漂う死人の臭いがおかしいと思ってたんだ!そんな奴がよくも接骨木に足を踏み入れたな!」


 周囲の精靈たちは『壊滅者』という言葉を聞いて、まるで怪物を見るような顔で次々とこちらに目を向けた。


 胸の奥が沈んだ。亜倫の正体はとっくに知っていた。でも、あの烙印が容赦なく剥き出しにされて陽の光の下に晒された時、その圧迫感はやはり息ができないほどだった。


 しかし艾琳の反応は、誰の予想も裏切った。


 彼女はぱちぱちと瞬きして、最初の驚きがだんだんとある種の……好奇心と興奮の混じった表情に変わっていった。


「つまり……数百年生きてるあの伝説の?」目がきらきらと輝いた。


「そうか、だから遠古霊語を聞き分けられたんだ!『大地之靈』の波長を知ってたのも!これって生きた歴史書じゃないか!」


「艾琳!正気か?」凡斯はたぶん、この姉妹はもう救いようがないと思ったに違いない。


「とにかく、あいつが何をしてるか見張らないと」艾琳があたしを見た。


「珂拉、亜倫はどこに行ったの?旧友に会いに行くって言ってたけど?」


「そうなんだけど……」あたしは神木の裏手を指差した。


「具体的にどこかはわからなくて」


 艾琳がしばらく顎に手を当てて考えた。


「あの伝説の罪人なら……探してる『旧友』がいる場所は、大体あそこしかないな」


 すぐに神木の裏手へ向かった。


 そこは静かで、うとうとしてしまいそうな場所だった。無数の白い石碑が青々とした芝の上に点在していた。しかし一通り見て回っても、亜倫の姿はなかった。


「ここにはいない」艾琳が眉を寄せた。「なら、残るのは一か所だけだ」


 彼女はあたしたちを連れて墓地を抜け、端の方にある、紫の蔓がびっしりと這う古い樹屋の前まで来た。部落の喧噪がほとんど聞こえない、ひっそりとした場所だった。


 樹屋の扉は少し開いていた。


 近づいた途端、中から老練ながら張りのある叱責の声が漏れてきた。


「……このろくでなし!何十年も顔を見せなかったくせに、木の杭みたいに突っ立ってるだけとは何事?お茶の一杯も淹れられないのか?」


 三人で目を合わせ、こっそり窓の縁に身を寄せた。


 中では、顔中に皺を刻んだ、雪のように白い髪の老精靈が揺り椅子に座っていた。そしてあの、外ではいつも落ち着き払って何でも知っているように見える亜倫が、今は悪いことをした子供のように頭を垂れて立ち、老婦人に叱られるがままになっていた。


「見てみな、この有様。全然変わってない」老婦人——艾琳の言う**西爾維夫人(シルヴィーふじん)**——が曇った、しかし今も鋭い目で彼を睨んだ。


「その顔、嫌になるぐらい若いまま。それに比べて私は、もう枯れ木みたいになってしまったよ」


「すまない、西爾維」亜倫が低く言った。その声は乾いていた。


「すまないで何が変わる?」夫人が冷たく鼻を鳴らした。


「この百年どこへ行ってた?隠れて何の罪滅ぼしになる?自分を苦しめながら、あの子のことを覚えてる私たちまで苦しめてるんだよ!」


 言いながら、夫人の目が亜倫の頭に挿した、何の変哲もない木の簪に向いた。


「それと、これ」彼女が簪を指差した。その口調は急に歯噛みするような感じになった。


「あの愚か者の娘が……あんたみたいな馬鹿が、百年以上持ち歩いて、ずっと開け方さえ知らなかったとはねえ」


 亜倫が固まり、思わず簪に触れた。


「開ける?飾りじゃないのか?」


「飾りで何が!あの娘は馬鹿だけど、私が教えた中で一番優秀な附魔師だったんだよ!」


 西爾維夫人がため息をついて、震える手をそっと伸ばし、口の中で柔らかい呪文を唱えた。


「*Memoria n'ala.*」


 呪文が落ちると、亜倫の体の簪が突然柔らかな青い光を帯びた。光が空中に集まり、ゆっくりと、掌ほどの大きさの半透明な幻影を形作っていった。


 そこには一人の若い精靈の少女がいた。


 今まで見たことのない衣を纏い、笑顔は夏の陽光のように輝いていた。彼女は亜倫に向かって顔をしかめてみせ、それからひょうひょうと言った。


『人間と精靈は一緒にいられないって、時間が二人を引き裂くって、みんなそう言う。でも私は気にしない。不可能なことなんてない、でしょ?私たちは神に挑む冒険者なんだから!』


『あなたがこの簪の秘密を見つけたなら、きっとずっと傍に置いてくれてたんだね。えへへ……』


 少女がふっと間を置き、頬をほんのり赤らめ、声が柔らかく深く変わった。


『そんなに私が好きなら、なぜ娶ってくれないの?馬鹿』


 光が散り、幻影が空気の中に消えた。


 室内が静まり返った。


 亜倫はそのまま、簪に触れた手の姿勢のまま、ぼんやりと立っていた。


 そして——あたしは彼の肩が震え始めるのを見た。


「う……」


 喉の奥から絞り出したような嗚咽が漏れた。次の瞬間、腐狼の群れにも盗賊にも顔色一つ変えなかった、石のように冷静なあの男が、突然崩れ落ちるようにその場に跪き、子供のように声を上げて泣き出した。


 普通の泣き方ではなかった。百年積み重ねた後悔と、思慕と、痛みが、この瞬間に一気に崩れ落ちていくようだった。


 あたしはその光景を見て、心の中の何かがぎゅっと握り締められた。


 情のない怪物か、それとも頂点に立つ老者だと、ずっと思っていた。でも今わかった。彼はただ、心を過去に置き去りにしてきた、哀れな人間なのだ。


 西爾維夫人は泣きじゃくる亜倫を見て、目に一瞬慈しみの色が過ぎった。が、すぐ厳しい顔に戻った。彼女はこちらに向き、あたしたちの隠れている窓の位置を正確に見据えた。


「何を見てる?」


 拐杖をついて立ち上がり、険しい口調で言った。


「涙を見たことがないのかい?あっちへ行け、日を遮るんじゃない!このろくでなしに一人で泣かせておやり!」


 見つかってしまい、あたしたちが慌てて後退ろうとした時、夫人がもう一言付け加えた。


「この小僧ども、暇なら老人の家の前をうろうろするんじゃないよ!」

お読みいただきありがとうございます。


亜倫の「旧友」……

どうやら、ただの知り合いでは難かったようです。


何十年も会っていなくても、まるで昨日の続きのように叱りつけられるその関係。

たとえその友が、もう二度と会えない場所へと永遠に旅立ってしまったとしても。


——次回、第六節「ようこそ、片道切符の旅へ」

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