表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/76

5-5 無声の崩壊

黑稻相癸です。第五節。


人は、希望があるから歩き続けることができます。

何百キロもの絶望を背負ってでも、その先に光があると信じれば。


……でも、もしその光が最初からなかったら?

 あたしたちは廊下を後にした。


 誰も振り向かなかった。だが全員が、心の中では振り向いたと思う。あの灰白色の体が暗闇の中に横たわっていた。まるでこの遺跡が自分から生やした一部分のように。


 レノは速く歩いた。ふらつきながら。口の中でずっと呟き続けていた——


「もうすぐだ……少し待ってくれ……兄ちゃんがすぐ持ってきてやるから……」


 彼は空気に話しかけていた。あるいは、もう聞こえない人に話しかけていた。


 あたしはその後ろ姿を見ながら、胸がざわついた。狂ってる。みんな狂ってる。


「……本当に狂ってる」ドワーフが斧を引きずりながらあたしの隣を歩いた。斧の刃が地面を引っ掻き、擦れる音がした。その声にもう嘲りはなかった。ただ、疲れ果てた、諦めに似た重さだけがあった。


 最後の扉。鍵はかかっていない。半開きだった。


 レノが体当たりで開けた。


 巨大な円蓋形の大広間。これまでどの部屋よりも広い空間だった——穹天井は高すぎて、夜光苔岩の光でも頂上が見えなかった。黴の匂いはなく、乾いた、ほのかな香りのある空気だった。とっくに廃れた薫香が、石壁の毛穴の中に何百年も残り、まだ完全には消えていなかった。


 中央に、白玉の祭壇。


 眩しいほど白かった。この暗い遺跡の奥深くで、あの白は汚れとは無縁に見えた——何らかの力がそこに働き、塵さえも寄せつけないでいるかのように。


 祭壇の上に箱が置かれていた。


 金色。宝石がちりばめられていた。暗闇の中で光を放っている——柔らかく、温かく、まるで呼吸しているような光だ。


 美しすぎて、泣きたくなった。


「あそこに……」レノの声が裏返りそうになった。


「あそこだ!」


 彼は飛びついた。転んだ。また立って走った。四つん這いで。


 あたしたちも集まった。ザカでさえ息を呑んでいた。精霊アイラが柱に寄りかかり、顔に病的な赤みが一瞬走った。


「カイル……見てろよ……」


 レノの震える手が、箱の縁に引っかかった。


カチャッ。


 錠前が弾ける音。澄んでいた。雷のようだった。この静寂の大広間で、あの一音がこれまでの全ての戦闘、絶叫、崩壊よりも大きく響いた。


 開けた。


 固まった。


 その後ろ姿が凍りついた。驚いての硬直ではない。あの——生命が根こそぎ抜かれたような硬直だった。


 あたしも覗き込んだ。


 空だった。


 聖杯はない。薬もない。紙切れ一枚もない。灰があるだけだった。分厚く、何百年も積もった灰が。蓋が開いた気流の中でゆっくりと漂い散った——驚かされた亡霊の群れのように。


 時間が止まった。


「……どこに?」アイラの声が夢うつつのようだった。


「何もないの?」


 レノは答えなかった。手を入れて灰を掻き回した。一握り、また一握り。指の爪が金属の底を引っ掻いた。ジジジ。ジジジ。あの音は幽霊の鳴き声より聞くに堪えなかった。


「空だ……」ドワーフの手から斧が落ちた。ガシャン。彼はその場に座り込み、頭を抱えた。


「はっ……はははっ……空だ」


「嘘だ……嘘だ……」レノが壊れ始めた。箱を逆さにして振った。宝石を歯で噛もうとした。


「情報ではここだった……地図もここを示していた……」


 彼は咆哮した。人間から出るべき声ではなかった——自分の喉ごと引き裂いたような声だった。


「なぜ空なんだ! 空である権利がこいつにはない!」


ドン! 金の箱が地面に叩きつけられた。宝石が砕け散った。欠片が亜倫の足元まで転がってきた。


「カイルがまだ待ってる……」レノは膝をついたまま、額を冷たい石段に押しつけた。涙と鼻水と血が渾然と混ざり合い、顔から白玉祭壇の台座に流れ落ちた。


「約束したのに……」


 絶望が疫病のように空気に広まった。


 アイラがずるずると床に崩れ、手の法杖がガタンと倒れた。ザカが振り向き、背後の石柱に拳を叩きつけた——石の一角が砕け、指の関節も裂け、血が滲んだ。


 死よりも残酷な刑罰だ。希望を与えて、何百キロもの希望を背負わせてこれほど長く歩かせて、終点でこう告げる:全部嘘だった、と。


 あたしは眩暈がした。吐き気がした。


 亜倫を見た。


 彼は俯いていた。足元の、金の箱から砕け飛んだ宝石の欠片を見ていた。泣かない。怒らない。恐ろしいほど平静だった。


「亜倫……」あたしの声が震えた。


「最初からわかってたの?」


 亜倫が顔を上げた。目があたしを見ていた。でも同時に、遠い、彼しか行ったことのない場所を見ているようでもあった。


「知らなかった」


「じゃあなんで……一切驚かないの?」


 亜倫が腰を折り、箱を拾い上げた。親指で表面の埃を払った。金属が指腹の下でもとの輝きを取り戻した——温かく、蜂蜜のような金色だ。


「見すぎたからだよ、珂拉」彼の声はとても静かだった。だが一語一語が石のように、あたしの胸に重く打ちつけた。


「この世の**奇跡**のほとんどは、開けてみれば……空っぽだ」


 その瞬間、あたしには——崩れ落ちるレノよりも、彼の方が、ずっと心が痛かった。

お読みいただきありがとうございます。


あの白玉の祭壇と、金色の箱。

ファンタジー小説なら確実に奇跡が起こる場面ですが、この世界はそう甘くありません。


「この世の奇跡のほとんどは、開けてみれば……空っぽだ」

亜倫のこの言葉、彼がどれほどの空っぽな箱を見てきたのかを想像すると、胸が締め付けられますね。


彼らはどう立ち直るのか。


——次回、第六節「生きることの重さ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ