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19-9 還流

あの白い霧の正体は、この白キノコだったのでしょうか?


あれほどのことを引き起こすなんて……


いったい、どれだけ生えているのでしょう?

こんなにたくさんのキノコを見るのは、あたしも初めてだった。


洞口から差し込む光が、奥まで伸びていく。


一面、白。


地面。


岩壁。


頭上から垂れ下がる石柱まで、全部覆われている。


傘が大きく育ったものもある。


何層にも重なって。


小さいものは、隙間へぎっしり詰まっていた。


エイリン(エイリン)が光の球を、さらに奥へ漂わせる。


白が現れる。


そして、もっと深い闇の中へ消えていく。


終わりなんてないみたいだった。


「入る?」


ザカ(ザカ)は、もう刀を鞘へ戻していた。


ここには本当に、斬るようなものはなさそうだ。


あたしはしゃがむ。


足元のキノコを、よく見る。


傘は丸い。


指先で、軽く叩いてみた。


白い粉が、すぐ一層落ちる。


慌てて手を引っ込める。


外で拾ったものと同じだ。


ただ、ここは匂いがずっと濃い。


湿っている。


少し甘い。


しばらく吸っていると、胸が少し詰まる感じまでしてきた。


顔を覆う布を、きつく引き上げる。


「入ろう」


アーロン(アーロン)が、あたしをちらりと見る。


「専門家、先導頼む」


……


帰ったら絶対、仕返ししてやる。


……


あたしたちは一列になって、奥へ進んだ。


エイリン(エイリン)の光が、先頭を漂う。


ヴァンス(ヴァンス)が、もう一つ出すよう頼んだ。


一つは前。


もう一つは後ろ。


これなら、見えないところへ足を踏み外す心配はない。


奥へ行くほど。


地面が低くなっていく。


最初は普通に歩けた。


でも、そのうち地面が滑り始めた。


出っ張った石を選んで踏みながら、ゆっくり下りるしかない。


白いキノコも、どんどん増える。


場所によっては。


足一つ置く隙間すらなかった。


一面を跨ごうとしたけど。


靴先が、うっかり傘に当たった。


ぷふっ。


白い粉が、一気に舞い上がる。


あたしはすぐ息を止め、後ろへ下がった。


粉は軽い。


なのに、落ちるのは遅い。


光の中を、ずっと漂って。


ようやく少しずつ沈んでいく。


みんな足を止めた。


……


「触らないで」


あたしが言う。


ザカ(ザカ)は、自分の横を見る。


ちょうど邪魔なキノコを押しのけようとしていたところだった。


手を戻す。


「じゃあ、どうやって歩くんだ?」


……


それは問題だ。


結局。


ゆっくり行くしかなかった。


本当に、ゆっくり。


踏める石があれば、そこを踏む。


どうしても場所がなければ。


ザカ(ザカ)に刀の背で傘を押さえてもらう。


白い粉が落ちきるのを待って。


それから通る。


ただ。


あの粉が広がるたび。


あたしは、つい顔の布へ手をやってしまう。


これ一枚がなかったら。


今ごろ、どれだけ吸い込んでいたんだろう。


わからない。


知らないほうがいい。


……


もう洞口は見えなかった。


振り返っても、二つの光の球があるだけ。


その先は。


全部、闇。


アイラ(アイラ)は最後尾を歩いていた。


何度も後ろを見ている。


「前は本当に気づかなかったの?」


エイリン(エイリン)が聞く。


アイラ(アイラ)は首を振った。


「うん」


「避難するときは、みんな病人の世話で手いっぱいだったから」


彼女はまた、洞窟の奥を見る。


「こんなところまで来る人なんていないよ」


それもそうだ。


あのときは、全員を外へ連れ出せるかどうかさえわからなかった。


わざわざ山の下へ潜る人なんているわけがない。


顔を上げる。


前の光が、また一面の白いキノコを照らし出す。


多い。


本当に、多すぎる。


これ全部が、外へ白い粉を飛ばしていたなら。


風息谷(ふうそくこく)の人たちも、よくあそこまで持ちこたえたと思う。


……


どれくらい歩いたのかわからない。


ふいに、音がした。


ぽたり。


小さい。


あたしは止まる。


後ろのエイリン(エイリン)が、危うくぶつかりそうになった。


「どうしたの?」


「しっ」


みんなも黙る。


ぽたり。


もう一度。


それから。


もっと奥のほうから、低い音が届いた。


水滴一つの音じゃない。


たくさんある。


遠くて。


洞窟の中を何度も曲がって響いてきたせいか。


くぐもって聞こえる。


「川?」


あたしが聞く。


アーロン(アーロン)が首を傾ける。


しばらく聞いて。


「あるな」


……


川がある。


なのに、ここまで来る間。


ちゃんと流れている水は、一度も見ていない。


あったのは、岩の隙間からたまに落ちる水滴くらい。


もう一度、前を見る。


なぜだかわからない。


急に、あの音がどこからするのか知りたくなった。


……


さらに下りていく。


空気は、どんどん湿ってきた。


顔の布まで少し湿っている。


この感じは、すごく嫌だ。


白い粉がくっついたら。


そのまま鼻の前に張りついている気がしてくる。


だから、しばらく進むたび。


外側の布を取り替えた。


アイラ(アイラ)も、それを見て替える。


結局、みんな替えた。


アーロン(アーロン)だけは、最初の一枚のまま。


「替えないの?」


「まだ平気だ」


……


もういい。


どうせこの人は、何でも平気だ。


……


前のキノコの傘に、水滴がつき始めた。


一つ。


また一つ。


通り過ぎるとき、一滴に触れた。


水が傘を伝って流れ。


表面の白い粉を、一緒にさらっていく。


粉は舞わなかった。


すぐ小さな塊になって。


ぽちゃん。


横の水たまりへ落ちる。


あたしは止まった。


しゃがんで見る。


その塊は沈まない。


水面に浮かんだまま。


ゆっくり回っている。


細い枝で、ちょっと触ってみた。


かなり粘る。


枝を持ち上げると。


先端に、白いものが細く伸びてついてきた。


村の外で見たものと同じだ。


「どうしたの?」


エイリン(エイリン)が聞く。


「何でもない」


枝を捨てる。


ただ、少し変だと思っただけ。


こんなに水へくっつきやすいのに。


それでも浮いている。


もし、ここに昔、本当に川が流れていたなら……


前を見る。


水の音は、もうはっきり聞こえている。


たぶん、すぐ近くだ。


……


しばらくして。


ザカ(ザカ)が急に止まった。


今度は、本当に急だった。


あたしは危うく背中へぶつかるところだった。


「どうしたの?」


返事はない。


ただ、手を上げる。


前を指した。


横から顔を出す。


道がない。


いや。


壁がある。


道を丸ごと塞いでいた。


……


違う。


あたしは上を見る。


これ、丸すぎない?


左から。


右まで。


前の通路を、きっちり埋めている。


表面は濃い灰色。


つるつるしている。


濡れた光を返しているところもあった。


深い皺が、何本も走っている。


一番おかしいのは。


キノコがないことだった。


一つもない。


振り返る。


あたしたちが歩いてきたところは。


地面も白い。


壁も白い。


石柱まで、キノコに覆われている。


ここだけ。


きれいさっぱり何もない。


白いキノコが、わざと避けて生えているみたいだ。


「何これ?」


エイリン(エイリン)が前へ寄る。


あたしにもわからない。


でも、石じゃないのは間違いない。


それでも手を伸ばした。


触る。


……


柔らかい。


しかも、温かい。


あたしはすぐ手を引っ込めた。


「アーロン(アーロン)」


彼はまだ後ろで、キノコを見ていた。


呼ぶと。


ゆっくり歩いてくる。


見上げて。


「お」


……


お?


「知ってるの?」


「ルフェンビ(ルフェンビ)」


ザカ(ザカ)が、目の前いっぱいのそれを見る。


「これ、獣なのか?」


「うん」


あたしはもう一度、その壁を見る。


「頭は?」


アーロン(アーロン)が反対側を指した。


「向こう」


……


誰も何も言わなかった。


あたしは、また上を見る。


四、五メートル。


たぶん、それ以上。


丸い。


丸すぎる。


水路を、その体で完全に塞いでいる。


ということは。


今あたしたちの目の前にあるのは。


お尻だけ。


アイラ(アイラ)が少し後ろへ下がる。


「どうしたの、これ?」


アーロン(アーロン)が、しばらく見た。


「寝てる」


少し間を置いて。


「たぶん」


……


たぶん?


ザカ(ザカ)は、もう手を伸ばしていた。


叩いて確かめるつもりらしい。


アーロン(アーロン)が、その手首をつかむ。


「やめとけ」


「なんで?」


「起きたら動く」


あたしはルフェンビ(ルフェンビ)を見る。


それから、横の岩壁を見る。


急に、その言葉がものすごく怖く聞こえた。


……


しばらく、みんなで立って待った。


灰色の壁が、本当に動いた。


ゆっくり。


膨らむ。


止まる。


それから、またゆっくり沈む。


ふうう……


動物から出る音とは思えないほど低い。


洞窟そのものが、息を吐いたみたいだった。


エイリン(エイリン)の目が輝く。


「どれくらい大きいの?」


アーロン(アーロン)が、手で大きさを示した。


「だいたい、こんなもん」


……


全部こんなに丸いの?


太りすぎでしょ。


「何を食べるの?」


あたしが聞く。


アーロン(アーロン)は後ろを指した。


一面の白いキノコ。


あたしは固まる。


「これ?」


「キノコなら何でも食う」


「前に見たことがある」


アーロン(アーロン)がしゃがむ。


ルフェンビ(ルフェンビ)の横で、ほとんど潰れかけているキノコを見る。


「水面に浮いてるものなら、何でも食ってた」


あたしは何も言わなかった。


水。


白いキノコ。


ルフェンビ(ルフェンビ)。


もう一度、向こう側の音へ耳を澄ます。


水音は、すぐそこにある。


近い。


近すぎる。


「前からここに住んでたの?」


「たぶんな」


「どれくらい?」


アーロン(アーロン)は首を振る。


「知らない」


そのまま、ルフェンビ(ルフェンビ)を軽く叩いた。


あたしは慌てて止める。


「触らないでってば」


「ルフェンビ(ルフェンビ)は、あまり場所を変えない」


彼は言った。


「水が干上がらない限り」


「じゃあ、なんでこんなことになってるの?」


「寝てるから」


アーロン(アーロン)は、もう一度それを見る。


それから教えてくれた。


ルフェンビ(ルフェンビ)は十数年に一度。


長い眠りにつく。


何年も起きないこともある。


眠る前には。


大量の水を飲む。


本当に、たくさん。


水を体の中へ溜め込む。


だから、今みたいになる。


大きな岩みたいに。


丸々と膨らむ。


ただ、昔は。


水路の中で寝ていても。


水は横を通れたらしい。


……


あたしは、急にわかった。


白いキノコが突然生えたんじゃない。


地下の水が消えたわけでもない。


ずっと、両方ここにあった。


白いキノコが生える。


水がそれを流す。


水面へ浮かぶ。


それをルフェンビ(ルフェンビ)が食べる。


ずっと、そうだった。


こいつが眠るまでは。


しかも、ちょうど水路を丸ごと塞ぐくらい太って。


水が通らなくなった。


こいつも食べなくなった。


白いキノコだけが、少しずつ洞窟いっぱいに増えた。


最後には。


外まで白くなった。


「水、こいつに塞がれてる」


あたしが言う。


誰も返事をしなかった。


たぶん、みんなもうわかっていた。


目の前の巨大なお尻を見る。


なんとも言えない気分になった。


風息谷(ふうそくこく)では、あれだけの人が病気で死んだ。


レノ(レノ)たちは故郷を離れた。


村は一年も空っぽになった。


その原因が。


山の下で。


ただ、太りすぎた何かが寝ていただけ。


……


馬鹿げてる。


……


「で、どうする?」


ザカ(ザカ)が聞く。


「起こすか?」


アーロン(アーロン)は首を振った。


「いきなり起こすのは、やめたほうがいい」


「なんで?」


アーロン(アーロン)は見上げる。


ルフェンビ(ルフェンビ)を見る。


「お前が寝てるとき、誰かに刀で尻を叩かれたら?」


ザカ(ザカ)は考えた。


「先に殴る」


……


「じゃあ、どうするの?」


エイリン(エイリン)が聞く。


今度こそ。


誰も答えなかった。


……


あたしたちは、ルフェンビ(ルフェンビ)の横を探し始めた。


左。


ない。


右。


こっちも塞がっている。


ザカ(ザカ)は、とうとう地面へ伏せた。


腹の下に隙間がないか、覗こうとする。


頭を下げた瞬間。


ルフェンビ(ルフェンビ)が、ふうっと息を吐いた。


大きなお尻が、少し後ろへ押し出される。


ザカ(ザカ)はすぐ頭を引っ込めた。


……


「危なかった」


「わかってるならいいけど」


……


最後に見つけたのは、ヴァンス(ヴァンス)だった。


横の少し高い岩へ立ち。


岩壁を叩く。


あたしたちは上を見る。


そこに、細い裂け目があった。


ルフェンビ(ルフェンビ)の上に隠れている。


外側には、砕けた石が何個も引っかかっていた。


下からじゃ、ほとんど見えない。


エイリン(エイリン)が光の球を近づける。


どうにか、少し先まで照らせた。


その奥は深い。


途中で曲がって。


そこから先は、光が届かない。


「通ってる?」


あたしが聞く。


エイリン(エイリン)は手を近づけた。


少しだけ、風を送り込む。


最初は何もない。


しばらくして。


頬へ、急に冷たい風が触れた。


湿っている。


裂け目の中から吹き返してきた。


通ってる。


アーロン(アーロン)が上を見る。


裂け目を見る。


それから下へ目を落とす。


あたしを見る。


……


違う。


あたしじゃない。


籠だ。


あたしはすぐ抱き込む。


「駄目」


ザカ(ザカ)が振り返る。


「何が?」


「駄目なものは駄目」


エイリン(エイリン)も、アーロン(アーロン)の視線を追う。


それから。


なるほど、って顔をした。


籠の中では。


パフ(パフ)が果実を一つ抱えて齧っていた。


四匹の子どもも、すぐ横にぎゅうぎゅうに詰まっている。


外のみんなが自分を使おうとしてるなんて、まるで知らない。


あたしは籠を背中側へ回した。


「考えないで」


アーロン(アーロン)は、少しも慌てない。


「何も言ってない」


「考えてたでしょ」


「うん」


……


うん、じゃない。


本気で、こいつを裂け目へ詰め込みたくなった。


……


問題は。


どう見ても。


本当にパフ(パフ)くらいしか通れそうにないことだった。


あたしたちは、かなり時間をかけて確かめた。


エイリン(エイリン)は何度も風を送り込む。


ヴァンス(ヴァンス)は細い枝を差し込んで探る。


ザカ(ザカ)は、とうとう縄まで持ってきた。


反対側へ抜けられないか、試そうとしたらしい。


もちろん無理だった。


裂け目は曲がりすぎている。


ただ。


途中に、そのまま下へ落ちる場所がないことだけは確認できた。


あたしはパフ(パフ)を抱いた。


それでも、行かせたくない。


本人は、まるで怖がっていない。


果実を食べ終わって。


今は手を舐めている。


……


「本当に他の方法ないの?」


あたしが聞く。


アーロン(アーロン)はルフェンビ(ルフェンビ)を見る。


あの壁が、またゆっくり膨らむ。


そして沈む。


「自分で起きるまで待つ」


「どれくらい?」


「知らない」


「……」


「数か月」


「……」


「何年か」


「黙って」


アーロン(アーロン)が笑った。


……


結局。


行ってもらうしかなかった。


あたしはパフ(パフ)を両手で持ち上げる。


手のひらに座ったパフ(パフ)が。


首を傾げて、あたしを見る。


こんなことになるなら。


もっといろいろ教えておけばよかった。


今さら気づく。


「行く」「置く」「戻る」だけでも。


パフ(パフ)には、たぶん難しい。


アーロン(アーロン)が、白いキノコを小さく一つ取った。


乾いた葉で包んで。


外を縛る。


「この匂いなら、よく知ってる」


あたしは彼を見る。


「ルフェンビ(ルフェンビ)が?」


「うん」


「ずっとこれ食ってるからな」


その包みを、パフ(パフ)へ渡す。


匂いを嗅いで。


すぐ齧ろうとした。


「食べるんじゃないの」


パフ(パフ)が、あたしを見る。


「持ってって」


裂け目を指す。


それから、ルフェンビ(ルフェンビ)の向こう側を指した。


「置く」


「それから戻ってくる」


パフ(パフ)は、また首を傾げた。


……


うん。


たぶん、わかってない。


岩壁へ下ろす。


パフ(パフ)は一度、あたしを振り返った。


お尻を軽く押す。


「行って」


今度はわかったらしい。


パフ(パフ)は石へ爪をかけ。


ゆっくり裂け目へ潜っていく。


最初は尻尾が見えていた。


もう少し。


尻尾の先だけになる。


最後には。


消えた。


……


中から、石を引っかく音がする。


かり。


かり。


小さい。


少しずつ、奥へ遠ざかっていく。


あたしは下に立ったまま。


ずっと聞いていた。


音が消えるまで。


……


「パフ(パフ)?」


返事はない。


当たり前だ。


そもそも喋れない。


なのに、なんで呼んだんだろう。


……


エイリン(エイリン)が隣に立つ。


「大丈夫だよ」


「うん」


口では答える。


目は、まだ裂け目を見たまま。


……


長い。


何も起きない。


ルフェンビ(ルフェンビ)は、まだ眠っている。


ふう……


ふう……


パフ(パフ)、道を間違えたんじゃないよね。


あの裂け目、途中で本当は通れなかったとか。


それとも……


考えない。


顔を上げる。


「もう少し待つ」


誰も急かさなかった。


また、しばらく経つ。


裂け目の奥から、急に音がした。


遠い。


かり。


耳が、ぴんと立つ。


「音した」


エイリン(エイリン)も近づく。


でも。


それきり。


……


「パフ(パフ)?」


やっぱり返事はない。


あたしは、もう登ろうとしていた。


アーロン(アーロン)が手を出して止める。


「待て」


「何を?」


答えない。


ただ、前を見る。


あたしも見る。


ルフェンビ(ルフェンビ)の呼吸が止まっていた。


……


本当に。


さっきまで規則正しく膨らんでいた灰色の皮膚が。


動かない。


一息。


二息。


あたしは無意識に、後ろへ下がった。


次の瞬間。


轟っ!


灰色の壁が、いきなり横へぶつかった。


洞窟まで揺れる。


あたしは危うく転びそうになった。


頭上から白い粉が大量に降ってくる。


砕けた石まで混じっていた。


「下がれ!」


ヴァンス(ヴァンス)が叫ぶ。


みんな一斉に後ろへ下がる。


拳くらいの石が。


さっきまであたしが立っていた場所へ落ちた。


ぱんっ。


白いキノコの中へ転がっていく。


でも、頭の中にあるのは一つだけだった。


「パフ(パフ)!」


ルフェンビ(ルフェンビ)が、また動く。


今度はもっと大きい。


体をこちらへ回そうとしているみたいだった。


でも、まったく回れない。


丸々と膨らんだ体が、岩壁の間へ完全に挟まっている。


石が、ぎぎぎ、と鳴る。


呼吸も一気に荒くなった。


ふうっ。


ふうっ。


息をするたび。


周りの白いキノコまで揺れる。


「びっくりしたのかな?」


アイラ(アイラ)が聞く。


「たぶん」


アーロン(アーロン)の声も低い。


「触るな」


ザカ(ザカ)は、もう刀へ手をかけていた。


その言葉を聞いて。


ゆっくり手を離す。


エイリン(エイリン)が光の球を後ろへ引いた。


洞窟が少し暗くなる。


見えるのは、ルフェンビ(ルフェンビ)の背中に浮かぶ濡れた光だけ。


また一度、体をぶつける。


どんっ!


今度は地面まで揺れた。


あたしの尻尾が、全部逆立つ。


このまま暴れ続けたら。


本当に崩れる。


でも、パフ(パフ)はまだ向こう側だ。


置いていくなんてできない。


……


「アーロン(アーロン)」


「うん」


「こいつ、このまま挟まって死んだりしない?」


「わからない」


……


ほんと役に立たない。


……


ルフェンビ(ルフェンビ)は、それ以上ぶつからなかった。


止まる。


長いこと、荒い息を吐く。


そのうち。


体の皺が動き始めた。


最初は、また暴れるのかと思った。


でも。


深く折れ込んでいた皮膚が。


ゆっくり開いていく。


内側は、もっと濃い黒灰色。


濡れて光っている。


あたしが見ていると。


ぶしゅっ!


突然、中から水が噴き出した。


「うわっ!」


あたしは後ろへ跳ぶ。


水がそのままザカ(ザカ)の脚へぶつかった。


彼は足元を見る。


まだ何が起きたかわかってない顔。


その横から。


二本目が噴き出す。


それから。


三本目。


四本目。


ルフェンビ(ルフェンビ)の全身から、急に水が漏れ始めたみたいだった。


開いた皮膚の皺から。


水が、どんどん流れ出す。


丸い腹を伝って。


下へ落ちる。


あっという間に。


地面が全部濡れた。


あたしは、その灰色の壁を見る。


小さくなっている。


ほんの少し。


でも、さっきまで岩壁へぴったり張りついていたところに。


本当に隙間ができ始めている。


「水、出してるの?」


思わず聞いた。


誰も答えない。


見ればわかる。


……


そんなことできるんだ。


寝る前、いったいどれだけ飲んだの?


水は、どんどん増える。


すぐに靴が浸かった。


ルフェンビ(ルフェンビ)の体も、少しずつ縮んでいく。


完全に塞がっていた両側に。


隙間が現れ始めた。


細い。


でも、向こう側の闇が見える。


水も。


……


あたしは、はっと顔を上げた。


「パフ(パフ)!」


いない。


聞こえるのは水音だけ。


向こう側から。


どんどん大きくなる。


胸の奥が、きゅっと縮んだ。


隙間は、もうできてる。


戻ってこられるはずなのに。


なんで来ないの?


「パフ(パフ)!」


やっぱり、いない。


一歩、前へ出る。


アーロン(アーロン)が、あたしの襟首をそのままつかんだ。


「待て」


「まだ向こうにいるの!」


「わかってる」


「じゃあ、なんで――」


ざあっ!


ルフェンビ(ルフェンビ)の横から、いきなり水が噴き出した。


言葉が、そこで全部止まる。


みんな横へ避けた。


水が地面へぶつかり。


白いキノコを何枚か巻き込んで、下へ流していく。


あたしは水を見る。


いない。


……


パフ(パフ)じゃない。


二本目の水が来る。


さっきより大きい。


心臓が、一気に沈んだ。


「パフ(パフ)……」


そのとき。


上の裂け目から、突然大量の水が噴き出した。


中で何かが転がっている。


茶色。


小さい。


「パフ(パフ)!」


あたしはアーロン(アーロン)の手を振りほどいて走った。


その小さな塊が、水と一緒に滑り落ちてくる。


一度、岩壁へぶつかる。


もう一度、くるりと回る。


あたしは、そのまま飛び込んだ。


両手で受け止める。


勢いのまま、水へ転びそうになった。


後ろからザカ(ザカ)が、あたしをつかんでくれた。


パフ(パフ)は、ちゃんと手の中にいる。


ずぶ濡れ。


毛が全部、体へ張りついている。


急に、ものすごく小さく見えた。


数息。


パフ(パフ)は、きょとんとしていた。


まだ自分がどこにいるのかわかってないみたいに。


それから、すぐあたしの胸へ潜り込む。


「もう大丈夫」


慌てて抱きしめる。


「大丈夫。戻ってきたよ」


パフ(パフ)は、あたしの服をつかむ。


ずっと中へ潜ろうとする。


籠の中の四匹も騒ぎ始めた。


あたしはパフ(パフ)を戻す。


五匹が、すぐ一つの塊になった。


ようやく息ができた。


……


「専門家」


アーロン(アーロン)が、また呼ぶ。


あたしは顔も上げない。


「何!」


「本当に行くぞ」


……


振り返る。


ルフェンビ(ルフェンビ)は、もう一回り小さくなっていた。


さっきまで壁そのものみたいに丸かった体が。


ようやく動けるくらいになっている。


まず少し、後ろへずれる。


止まる。


もう一度。


岩が重く擦れる音がした。


空いたところから、水がどんどん入り込んでくる。


細い流れが。


何本か。


それから、一気に広がる。


ルフェンビ(ルフェンビ)はまだ後ろへ下がる。


向こう側の、もっと広い洞室まで下がって。


ようやく。


ゆっくり体を回し始めた。


そこで初めて、頭が見えた。


やっぱり丸い。


思っていたより、もっと丸い。


目は二つとも小さい。


頭の上の左右についている。


鼻の穴も高いところにある。


なのに、口だけは異様に大きい。


吻は、広くて平たい。


口の縁には、細かい硬い板がびっしり並んでいる。


見ただけで。


よく食べそうだとわかる。


半分ほど回ったところで。


あたしたちに気づいた。


止まる。


……


ザカ(ザカ)の手が、また刀の柄へ行く。


ヴァンス(ヴァンス)も動かない。


エイリン(エイリン)が光の球を近づける。


ルフェンビ(ルフェンビ)が一度、瞬きをした。


もう一度。


たぶん、まだ完全には目が覚めていない。


鼻が、ぴくっと動く。


急に、横へ頭を向けた。


洞窟いっぱいの白いキノコ。


……


気のせいかもしれないけど。


目が、少し輝いた気がした。


その顔。


見たことがある。


ザカ(ザカ)が肉の大皿を見たとき。


あれと同じ。


次の瞬間。


ルフェンビ(ルフェンビ)が前へ、ぐっと体を押し出した。


口を開ける。


ばりっ。


白いキノコが、ごっそり消えた。


もう一口。


また大きく減る。


傘が口元へ触れた瞬間。


白い粉は、透明な粘液へすぐ張りついた。


まったく舞わない。


下を向いて食べるときには。


鼻の穴も細い二本の隙間みたいに縮んでいる。


速い。


しかも、きれいに食べる。


そりゃ、これを飯にできるわけだ。


ザカ(ザカ)が、しばらく見ていた。


「俺より食うな」


……


それは、もう少し観察してから決めたほうがいいと思う。


そのとき。


足元が、急に冷たくなった。


下を見る。


水。


さっきまで。


ルフェンビ(ルフェンビ)の後ろから細い流れが何本か出ていただけだった。


今はもう。


膝近くまで来ている。


しかも、まだ上がってくる。


顔を上げる。


ルフェンビ(ルフェンビ)が、また横へ一歩ずれた。


さっきまで体で塞いでいたところが。


空いた。


……


アーロン(アーロン)の顔色が変わる。


「走れ!」


ざあっ!

時々、世界ってこういうものなんですよね。


ルフィンビにとっては、ただ眠っていただけ。


でも、風息谷の人たちにとっては災難になってしまった。


なんとも皮肉な話……ですよね?


次回——


第十節 別れ

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