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19-6 大地の目覚め

黄海のあと、私たちは一つの森を抜けました。


その先には、まったく違う景色が広がっています……。

森を抜けたのは、昼になる前だった。


最後の道は狭い。


両側が木でいっぱいだった。


枝葉が、何重にも重なっている。


馬車は、ときどき垂れ下がった枝を無理に押し分けなければならなかった。


それが。


急になくなった。


木陰が後ろへ退く。


光がいっぺんに落ちてきた。


あたしは思わず目を細める。


前には草だけがある。


ずっと遠くまで。


風が吹き抜ける。


草原ぜんぶが、幾重にも折れた。


もっと向こうには、山がある。


高い。


どれほど離れているのかわからない。


それでも、いくつかの稜線は見覚えがあった。


昔、通った。


アーロン(アーロン)と一緒に。


あのときは、どこまで歩いても終わらないと思った。


今ここから見ると、薄い影みたいだ。


「あっち」


あたしは一度指した。


アーロン(アーロン)が見る。


「ああ」


それだけ。


彼は忘れていなかった。


馬車がゆっくり林の道を出る。


あたしは端へ座った。


風は草の匂いでいっぱいだ。


日に温められたもの。


朝の湿り気を残したもの。


動物が残した匂いも混じっている。


たくさん。


数日前とは、まるで違う。


黄海の南にあった平原は。


丸一日歩いても、生き物を数匹しか見ないことがあった。


ここでは、どこにでも何かが動いていた。


遠くに。


一つ。


二つ。


十いくつ。


もっといる。


走っているものもある。


ゆっくり動いているだけのものもある。


エイリン(エイリン)も、とっくに気づいていた。


ほとんど馬車の端へ腹ばいになっている。


「いっぱい」


ザカ(ザカ)が一度、外を見た。


「ああ」


一番大きな黒い点は、石だと思っていた。


その一つが動く。


次に。


もう一つも顔を上げた。


……


動物?


馬車が、もう少し進む。


その「石」は、どんどん大きくなった。


あたしはゆっくり背を伸ばす。


違う。


本当に大きすぎる。


一頭が、少し高い斜面に立っていた。


肩から背には、厚い褐色の長い毛がかかっている。


前半分は、後ろ半分よりずっと太い。


四本の脚も、怖いほど太かった。


特に前脚。


草地に立つ姿は、短い柱が二本あるみたいだ。


頭には、大きな角が二本。


外へ。


それから前へ曲がっている。


一頭だけでも。


あたしより長そうだった。


「あれは何……?」


エイリン(エイリン)はもう立ち上がっている。


「多摩獣(たまじゅう)」


アーロン(アーロン)が言った。


馬車は、そのまま近づかなかった。


アーロン(アーロン)は馬をゆっくりさせる。


あたしたちは自分で降りた。


多摩獣(たまじゅう)の群れは、草の斜面へ散らばっていた。


十数頭。


もっといるかもしれない。


大きいのは外側。


小さいのは真ん中に混ざっている。


小さいといっても。


大きいののそばで小さいだけだ。


子を一頭見つけた。


もう、あたしと同じくらいの背がある。


……


これで子供?


群れの先頭にいた多摩獣(たまじゅう)が、あたしたちに気づいた。


頭を上げる。


二本の角も、こっちへ向く。


あたしは一度止まった。


あの大きさだ。


前へ進み続けるのは、なかなか難しい。


でもアーロン(アーロン)は、ただ馬を引いて歩いた。


多摩獣(たまじゅう)は数息、あたしたちを見た。


鼻から息を吐く。


それから。


また頭を下げた。


草を食べ続ける。


……


それだけ?


エイリン(エイリン)は、もう歩き出していた。


「おい」


ヴァンス(ヴァンス)が一度呼ぶ。


無駄だった。


彼女はすぐ、一番近い一頭のそばへ行く。


多摩獣(たまじゅう)は、少し頭を傾けただけだ。


脚すら動かさない。


エイリン(エイリン)は、まず前脚へ触った。


それから、その体へぴたりとくっつく。


厚い毛を抱きしめた。


「わあ……」


手まで埋まっている。


「大きい」


多摩獣(たまじゅう)は、草を食べ続ける。


脚にエルフが一人増えても、気にしていない。


あたしも近づいた。


横に立って、やっとわかる。


見上げても、背中全部は見えない。


垂れ下がる褐色の長い毛が、大きく広がっているだけだ。


風が抜ける。


毛は幾重にも揺れた。


ザカ(ザカ)も来た。


でも、彼の目はあたしたちと違う。


脚を見る。


肩を見る。


腹を見る。


最後に後ろを見る。


アーロン(アーロン)が彼の腕を一度叩いた。


「考えるな」


ザカ(ザカ)は彼を見る。


「肉、多い」


……


やっぱり。


そうだと思った。


ザカ(ザカ)はもう一度見た。


今度に見たのは、大人じゃない。


真ん中にいる子たちだった。


彼が一歩、前へ出た途端。


まわりが急に変わった。


草を食べていた多摩獣(たまじゅう)が。


一頭ずつ頭を上げる。


まだ、何もしていない。


でも皆、こちらを見ている。


数息。


一番前の大人が、前脚で地面を一度掻いた。


土が跳ねる。


あたしの耳が、すぐ立った。


「おい、ザカ(ザカ)」


ザカ(ザカ)も止まっている。


別の多摩獣(たまじゅう)も、地面を掻いた。


その次も。


大きな角が。


全部、同じほうを向く。


アーロン(アーロン)の声は小さい。


「ゆっくり下がれ」


ザカ(ザカ)は意地を張らなかった。


一歩下がる。


もう一歩。


あたしたちのところまで戻ってくる。


多摩獣(たまじゅう)たちは、まだ少し見ていた。


最後に。


一番前の一頭が頭を下げる。


また草を噛み始めた。


ほかのものも、一頭ずつ散っていく。


あたしはザカ(ザカ)を見た。


「肉、多い?」


ザカ(ザカ)は答えなかった。


たぶん、まだ多いと思っている。


そのとき。


さっきの子が、大人たちの間から出てきた。


頭の角は、まだ短い突起が二つだけだ。


肩や背にも、あれほど厚い長い毛はない。


頭全体が、もっと丸く見える。


ゆっくり、こちらへ歩いてくる。


一歩。


一歩。


少しふらついていた。


あたしは思わず、そばの大人たちを見た。


また皆、顔を上げている。


……


全員が、あたしを見ていた。


「何をする気だ?」


小さな声で聞いた。


アーロン(アーロン)は答えない。


子はもう、目の前まで来ている。


頭を下げた。


匂いを嗅ぐ。


それから。


どん。


まっすぐぶつかってきた。


「うっ!」


あたしは半歩、後ろへよろめいた。


両手で慌てて、その頭を抱える。


重い。


こいつは、自分が人にぶつかったとも思っていないのだろう。


ただ、あたしへすり寄り続ける。


鼻は濡れていた。


頭の短い毛も、思ったより柔らかい。


「お前、ほんとに子供なんだな……」


あたしと同じくらいの背なのに。


額を撫でた。


子は、また前へ押してくる。


危うく、押し倒されるところだった。


エイリン(エイリン)は横で大喜びしている。


構っている暇はない。


遠くの大きな角が、まだ見ていた。


子が自分で向きを変えた。


ふらふらと群れへ戻っていく。


大人の一頭が頭を下げ、子に触れた。


やっと皆、また草を食べ始めた。


アーロン(アーロン)が急に言う。


「戻ってきた」


ヴァンス(ヴァンス)が彼を見る。


「前はいなかった?」


「しばらく、見なかった」


アーロン(アーロン)は草の斜面にいる群れを見ていた。


「もう戻らないと思ってた」


それ以上は言わない。


あたしも聞かなかった。


もう一度、群れを見る。


多摩獣(たまじゅう)は頭を下げ、ゆっくり前へ進む。


一か所食べる。


また一歩。


ときどき子が、大人の脚の間をくぐった。


少なくとも、ここでは。


本当に何も起きていないみたいだった。


……


出ようとしたとき。


大きな背中の上にも、何かがいることに気づいた。


最初は小さな黒い点が、いくつか見えただけだ。


よく見る。


鳥だった。


一羽は肩の毛に立っている。


もう一羽は、ほとんどたてがみへ頭から潜っていた。


もう一羽は、角の根元にとまり、何度も下へつついている。


「あの鳥は?」


あたしは指した。


アーロン(アーロン)は一度見た。


「食事」


あたしは彼を見る。


もう一言、足した。


「ついでに掃除」


……


どういう意味だ。


次の瞬間。


一羽が多摩獣(たまじゅう)の毛から頭を上げた。


くちばしには、細長い虫が一匹。


ああ。


わかった。


多摩獣(たまじゅう)も、気持ちよさそうだった。


一頭は、横になりさえした。


小鳥たちは、すぐ首のそばへ跳ぶ。


厚い毛の中を探り始めた。


「梳鬣鳥(すきたてがみどり)」


アーロン(アーロン)が、何でもないように言う。


エイリン(エイリン)は顔を上げた。


「踏まれないの?」


アーロン(アーロン)は答えなかった。


ちょうど一羽の梳鬣鳥(すきたてがみどり)が飛び、別の多摩獣(たまじゅう)の背に下りた。


ずいぶん慣れている。


あたしたちが心配することじゃなさそうだ。


……


多摩獣(たまじゅう)の群れを離れると、草原はまた広がった。


馬車は速く進まない。


道は悪くない。


でも、誰も急かさなかった。


遠くでは、ときどき小さな群れが動いている。


知っているものもある。


まったく知らないものもある。


もう少し行くと、エイリン(エイリン)が急に手を上げた。


「あれ、何?」


あたしもそちらを見る。


遠い。


細長い影の群れが、草の斜面に立っているだけだった。


何頭かは、ずっと頭を上げている。


耳が、とんでもなく大きい。


角より目立つくらいだ。


少し近づいただけで。


先頭にいた数頭の耳が、一斉にこちらを向いた。


次の瞬間には、群れ全部がこっちを見ている。


どうやって聞こえたのか、あたしにはわからない。


風は、あっちからこっちへ吹いているのに。


一頭が先に走った。


その次の瞬間。


草の斜面ぜんぶが動く。


何十もの細長い影が、遠くへ走っていく。


あっという間に離れた。


エイリン(エイリン)は、まだ見ている。


「耳が大きい」


「風耳羚(かぜみみかもしか)」


アーロン(アーロン)は馬を引き、馬車には乗っていなかった。


「見るな、行くぞ」


「あいつらは逃げるだけだ」


口ではそう言う。


でも歩く速さは、変わらなかった。


あたしは横を歩き、一度彼を見た。


「急がないのか?」


アーロン(アーロン)が振り返る。


「何が?」


「レノ(レノ)たち」


西を見る。


まだ一月ある。


一年かけて、やっとまた彼らを探している。


なのにここで、のんびり牛を見る。


鳥を見る。


羚を見る。


どうしてだか、急に腹が立ってきた。


「また誰か死んだら、どうする?」


アーロン(アーロン)は少し止まる。


それから。


小さく笑った。


余計に腹が立つ。


でも彼は、もう小さな点になりかけた風耳羚(かぜみみかもしか)を見ていた。


「死んだ人間は、英雄に名前をつけない」


あたしは少し止まった。


アーロン(アーロン)は、それ以上言わずに歩いていく。


……


言い返したかった。


でも何に言い返せばいいのか、わからない。


店主は言った。


今では、レノ(レノ)を英雄と呼ぶ者がいる。


それだけでも。


誰かが生きている。


しかも、あの空っぽになりかけた宿場まで、この名前を伝えられるほど長く。


この言い方は、やっぱり好きじゃない。


でも胸の中の焦りは、たしかに少し引いた。


「行こう」


エイリン(エイリン)は、もう前へ走っている。


まだ風耳羚(かぜみみかもしか)が消えた先を見ていた。


「もういないよ」


あたしは追いつく。


アーロン(アーロン)は、やっぱりゆっくりだ。


今日一日くらい。


本当に歩くだけでいいみたいに。


……


昼。


日は高かった。


でも、それほど暑くない。


風が吹き続けている。


少し日に焼かれるだけだ。


草原は、遠くから見たよりずっと緑だった。


いろいろな草が混じっている。


膝まであるもの。


地面に貼りつくもの。


間には、ときどき小さな花が咲いていた。


歩きながら見ていた。


ふいに。


足元が柔らかくなった。


「きいっ!」


あたしは全身、固まった。


急いで足を引く。


「何だ?」


エイリン(エイリン)も下を見る。


草の地面が、急に盛り上がった。


次に。


泥だらけの小さな頭が出てくる。


目は黒い。


鼻にも土がついていた。


あたしたちを見た。


先に自分で驚く。


前脚ですぐ掘り始めた。


ものすごく速い。


「お」


ザカ(ザカ)は、もう手を出していた。


背中の草みたいな毛をつかみ、丸ごと持ち上げる。


「きいーっ!」


短い四本の脚が、空でばたばたした。


あたしはザカ(ザカ)を見る。


「何してる?」


彼は一度、重さを量った。


「肉、少し」


「頭の中、食べることしかないのか?」


「消耗が大きい」


当たり前みたいに言った。


エイリン(エイリン)は、もう寄ってきている。


「かわいそうだよ」


ザカ(ザカ)は手の中の丸いものを見下ろす。


まだ、もがいている。


背中は、乾いた草みたいな硬い毛だらけだった。


遠くからなら。


草地そのものが、動く丸いものを生やしたみたいに見える。


あたしはザカ(ザカ)へ放せと言おうとした。


そのとき、目の端にさっき掘られた場所が入る。


土から、少し白いものが見えていた。


あたしは止まった。


「待て」


しゃがむ。


まわりの土を払った。


下には、太くてふっくらした根が埋まっている。


上には、幅広い葉が四、五枚だけ出ていた。


葉の縁には、とても細かな毛。


掘毯獣(ほりたんじゅう)が土をひっくり返したせいで、株はほとんど姿を出していた。


もう少し土を払う。


根は曲がりくねっている。


深いしわが何本か。


小さなくぼみが二つ。


その下には、弧を描く割れ目。


……


すごく不機嫌な顔に見えた。


あたしは一度、固まる。


葉の裏も触った。


指先に汁が少しつく。


近づけて匂いを嗅ぐ。


薄い甘さ。


そのあとに、鼻につく苦さ。


耳がすぐ立った。


「キンクス(キンクス)!」


ザカ(ザカ)も、手に小獣をつかんだまましゃがむ。


「何だ?」


「これ、珍しい」


細い根を傷つけないよう、まわりの土をそっとほぐす。


「処理した根なら、痛みを抑えられる」


「ひどい痙攣も、止められる」


まだ続けようとしたとき。


横から手が出た。


根をそのまま持っていく。


……


顔を上げる。


ザカ(ザカ)はもう、口元へ持っていっていた。


アーロン(アーロン)のほうが早い。


彼の手首をつかんだ。


「やめろ」


ザカ(ザカ)は止まる。


あたしはキンクス(キンクス)をひったくった。


「どうして何でも食おうとするんだ!」


ザカ(ザカ)はあたしを見る。


「薬って言った」


「薬でも、そのまま飲むものじゃない!」


あたしはキンクス(キンクス)を抱え込んだ。


「これは処理してない」


「食べたら、笑い死にする」


エイリン(エイリン)が一度まばたきした。


「笑い死に?」


アーロン(アーロン)は、ザカ(ザカ)の手を放す。


「ああ。本当に死ぬ」


……


エイリン(エイリン)はキンクス(キンクス)を見る。


次にザカ(ザカ)を見る。


「どうやって死ぬの?」


あたしは根の泥を落とした。


「笑い続ける人がいる」


「止まらない」


「叫び続ける人もいる」


「力がなくなるまで、止まれない」


ザカ(ザカ)は黙った。


もう一度、根を見る。


二度と手を出さなかった。


よし。


怖がらせられるものが、ようやく一つ見つかった。


キンクス(キンクス)を丁寧に包む。


そこで、もう一つ思い出した。


「それと、そいつ」


ザカ(ザカ)の手にいた掘毯獣(ほりたんじゅう)は、まだもがいている。


あたしが手を出す。


彼は一度あたしを見た。


それでも渡してくれた。


抱えると、思ったより重い。


鼻をあたしの腕へ、ずっとこすりつけてくる。


土だらけだ。


「お前、なかなかだな」


背中の草毛を一度叩いた。


「行け」


地面へ下ろす。


着いた途端、すぐ掘り始めた。


数息で、体の半分が草地の下へ潜る。


尻だけ残った。


エイリン(エイリン)はそばにしゃがんでいる。


「あれ、あたしたちに見えてないと思ってるのかな?」


あたしも、そう思う。


最後に、その草の尻もゆっくり消えた。


地面には、ひっくり返されたばかりの土だけ残る。


そばには、知らない小さな芽がいくつかあった。


少し見てから、キンクス(キンクス)を薬袋へしまう。


こんな土を見たら、次はもう少しよく探そう。


……


午後。


水が足りなくなり始めた。


最初に気づいたのは、あたしだ。


水袋を持ち上げる。


軽すぎる。


振ってみた。


中には、少ししか残っていない。


エイリン(エイリン)のも同じくらい。


ザカ(ザカ)のは、言うまでもない。


とっくに空だ。


「近くに川はある?」


あたしは聞いた。


アーロン(アーロン)は遠くを見る。


草は多い。


でも、水の光はどこにもない。


「ない」


「村は?」


「今日中には無理だ」


……


じゃあ、どうする。


アーロン(アーロン)は馬を引いて、もう少し行った。


急に道を外れる。


「こっちだ」


あたしもついていく。


「どこへ?」


「泉背獣(せんぱいじゅう)を探す」


また聞いたことのない名前だ。


アーロン(アーロン)は、それ以上言わない。


ただ、低くなった草の斜面へ、あたしたちを連れていった。


じきにザカ(ザカ)が先に足跡を見つける。


幅が広い。


深く沈んでいる。


あたしたちの馬より、ずっと大きい。


一歩ずつ。


遠くへ続いていた。


そのあとを行く。


半刻ほどで、あたしが先に嗅いだ。


湿り気。


とても薄い。


日に温められた草と、乾いた土の下に隠れている。


顔を上げた。


前の斜面の向こうに、重い影がいくつか見えた。


多摩獣(たまじゅう)ほどではない。


でも、やっぱり大きい。


体は低い。


四本の脚は、泥の柱みたいに太い。


長い鼻は、ほとんど地面についたままだ。


背には、濃い色の筋が何本も走っている。


乾いた水の跡みたいだ。


一頭がゆっくり歩く。


匂いを嗅ぐ。


また進む。


また嗅ぐ。


最後に止まった。


頭を下げる。


前脚で地面を掘り始めた。


一度。


二度。


乾いた表面の土が、すぐに剥がされる。


中の色が、どんどん濃くなった。


湿った泥の匂いが、また来る。


今度は、もっとはっきり。


じきに穴の底へ水が滲み出た。


少しずつ。


先に泥を黒くする。


それから、ゆっくり小さな水たまりになる。


「本当にある……」


エイリン(エイリン)が小さく言った。


ザカ(ザカ)も、真剣に見ている。


泉背獣(せんぱいじゅう)は頭を下げ、水を飲んだ。


ほかの数頭も、ゆっくり集まる。


あたしたちは動かなかった。


いつの間にか、そばには小鳥の群れが来ている。


もっと遠い草の中からも、小さな獣が何匹か顔を出していた。


皆、待っている。


エイリン(エイリン)が少し前へ動いた。


「先に汲めない?」


アーロン(アーロン)は彼女を見る。


「汲める」


エイリン(エイリン)が歩き出しかけた。


「失礼だ」


彼女は止まり、黙って戻った。


泉背獣(せんぱいじゅう)は、ゆっくり飲む。


まるで急がない。


飲み終えても、そばの若い草を少し食べた。


ようやく一頭ずつ、去っていく。


待っていた小動物たちが、すぐそばへ寄った。


鳥が先に降りる。


小獣も何匹か走り出す。


あたしたちは、かえって最後だった。


ザカ(ザカ)が一度見た。


「俺たち、最後?」


アーロン(アーロン)は水袋を持っている。


「水は、あいつが見つけた」


ザカ(ザカ)は少し考えた。


文句はない。


小さなものたちが散ってから、あたしたちは近づいた。


あたしは穴のそばへしゃがむ。


水は浅い。


でも、ひどく澄んでいた。


下からも、まだゆっくり滲んでいる。


手ですくった。


少し泥の味がする。


でも冷たい。


最初に一口飲む。


それから水袋を満たした。


近くの草は、ほかよりずっと緑だ。


湿った場所が好きな植物も、何種類か生えている。


惜しいことに、特別な薬草は見当たらなかった。


あれば今日は、本当に得をしたのに。


出る前に、一度振り返る。


水たまりのそばへ、また何羽かの鳥が来ていた。


泉背獣(せんぱいじゅう)は、もう遠くにいる。


深い足跡だけが、草原の奥へ続いていた。


……


夕方。


あたしたちは、もう進まなかった。


少し高いところを見つけて止まる。


近くに村はない。


家もない。


あるのは草だけだ。


見渡しても、終わりがない。


アーロン(アーロン)が火をつける。


ヴァンス(ヴァンス)は、いつものように先に辺りを見に行った。


ザカ(ザカ)は今日残った肉を片づける。


エイリン(エイリン)は横で水を扱っていた。


あたしはキンクス(キンクス)を、もう一度出す。


残った泥を落とした。


思ったより、ずっと丸ごと残っている。


太い根は、ほとんど傷ついていない。


掘毯獣(ほりたんじゅう)は、ちょうど上の土だけをひっくり返したらしい。


細い根を何本か分ける。


あとで処理するつもりだった。


エイリン(エイリン)が覗き込む。


「本当に笑い死にする?」


「ああ」


「見たことある?」


「ない」


「じゃあ、どうして知ってるの?」


あたしは彼女を見た。


「本で習う」


エイリン(エイリン)は、ああ、と言った。


少ししてから、また聞く。


「少しだけ食べたら?」


あたしはキンクス(キンクス)を、自分のほうへ寄せた。


「これから離れろ」


彼女は笑う。


もう聞かなかった。


少なくとも、今は。


……


空はゆっくり暗くなる。


遠くの山は、最後には黒い輪郭だけになった。


昼にいた動物たちも、もうほとんど見えない。


風が冷たくなる。


草が幾重にも揺れた。


あたしは食べ終え、荷のそばにもたれた。


パフ(パフ)たちは、最後の干し果実を奪い合っている。


ザカ(ザカ)は、どこから出したのかまた肉を一切れ持っていた。


もう聞くのも面倒だ。


火は大きくない。


気持ちよかった。


そのとき。


音を聞いた。


ちん。


遠い。


あたしは顔を上げた。


「聞こえたか?」


エイリン(エイリン)も静かになる。


少ししてから。


ちん……


今度は、もっとはっきりした。


金属じゃない。


軽い。


乾いた莢が、風でぶつかる音に少し似ている。


音は草原の奥から来る。


一か所。


また一か所。


ザカ(ザカ)は耳を澄ます。


ヴァンス(ヴァンス)は、そちらを見ていた。


暗すぎて、何も見えない。


「何だ?」


あたしは聞く。


「暮鈴獐(ぼれいしょう)」


アーロン(アーロン)は火に、小さな薪を一本足した。


それだけ。


……


少し待った。


「それから?」


「何が?」


「何なんだ?」


アーロン(アーロン)が顔を上げる。


「獣だ」


……


殴りたい。


エイリン(エイリン)は、もう自分で遠くを見ていた。


ずいぶんしてから、一度指す。


「あそこ」


あたしは目を細めた。


草の間に、小さな影がいくつか見える。


頭を下げる。


数歩歩く。


また頭を下げる。


動くたび。


遠くから、軽い音が来た。


ちん。


ちん……


近づかない。


逃げもしない。


ただ草を食べている。


やっとわかった。


あの音は、あいつらの体から出ている。


「骨?」


エイリン(エイリン)が聞く。


アーロン(アーロン)はうなずいた。


「首の下」


「走ると、ぶつかる」


エイリン(エイリン)は、まだ見たがった。


残念だけど、空はもう暗すぎる。


最後には、聞くだけになった。


風。


草。


焚き火が、ときどきぱちりと鳴る。


それから遠くの、小さな暮鈴。


あたしは横になった。


尻尾を胸の前へ抱える。


この数日。


あたしたちは、いろいろな静けさに会った。


空になった宿場。


鳥の鳴かない森。


ザイディエク(ザイディエク)が出る前の草原。


ああいう場所が静かになると。


すぐ武器を取りたくなった。


今夜も静かだ。


でも、違う。


ちん……


遠くで、また鳴る。


あたしは目を閉じた。


短刀には触れなかった。


今夜は静かだ。


でも、何もないわけじゃない。

この草原には、たくさんの動物がいますね。


タマ獣を覚えていますか?


成獣は四、五メートルほどの高さまで育ち、象に近い大きさになります。しかも、体は濃い毛並みに覆われています。


今回も、何枚かコンセプトアートを作ってみました。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


こういう見せ方が好きでしたら、ぜひ教えてください。


やはり手描きのほうが好きという方も、ぜひ教えてください。


今後は、絵を学ぶために少し更新を休むかもしれません。


皆さんは、どの動物がいちばん好きですか?


次の節で、いよいよ懐かしい友人に会えます。


どうぞ第七節「英雄」をお楽しみに。

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