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19-2 また道へ

アーロンは、実はとても自分勝手です。


本人がどう言うのか、聞いてみましょう。

馬車の一番後ろにもたれ、風にずっとめくれている後ろの幕を持ち上げた。


鉄港(てっこう)は、もう見えない。


残っているのは、長い道だけだ。


道の横の景色は、ずっと変わっていく。


畑。


原っぱ。


林。


湖。


時々、低い山をいくつか越える。


それからまた畑。


何もかも、ひどく普通だった。


巨大な獣はいない。


光る森もない。


変な重力もない。


海から何かが急に出てくることもない。


ただ普通の世界だ。


長いこと見ていて、急に気づいた。


こんな景色を見るのは、ずいぶん久しぶりだ。


旅へ出て二年になる。


よく考えると、ずっと一度も本当に止まらなかった気がする。


何度か死にかけた。


本当に帰れないと思ったこともある。


とてもいい人たちにも、たくさん会った。


助けてくれた人がいる。


あたしたちが助けた人もいる。


もちろん。


もっと多くは、喧嘩していた。


でも、今は家へ帰る。


そう思うと、なぜか思ったほど嬉しくない。


嬉しくないわけじゃない。


ただ……少し変だった。


「どうした?」


横から急に声がした。


「子猫も憂鬱になるのか?」


顔を向ける。


アーロン(アーロン)がいつの間にか隣へ座っていた。


殴りたい。


手を上げて肩を叩こうとすると、アーロン(アーロン)は急に人差し指を口元へ当てた。


「静かに」


手を止める。


彼は後ろを見た。


あたしも見る。


エイリン(エイリン)はまだ寝ていた。


ヴァンス(ヴァンス)も。


この人、昼間に寝るんだ。


ザカ(ザカ)は小さな寝息まで立てている。


仕方なく拳を下ろした。


覚えておく。


アーロン(アーロン)は車の板にもたれ、声も低くした。


「それで」


「何を考えてる?」


外を見る。


「この二年」


アーロン(アーロン)は何も言わない。


「あたしたち、ほとんど止まってないよね」


「ああ」


「ずっと歩く」


「ずっと何かに出会う」


「それから、またずっと歩く」


彼を見る。


「前のあなたも、こうだった?」


アーロン(アーロン)は、さっきまで少し笑っていた。


今度は止まった。


珍しい。


あたしが何を聞こうとしたか、すぐにはわからなかったらしい。


しばらくして、かすかに笑う。


「それか……」


あたしを見る。


「ようやく俺のことも考え始めてくれたんだな。嬉しいよ」


……


やっぱり、先に一発殴るべきだった。


腕へ拳を出す。


アーロン(アーロン)は手を伸ばして止めた。


「静かに」


「自業自得」


「わかってる」


「じゃあ止めないで」


「それは駄目だ」


二人で少し固まった。


先に手を引いたのは、あたしだった。


アーロン(アーロン)は、また外を見る。


「むしろ」


「歩き続ける方が楽だ」


「楽?」


「ああ」


少し止まる。


「余計なことを考えずに済む」


眉を寄せた。


車の中を一度見る。


「みんな、こんなに疲れてるのに」


彼もつられて見る。


帰ってきてから、みんな前より眠りやすくなったみたいだ。


アーロン(アーロン)だけは、朝からずっと起きている。


今日だけじゃない。


前からそうだった。


「あなたは疲れないの?」


「疲れない」


彼を見る。


アーロン(アーロン)は一度、手を広げた。


「この祝福は、あまり俺を疲れさせない」


とても困った習慣を話すみたいな声だった。


「じゃあ、疲れないの?」


「体は?」


「うん」


「難しい」


「難しいって何?」


「寝ようと思えば寝られる」


「でも体が持たなくて寝るんじゃない」


急に思い出す。


この人は、本当に「疲れた」と言わない。


至頂群峰(しちょうぐんぽう)のような場所でも。みんなが死にそうなくらい疲れていても、彼は同じだった。


「食べないのは?」


アーロン(アーロン)があたしを見る。


「急にどうして聞く?」


「答えて」


「長く食べなくても平気だ」


「どれくらい?」


「わからない」


目を細める。


「絶対、試したでしょ」


アーロン(アーロン)は少し黙った。


「数か月」


聞き間違いかと思った。


「数か月?」


「ああ」


「腹、減らないの?」


「食べたくはなる」


「でも死なない」


彼は普通に言った。


あたしには、まるで普通じゃない。


アーロン(アーロン)は、また車の板にもたれた。


「前に俺へ、自分勝手になれと言っただろう」


少し驚く。


繁茂仙境(はんもせんきょう)を離れるときの話だ。


「うん」


アーロン(アーロン)は、後ろで眠っているみんなを見た。


しばらく静かだった。


「俺はもう、十分自分勝手だ」


彼の視線を追う。


「おまえたちが必要なんだ」


「自分がまだ人間だと、覚えているために」


……


すぐにはわからなかった。


言葉の意味はわかる。


でも、それがどんな感じなのかはわからない。


自分が人間だと忘れる?


アーロン(アーロン)は外を見る。


「最初に、祝福を解く方法があるかもしれないと知ったとき」


「俺はひどく興奮した」


至頂群峰(しちょうぐんぽう)を思い出す。


「でも今は?」


アーロン(アーロン)は小さく息を吐く。


「まだ遠い」


馬車が揺れた。


木の車輪が石を踏み、車体が少し跳ね上がる。


アーロン(アーロン)は動かない。


彼の言う遠いは、距離のことじゃないとわかった。


この、死なない自分を終わらせたい。


少し黙ってから聞いた。


「前にも、諦めたことがあるんでしょ?」


アーロン(アーロン)があたしを見る。


「言ってた」


「大災厄のあと」


彼は否定しなかった。


「最初はな」


今度の声は、さっきよりもっと低い。


「もう動けないティナ(ティナ)を見て」


「何をしても死なない自分を見た」


少し止まった。


「あのときは、ほかのことを考えるのが難しかった」


あたしは口を挟まない。


アーロン(アーロン)も、あたしを見なかった。


「俺は彼女を引いて歩いた」


「群峰から」


「エルフのいるところまで、ずっと」


至頂群峰(しちょうぐんぽう)の、ほとんど道のない地形を思い出す。


「一人で?」


「ああ」


「ティナ(ティナ)を引いて?」


「ああ」


「どれくらい?」


アーロン(アーロン)は考えた。


「数か月だろうな」


数か月。


数日でも言うように、彼は話す。


「その間、食べなかった?」


「食べなかった」


「寝もしなかった?」


「寝た」


「時々」


あたしは彼を見る。


それは旅じゃない。


でも、何と呼べばいいのかもわからない。


「最初は、食べ物を探していた」


アーロン(アーロン)が言う。


「途中で、食べなくても変わらないとわかった」


「傷も勝手に治る」


「寝ても寝なくても、大して変わらない」


「寒さ」


「暑さ」


「飢え」


「どれも、本当に俺をどうにかはしない」


膝に置いた手は、静かだった。


「歩いているうちに」


「少しずつ思った」


「俺はもう、人間じゃないんだろうって」


すぐ言った。


「人間だよ」


アーロン(アーロン)が振り向く。


自分でも、あんなに早く答えるとは思わなかった。


「あなたは人間」


彼は二呼吸、あたしを見た。


それから少し笑う。


いつもの、わざとからかう笑いじゃない。


「そうか?」


「そう」


「でも、あのころは」


「みんな、そう思わなかった」


彼が前に話したことを思い出す。


大災厄のあと。


生き残った人たち。


家族を失った人たち。


そして彼。


どれだけ殺しても死なない人。


「捕まったときの話?」


アーロン(アーロン)はうなずいた。


「ああ」


「あのとき、俺は集落で縛られていた」


「逃げようとも思わなかった」


眉を寄せる。


「どうして?」


「どこへ行けばいいかわからなかった」


「行くのも面倒だった」


「気分の悪い奴がいる」


「俺を殴りに来る」


「家族を失った奴がいる」


「そいつも俺を殴りに来る」


少し笑った。


「死なない殴り袋が、ちょうどあった」


あたしは、まったく笑えない。


前にも聞いた話だった。


でも、こんな細かくは話していなかった。


「ずっと殴られたの?」


「全員じゃない」


「罵るだけの奴もいた」


「唾を吐く奴もいた」


「そっちの方が楽だからな」


……


どうしてこの人は、まだ冗談を言えるんだろう。


「抵抗しなかったの?」


「しなかった」


「どうして?」


アーロン(アーロン)は前を見る。


「あのころは考えていた」


「いつか本当に死ねるかもしれないって」


声には、少しも揺れがない。


その方が、あたしには嫌だった。


「でも、死ななかった」


「ああ」


「死ななかった」


アーロン(アーロン)は少し止まる。


「ある日」


「子供が来た」


顔を上げた。


「子供?」


「エルフだ」


「小さかった」


「どれくらい?」


「たぶん……」


手で大きさを示し、少し考える。


「とにかく、今のエイリンよりずっと静かだった」


後ろから、小さな声がした。


「ねえ」


あたしとアーロン(アーロン)は同時に振り返る。


エイリン(エイリン)は、まだ目を閉じていた。


……


起きている。


アーロン(アーロン)は、少しも悪びれない。


「寝てろ」


エイリン(エイリン)は動かなかった。


でも耳は、はっきりこっちを向いている。


ヴァンス(ヴァンス)も目を開けない。


ただ、たぶんずっと起きていた。


アーロン(アーロン)は話を続けた。


「あの子は俺を怖がらなかった」


「みんなは俺を怪物だと言った」


「あの子は信じなかった」


「初めて来たとき」


「果実を一つ持ってきた」


聞く。


「そのとき、食べる必要あったの?」


「なかった」


「でも食べた」


「どうして?」


「ずっと見ていた」


アーロン(アーロン)は少し笑う。


「食べなければ、泣きそうだった」


急に、目に浮かんだ。


縛られている。


傷だらけ。


生きる気もない人。


その横に、ちいさなエルフがしゃがんで、果実を食べろと言い張っている。


「それから?」


「毎日来た」


「最初は話すだけ」


「そのうちある日」


「俺を逃がすと言った」


少し驚く。


「子供が?」


「ああ」


アーロン(アーロン)を見る。


「うまくいくとは思えない」


「俺もそう言った」


「それで?」


「怒った」


「俺が役に立たないと言った」


アーロン(アーロン)は自分の手を見る。


「あの日、本当に縄を解きに来た」


「解けなかった」


「石で叩いた」


「ずっと叩いた」


「手が破れた」


「もういいと言った」


「聞かなかった」


「そのうち、本当に一本切れた」


「それから俺を引き始めた」


「引いた?」


「ああ」


「俺は動きたくなかった」


「寝たままでいた」


「あの子は俺の手をつかんだ」


「ずっと引いた」


ここまで話して、アーロン(アーロン)は自分でも少し笑った。


「三歩くらい引いた」


「それで疲れて倒れた」


「最後には、俺が自分で立った」


「あの子について行った」


「それで逃げられたの?」


「だいたいな」


「誰も止めなかった?」


「止めた」


「それで?」


アーロン(アーロン)があたしを見る。


「俺は死なない」


……


うん。


答えは簡単だった。


「そのあと?」


「しばらく、一緒にいた」


「あの子の知っている場所へ連れていかれた」


「果実を探すときもあった」


「人の物を盗むときもあった」


「あの子、盗みもしたの?」


「子供も食べなきゃならない」


「あなたは探さなかったの?」


「あのころの俺は、役に立たなかった」


自分で認めるのは、ずいぶん早い。


「小さな天使だった」


アーロン(アーロン)の声が少し遅くなる。


「うるさくて」


「面倒で」


「何でも知りたがった」


「ティナの生まれ変わりかもしれないと思った」


言うと、自分で先に少し笑った。


「でもあのころは」


「本気で、そう思っていた」


その先を聞いていいのか、急にわからなくなった。


その子が今も生きているなら、アーロン(アーロン)はこんな声をしない。


やはり、笑いはゆっくり消えた。


「あの日々は」


「自分を取り戻しかけていると思った」


「何を?」


「わからない」


「生きる理由、かな」


アーロン(アーロン)は、とても小さく言った。


「でも長くはなかった」


馬車の外では、麦畑がゆっくり後ろへ流れていく。


風が通ると、一面が一緒に倒れた。


「ある日」


「あの子は近くへ果実を採りに行った」


「なかなか帰らなかった」


耳が、ゆっくり後ろへ伏せる。


「俺は探しに行った」


「最初は、また遠くまで走ったんだと思った」


「あの子は、よくそうした」


「日が落ちた」


「そこで、おかしいと思い始めた」


アーロン(アーロン)の指が、かすかに動く。


「長く探した」


「それから」


止まる。


今度の沈黙は、これまでより長かった。


「最後に見つけたのは、あの子だけだった」


ほかの言葉はなかった。


でも意味はわかる。


冷たい。


もう話さない。


あの子。


口を開きかけた。


何も言わなかった。


後ろのエイリン(エイリン)も、完全に静かだ。


「ならず者だった」


アーロン(アーロン)が言う。


「エルフの子供を見た」


「たぶん、連れていきたかった」


「あの子は逃げた」


「逃げ切れなかった」


……


いつの間にか、爪は手のひらへ食い込んでいた。


「そいつらは見つけた?」


「見つけた」


答えが早すぎた。


この先は、聞かなくてもわかる。


それでも聞いた。


「それで?」


「殺した」


感情はない。


二文字だけ。


「最初は」


「あの何人かを殺したかっただけだ」


「そのあと、似たような奴にも会った」


「奴隷商人」


「食料を奪う奴」


「混乱に紛れて人を殺す奴」


「人の子供を食べ物と替える奴」


「たくさんいた」


アーロン(アーロン)は外の原っぱを見ている。


「あのとき初めて、本当に見た」


「この世界が、どれほどひどいか」


「歩き始めた」


「最初は、あんな連中を殺し尽くしたかっただけだ」


訂正しなかった。


自分だったら、たぶん同じだと思う。


「それから?」


「殺しすぎた」


「覚えられないほど」


「それでも、あまり良くならなかった」


「あの子は帰らなかった」


「ティナも帰らなかった」


「殺した連中も」


「世界を急によくはしなかった」


声は、ゆっくり平らになった。


「だから考えた」


「せめて、別のことをしよう」


「救えるものは救う」


「直せるものは直す」


「止められるものは止める」


「間に合わないこともある」


「そのときは、次へ行く」


彼の言う、歩き続ける方が楽だという言葉が、初めて軽いものには思えなかった。


アーロン(アーロン)が急に少し笑う。


「時々、思う」


「あのとき」


「あの集落で寝たまま死ぬのを待たなかったら」


「あの子は今ごろ、大人になっていたかな」


何も言わない。


「エルフだからな」


「今でも、ひどく若いだろう」


後ろで服が擦れる音がした。


次の瞬間、二本の腕が後ろからアーロン(アーロン)を抱いた。


エイリン(エイリン)だ。


顎を彼の肩のそばへ乗せる。


いつものうるさい言葉は、何も言わない。


小さく一言だけ。


「あたしたちが手伝う」


アーロン(アーロン)は少し驚いた。


それから笑う。


「ヴァンスが睨んでる」


エイリン(エイリン)はすぐ顔を上げた。


ヴァンス(ヴァンス)はいつの間にか目を開け、本当に見ている。


ヴァンス(ヴァンス)が聞いた。


「どこまで行く気だ?」


アーロン(アーロン)は、すぐ答えなかった。


アーロン(アーロン)は少し止まった。


本当に考えているみたいだった。


エイリン(エイリン)は座り直す。


ヴァンス(ヴァンス)も待っている。


ザカ(ザカ)は目を開けた。


あたしはアーロン(アーロン)を見る。


最後に彼は少し笑った。


「俺を少し、自分勝手にさせてくれ」


膝へ手を置き、車の幕の外を見る。


「ティナを見つけるまで」


車の中が静かになった。


簡単な言葉に聞こえる。


でも、どれほどかかるかは誰にもわからない。


一年。


十年。


百年。


もしかしたら、永遠に見つからない。


少しして、ザカ(ザカ)が先に言った。


「俺たちは、おまえと一部しか歩けない」


アーロン(アーロン)が彼を見る。


ザカ(ザカ)は説明しない。


どれだけ長い道にも、歩き終える日はある。


アーロン(アーロン)はうなずいた。


「それで足りる」


エイリン(エイリン)がすぐ言う。


「あたしは長くいられるよ」


ヴァンス(ヴァンス)が彼女を見る。


「次に物へ手を出して、生き延びてから言え」


「いつも触ってない」


あたし、ヴァンス(ヴァンス)、アーロン(アーロン)、ザカ(ザカ)が一緒に見る。


エイリン(エイリン)は止まった。


「……時々」


車の中に、やっと少し笑いが戻った。


重いものは消えていない。


ただ、横へ置いた。


後ろの幕をまた開ける。


道は外で後ろへ流れている。


変わらず普通だった。


なぜか、またきれいに見えた。


……


夕方、車隊は小さな村へ止まった。


本当の駅ではない。


この道に、水を足し、物を買い、馬を休ませられる場所があるだけだ。


村は小さい。


端から端まで、たぶん一目で見える。


道が数本。


家が数十軒。


真ん中に井戸。


食べるところが二軒。


それから小さな市がある。


御者は、今夜はここへ泊まり、明朝また出ると言った。


最初に車を下りたのはザカ(ザカ)だ。


アーロン(アーロン)が聞く。


「どこへ行く?」


「肉」


うん。


まったく考えなくていい。


あたしとエイリン(エイリン)も、歩きに下りた。


一日座っていたから、脚が少し固い。


村には人が多かった。


村の者だけじゃない。


あたしたちのように、足を止めた商隊も何組かいる。


道端ではパンを売っている。


干した果実を売る者もいる。


年寄りが小さな車で、焼いた根菜を売っていた。


いい匂いだ。


一つ買った。


かじる。


甘い。


普通だ。


好きだった。


少し離れたところで、村の者たちが家の前に座り、話していた。


声は小さくない。


「聞いたか?」


「何を?」


「南のベクイン」


「ベク何だって?」


「ベクイン」


「海岸の町か」


もう一人が、そこで思い出した。


「ああ」


「獣人の多いところ?」


「そう」


「最近ずっと、人を町へ入れてるらしい」


「どういうこと?」


「住ませるんだ」


「金まで出すらしい」


何人かが一緒にそちらを見る。


「金?」


「本当か?」


「本当だ」


「叔母のところの誰かが行った」


「移ればもらえるのか?」


誰かが笑った。


「金でも掘り当てたか?」


「知らない」


「そんなうまい話があるかよ」


別の人が言う。


「人手が足りないんじゃないか」


「海辺の小さな町が、何に人手を使う?」


「俺が知るか」


話はすぐ、今年の麦の値段へ移った。


それ以上、誰も追わない。


あたしは覚えておいた。


振り返ると、アーロン(アーロン)が露店の前で物を選んでいる。


そばへ行った。


「ベクインって聞いたことある?」


「ああ」


「どこ?」


「南の海岸」


「獣人と半獣人の町だ」


「大きい?」


「大きくない」


「どんなところ?」


アーロン(アーロン)は少し考える。


「人懐こい」


それから一言足した。


「人は食わない」


睨む。


「あたしだって食べない」


エイリン(エイリン)がちょうど来て、後半だけ聞いた。


「誰が人を食べないの?」


「何でもない」


すぐ言う。


「ベクインは最近、金を出して人を移らせてるらしい」


エイリン(エイリン)が少し驚く。


「金を?」


「うん」


いつの間にかザカ(ザカ)も戻っていた。手にはもう干し肉の包みがある。


「なぜ?」


「知らない」


「人手がいるんじゃないか」


アーロン(アーロン)が何気なく言った。


ザカ(ザカ)は肉を噛む。


「ならドワーフを探す」


少し考えた。


「ゴブリンも」


エイリン(エイリン)が聞く。


「どうして?」


「頭の回る奴が要る」


エイリン(エイリン)が吹き出す。


「はは、そうだね」


ザカ(ザカ)は彼女を見る。


何も言わない。


エイリン(エイリン)は笑いながら、ゆっくり止まった。


「待って」


「誰の頭が回らないって?」


ザカ(ザカ)はもう背を向けていた。


「補給を買う」


エイリン(エイリン)が追いかける。


「今、あたしのこと言った?」


「言ってない」


「間を置いた!」


「置いてない」


「置いたよ!」


アーロン(アーロン)があたしの肩を叩く。


「行こう」


「ここには肉がある」


彼を見る。


「あなたもそれだけ?」


「ザカは食べるのが早い」


「先に買わないと」


「すぐなくなる」


たしかに。


……


村は本当に小さい。


少し歩けば終わりだ。


薬草屋はない。


雑貨屋が一軒あるだけで、ありふれた干し薬が少し置いてあった。


品は普通。


少し見たが、買わなかった。


道では子供が走り回る。


年寄り二人が家の前で盤を囲む。


黄色い犬が井戸のそばに寝ていた。


目を開けるのも面倒そうだ。


屋根を直す者がいる。


一日干した服をしまう者がいる。


食事の匂いが、家ごとにゆっくり出てくる。


何も起きない。


怪物もいない。


助けを呼ぶ声もない。


ただ暮らしている。


こういうのも、いいと思った。


エイリン(エイリン)は、一つの露店の前で長く止まっていた。


見に行く。


ガラス玉が山になっていた。


「何してるの?」


「きれい」


「ただのガラス」


「知ってる」


青い一粒を選び、夕日にかざす。


「今は、こういうものも前と違って見える」


その目を思い出した。


「何が見えるの?」


「いろいろ」


「たとえば?」


エイリン(エイリン)は数息黙った。


「すごくきれい」


……


やっぱり答えになっていない。


結局、彼女はそのガラス玉を買った。


ヴァンス(ヴァンス)が戻ると、手の中のものを見た。


「ごみを買ってどうする?」


エイリン(エイリン)はすぐポケットへしまう。


「好きなの」


ヴァンス(ヴァンス)は少し止まった。


「そうか」


それ以上は言わない。


少ししてから、彼は自分であの露店へ戻った。


見えた。


でも言わなかった。


……


夜、みんなは村の外の車隊のそばで休んだ。


天気がいいから、天幕はいらない。


車の下で寝る者もいる。


あたしも寝やすい場所を見つけた。


……


翌朝、ザカ(ザカ)が戻ってきた。


正確には、何かを引いて戻ってきた。


鹿が二頭。


地面の鹿を見て、ザカ(ザカ)を見る。


「昨日、肉を買ったよね?」


「食べた」


……


もう、少しも驚かなかった。


ザカ(ザカ)は手慣れた様子で鹿をさばく。


肉を分ける。


包む。


干せるものは干す。


干せないものは、今日食べる用にする。


御者たちも見て、少し固まった。


最後にはザカ(ザカ)から肉を一塊買った。


全部を積み終えると、また車へ乗る。


ザカ(ザカ)の横には、また大きな肉袋が一つ増えた。


見つめる。


「太らないの?」


ザカ(ザカ)はあたしを見る。


「太らない」


「どうして?」


「動くから」


あたしは、自分の腰より太い二本の腕を見た。


うん。


言い返しにくい。


アーロン(アーロン)は前に座っていたが、急に聞いた。


「森で何か見たか?」


ザカ(ザカ)は肉袋を縛っている。


「見てない」


「鹿は多かった」


「だから二頭獲った」


アーロン(アーロン)はうなずいた。


……


それだけ?


アーロン(アーロン)を見る。


ザカ(ザカ)も見る。


二人の言葉には、あたしに聞こえないものがある気がした。


エイリン(エイリン)が急に耳元へ寄ってきた。


「アーロンが何を思ってるか、当てようとしてる?」


少し驚いて彼女を見る。


うなずく。


エイリン(エイリン)も、ひどく真面目にアーロン(アーロン)を見た。


それから近づき、声を落とす。


「たぶん」


待つ。


「あの人も鹿肉を食べたい」


……


拳を握った。


エイリン(エイリン)はすぐ手を押さえた。


「待って」


「まだ終わってない」


「もう十分」


「まだあるの」


今度は少し真面目になり、窓の外を見る。


「あたしは思うんだけど」


「大地が、また生き返ってきてる」


止まる。


「生き返る?」


「うん」


エイリン(エイリン)は外を見る。


「魔力」


それは彼女にしか見えないものだ。


遠くを指さす。


「薄いの」


「一か所だけ強いんじゃない」


「どこにでも少しある」


「土」


「木」


「水にも」


聞く。


「前はなかった?」


「あった」


「でも、もっと少なかった」


少し考える。


「たとえば……」


「前は、ここに小さな水たまり」


「あそこに小さな水たまり」


「今は雨が降ったあとみたい」


たぶんわかった。


アーロン(アーロン)も聞いていた。


「理由はわかるか?」


エイリン(エイリン)は首を振る。


「わからない」


アーロン(アーロン)はすぐ答えなかった。


外を見る。


それからザカ(ザカ)の鹿を一度見る。


そして黙る。


しばらく待っても、まだ考えている。


とうとう言った。


「思いついたなら、言って」


アーロン(アーロン)は急に呼ばれ、本当に少し驚いた。


「何?」


「絶対、何か思いついた」


「言って」


彼はしばらくあたしを見た。


「確かじゃない」


「先に言って」


また外を見る。


「餘燼竜(よじんりゅう)かもしれない」


エイリン(エイリン)が一瞬で背を伸ばした。


「餘燼竜(よじんりゅう)!?」


声が大きすぎて、前の御者まで振り返った。


ザカ(ザカ)も顔を上げる。


エイリン(エイリン)は気づいたらしい。


さっきは飛び出して探しに行きそうだったのに、今は少なくとも、神霊だと覚えている。


急に思い出した。


「待って」


アーロン(アーロン)を見る。


「前に会った、あれ?」


アーロン(アーロン)はうなずく。


エイリン(エイリン)が、まるごとこちらを向いた。


「会ったの!?」


飛びつきそうになる。


「会ってない」


急いで言う。


「痕跡だけ」


エイリン(エイリン)の顔の光が、すぐ消えた。


「ああ」


がっかりがわかりやすすぎる。


思わず聞いた。


「そんなに竜を見たいの?」


エイリン(エイリン)が言う。


「見たい」


ヴァンス(ヴァンス)が付け加える。


「とても」


エイリン(エイリン)は否定しない。


アーロン(アーロン)はまた外を見た。


「餘燼竜(よじんりゅう)は移動する」


「一つの場所には長くいない」


「あれが通った場所は」


「時々、とても生き物が増える」


エイリン(エイリン)がすぐ聞く。


「どうして?」


「魔力?」


「一部は」


「ほかは?」


「わからない」


エイリン(エイリン)は止まる。


「それだけ?」


「ああ」


明らかに不満そうだ。


アーロン(アーロン)が続けた。


「でも、生き物だけじゃない」


「死ぬものもある」


エイリン(エイリン)は、そこで少し静かになった。


「死ぬ?」


「あれは竜の群れだ」


「食べる必要もある」


「動物が増えすぎる場所がある」


「草を食い尽くす」


「森の若木が育たない」


「最後には、みんな一緒に倒れる」


「餘燼竜(よじんりゅう)が通る」


「そのうち一部を食べる」


「残ったものは、かえってよく生きられる」


エイリン(エイリン)は外を見る。


「荒れた土地にも、また物が育つ?」


「時々」


急に聞きたくなった。


「でも、どうして餘燼竜(よじんりゅう)かもしれないってわかるの?」


アーロン(アーロン)はザカ(ザカ)を指した。


「鹿が多い」


それから外を指す。


「魔力が均等だ」


そして遠くを見る。


「最近の風が暖かすぎる」


あたしは、まったく気づかなかった。


ザカ(ザカ)は一度うなずく。


「夜も暖かい」


あの人にも、感じていたらしい。


あとでエイリン(エイリン)はたくさん聞いた。


でもアーロン(アーロン)は、知っていることしか答えなかった。


餘燼竜(よじんりゅう)は白い。


腹が減れば、何でも食べる。


それだけ。


……


エイリン(エイリン)は車の壁へ寄りかかった。


「あなた、役に立たない」


アーロン(アーロン)はうなずく。


「ありがとう」


ヴァンス(ヴァンス)が横で言った。


「少なくとも二つは知ってる」


エイリン(エイリン)が彼を見る。


「どうしてあんたが助けるの?」


「数えてるだけだ」


少しして、エイリン(エイリン)はまた背を起こした。


「群れって、何頭?」


アーロン(アーロン)が言う。


「わからない」


「どれくらい飛ぶ?」


「わからない」


「話せる?」


「話せる」


「本当に?」


「話したことはない」


「魔法は使う?」


「使う」


エイリン(エイリン)の目がまた明るくなる。


やっと一つ、答えがあった。


「どんな魔法?」


アーロン(アーロン)は黙った。


「わからない」


エイリン(エイリン)は、また壁へ倒れた。


アーロン(アーロン)が、本当にほとんどの答えを知らないものに出会ったのは、あたしには少しおかしかった。


……


馬車は進む。


村はもう見えない。


午後、空の様子が変わり始めた。


遠くに、大きな黒雲が出ている。


あたしは小さく笑った。


もう何でも見てきた。


ただの黒雲だ。

死なない者にとっても、こうしたことに向き合うのは、やはり少し重いことなのでしょう。


……


最近、何かがおかしいようです。


世界が変わり始めています。


どうやら、北で何かが起きたようです。


魔力濃度が上がることは、いったい何を意味するのでしょうか?


けれどその前に、まずは一つの「小雨」と向き合わなければなりません。


どうぞ第三節「南へ」をお楽しみに。

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