18-5 余韻
どうやら、樹精たちも知らないようです。
では次に、誰へ尋ねればいいのでしょう?
年老いた樹精の枝は、まだ宙に上がっていた。
さっきアーロンが聞いたのは、遺器のことだ。
あれは知らなかった。
言葉そのものさえ、聞いたことがない。
アーロンは少し考え、聞き方を変えた。
「おまえたちより、もっと長くいるものか?」
年老いた樹精の枝葉が、かすかに揺れた。ずっと遠いことを考えているみたいに。
アーロンは続ける。
「外には、もう樹精がほとんどいない」
繁茂仙境でさえ知らないなら、ほかの樹精を探しても、たぶん意味がない。
年老いた樹精は、さらに長く黙った。
「なら、木に聞くな」
アーロンは、それを見る。
年老いた樹精がゆっくり付け足した。
「森より早く、目を覚ましたものに聞け」
アーロンは、それ以上聞かなかった。
誰のことだ、とも。
ただ一度うなずく。
「わかった」
そして背を向けた。
あまりに早い動きで、あたしは少し驚いた。
彼には、わかったのだ。
あたしたちはアーロンについて、樹精の森を離れた。
小さな樹精は、ずいぶん遠くまで見送りに来た。横を歩いていたザカが、少し考えてから口を開く。
「残るのは、竜だけだな」
あたしもすぐ、古い竜の一族を思った。
海龍王。
アーロンの背中を見る。
「海龍王のところへ、また行くの?」
うなずくと思っていた。
さっき背を向けた早さだって、気にしていない人のものじゃない。知りたがっている。至頂群峰のこと。ティナ。永生。それから、小さな黒球でさえ名前しか知らない遺器。
もしかすると、海龍王なら何か知っているかもしれない。
でもアーロンは言った。
「行かない」
二言。
迷いはなかった。
ほかのみんながどう思ったかはわからない。
ただ、アーロンは自分のことを後へ置くときがある。前は変だと思わなかった。この人はいつも、急いでいないように見えたから。
でも今度は違う。
ティナに関わる答えを見つけられるかもしれないのに。
それさえ、置いていけるのか?
今は聞かなかった。
小さな黒球が、また巨大な黒い鳥になる。
エイリンが先に登り、ヴァンスが後へ続いた。ザカは、まだあちこち見ていたジュミエンをひょいと鳥の背へ押し上げる。リックは今度、来たときよりずっとあっさり乗った。横に立って小さな黒球と長く睨み合うこともない。
一度乗れば、途中で人を食べるわけではないとわかるのだろう。
最後にあたしは、小さな樹精の枝葉へ触れた。
「ちゃんと育つんだよ」
小さな樹精は細い枝を一本伸ばし、あたしの手へ触れる。
「きみも」
少し驚いた。
たぶん、あたしの言葉をそのまま返しただけだ。
それでも笑ってしまった。
小さな黒球が翼を広げる。
繁茂仙境の森は、すぐ下へ遠ざかった。
地面から見ても、この島はとんでもなく大きかった。空へ上がると、なお端が見えない。光る森が一つ、また一つと夜の奥へ続き、滝は高いところから垂れ、真ん中の巨樹はまだ遠くに高く立っている。
しばらく、それを見ていた。
遠すぎるせいかもしれない。
あたしたちが来たときより、光が少し明るくなった気がした。
小さな黒球はすぐ海の方へ向きを変える。
あたしも、もう見なかった。
餘暉号へ戻る前に、まず魚の匂いがした。
塩。
血。
濡れた縄。
焼き魚の脂の香り。
それから、たくさん、たくさんの魚。
餘暉号の甲板の真ん中には大きな木箱がいくつも置かれ、漁獲でぎっしりだった。二枚の広げた網からは、まだ水が滴っている。何匹かは大きすぎて、水夫が二、三人で引きずらなければならない。
あたしは息を吸った。
急に、普通の世界へ戻った感じがした。
少なくとも魚は魚だ。
急に話し出したりしない。
何百の年輪を生きたなんて、あたしに教えたりもしない。
たぶん。
小さな黒球が甲板に降りた途端、クレイゲンが歩いてきた。
顔の得意さは、まったく隠せていない。
「どうだ?」
隣の大きな木箱を一つ叩く。
中では銀青色の大魚がまだ尾を振り、危うく箱の縁を歪ませそうだった。
「おまえの言った通りだ」
「この辺の魚は、樽みたいに太ってる」
アーロンは、甲板いっぱいの漁獲を見た。
「成魚は残したんだろうな?」
クレイゲンの笑顔が、すぐ半分になった。
「安心しろ」
「おまえの島を食い尽くすほど、俺だって馬鹿じゃない」
アーロンはもう一度見回す。
「見たところ、ぎりぎりだな」
「失せろ」
近くの水夫たちが、すぐ笑い出した。
小さな黒球の背から下りたばかりのあたしたちへ、上陸しなかった者たちが一斉に集まってくる。
「中はどんなだった?」
「本当に歩く木がいるのか?」
「エルフはいた?」
「酒の川は?」
最後の質問は、とても真剣だった。
答えるのが面倒だった。
リックは鳥の背から下りたばかりだったが、その質問を聞くと少し腰を伸ばした。けれど口を開くより先に、ジュミエンが絵を取り出す。
周りが一気に静かになった。
一枚目は、花潮海岸。
広い花が海岸に沿って続き、花びらは風で空へ運ばれ、海の波より明るい潮みたいだった。
二枚目は、島の奥で交わる巨大な枝と滝。
三枚目は、真ん中の巨樹。
四枚目は、樹精の森。
あたしの半分の高さしかない、小さな樹精まで描かれていた。
紙は小さすぎて、本当の大きさなんて入らない。
それでも絵だけで、水夫たちは一かたまりになって押し寄せるには十分だった。
「嘘だろ……」
「これが、すぐ横にあったのか?」
「あの木、そんなに大きいのか?」
「知ってたら、俺も――」
じゃんけんに負けたのを後悔し始める者がいる。
リックをそのまま罵る者もいた。
「なんでおまえが行くんだよ?」
リックは、やっと話せる隙を見つけ、腕を組んだ。
「実物は、絵よりもっとすごい」
「本当に?」
「海岸は一面、全部光ってる」
「木は?」
「もっと大きい」
「滝は?」
「もっと多い」
だんだん、もっともらしくなっていく。
後ろから誰かが言うまでは。
「おまえ、あの黒い鳥に乗るのも怖がってただろ?」
リックが止まった。
「あれとこれは別だ」
今度は、本人まで笑うのをこらえられなかった。
魚はすぐ処理された。
一部は塩漬け。
一部は火にかけて焼く。
火の明かりの中でも淡い青を透かす鱗の魚が何匹かいて、ハーンは近くの魔力が濃すぎるせいだと言い張った。ロイはまるで気にせず、ただ聞く。
「食えるのか?」
「食える」
それで十分だった。
甲板の空気は、ここ数日のどの夜よりもすぐ賑やかになった。
魚をだいたい食べ終え、絵も見終わり、人がゆっくり散ってから、餘暉号はまた走り出した。
繁茂仙境の光は、船の横からゆっくり船尾へ移る。
あたしは採集袋を抱え、甲板の比較的乾いた隅へ座った。やっと、この夜持ち帰ったものを整理し始める。
成熟した芽胞。
見知らぬ花の葉を数枚。
小さな瓶に入れた花蜜。
短い根の一片。
青白く、多層の傘を持つ菌。
それから、ぎっしり書き込んだノート。
歩きながら揺れて書いたところもあり、字が歪み、あたしでさえ二度見なければ読めない。
一枚ずつ整える。
そのうち何行かは、特に丸をつけた。
根を採る前に、先に種を残す。
一部だけ取れるなら、株ごと持っていかない。
それから、今日最後に書いたもの。
光が強いからといって、元気に育っているとは限らない。
横に、もう一行足してある。
ときには、ただ多すぎる。
しばらく眺めた。
今回は持ち帰ったものがたくさんある。
でも、まだ何も知らないような気もした。
薬の効き目は、まだ調べ終えていない。
芽胞が育つかどうかもわからない。
青白い傘の菌の液も、これからゆっくり調べなければならない。
そう考えると、部族へ戻ったあとには、たぶんやることがたくさんある。
最後の紙をしまうとき、目の端に船尾へ立つ人が見えた。
アーロン。
船縁にもたれ、水夫たちと酒を飲まず、魚も食べず、遠くを見ている。
繁茂仙境は、もう小さい。
海の上に残った、不自然な光の一片だけ。
しばらく彼を見て、結局立ち上がり、そちらへ行った。
「あの……」
言葉が出たばかりで、アーロンは振り返らなかった。
「遺器のことを聞きたいんだろう」
あたしは止まる。
そこでやっと、アーロンは少し顔を横へ向けた。
「この旅で、おまえはずいぶん気を遣うようになった」
そのまま一発殴った。
「放っておいて」
アーロンが小さく笑う。
あたしは彼の横にもたれ、遠くの光を見る。
「本当は、すごく知りたいんでしょ」
「ああ」
「じゃあ、どうして戻らないの?」
彼は少し黙った。
「海龍王は逃げない」
顔を向ける。
アーロンはまだ海を見ていた。
「風息谷の人間は死ぬ」
説明は、それだけだった。
あたしもすぐには答えない。
波が何度も船腹を叩き、頭の上では帆が風を受け、ふくらんでいる。
アーロンは、時々こうだ。
自分のことは待てる。
自分の傷も待てる。
自分の答えも待てる。
でもほかの人のことは、いつももっと急いでいるみたいだった。
少ししてから、言う。
「本当は、もっと自分勝手でもいいのに」
アーロンは、少し驚いたようだった。
それから笑い出す。
「はは」
「俺はもう、十分自分勝手だ」
眉を寄せる。
今度は、本当にわからなかった。
どこが?
聞こうとしたとき、アーロンが急に言った。
「この旅が終わったら、部族へ戻るんだろう?」
聞きたかったことが、無理やり切られた。
「うん」
たしかに。
ずいぶん長く、離れている。
祖父。
族長。
部族のみんな。
それから、あたしが持ち帰ったもの。
そろそろ帰らなければならない。
でも口に出すなら、そんな普通の言い方にはしたくない。
アーロンを見る。
「今さら、引き止める気になったの?」
「いや」
少しも間を置かない答えだった。
耳がすぐ後ろへ伏せる。
本当に殴りたい。
アーロンは全然見えていないみたいに、言った。
「みんなに、おまえがどれだけ育ったか見せるべきだ」
殴り返そうと上げた手が止まる。
どれだけ育った?
自分を見る。
背は、別に伸びていない。
言い返そうとしてから、それが言っている意味ではないと急にわかった。
部族を離れたとき、海さえ初めて見た。初めて船に乗り、立っていられないほど吐いた。地竜島を初めて見たときは、何もかもが信じられなかった。
今は……。
自分でさえ、どれだけ変わったかわからない。
少しは、本当にあるのかもしれない。
アーロンが急に言った。
「さっき、俺にもっと自分勝手になれと言ったな?」
我に返る。
「うん?」
「なら、頼みを一つ聞いてくれ」
かえって驚いた。
アーロンが、自分からあたしに何かを求めるなんて。
「何の頼み?」
彼はあたしを見て、口元を少しだけ上げた。
「そのときになったら言う」
「は?」
アーロンは、もう船の前の方へ歩き出している。
あたしは一息、その場に立ち、それからやっと気づいた。
「待ちなさいよ!」
追いかける。
アーロンは、もちろん本気で速く走ったわけではない。
でもちょうど、あたしの手が届かない速さだった。
半分ほど甲板を追いかけたところで、木箱のそばに座り焼き魚を食べていたエイリンが、あたしたちを見るなり立ち上がった。
「どうしたの?」
「あいつを捕まえて!」
あたしは叫ぶ。
エイリンは理由も聞かない。
「わかった!」
持っていた魚をヴァンスの手へ押しつけ、反対側から回り込んだ。
ヴァンスは、急に手に増えた半分の焼き魚とエイリンを見た。
少し黙る。
最後には首を振った。
ザカは気楽なものだった。木箱に座り、手には焼き魚を丸ごと一匹持っている。
一口。
見る。
もう一口。
面白い見世物を見ているみたいだった。
遠くのクレイゲンは、あたしたちがマストへぶつかりそうなのを見ると、すぐ怒鳴った。
「やるなら端でやれ!」
「船にぶつけるな!」
誰も止まらない。
船尾まで追ったとき、また繁茂仙境が見えた。
もう、とても遠い。
巨樹。
滝。
森。
何も見えない。
島全体は、海の上のぼんやりした小さな光だけになっている。
夜がもっと深くなったせいかもしれない。
あの光は、来たときよりもっと明るく見えた。
もう一度だけ、見る。
前にいるアーロンがちょうど振り返った。
あたしはすぐ、そのことを忘れた。
「逃げるな!」
笑い声、足音、板の震え、波の音が混じる。
餘暉号は進み続ける。
そして繁茂仙境の光は、少しずつ後ろへ残っていった。
皆さんも、アーロンのようなことをしますか?
いつも自分のことを、後回しにしてしまう。
でも私は幸い、自分のことをかなり大切にしています。
定時になったら帰る。残業はしない。
ははは。
第十八章は、こんなに穏やかな空気のまま終わります。
どうぞ第十九章「帰り道の途中」をお楽しみに。




