18-4 満ちすぎた場所
前方で、何が起きているのでしょう?
動物たちが、みんな地面に倒れています。
急いで確かめに行きましょう。
開けた場所の外は、まだ繁茂仙境だった。
紫と青の光が森の奥から漏れ、少し離れれば虫の声も鳥の声も、高いところから水の落ちる音もする。
でも目の前のここだけは、誰かが島から一かけら掘り抜いたみたいだった。
草葉は倒れている。
花はうなだれている。
何本かの植物は、茎までひび割れていた。
地面には、小さな動物がたくさん散らばる。
鳥。
小獣。
名前もわからないものが何匹か。
ほとんどは、まだ息をしていた。
ただ、とても弱い。
最初に思ったのは、毒だった。
空き地の端へしゃがみ、まず匂いを嗅ぐ。
腐った匂いはない。
鼻を刺す辛さも、毒草にあるような苦く生臭い匂いもない。
でも、それだけで毒を外す気にはなれなかった。
匂わないものにも、前にひどい目に遭っている。
草に倒れた小獣を見る。噛まれた跡も、血もない。口の端に泡も吐いたものも見当たらない。
もっと変なのは、植物までおかしいことだ。
空き地の中心へ近づくほど、植物はかえってとんでもなく育っている。
特に、何本かの花。
外のどの花よりも大きく、花びらを大きく開き、目に刺さるほど明るい。なのに周りの草は、みんな枯れていた。
鼻に皺を寄せる。
あの花のせいだろうか?
花粉に毒がある。
あるいは、あたしには嗅げない何かを出している。
でもエイリンは、ずっと端に立ち、中へ入ってこなかった。
顔つきが、だんだん変になっていく。
「ここ……」
彼女は振り向く。
「ヴァンス」
ヴァンスも、さっきから空き地を見つめていた。
「ああ」
少し腰を落とし、指先を地面へ当てる。
しばらくしてから言った。
「下から来ている」
ザカが周りを見る。
「何がだ?」
エイリンが、ようやく口を開く。
「魔力」
リックが眉を寄せた。
「ここには、そこら中にあるって言ってなかったか?」
「違うの」
エイリンは少し考えた。
「外の魔力は、水みたい」
空き地の真ん中を指さす。
「ここは泉」
「ずっと、湧き出してる」
ザカはしばらく見ていた。
「同じに見える」
エイリンがすぐ睨む。
「よく見て!」
あたしも目を細める。
最初は、何も見えなかった。
それから、中心の大きな花の横から、光が一つ浮いた。
一つ。
二つ。
翼はない。虫みたいにどこかへ飛ぶわけでもない。植物のそばから現れるものも、地面の細い割れ目から直接湧いてくるようなものもある。数息とどまり、消えていった。
「あれ、虫じゃないの?」
あたしは聞く。
エイリンは首を振った。
「違う」
「じゃあ、何?」
彼女は口を開いた。
止まった。
「……魔力?」
眉を寄せる。
「魔力って、普段は見えないって言ったよね?」
エイリンは髪をかいた。
「普段は見えない」
「じゃあ今は?」
「ええと……多すぎるの」
あたしは黙った。
とても役に立つ説明だった。
代わりにリックが聞いた。
「じゃあ、魔力が多すぎるとどうなる?」
エイリンはまた止まる。
何か起きるのはわかっている。
でもエルフは小さいころから、魔力を扱える場所で生きている。魔力は彼女たちにとって、息をすることや歩くことに近い。呼吸を細かく分けて、吸いすぎたらどこから苦しくなるのか、ほかの者へ教える人なんていないのだろう。
ヴァンスが見かねて、言った。
「おまえは腹いっぱいだ」
リックが彼を見る。
「それで?」
「それでも誰かが、ずっとおまえの口へ物を詰め込む」
空き地のそばが少し静かになる。
ザカがうなずいた。
「わかった」
あたしもわかった。
さっきの長い説明より、ずっとはっきりしている。
そこで初めて、アーロンが口を開いた。
「この小さな動物たちは、もともと魔力を使わない」
地面でかすかに体を上下させる、小さな命たちを見ている。
「だが、体はこの島に馴染んでいる」
「外の魔力は入ってくる」
少し止まった。
「ただ、止め方を知らない」
あたしは彼を見る。
人間だ。
魔法も使えない。
どうして、こんなことまで知っているんだろう。
アーロンはあたしの顔を見ると、ただ言った。
「ティナから少し教わった」
それ以上は話さない。
小さな樹精は、あたしたちの話がわからない。
ただ倒れた動物たちを見て、細い根であたしの手をつかんだ。
「生かして」
まだ入るな、と言おうとした。
でも小さな樹精は、もうあたしを引いて空き地の端を越えている。
「待って――」
後ろでエイリンが手を伸ばした。
届かなかった。
踏み込んだ最初の瞬間、何も苦しくなかった。
むしろ逆だ。
あたしは固まった。
歩き続けた脚が急に軽くなり、呼吸も一度に楽になる。耳の中で混じっていた音が、すべてはっきりしてきた。
遠くで葉が擦れる音。
虫の羽音。
ザカが草を踏む音。
小さな樹精の根が泥を擦る細い音まで、聞こえる。
体じゅうが、一日たっぷり寝たあとみたいだった。
力が急に戻る。
思わず拳を握った。
これの何が悪いんだ?
小動物たちが、なぜここへ走り込んだのかわかった。
ここは最初から、危ない場所には思えない。
むしろ体に、こう思わせる。
軽い。
元気だ。
鋭い。
ここにいると気持ちいい。
獣なら、食べ物が多くて安全な場所だと思うだけだろう。
何かに、少しずつ詰め込まれているとは知らずに。
「コラ!」
外からエイリンが叫ぶ。
「何か感じる?」
あたしは振り返った。
「ある。本当に」
「何が?」
うまく言えない。
「魔力」
「急に、すごく力が出るみたい」
それを聞いたザカが、すぐ中へ踏み込んだ。
リックも少し迷ってから、続く。
ザカは少し立ち、眉を寄せた。
「少し熱い」
リックは左右を見た。
「俺は何も感じない」
もっと前へ進もうとした。
次の瞬間、その気持ちよさが急に変わった。
最初に来たのは痛みじゃない。
満腹だった。
思わず腹へ手を当てる。
でも、そこじゃない。
全身だ。
手。
脚。
耳。
尻尾。
胸。
口の中まで、何かを詰め込まれたみたいだった。
さっきの軽さが、ゆっくり膨らみに変わる。
熱い。
指先が、どんどん痺れる。
さっきまで澄みすぎるほど聞こえた音が、急に全部ぐちゃぐちゃになった。
ヴァンスの言葉を思い出す。
腹いっぱいだ。
でも外から来るものは止まらない。
まだ、中へ詰め込んでくる。
エイリンを呼ぼうとした。
口が一歩遅れた。
視界の端が暗くなる。
指はもうほとんど感じない。耳には低い唸りしか残っていない。
体には力がいっぱい詰まっているはずなのに。
体は、ますます言うことを聞かなくなる。
先に膝が崩れた。
最後に考えられたのは、一つだけ。
あの動物たちは、出たくなかったんじゃない。
おかしいとわかったときには、もう出られなかったんだ。
前へ倒れる。
「ザカ!」
エイリンの声は、深い水の向こうみたいだった。
ザカは近くにいた。
二歩で駆け寄り、あたしをそのまま肩へ担ぎ上げる。リックも、近くに倒れた小動物たちを抱えて外へ運び始めた。
アーロンも中へ入る。
彼は、ほとんど影響を受けていないように見える。
こんなときは、普通の魔力を使えないことが、かえってよかった。
エイリンとヴァンスは、すぐ一番奥まで走り込まなかった。
二人の方が、周りの魔力と混じりやすい。動いて命を助けながら、自分が吸い込まないよう抑えるのは、もっと面倒になる。
だから二人は端に残った。
ザカ、リック、アーロンに、生き物を全部先に引きずり出させるために。
どれほど経ったのか、わからない。
誰かが、ずっとあたしを揺すっていた。
目を開く。
最初に見えたのはアーロン。
次は、その周りにいるみんなの顔だった。
あたしはまだ草の上に寝ている。手足は、長く水に浸けた蔓みたいに柔らかかった。
でも、全身に詰まっていた感じは、だいぶ薄れている。
「あたし……どうなったの?」
アーロンが言う。
「食べすぎた」
寝たままでも殴りたくなった。
今さら、それがわからないと思ってるの?
彼は続けてから、ようやく真面目な顔になる。
「受けきれない魔力が体に残ると、傷つく」
痺れた手を思い出す。
暗くなった視界と、耳鳴りも。
「さっき、先に言えばよかったでしょ?」
「言おうとしていた」
小さな樹精を見る。
エイリンの後ろへ隠れ、梢を地面へつきそうなほど垂らしていた。
うん。
聞かなくても、誰が早く動きすぎたかはわかる。
そこでやっと、エイリンとヴァンスがあたしの両側に座り、目を閉じて手のひらをそれぞれあたしの手首のあたりへ載せているのに気づいた。
「二人、何してるの?」
「多い分を外へ出している」
アーロンが答える。
あたしには、完全にはわからない。
あとで知った。エイリンとヴァンスは、あたしの中の魔力を自分の体へ吸い込んでいたわけじゃない。自分たちが扱える分だけを使い、あたしがどうしていいかわからない力を少しずつ引いて、体の外へ散らしている。いつもの空気と土へ、返していたのだ。
この時代には、たぶんまだ誰もこれに名前をつけていない。
こうすれば、効くと知っているだけだ。
少しして、先にヴァンスが手を引いた。
エイリンもゆっくり目を開く。
ようやく、指先の感覚が戻ってきた。
エイリンがあたしを支え、座らせる。
「少しは良くなった?」
うなずいた。
まだ頭は少し回る。
でも、最初に聞いたのはこれだった。
「あの動物たちは?」
ジュミエンが横を指す。
「全部、外へ運びました」
ザカが付け足す。
「生きてる」
そこで初めて、本当に肩が下がった。
小さな樹精が、ゆっくりあたしのそばへ来る。
さっきまでぺたぺた嬉しそうに走っていたのに、今は木全体が垂れていた。樹皮の裂け目からは、透明な樹脂が一滴だけ滲んでいる。
「ごめんなさい」
少し止まる。
「きみも壊れるって、知らなかった」
手を伸ばし、枝を撫でる。
「壊れてない」
少し止めた。
「ただ……食べすぎただけ」
言ってから、自分でも少し変な気がした。
アーロンの言い方を、あたしまで使い始めている。
小さな樹精は、本当に少し安心したようだった。
エイリンはもう、倒れていた小動物たちを診ている。
異常な場所から出すと、呼吸がゆっくり落ち着くものもいた。でも状態の重いものは、まだ草の上でぐったりしている。
エイリンは金色の小鳥のそばへひざまずき、手のひらをそっとその体へかぶせ、目を閉じた。
ヴァンスは少し離れたところで、別の小獣を診ている。
あたしは横で見ていた。
いつも人を助けるのは、あたしだ。
血を止める。
薬を当てる。
傷を洗う。
今は、何もできない。
逆にエイリンが治している。
しばらくして、金の小鳥の翼が一度動いた。
エイリンの目がすぐ明るくなる。
「いける」
彼女は止めなかった。
小鳥はゆっくり目を開く。
さらに少しすると、本当に立ち上がった。脚はまだ揺れていたけれど、生きている。
思わずエイリンを見る。
最後の一匹を終えると、彼女は勢いよく立ち上がった。
「できた!」
たった今、喧嘩に勝ったみたいに嬉しそうだ。
あたしがいつも誰かを助け終えたときより、彼女の方がずっと嬉しそうに見えた。
アーロンは、少し戻った小動物をもっと遠い林の端へ運んでいる。
一匹を下ろすと、それは少し立ってから、くるりと向きを変え、死んだような空き地へゆっくり歩き出した。
ザカがすぐつかんだ。
みんなが黙る。
リックが言った。
「まだ、戻りたがってるのか?」
エイリンは、小獣がもがく方を見る。
「最初に入ったとき、とても気持ちいいの」
「本当に」
あたしは言った。
まだ少し痺れる手へ触れる。
「体が軽くなる」
「音もよく聞こえる」
「力も出る」
ザカは、手の中の小獣を見る。
「じゃあ、あれらはそこに問題があると知らないんじゃないな」
あたしは首を振る。
「まだ、問題だと思ってない」
本当に苦しくなるころには、もう出られないのだろう。
あたしたちは、空き地の外に簡単な柵を作り始めた。
ザカが太い枝を運ぶ。
リックが枝を土へ固定する。
ジュミエンは蔓を探し、一周ずつきつく縛った。
アーロンも一緒に手伝う。
あたしは小さな樹精へ言った。
「もう動物を入れないで」
こいつは困った。
「でも中の友だち、すごく元気に育ってる」
空き地の中心を指さす。
あの大きな花は、まだ目が痛いほど明るい。外の健康な植物よりさえ、綺麗に見えた。
エイリンが端へ行き、しゃがみ込む。
あたしも後を追った。
今度は、もっとよく見る。
花は確かに大きい。
でも茎はひどく細く、葉の縁にはもう乾いたひびがある。根の周りの土まで、外より乾いていた。花は休まず開き続け、その横には落ちたばかりの花びらがたくさん積もっている。
その株は、一度も休んでいないみたいだった。
ただ、ずっと。
伸びる。
咲く。
枯れる。
また伸びる。
小さな樹精には、まだわからない。
「とても明るい」
エイリンは、あの花を長く見た。
最後に言う。
「あれは、元気に育ってるんじゃない」
みんなが、続きを待った。
彼女は手を上げ、一本を指す。
「止まれないだけ」
すぐに誰も話さなかった。
でもあたしには、少しわかった。
さっきのあたしも同じだった。
最初は力が出た。
感覚がよくなった。
体も気持ちよかった。
そして止まれなかった。
入らなくなるまで。
ここまで見た植物を思い出す。
ひどく明るく光るものがあった。
吸った魔力を、光に変えていた。
ああいう植物を近くに育てれば、余った魔力を使ってくれるんじゃないだろうか?
「あの、よく光る草は?」
あたしは聞いた。
エイリンが振り返る。
「何?」
空き地を指す。
「あれを近くに生やしたら」
「魔力を光に変えるんでしょ?」
エイリンが固まった。
ヴァンスもこちらを見る。
エイリンは長く考えた。
「……試せるかも」
小さな樹精はすぐ、近くの樹精を探しに走った。
それほど待たずに、もともと強く光る低い植物が何株か、土と根ごと運ばれてくる。一番中心には植えず、異常な場所の端を囲むように置いた。
最初、植物はかすかに光っただけだった。
しばらくすると、その光が強くなる。
元に生えていた場所より、はっきり明るい。
エイリンがそばにしゃがみ、感じ取る。
「本当に、少し減ってる」
あたしは、その植物を見る。
吸い込んだ魔力を光に変え、外へ散らしている。満ちすぎた場所へ、小さな穴をいくつか開けるみたいに。
でも、効き目はとても小さい。
エイリンは手を地面につけ、長く目を閉じたあと、首を振った。
「下から、まだ湧いてる」
ほかに言う言葉がない。
「あたしたちは、漏れるのを少し早くしているだけ」
本当の元は、まだそこにある。
ノートを見る。
それから、異様に明るい花を見る。
筆先は少し止まり、それから書いた。
強い光は、元気に育っている印じゃない。
少し考え、もう一文足す。
ときには、ただ多すぎる。
魔力と植物の育ち方を、同じ紙に書いたのはこれが初めてだった。
この場所を、本当にどうにかすることはできない。
少なくとも、今のあたしたちには。
最後にできたのは、柵を残すこと。樹精に動物を止めてもらい、近くへは光り、魔力を使える植物をもっと植えることだった。
エイリンは樹精に、ここを見続けてほしいと頼んだ。範囲が広がったら、ほかの樹精にも、あの光る草を外へ植えさせるようにと。
問題は、ひとまず押さえられた。
解決はしていない。
立ち去る前、エイリンがもう一度振り返った。
眉を寄せる。
ヴァンスが聞く。
「どうした?」
エイリンは少し止まり、もう一度目を閉じて感じた。
最後に首を振る。
「何でもない」
本人にも、はっきりしない。
でもあたしには、空き地の真ん中でまた一つ、地面の隙間から光が浮くのが見えた。
さっきより明るい。
……
あたしたちは、小さな樹精を、もとの樹精の森へ送り届けた。
今度のこいつは、あたしと別れたくなさそうだった。
別れ際に、また聞く。
「また来る?」
約束はしなかった。
ここは大陸から遠すぎる。
ただ、葉を撫でる。
「機会があれば」
小さな樹精は、機会が何かを聞かなかった。
丸い葉二枚を揺らしただけだった。覚えておくみたいに。
でもアーロンは、急に何かを思い出したように、自分を知る大人の樹精へ向いた。
「そうだ」
「遺器を知っているか?」
樹精は長いあいだ黙った。
「遺棄?」
アーロンが言う。
「それじゃない」
また少し待つ。
樹精は、やはり知らなかった。
どれほどの年輪を生きても、この言葉を聞いたことがない。
最後に太い枝を一本上げ、繁茂仙境の外を指した。
「もっと年輪の多い者に聞け」
途中で少し問題は起きましたが、幸い皆は無事でした。
魔力も、そう単純なものではないようです。
ははは。実は、魔力にまつわる設定はもう一通り考えてあります。
なかなか複雑なので、本編でどう描かれるのかを楽しみにしていてください。
本編の雰囲気は、前日譚ほど……「ハード」ではないかもしれません?
さて、話を戻しましょう。
樹精でさえ、遺器が何なのか知りませんでした。
この部分は、まだ霧の中に隠されているようです。
どうぞ第五節「余韻」をお楽しみに。




