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18-2 根は覚えている

ようやく、島へ上がれます。


皆は、そこで何を見るのでしょうか?


植物でできた都市?


それとも……そもそも都市などない?

クレイゲン(クレイゲン)は、すぐには舵輪から手を離さなかった。


水の下の根は、まだ船を押している。


どれも、何につながっているのか想像したくなくなるほど太い。餘暉号(よきごう)を下へ引きずり込むわけでも、強くぶつかるわけでもない。ただ船首があの光る岸を向かないよう、しっかり押していた。


「拒まれている?」


クレイゲン(クレイゲン)が言う。


「口もないのに、どうやって拒むんだ?」


アーロン(アーロン)は片手を上げた。


「武器を下ろせ」


何人かの水夫が彼を見る。


「悪意はない」


銛はまだ空に上がっていた。一人の水夫は短剣を握っていて、汗で刀の背が光っている。船を押し回す大根の群れを、友好的だと思えないのは当たり前だった。


でもアーロン(アーロン)はそう言ったあと、説明を足さなかった。


クレイゲン(クレイゲン)はしばらく水面を睨み、最後に小さく悪態をついた。


「しまえ」


あまり納得していない声がした。


「船長――」


「しまえと言った」


銛が一本ずつ下がる。


アーロン(アーロン)は船縁へ歩き、黒い水の中でゆっくり動く影を見る。


「まだ覚えていてくれるといいが」


その言葉の意味をあたしがわかる前に、彼は外套の留め具を外していた。


新しく買った、安い外套だ。


海風にも雨にも怪物の血にも浸され、もう大した品じゃない。


なのに彼はそれを脱ぐと、海へぽんと放った。


外套は水へ落ち、小さな音を立てた。


すぐに闇が飲み込む。


あたしは水面を見つめた。


*まさか、あれも匂いを嗅げるの?*


水面はしばらく静かだった。


それから影が一本、船底からゆっくり浮かび上がってくる。


近づいて初めて、それが海獣ではないとわかった。


本当に、木の幹の一部だった。


湿った濃い色の樹皮が表面を覆い、裂け目には水草が絡み、小さな貝がいくつか貼りついている。水面へ出た部分だけでも、餘暉号(よきごう)のメインマストより太かった。


水夫たちが何人か、思わず後ずさる。


でもそれは、船体へ近寄らなかった。


太い枝先が水の中を少し探り、外套をそっと引っかけて海から拾い上げる。破らないようにしているみたいな、ゆっくりした動きだった。


濡れた外套が船縁まで運ばれる。


アーロン(アーロン)は手を伸ばし、受け取った。


布の端から水が滴り、海へ戻っていく。


巨大な枝は少し止まってから、また沈んでいった。船体を押さえていた周りの根も、一緒に離れる。


エイリン(エイリン)はずっと、そばに立っていた。


彼女はアーロン(アーロン)の外套を見ていない。


少し首を傾け、風の中で誰かの声を聞いているみたいだった。


ヴァンス(ヴァンス)はその横に立ち、矢筒へ手をかけていたが、矢を取らなかった。


しばらくして、エイリン(エイリン)が言う。


「あの方は、船は入れないって」


ハーン(ハーン)が水面を見る。


「待てよ」


「あの木、話せるのか?」


「木じゃない」


ヴァンス(ヴァンス)が言った。


「森精霊(しんせいれい)だ」


エイリン(エイリン)はまだ聞いている。


海風が長い髪を撫で、島の光が瞳へ映る。


「理由は言っていない」


少し止まる。


「ただ、船は入れないって」


あまりに筋の通らない理由に聞こえる。


でも、さっき根が餘暉号(よきごう)を押し出したとき、誰もあれに筋を通せと求める資格があるようには思えなかった。


エイリン(エイリン)は、またしばらく黙った。


「アーロン(アーロン)は同行者を連れていけるって」


船はもともと静かだった。


その言葉が落ちた途端、全員に声が戻った。


「俺が行く!」


「俺もだ!」


「泳げるぞ!」


「泳げてどうするんだよ?」


昨日まで木と草しかないと嫌がっていた者たちは、誰一人としてそんなことを言ったのを覚えていない。餘暉号(よきごう)に立っているだけで、あの島の光が見える。本当に足を踏み入れたら、どんな場所なのか。


あたしまで、尻尾を少し前へ巻き込まずにはいられなかった。


最後にはクレイゲン(クレイゲン)が、ひとかたまりに騒ぐ連中を押さえ込んだ。


「七人までだ」


彼はアーロン(アーロン)を見る。


「おまえの連れだ。選べ」


アーロン(アーロン)は、あまり時間をかけなかった。


あたし、エイリン(エイリン)、ヴァンス(ヴァンス)、ザカ(ザカ)は、もちろん入っている。ジュミエン(ジュミエン)は自分の名を聞くと、誰かが気を変えるのを恐れるみたいに画板を胸へ抱いた。


「描けます」


と彼は言った。


反対する者はいない。


外の者がほとんど入れない島だ。餘暉号(よきごう)の大半が船に残るしかないなら、せめて画家を一人入れて、見たものを持ち帰らせた方がいい。


最後の一枠は、水夫たちがその場でじゃんけんをした。


リック(リック)が勝った。


最初は拳を空まで振り上げそうなほど、喜んでいた。


「見たか!」


負けた者たちへ叫ぶ。


「今日は風が俺の方についてる!」


ロイ(ロイ)が横で舌を鳴らした。


「それは拳で、風じゃない」


リック(リック)は相手にしなかった。


船を離れる前、アーロン(アーロン)は先にクレイゲン(クレイゲン)のところへ行った。


「近くで魚を獲っていていい」


クレイゲン(クレイゲン)が眉を上げる。


「船長のやり方を俺に教える気か?」


「ここは魔力が濃い。魚も太っている」


アーロン(アーロン)は言った。


「成魚は残しておけ」


クレイゲン(クレイゲン)の顔が、すぐに暗くなった。


「そんなこと、俺が知らないと思ってるのか?」


海で一生を過ごしてきた彼は、海域の魚を獲り尽くせば、あとには飢えと機嫌の悪い漁師しか残らないと知っている。


アーロン(アーロン)はうなずいた。


「なら、いい」


クレイゲン(クレイゲン)は罵りたそうにして、最後には苛立ったように手を振った。


「さっさと行って、さっさと戻れ」


あたしたちが船縁へ集まってから、リック(リック)はやっと一つ気づいた。


小舟がない。


森精霊(しんせいれい)は餘暉号(よきごう)の上陸を許さず、あたしたちのために桟橋も用意していない。島と船の間にある浅い海は綺麗だったが、水の下は絡み合う根だらけだ。船を漕いで入ろうとしたら、たぶん船底を薪にするところから始めることになる。


エイリン(エイリン)が小さな黒球を見る。


小さな黒球も、彼女の前へ跳ねてきた。


「大きな鳥」


エイリン(エイリン)が言う。


小さな黒球は一度止まった。


それから、大きくなり始める。


ふわふわの黒い塊だった体が、すばやく膨らみ、伸びた。両側から幅広い翼が現れ、輪郭はどんどん高くなる。最後には甲板の灯りの半分近くを隠していた。


やはり、羽の色はない。


光はその体へ落ち、深い井戸へ落ちたみたいに消える。


それでも背の毛はやわらかく、人がつかまるには十分だった。


リック(リック)の笑顔が、すぐ消えた。


レックス(レックス)が死んで、まだそれほど経っていない。


あたしとエイリン(エイリン)にとって、小さな黒球はもう、魔力を食べ、時々は助けにもなる、ひどく面倒な仲間になりつつあった。


でもリック(リック)にとっては、まだ闇の生き物だ。


他人の血肉も、視力も、声も奪っていったものたちと、同じ場所のもの。


ジュミエン(ジュミエン)は、そこまで考えていなかったらしい。画板を抱えたまま、のろのろ小さな黒球の背へ登り、紙が皺にならない場所を真剣に探している。


ザカ(ザカ)は、もう座っていた。


ほかの者たちも、順に乗っていく。


甲板に残ったのはリック(リック)だけだった。


エイリン(エイリン)が彼を見る。


「この子は人を食べない」


リック(リック)は小さな黒球を見つめた。


「前のあれだって、人は食わなかった」


声が固い。


「別のものを取った」


エイリン(エイリン)は否定しなかった。


「この子が食べるのは魔力」


黒球の首の横の毛を撫でる。


「あたしは、この子を知ってる」


すべての闇の生き物が安全だという意味じゃない。


ただ彼女は、目の前の一匹については保証すると言っていた。


リック(リック)は、まだ動かなかった。


後ろからクレイゲン(クレイゲン)が怒鳴る。


「乗らねえなら、自分で泳いで行け!」


リック(リック)は海を見る。


それから、まだ少し距離のある、光る浅瀬を見る。


歯を食いしばり、黒い毛をつかんだ。登る姿は、さっきじゃんけんに勝ったときよりずっと格好悪かった。


小さな黒球が翼を広げる。


翼の下から、風が甲板を押し流した。


餘暉号(よきごう)と、こちらを見上げる何枚もの顔は、すぐ下へ落ちていく。


いつものようにエイリン(エイリン)が黒球の背へ手を置いた。魔力を渡そうとしたのだと思う。でも、急に眉をひそめた。


ヴァンス(ヴァンス)がすぐ彼女を見る。


「どうした?」


エイリン(エイリン)は目を閉じ、しばらく感じ取っていた。


「この子、あたしの魔力をほとんど食べてない」


小さな黒球の飛び方は安定していた。


至頂群峰(しちょうぐんぽう)を離れたときよりさえ楽そうで、ひと振りの翼で長い海面を越えていく。


エイリン(エイリン)は目を開け、下の島を見た。


「ここ、どこにでも魔力がある」


あたしは鼻をひくつかせた。


空気は相変わらず湿り、花、葉、土の匂いで満ちている。でもその下に、確かにうまく言えない感じがあった。日に干した石が肉球へ触れるような、温かい水をひと口飲んだような感じ。


地竜島(ちりゅうとう)に似ている。


ただ地竜島(ちりゅうとう)の魔力は重く、眠っている大きな獣みたいだった。ここでは葉の一枚、花の一輪、水気の筋一本から魔力が湧き出していると、エイリン(エイリン)は言う。空を飛ぶ無数の小さな虫みたいに、軽いのだと。


船から見れば、繁茂仙境(はんもせんきょう)は光る大地の一片にすぎなかった。


小さな黒球は高く飛ばない。それで初めて、繁茂仙境(はんもせんきょう)がそんなものではないとわかった。


海岸が両側へ伸びている。


ずっと遠くまで。


最後には薄霧と夜へ沈み、反対側はまったく見えないほど。


一日で歩き切れる島じゃない。


ここは、一つの世界だった。


岸の浅い海は、ひどく淡い青緑色だ。礁岩と澄んだ水が根の間に入り交じっている。大きな根脈は海底に沿って伸び、餘暉号(よきごう)より太いものさえ何本もあった。


森精霊(しんせいれい)が船を入れなかった理由が、ようやくわかった。


ここには港がない。


そもそも、港はいらない。


大きな船が根の間へ無理やり入れば、どれだけのものを折ることになるかわからない。


岸沿いには、光る花が広く咲いている。海風が吹くと花びらが幾重にも返り、枝を離れた花びらの中には水へ落ちず、かすかな光に支えられて岸に沿ってゆっくり漂うものもあった。


遠くから見ると、海にもう一つ波が立ったみたいだった。


エイリン(エイリン)は一番前に座り、長いあいだ見ていた。


ジュミエン(ジュミエン)は後ろで素早く描いている。木炭筆が紙を掻く、しゃりしゃりという音がした。


彼が急に聞く。


「ここは何ていうんです?」


誰も答えなかった。


アーロン(アーロン)も花びらでできた長い波を見ていて、知らないらしい。


エイリン(エイリン)は少し考えた。


「花潮海岸(かちょうかいがん)?」


ジュミエン(ジュミエン)は一目見た。


「いいですね」


そのまま絵の脇へ書き込む。


あたしは彼を見た。


*地名って、こんなふうに決めていいの?*


反対する者はいない。


だからそこは、とりあえず花潮海岸(かちょうかいがん)と呼ばれることになった。


空には、いろんなものがいた。


淡く光る小鳥が枝の間をかすめ、翼の下に短い青い光の跡を引く。虫の群れが花むらの上へ昇り、また下りる。葉のように薄い翼をした、名も知らない飛ぶ生き物もいる。通り過ぎても、ほとんど音がしない。


本当にみんなを黙らせたのは、島の奥にある一本の木だった。


周りのどの木よりも、頭一つ高い。


それでも、ちゃんと木だとわかる。


主幹は太く、枝は四方へ広がっていた。ほかの植物が何種類も、枝の上からそのまま生えている。高い枝葉の間には、小さな水たまりまでいくつも溜まっていた。


水が枝の間から、根の間から、岩壁から落ちる。


一本。


二本。


十数本。


滝は巨樹を巡って垂れ、遠くから見ると、流れ続ける白い衣を着せているみたいだった。


一段が、次の一段へ落ちていく。


エイリン(エイリン)は、息をするのも忘れたみたいに見ていた。


「あれは……」


言葉を最後まで言わなかった。


でも、何を思い出したのかはわかった。


彼女たちの故郷にある神樹。


目の前の巨樹にも似た気配がある。ただ、もっと古く、もっと広い。その根はもう島全体へ伸びているようだった。


あたしは薬袋の一番奥へ触れた。


あの生の樹脂(せいのじゅし)は、たぶんあそこへ届けるものだ。


小さな黒球は最後に、少し開けた草地へ降りた。


青紫の微光が、数え切れない小花の間から漏れている。地面は柔らかな草に覆われ、土はほとんど見えない。足を乗せると肉球が少し沈み、とても厚い草の寝床へ踏み込んだみたいだった。


小さな黒球は元の小さな塊に戻り、エイリン(エイリン)の肩のそばへ浮かぶ。


とても気持ちよさそうに見えた。


黒い毛の塊に、気持ちよさそうなんて顔があるならだけど。


エイリン(エイリン)は笑った。


「ここなら、思いきり食べ飲みできるね」


小さな黒球は返事をしなかった。


でも、はっきり反対もしなかった。


あたしには、それどころじゃない。


光る蝶が花の間を飛び、翼から淡い光の粉を少しずつ散らす。どこからか透明な花びらが流れてきて、向きを変えるたび違う色を返す。遠くの森は桃色も紫もある。もっと多いのは、視界の端まで重なって途切れない深い緑だった。


あたしは、何から見ればいいのかわからなかった。


ジュミエン(ジュミエン)も同じようだった。


着地してすぐ二枚目の紙に替えた。巨樹、滝、花の潮、小さな黒球。草にとまった変な鳥まで描きたがる。


「みなさん、ゆっくり歩いてください」


彼は不満そうに言った。


本気で聞く者はいない。


最後にアーロン(アーロン)が言った。


「行くぞ」


そこでやっと、今回は景色を見に来たんじゃないと思い出した。


あまり歩かないうちに、あたしは見知らぬ植物の前で止まった。


蘭だ。


葉は深い青緑なのに、葉脈の中を赤、紫、青、いくつもの光がゆっくり流れている。小さな色の川を、葉の中に隠しているみたいだった。


あたしはすぐしゃがみ込む。


エイリン(エイリン)も寄ってきた。


彼女は葉には触れず、その上へ手を止める。


「中に、とても濃い魔力がある」


「魔力を戻せる?」


「わからない」


「怪我を治せる?」


「それもわからない」


ちょうど横に、自然に折れた葉が一枚あった。切れ目にはまだ赤紫の光が残っている。でも数息のうちに、ゆっくり消えていった。


エイリン(エイリン)が見る。


「本体から離れると、魔力を留めておけない」


あたしはすぐノートを取り出した。


「名前は?」


エイリン(エイリン)は少し考える。


「虹脈蘭(こうみゃくらん)?」


「適当すぎない?」


「さっきの花潮海岸(かちょうかいがん)だって、誰も反対しなかったよ」


何も言えなかった。


筆先はすぐに落ちる。


虹脈蘭(こうみゃくらん)。


用途不明。


そのまま食べてはいけない。


本体から切り離すと、魔力はすぐ失われる。


ザカ(ザカ)はもう少し先へ行っていて、振り返ってから、あたしたちがまたしゃがんでいるのに気づいた。


「ちゃんとついてこい!」


あたしは慌ててノートを腰袋へ押し込んだ。


でも、その先も大して変わらない。


触れると地面の中へ縮む小花。


葉が獣毛みたいな手触りの蔓。


傘が何層にも重なり、綺麗すぎて触りたくない白青の茸。


実が割れると、辛い匂いを散らす低木。


薬を試す時間なんてなかった。


食べられるか確かめる時間さえない。


姿、匂い、生えている場所、それから隣に何が生えているかだけ、まず記すしかなかった。


鳥が低い枝にとまり、あたしたちを見ている。


道の真ん中へ垂れていた蔓は、アーロン(アーロン)が近づくとひとりでにゆっくり引っ込んだ。ザカ(ザカ)が通るとすぐ閉じる花も、エイリン(エイリン)が近づけばまた開く。


小さな黒球のそばには、最初、虫が一匹も寄ってこなかった。


しばらくして、何もしないとわかると、光る蝶が戻ってきた。黒い毛の塊を何度も何度も回る。小さな黒球はまるで気にせず、毛にまとわりつきそうなほど濃い魔力の中にいるだけだった。


少し歩いてから、あたしは変だと思い始めた。


繁茂仙境(はんもせんきょう)は、たしか樹精(じゅせい)の場所だ。


それなのに、一人も見ていない。


歩く木がたくさんいると思っていた。なのにずっと森だけで、顔みたいに見える樹皮の一枚すらない。


ザカ(ザカ)が、ひどく密な林の前で止まるまでは。


「入るのか?」


アーロン(アーロン)は動かなかった。


「いや」


林の奥を見る。


「もう着いた」


あたしは彼の視線を追う。


何もない。


木。


やっぱり、木。


少しだけ苛立ってきた。


ここで立って木を見るだけなら、あの茸を調べに戻った方がいい。


そのとき、低い知らない声が響いた。


「また来たな」


全身の毛が一気に逆立った。


声は、どこか一つの方向から来たんじゃない。


葉の間、樹皮、土、周りの根から、一緒に滲み出してくる。ずっと昔から吹き始めていた風みたいに、遅い。


前の巨木が動いた。


根を抜いたわけじゃない。


枝だけが、とてもゆっくり動く。


幹のいくつかの割れ目が少しずつ開き、人とは似ても似つかない顔の形になった。本当の目も、口もない。


でも、アーロン(アーロン)を見ているのがわかった。


「どれほど経った?」


アーロン(アーロン)は少し考える。


「百年くらいだ」


樹精(じゅせい)は長いあいだ答えなかった。


数えているのかと思うほど、長く。


「まだ……百年か?」


あたしは少し驚いた。


自分が百年まで生きられるか、あたしにはわからない。


でも、あれにとっては、まだ、なのだ。


思わずアーロン(アーロン)を見た。


彼はそこに立ち、特に表情を変えていない。百年は彼にとって長いのか、短いのか。急に知りたくなった。


いつの間にか、隣の別の木の枝もこちらを向いていた。


もっと遠く。


また一本。


風は弱い。


それでも森じゅうの葉が、順に動き始めた。


一本。


十本。


もっと。


樹皮の裂け目を目のようにわずかに開く木もある。枝をこちらへ向けるだけの木もある。地下の根がかすかに盛り上がり、土を眠る獣の背中みたいに上下させるものもある。


ようやくわかった。


あたしたちは今、樹精(じゅせい)を見つけたんじゃない。


ずっと前から、樹精(じゅせい)の真ん中に立っていた。


目の前の森全体が、ほとんどみんなそうだった。


アーロン(アーロン)は昔話をしなかった。


ただあたしの手から薬袋を受け取り、一番奥の水晶瓶を出した。


金色の生の樹脂(せいのじゅし)が、夜の中で静かに光っている。


「これを届けに来た」


あの樹精(じゅせい)が枝を一本伸ばす。


ゆっくり水晶瓶を受け取った。


でも、樹脂を枝の上に置いたままにはしない。


近くの地面が細く裂け、黒土から細い根が一本のぞいた。小さな手のように水晶瓶へ絡みつく。


その金色の光を連れ、少しずつ地下へ沈んでいった。


続いて淡い緑の光が、根を伝って遠くへ流れる。


木から木へ。


もっと深いところへ消えていく。


滝に囲まれた巨樹のある方角だった。


樹精(じゅせい)は長く黙っていた。


「ありがとう」


それから、もう一度言う。


「母も、あなたに感謝している」


アーロン(アーロン)は、うなずいただけだった。


母が誰なのか、聞かなかった。


あたしも、今は聞かなかった。


用事が済むと、彼はかえって少し笑った。


「島を見て回るか?」


樹精(じゅせい)は拒まなかった。


「ご自由に」


少し止まり、枝を横へ向ける。


「それが、おまえたちについていく」


そちらを見る。


小さな木が一本あるだけだった。


あたしの半分くらいの背丈。細い幹に丸い葉が何枚か生え、普通の苗木とあまり変わらない。


次の瞬間、土がゆるんだ。


小さな木が、自分の根を一本ずつ抜く。


立ち上がる。


少し揺れた。


それから脚みたいな根で、ぺた、ぺたとあたしたちの前まで歩いてきた。


梢はうれしそうに、左右へ揺れている。


樹精(じゅせい)が好きにしろと言ったなら、あたしにはすぐ別の言葉に聞こえた。


今なら薬草を採っていい。


数歩も行かないうちに、さっきの白青の茸を見つけた。


何段もの傘が重なり、食べられる物とは思えないほど綺麗だ。これまでの経験では、綺麗なものほど大抵、人を殺したがっている。


少し観察し、根ごと抜こうと手を伸ばす。


小さな樹精(じゅせい)が細い枝を一本出し、あたしの手を押さえた。


「根のあるものは、取っちゃだめ」


あたしは止まった。


森の樹精(じゅせい)たちより早口だけど、やっぱり話を覚えたばかりみたいな遅さがある。


「じゃあ、どうやって採るの?」


小さな樹精(じゅせい)は枝を伸ばし、茸の傘の端をそっと一片だけ折って、あたしへ渡した。


茸は丸ごと、そこに残っている。


その小さな傘の欠片を受け取る。


「でも、薬草には根が大事なものもある」


小さな樹精(じゅせい)は梢を少し傾けた。


考えたらしい。


それから横へ歩き出した。


「来て」


ぺた、ぺたと進み、細く痩せた草の前へあたしを連れていく。茎は細く、先には白い花がたくさん咲いている。特に変わったところはない。


小さな樹精(じゅせい)はしゃがんだ。


まず熟した花を一つずつ潰し、細かな種を枝の手のひらへ落とす。それから種を隣の土へ揉み込み、押さえた。


最後になって根で土を掘り、その草を丸ごと抜いた。


そこで初めて見えた。


地上の茎は細いのに、地下の根は驚くほど太い。栄養のほとんどが、そこに隠れていた。


小さな樹精(じゅせい)は根をあたしに渡した。


「わかった?」


手のひらにある根を見る。


それから、さっき土へ戻された種を見る。


そしてノートを取り出した。


立派なことは何も書かなかった。


一つだけ書く。


根を採る前に、先に種を残す。


それから付け足した。


一部だけ取れるなら、株ごと抜かない。


繁茂仙境(はんもせんきょう)があたしに最初に教えたのは、それだった。


薬の効き目じゃない。


不思議な調合でもない。


どうやって、受け取るかだった。


いつの間にかジュミエン(ジュミエン)が近くへ来て、木炭筆で小さな樹精(じゅせい)を描いていた。


小さな樹精(じゅせい)は気づくと、梢全体を傾けて彼を見た。


「何してるの?」


「君を描いている」


ジュミエン(ジュミエン)が言う。


「どうして?」


年寄りは少し考えた。


「持って帰るためだ」


小さな樹精(じゅせい)も、長く考えた。


「ぼく、行かないのに」


ジュミエン(ジュミエン)の手にある筆が、一瞬止まった。


結局、彼は何も説明しなかった。ただうつむき、また描き続けた。


あたしは、もう次の植物へ向かっている。


茸。


花。


根。


果実。


樹皮。


数歩進むごとに、見たことのないものが一つあった。


遠くには、紫の森が広がっている。


そのもっと奥には、数え切れない滝に囲まれた巨樹がある。


この島は、端が見えないほど大きい。


今日見たものなんて、その身の葉一枚にもならないのかもしれない。


紙の隅まで文字で埋まったノートを見る。


それから、周りを見る。


小さな樹精(じゅせい)はまだそばに立ち、梢をかすかに揺らしていた。次の問いを待っているみたいに。


遠くから誰かが呼ぶ。


「コラ、行くぞ!」


あたしは、到底覚え切れない植物を見る。


それから、残り少ない紙を見る。


最後に残った考えは、一つだけだった。


今夜は寝られない。

生の樹脂は、無事に届けられました。


これで今回の任務も、ひとまず正式に完了です。


少し時間があるなら、島の中を見て回りましょう。


ついでに、繁茂仙境にしかない特別な素材も探してみます。


今回は、ちょっとしたつなぎの節として読んでいただければと思います。


あまり多くは語りません。


どうぞ第三節「残していく場所」をお楽しみに。

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