17-17 湖の向こう側
行きましょう。そろそろ、ここを離れる時です。
外には、まだたくさんの出来事が待っています。
皆さんは、覚えていますか?
風息谷の疫病。
それから、繁茂仙境の樹人へ渡すための品のことも。
あたしは長く見た。
湖はやっぱり湖だった。
水面は平ら。
光がその上に落ち、砕けた白い葉みたいに見える。
門はない。
穴もない。
出口に見えるものなんて、何もない。
ハーンが最初に湖辺を離れ、岩壁へ向かった。
ロイもついて行き、裂け目を調べる。
ヴァンスは矢先で湖辺の草むらを分け、下に通路が隠れていないか確かめた。
エイリンは水辺にしゃがみ、指先が水面へ触れそうになったところで、ヴァンスに手首を押さえられた。
「まだだ」
彼女は顔を上げる。
「ちょっと見るだけ」
ヴァンスは手を放さなかった。
「お前のちょっと見るは、たいてい飛び込むになる」
エイリンは瞬きした。
反論しなかった。
あたしも湖辺を一周した。
鼻にあるのは水の匂いだけ。
きれいな水。
とても深い。
山石の冷たい匂いが少し混ざり、湖辺の白い花からはかすかに甘い香りがした。
それ以外には、何もない。
あたしは小さな黒球を見た。
「出口ってどこ?」
小さな黒球は湖辺に浮かんでいて、あたしたちがなぜ散らばっているのか、まるでわかっていないみたいだった。
触手を伸ばし、もう一度湖面を指す。
「ここ」
ロイの声がそれの体から出てきて、少し変な感じがした。
ロイ本人は少し離れた場所に立ち、口を開けているのに声が出ないからだ。
あたしは湖を指した。
「これ、どうやって出るの?」
小さな黒球の答えは簡単だった。
「入る」
それは少し止まった。
「それから、出る」
エイリンの目が即座に輝いた。
体はもう前へ動いている。
ヴァンスが一気に引き戻した。
「戻れなかったらどうする」
引き戻されてから、エイリンはようやくその問題を思い出したようだった。
「それもそうだね」
少し考える。
「というか、どうやって餘暉号へ戻るの?」
その一言で、全員が静かになった。
出るのは簡単だ。
少なくとも小さな黒球は簡単そうに言っている。
でも餘暉号はまだ至頂群峰の中にいる。
あたしたちだけ外へ出たら、船はどうするの?
船の人たちは?
あたしは小さな黒球を見た。
それはまだ湖辺にいた。
自分がたった今どれほど大きな厄介事を投げたのかわからない黒石みたいに。
あたしは聞いた。
「あなたは一緒に来ないの?」
小さな黒球はすぐ答えた。
「行かない」
「僕は魔力を食べる」
「ここはいい」
アーロンはそれを見ていた。
「外も広いぞ」
彼は言った。
「魔力もある」
小さな黒球は少し縮んだ。
「行かない」
「僕はここに、とても長くいた」
その言葉はまだロイの声だった。
でも、どうしてか、あたしには少し古い匂いが聞こえた気がした。
一つの石が同じ場所で、長いあいだ水滴に打たれ続けたみたいな。
エイリンが少し近づいた。
ヴァンスの手がすぐついていく。
彼女は振りほどかず、ただ小さな黒球を見下ろした。
「あなたが知らないことを、もっと知りたくない?」
小さな黒球は答えなかった。
エイリンはまた聞いた。
「一人でここにいて、退屈じゃない?」
小さな黒球の触手がゆっくり丸まった。
長く黙る。
最後に聞いた。
「腹は満ちる?」
あたしは自分の薬包を見た。
中にはまだ蘊魔草がある。
でも、それが闇の生き物にとって食べ物になるのかどうか、あたしにはまったくわからない。
エイリンは、けれどそのまま手を伸ばした。
「じゃあ、私についてきて」
彼女は少し笑う。
「私が養うよ」
ヴァンスの眉間がすぐ皺になった。
「食べていいのは魔力だけだ」
彼は小さな黒球を見た。
「ほかは駄目だ」
小さな黒球はロイの声で答えた。
「ほかは食べなくていい」
その言葉で、あたしは熄灯船を思い出した。
目を借りる。
手を借りる。
名前を借りる。
借りたまま返さない。
それから白礁にいた、あの黒いもの。
短刀を握る手は、完全には緩まなかった。
エイリンも何かを思い出したらしく、聞いた。
「闇の生き物は、みんな誰かから何かを取るの?」
小さな黒球は長く考えた。
長すぎて、ロイが横で無言のまま口を動かし、早くしろと急かしていた。
「知らない」
小さな黒球は言った。
「僕が目覚めたとき、たくさんのものがなかった」
「欠けているものは、誰かから取れる」
触手が垂れた。
「最初から、そう知っていたみたい」
洞穴が少し静かになった。
あたしは急に少し気持ち悪くなった。
怖いわけではない。
ただ、あの「ちょっと借りる」を思い出した。
あれらは、目や手や声が好きだったわけではないのかもしれない。
ただ欠けている。
欠けているから取る。
腹が減ったら食べるみたいに。
でも取られた人は、相手がただ欠けていただけだからといって、痛みが減るわけではない。
エイリンが聞いた。
「じゃあ、あなたは取らないの?」
小さな黒球は答えた。
「取らない」
「僕が欲しいものは、君たちにはない」
「何が欲しいの?」
小さな黒球はまた黙った。
「知らない」
エイリンはそれ以上追い詰めなかった。
ただ、手を少し低くする。
「じゃあ、一緒に探そう」
小さな黒球はすぐには頷かなかった。
湖辺に浮かんだまま、触手をゆっくり巻いてはほどいた。
あたしたちも強制しなかった。
アーロンは話を戻した。
「俺たちが外へ出たら、船はどうすればいい」
小さな黒球は湖面へ向いた。
「水を持っていく」
アーロンはそれを見る。
「持ち出すのか?」
「うん」
「湖水がたくさんの水に触れると、門が大きくなる」
小さな黒球は少し止まった。
「少しのあいだ」
その言葉だけで十分だった。
アーロンはすぐ理解した。
彼はハーンに、一番密封のよい瓶を出させた。
ハーンは声がないので、とても不本意そうな顔で瓶を差し出すしかなかった。ロイは横で見ていて、とても楽しそうだった。
小さな黒球はロイの声を返した。
ロイはすぐ二度咳をした。
最初の一言は。
「俺の声、やっぱりいい声だな」
ハーンが彼を見る。
「聞き続けるとうるさい」
ロイはかなり安心したようだった。
ハーンの声は人を罵れる。
彼の声も戻った。
あたしたちは湖水を瓶に詰めた。
瓶に入ると、水は静かだった。
浮水みたいに上へ抜け出そうとする力はない。
光もしない。
ただの湖水に見える。
アーロンは計画を確認し直した。
まず湖をくぐって至頂群峰を出る。
それから外の海面から、もう一度巨坑へ入る。
餘暉号を見つける。
最後に、この瓶の水を船の近くへ持っていく。
船も外へ出す。
簡単に聞こえる。
簡単すぎて、必ず人を転ばせる穴みたいだった。
誰も反対しなかった。
ほかにもっといい方法がなかったからだ。
エイリンは最後に小さな黒球を見た。
「本当に来ない?」
小さな黒球は答えなかった。
湖辺に留まり、黒い体を水面へ映している。光のない影が一つ増えたみたいだった。
アーロンが最初に湖へ入った。
水が彼の膝を越える。
腰。
胸。
彼は振り返り、あたしたちを一度見た。
「入れ」
エイリンがすぐ続いた。
ヴァンスは彼女の隣につき、手はずっと彼女の手首から離れない。
ハーンとロイは水が冷たいと低く悪態をついた。
ザカは最後に縄と物資を確認した。
あたしは腰の水珠に触れた。
水珠は静かだった。
反対しているようでもない。
賛成しているようでもない。
あたしは息を吸い、湖へ飛び込んだ。
冷たい。
山腹湖の水が、一瞬で全身を包んだ。
耳の中には、くぐもった水音だけが残る。
あたしは前へ泳いだ。
指が水を裂く。
足は下へ蹴る。
頭上には岩壁があるはずだった。
はっきり覚えている。
山腹。
裂け目。
光の柱。
でも次に浮かび上がったとき、鼻が先に嗅いだのは湿った岩ではなかった。
塩だ。
あたしは勢いよく水面へ顔を出した。
青い空。
陽光。
海風。
本物の大海。
あたしは一瞬固まった。
次の瞬間、波が顔に打ちつけた。
海水を一口むせた。
アーロンは少し離れたところに浮いている。
エイリンが別の側から顔を出し、初めて見るほど完全に準備のない驚きを浮かべていた。
「これ、空間魔法じゃない……」
彼女は低く言った。
ヴァンスが彼女のそばへ泳いだ。
「先に人数を確認する」
あたしたちは一人ずつ浮かび上がった。
ハーン。
ロイ。
ザカ。
パフ一家は籠の中で、あたしにしっかり掴まれていた。四匹の小リスは全部一塊に寄っている。
そのとき、水面がまたふくらんだ。
濡れた黒い毛の塊が浮かび上がる。
小さな黒球。
結局、最後についてきたのだ。
エイリンはすぐ笑った。
どうして、と聞かなかった。
ただ手を伸ばし、その濡れた黒球を自分のそばへすくい寄せた。
「泳げる?」
小さな黒球は震えた。
海水が体から滑り落ちる。
答えはなかった。
でも、今少し後悔している気がした。
次の一番大きな問題は。
どうやって餘暉号へ戻るか。
あたしたちは正常な海面に浮いていた。
けれど遠くには、まだあの巨大な天坑がある。
海水が縁からなだれ落ち、世界全体が水をひっくり返しているみたいな音を立てていた。
エイリンは小さな黒球を見た。
「大きな鳥になれる?」
小さな黒球は少し止まった。
「大きな鳥?」
エイリンはすぐ身振りした。
手で翼を描き、背中を描き、人が乗れる大きさを描く。
ヴァンスは彼女を見る。
「本気か」
「泳いで下りるよりはいいよ」
その言葉には誰も反論できなかった。
小さな黒球はゆっくりエイリンの手から浮いた。
エイリンは目を閉じる。
小さな黒球が大きくなり始めた。
最初はただ膨らむだけ。
次に体が伸びる。
両側から巨大な翼が広がった。
もともとふわふわだった輪郭は、どんどん薄く、広く引き伸ばされていく。
最後に、それは本当に大きな鳥になった。
ただし、鳥の形だけ。
全身はなお、徹底した黒だった。
羽の色はない。
模様もない。
光がその体に落ちると、深い井戸の中へ落ちたみたいに消える。
近づいて触ると、まだ柔らかな毛に触れられた。
ただ、その毛は巨大な体の上ではほとんど見えない。
あたしたちは順にその背へよじ登った。
エイリンが一番前に座る。
アーロンはもう一度注意した。
「まず巨坑へ入る」
「餘暉号を見つける」
エイリンは頷いた。
黒い大鳥が翼を広げた。
風が海面を掠める。
それはあたしたちを載せ、巨坑へ向かって飛んだ。
一番危険なのは、海面と巨坑内部の境界を越えるところだ。
近づいた時点で、あたしは次に何が起きるかもうわかっていた。
わかっていても役に立たない。
まったく役に立たない。
黒い大鳥が境界を越える。
下方が突然変わった。
それまで足元にあった大海が、一瞬で丸ごと立ち上がったみたいになる。体の重さが別の方向へ強く引かれた。
さっきまで、あたしたちはその背に座っていた。
次の息には、ほとんど体の横にぶら下がっていた。
全員がすぐ毛、縄、互いの腰にしがみついた。
胃が掴まれてひっくり返されたみたいだった。
これが初めてではない。
二回目なら少しはましだと思っていた。
違った。
少しもましじゃない。
ロイの顔色はすぐ白くなった。
「みんな……うっ――」
吐いた。
あたしは顔をそらした。
同情ではない。
自分もつられて吐くのが怖かったから。
ひどく混乱した方向転換のあと、黒い大鳥はようやく姿勢を取り戻した。
あたしたちも、新しい下方を少しずつ受け入れた。
とても不本意に。
安定してから、あたしはようやくそれを見る余裕ができた。
これほど大きな鳥形になっても、小さな黒球は完全に黒いままだ。
遠くから見れば、たぶん巨大な黒い鳥形の輪郭にしか見えない。
表情はない。
目つきもない。
それでもエイリンは一番前に座ったまま、時々手を伸ばしてその首筋を撫でた。
それは反応しなかった。
彼女を振り落としもしなかった。
これはたぶん、いいことだ。
ロイとハーンはずっと下方を見ていた。
餘暉号を探している。
アーロンとヴァンスは交代で方角を確認した。
あたしに手伝えることは多くない。
今のあたしの一番大きな仕事は。
生きて上にいること。
落ちないこと。
高い場所から見ると、至頂群峰はますます一つの場所に見えなくなった。
遠い森。
雲に隠された地形。
ときおり閃く雷光。
中央群峰は後ろでゆっくり遠ざかり、一つの立ち上がった世界みたいに巨大だった。
あたしたちが一歩ずつ歩いてきた場所は、今では色と雲影と、見えなくなりそうな細い水線になっていた。
あたしは急に、ひどくばかばかしい気分になった。
本当に、あそこから出てきたんだ。
歩いてではないけれど。
時間はそのまま夕方になった。
あたしたちはまだ巨坑の底へは着いていない。
それでも速度は、餘暉号が最初に進んだときよりずっと速い。
この調子なら、明日には着けるかもしれない。
そう思った直後。
ヴァンスが突然顔を上げた。
「エイリン!」
次の瞬間、エイリンの体が横へ崩れた。
ヴァンスが一気に彼女を掴む。
ほとんど同時に、足元の黒い大鳥が崩れ始めた。
翼が縮む。
背がすぼまる。
巨大な体が水に吸い戻されるみたいに、元の小さな黒球へ急速に縮んでいく。
全員が一瞬で支えを失った。
下へ落ちる。
風が耳元を引き裂いた。
あたしはパフの籠を掴むことしかできなかった。
それから、あたしたちは水へ叩き込まれた。
水面が炸裂する。
冷たい水が耳と鼻に流れ込んだ。
あたしは本能で上へ泳いだ。
アーロンとザカの反応が一番早い。
二人はすぐ主縄を掴み、全員をまた引き寄せた。水流に流されないように。
エイリンは短く目を覚ました。
顔色が怖いほど白い。
「ごめん……」
ヴァンスが彼女を抱えている。
「黙れ」
声は大きくない。
でも硬かった。
エイリンはまだ何か説明したそうだった。
小さな黒球は横に浮かび、元の大きさに戻っている。
彼女を攻撃しない。
逃げもしない。
あたしはそこでようやく、胸の中の心臓を戻せた。
少なくとも、突然本性を現したわけではない。
ただエイリンが、また限界を越えて頑張りすぎただけだ。
アーロンはすぐ判断した。
「ここに留まれない」
彼は遠く、水面から突き出た岩群を指した。
距離は遠い。
でも近くに、これよりましな足場はない。
あたしたちは泳ぐしかなかった。
エイリンは意識がなく、ヴァンスとザカが交代で支えた。
速度は苛立つほど遅い。
途中でヴァンスは小さな黒球へ魔力を渡し、人を載せられる魚か、せめて人を引ける何かに変えようとした。
小さな黒球は確かに変われた。
ただ、すぐ縮んで戻る。
ヴァンスの顔色も悪くなった。
そこであたしは本当にわかった。
エイリンがあれほど大きな鳥形を保たせ、半日以上飛ばせたこと自体、とてもとんでもないことなのだ。
普段はうるさい。
でも本当に強い。
数刻かけて、あたしたちはようやく岩の上へ這い上がった。
全員、ほとんど動けないほど疲れていた。
全身ずぶ濡れ。
しばらく誰にも火を起こす力がなかった。
あたしは石の上に伏せ、自分が波に打ち上げられた魚みたいだと思った。
しばらくして、エイリンが短く目を覚ました。
ヴァンスは彼女のそばで見守っている。
彼女は顔を向けた。
「ヴァンス」
「ああ」
「……ごめん」
ヴァンスはただ答えた。
「次は早く言え」
エイリンは彼を見た。
それから、かすかに笑った。
彼女は突然近づいた。
ヴァンスの頬に、軽く口づけた。
そしてまた目を閉じ、すぐ眠ってしまった。
あたしはちょうど全部見ていた。
ヴァンスの顔は、はっきり赤くなった。
あたしは最初、自分しか見ていなくてよかったと思った。
次の瞬間、ヴァンスはもうこちらを睨んでいた。
目が合う。
あたしは何事もなかったように、顔を別の方向へ向けた。
*どうやら片思いではないらしい。*
アーロンはいつも休むのが早い。
ほどなくして、彼はもう立ち上がり、火を起こしていた。
「食べよう」
みんなはようやく火のそばに座り、服を乾かし、力を補った。
さらに少し休んでから、エイリンが二度目に目を覚ました。
今度は少し安定している。
あたしは前に用意していた雷脈草と蘊魔草の湯を渡した。
彼女が飲むと、顔色はゆっくりよくなった。
そこであたしも本当に安心した。
全員がもう一度彼女に警告した。
無理をするな。
その言葉は何度も言った。
彼女が何回聞き入れたかは、わからない。
とにかく、湯はあと二瓶残っている。
エイリンが見積もると、残りの道を支えるには足りるらしかった。
翌日、あたしたちはまた出発した。
今回は誰も、エイリンに一度で自分を空にさせなかった。
小さな黒球も、あれほど長く大型の体を維持しない。
少し飛ぶ。
少し休む。
また少し飛ぶ。
速度はかなり遅くなった。
でも、ずっと順調だった。
高度が下がるにつれ、あたしたちはようやく巨坑の底へ近づいた。
新しい問題が出てきた。
餘暉号はどこ?
巨坑は広すぎる。
空中にいても、一隻の船を見つけるのは難しい。
海、霧、山影、漂う水道が、全部下で一つに混ざっていた。
アーロンはザカを見た。
「ザカ」
ザカはすぐ理解した。
彼は深く息を吸った。
胸と肩背が一緒に広がる。
それから、世界全体へ向けて吠えた。
「位置――!」
声は巨坑と山壁に沿って広がっていった。
最初は返事がなかった。
あたしは、この方法は単純すぎるのではないかと疑い始めた。
しばらくして。
ハーンが突然遠くを指した。
「あそこだ!」
遠くで煙柱が一本、立ち上がっていた。
餘暉号の人たちが聞いたのだ。
あたしたちは煙の位置を追って戻った。
巨大な黒い鳥形の生き物が船へ向かって飛んでくるのを見て、餘暉号の人たちはすぐ警戒に入った。
弓。
刀。
銛。
それから、嵐よりひどい顔をしたクレイゲン。
十分近くまで降りると、アーロンが先に声をかけた。
船上の警戒は、ようやく少しずつ下がった。
完全にではない。
特にオーブリーとリック。
彼らが小さな黒球を見る目は硬かった。
オーブリーはレックスを忘れていない。
リックも白礁を忘れていない。
あたしたちは、それに敵意はなく、ここまで戻る手助けもしてくれたと説明した。
オーブリーは冷たく言っただけだった。
「そんなものをそばに置いたこと、いつか後悔する」
誰も、彼に信じろとは強制しなかった。
彼には闇の生き物を嫌うだけの理由がある。
船に戻ると、みんなそれぞれ休んだ。
エイリンとヴァンスは先に回復へ向かった。
ザカは道中ずっと力を使っていたので、そのまま眠りに行った。
ロイは意外なほど元気だった。
彼は生きて至頂群峰の旅をやり遂げた。
今歩くとき、顎がいつもより少し高い。
たぶんこれからは、誰も彼をただのほら吹き水夫とは呼べない。
アーロンは休まなかった。
彼はそのままクレイゲンのところへ行った。
そして告げた。
「出口を見つけた」
クレイゲンの最初の反応は、彼を睨むことだった。
とても妥当だ。
アーロンがそのあと話した計画は、要するに。
餘暉号を、壁に垂直に立っている海へ向けて進ませる。
そして突っ込む。
クレイゲンは聞き終えると、長く沈黙した。
「お前、死に飽きたから俺もついでに連れていく気じゃないだろうな」
アーロンは言った。
「ほかの死に方も選べる」
クレイゲンは悪態をついた。
最後には、水夫たちに方向転換の準備をさせた。
あたしが船首へ行くと、アーロンはそこに立ち、峭壁の海を見ていた。
「何をするの?」
「壁に門を作る」
あたしはすぐ理解した。
もし湖水が至頂群峰の中の大量の水に触れれば、近くの水を短いあいだ出口に変えられるのなら。
あの瓶の水を峭壁の海へ注げばいい。
壁の海が、一時的に門になる。
餘暉号はそこへまっすぐ突っ込むだけでいい。
だけ。
あたしはこの二文字が大嫌いだ。
船が加速し始めた。
前方には、垂直に立つ峭壁の海。
水は高い場所から落ち、何かの方向に引き留められている。海全体が生きた壁みたいで、轟音が船板を圧していた。
距離がどんどん縮む。
アーロンは保存していた湖水の瓶を投げた。
湖水が瓶からあふれ出す。
峭壁の海に混ざる。
その小さな海面の様子が変わり始めた。
どこが変わったのか、あたしには言えない。
匂いはまだ水。
波もまだ波。
でもその水面には突然、別の何かがあった。
まるで向こう側に、本当にどこかが存在しているみたいに。
あたしはアーロンを見た。
「アーロン、これ本当にうまくいくんでしょうね」
アーロンはただ手を上げ、安心しろという仕草をした。
これから船ごと壁へ突っ込もうとしている人には、まったく見えない。
餘暉号は速度を落とさなかった。
計画を全部知らない水夫も何人かいる。
峭壁の海が目の前へ迫ってくるのを見て、とうとう誰かが叫んだ。
「船長! ぶつかるぞ!」
クレイゲンは舵を握っている。
返した言葉は一つだけ。
「ぶつけるんだ!」
餘暉号は峭壁の海へ頭から突っ込んだ。
一瞬。
船首から船尾まで、船全体が完全に水の中へ沈む。
あたしもまた海水に呑まれた。
最初に浮かんだ考えが、なぜかこれだった。
*やっぱりまたこれ。*
この旅で、何度水に浸かったのかもうわからない。
あたしはこんなことが一番嫌いなのに。
方向がまた変わる。
船はもともと前へ進んでいた。
今は、どこか巨大な水底からものすごい速さで上へ浮かんでいるみたいだった。
あたしは本能で泳ごうとした。
次の瞬間、下方の餘暉号も浮き上がってくる。
船体があたしを引きずるように、光へ向かって突き進んだ。
光がどんどん明るくなる。
そして。
ざばっ。
あたしの体はまるごと水面を突き破った。
最初にしたことは、大きく息を吸うこと。
あたしは甲板へ落ち戻った。
全身ずぶ濡れ。
木板の上に仰向けになった。
立ち上がった海はない。
峭壁もない。
逆さの山もない。
浮かぶ森もない。
変な方向から落ちる水もない。
あるのは空だけ。
普通の空。
海風が耳元を吹き抜ける。
鼻の中に、懐かしい匂いがまたいっぱい詰まった。
塩。
濡れた木。
帆布。
魚の生臭さ。
水夫たちの汗。
それから、もう長く嗅いできた餘暉号の古い船の匂い。
どれもこれも、どうしようもないほど普通だった。
あたしは横になったまま、すぐには起きなかった。
ただ、もう一度深く吸った。
今度は。
風は海面から来る。
水は足の下にある。
空は頭の上にある。
すべてが、あるべき場所にあった。
餘暉号は、ようやく普通の大海へ戻ってきた。
おめでとうございます。ついに至頂群峰から抜け出しました。
皆さんが今、いちばん気になっているのは何でしょうか。
永生の謎?
世界にある遺器のこと?
大災害を引き起こした「別の何か」?
それとも……
エイリンとヴァンスの恋模様?
ははは。
第十八章も、できるだけ早く書き上げます。どうか、もう少しだけお待ちください。
感想やご意見を残していただけたら、一つひとつ真剣に受け止めて考えます。




