17-15 増えた影
真っ暗な洞窟の中で、火の光が皆の影を岩壁に映しています。
……待ってください。
影が一つ、多くありませんか?
あたしたちは洞穴の奥へ進んだ。
入口に残っていた自然光は、曲がった岩壁にすぐ呑み込まれた。
闇が四方から押し寄せてくる。
急に暗くなったわけじゃない。
一歩ずつ、背後に残ったあのわずかな光を剥ぎ取っていく。
ハーンは最初、松明を何本か増やそうとした。
アーロンが手を伸ばし、彼の手を押さえた。
「今は残しておけ」
ハーンが彼を見る。
「ここ、鍋底みたいに暗いぞ」
「どれだけ深いかわからない」
アーロンは、頂の見えない洞壁を見上げた。
「空気がどう流れているかもな」
ハーンはごく低く悪態をついた。
結局、松明は二本だけ残した。
一本は前。
一本は後ろ。
火が減ると、洞穴はすぐずっと大きくなった。
前方は数歩先までしか見えない。それより遠い石柱、裂け目、岩壁は、全部闇の中へ混ざっていく。水滴の音が、ときどきどれほど遠いのかわからない場所から聞こえた。落ちて、響いて、また別の岩壁に受け止められる。
方向がわからない。
鼻も役に立たなかった。
ここの匂いは古すぎる。
冷たい石。
湿気。
ごく淡い金属の匂い。
それから、言い表せない空っぽさ。
ずっと昔、何かがここに住み、自分の匂いを残して、それが時間に一層ずつ削られていったみたいだった。
ハーンが冗談を言おうとした。
「案外、もう誰も住んでないかもな」
ロイがすぐ言った。
「墓標を立てるみたいな声で言うの、やめてくれない?」
ハーンは少し笑った。
誰もつられて笑わなかった。
洞穴に入って少ししてから、あたしはずっと誰かに見られている気がしていたからだ。
あるときは後ろから。
あるときは頭上から。
一度なんて、視線が岩壁の中から這い出て、あたしの耳に沿って通り過ぎた気さえした。
あたしは振り返った。
いるのはロイだけ。
彼はあたしに見られて、わけがわからない顔をした。
「俺の顔に何かついてる?」
「ついてない」
「じゃあなんでずっと俺を見るんだ?」
あたしは答えなかった。
自分でも何を見ているのかわからなかったから。
ザカはずっと何も言わなかった。
ただ、いつからか、彼の手は武器から離れなくなっていた。
エイリンは隊列の真ん中を歩き、杖を握っている。眉間の皺はどんどん深くなった。
さらに少し歩いたところで、彼女が急に止まった。
「近くに何かいる」
全員がすぐ止まった。
松明の火舌が揺れる。
岩壁の影も、伸びて、縮んだ。
自分の心音が聞こえた。
遅い。
それなのに、うるさい。
ヴァンスが声を低くした。
「どこだ」
エイリンは目を閉じた。
杖を握る指が、かすかに強くなる。
「わからない」
彼女は目を開けた。顔色があまりよくない。
「位置がずっと変わってる」
アーロンは前方を見た。
「考えすぎるな」
彼は言った。
「行こう」
その一言で、あたしは安心できなかった。
アーロンが「考えすぎるな」と言うときは、たいてい、たくさん考える価値があるという意味だから。
隊列はさらに奥へ進んだ。
洞穴の景色は繰り返し始めた。
石柱。
裂け目。
滴る水。
低い洞道。
また、火にかすめられた岩壁。
松明が動くたび、あたしたちの影は何度も岩壁に沿って伸び、また縮んだ。長いときは、もう一群の黙った人たちがあたしたちについて歩いているみたいで、短いときは足元の黒い塊だけになる。
あたしは退屈まぎれに数え始めた。
一。
二。
……
八。
あたしは止まった。
あたしたちに八つ目の影はない。
もう一度数え直す。
アーロン。
エイリン。
ヴァンス。
ザカ。
ハーン。
ロイ。
あたし。
七人。
違う。
パフ一家は籠の中だから、数えない。
あたしはまた岩壁の影を数えた。
一。
二。
……
七。
また七つに戻っている。
背中の毛が全部逆立った。
「止まって」
全員が振り向いた。
火光がその動きにつられて乱れ、影が寄り集まり、歪み、重なり、足元へ縮んだ。
増えていた一つは消えていた。
ヴァンスがあたしを見る。
ザカも岩壁を見ていた。
あたしは長く見つめた。
何もない。
あるのは火。
石。
それから、あたしたち自身の影だけ。
ロイが小声で聞いた。
「どうした?」
喉が少し乾いていた。
「何でもない」
その二文字を口にしたとき、あたし自身も少しも信じていなかった。
隊列はまた前へ進んだ。
数歩も行かないうちに、エイリンがそっとあたしの隣へ寄ってきた。
彼女はあたしを見ず、声だけを低くする。
「あなたも見たんでしょ」
あたしの尻尾が強張った。
だから、見間違いじゃなかった。
エイリンはとっくに気づいていた。
あたしたちは一緒にザカを見る。
ザカもちょうど振り返った。
目が深く沈んでいる。
言葉はいらなかった。
ここからは、前だけを見ていればいいわけじゃない。
異変は、思ったより早く来た。
黒い影が前方の巨石の後ろから、体を半分だけ覗かせた。
人の頭ほどの大きさ。
五官はない。
はっきりした輪郭もない。
火に引っ張られる方向を間違えた黒布みたいだった。
こちらの視線に気づくと、それはすぐ巨石の後ろへ引っ込んだ。
ザカは迷わなかった。
山刀を提げて突っ込む。
刀の背が、人の背丈ほどある岩に叩きつけられた。
轟。
裂け目が石面に沿って弾けた。
けれど、ほとんど同時に、あたしはわずかな変化を嗅いだ。
匂いが濃くなったのではない。
匂いが切れた。
前方には何もいない。
本物は前じゃない。
「後ろ!」
あたしはハーンの襟を掴んで引いた。
ハーンは体勢を崩し、前へ倒れ込む。
次の瞬間、実体のない黒い影が、彼がさっき立っていた場所をかすめた。
冷たさが、あたしの手の甲をすれすれに撫でる。
傷はない。
なのに手を冷水へ突っ込まれて、押さえつけられたみたいだった。
ロイが悪態をついた。
ヴァンスの矢はもう弦にかかっている。
「闇の生物だ」
彼の声は低い。
ハーンとロイは、それが何を意味するのかわからない。
でも、あたしたちはわかる。
白礁。
取られたのに返ってこなかったものたち。
あたしの手は一瞬で短刀を握りしめた。
さっきまで松明を増やすなと言っていたアーロンは、今度は逆に袋から短い松明を何本か抜いた。
彼は火をつけた。
四方へ投げる。
一本は裂け目のそばへ転がった。
一本は石柱にぶつかった。
一本は低い岩台に落ちた。
火光が一気に広い闇を引き裂く。
あたしたちは互いに背を預けた。
洞穴が静かになった。
松明が油布を焼き割る細い音まで聞こえるほどに。
数息のあと。
小石が一つ、岩壁から転がり落ちた。
かつ。
全員が同時に振り向いた。
別の巨石の後ろで、何かが少し縮んだ。
ヴァンスが弓を上げる。
ザカも体を低くした。
けれどアーロンが手を伸ばし、二人を止めた。
「待て」
ほとんど同時に、エイリンも口を開いた。
「待って」
あたしはそのものを見た。
それは白礁の闇の生物とはまったく違っていた。
とても小さい。
人型と呼ぶことすらできない。
全体は黒い肉の球みたいで、人の頭ほどしかなく、体から細長い黒い触手が何本か伸びている。はっきりした目も、口もない。
人の手足を裂けるものには、ますます見えなかった。
エイリンはしばらく丁寧に感じ取った。
「悪意はない」
ヴァンスは弓を下ろさなかった。
あたしも短刀を緩めなかった。
エイリンが悪意はないと言っても、危険ではないとは限らない。
ただ自分のやり方で生きているものだってある。
そして人は死ぬ。
アーロンがゆっくり近づいた。
エイリンもついて行こうとした。
ヴァンスが彼女の手首を掴む。
エイリンが振り返って彼を見た。
ヴァンスはただ言った。
「駄目だ」
彼女は口を開きかけた。
結局、言い返さなかった。
熄灯船のあと、ヴァンスは「借りる」とか「ちょっと見る」とかいうものに、明らかにあまり我慢がなくなっていた。
小さな黒球はアーロンが近づいても逃げなかった。
むしろ触手を二本伸ばし、何度も身振りした。
動きは急いでいる。
そして少し不器用だった。
話せない人が、全身を使って相手に理解を急かしているみたいだった。
アーロンはその前で止まり、長く見下ろした。
彼の表情がゆっくり変わっていく。
怖がっているわけではない。
困惑でもない。
もっと、ずっと昔に誰かが言った言葉を聞いたような顔だった。ただ、その声がまだ出ていない。
彼は突然振り向いた。
「ハーン」
ハーンは地面から這い起きたばかりで、襟元はまだあたしに引っ張られて歪んでいた。
「何だよ」
アーロンが聞く。
「声を借りてもいいか?」
洞穴の中が一瞬静かになった。
ハーンは瞬きした。
「……何を借りるって?」
「声だ」
全員の表情が、とても悪くなった。
特にヴァンス。
彼は「借りる」という言葉を聞いた瞬間、弓弦をほとんど引き絞り直していた。
あたしも自分の喉に触れた。
熄灯船の上で、何かが借りると言った。
目。
手。
名前。
使い終わったら返す。
でも闇の生物は返さない。
ハーンには、あの経験がない。
彼は小さな黒球を見て、それからアーロンを見た。
「返すんだよな?」
アーロンは頷いた。
「返す」
小さな黒球も、体全体でこくこく頷いた。
その動きは少しおかしかった。
でも誰も笑わなかった。
ハーンはしゃがんだ。
「返さなかったら、お前が代わりにロイを罵れ」
ロイがすぐ顔を上げた。
「なんで俺を罵るんだ?」
ハーンは答えなかった。
細い黒い触手が、そっと彼の喉へ触れた。
ハーンの体が強張る。
血はない。
傷もない。
しばらくして、彼は口を開こうとした。
口は動いた。
声は出ない。
彼は自分の喉に触れ、二度咳をした。
それでも何も聞こえなかった。
ロイの顔色が変わった。
ハーンはすぐ手を上げ、自分は大丈夫だと言うようにした。
あたしたちがまだ荒唐無稽だと思っていると、横にいた黒い小球が声を出した。
ハーンの声だった。
掠れている。
低い。
船乗りの声の中にある、塩で擦られた砂みたいな感じまで、そっくり同じ。
けれどそれが言った最初の一言で、アーロンの表情は一瞬で変わった。
「遅かったね、祈願者」
火が揺れた。
アーロンはすぐには答えなかった。
ただ、その小さな黒球を見ている。
長く。
あたしが、彼は言うことがないのではないと思い始めるくらい長く。
言葉が多すぎて、詰まっているのだと。
ハーンが一時的に声を失った以外、ほかに異常がないと確認してから、あたしたちはようやく少しずつ近づいた。
ハーンは石のそばに座り、喉を触っている。顔はとても不機嫌だった。
ロイが彼の隣にしゃがんだ。
「今は俺を罵れないな」
ハーンは彼を振り向いた。
声はない。
でもその目つきは、とてもはっきり罵っていた。
小さな黒球はアーロンを見ていた。
あるいは、見ている気がした。
目はない。
「彼女はもうここにいない」
アーロンがようやく口を開いた。
「俺を知っているのか?」
「知っている」
小さな黒球はハーンの声で答えた。
「君はまだ死んでいない」
周囲が一瞬静まった。
あたしは松明が燃える音を聞いた。
どこかの岩の裂け目から水滴が落ちる音も。
そして、アーロンの呼吸が一度止まったのも聞いた。
とても短い。
洞内があまりに静かでなければ、聞き逃していたかもしれない。
「彼女がここにいない、というのは、君と一緒に来たあのエルフの女性のこと」
それは少し止まった。
小さな黒球は触手を一本伸ばし、エイリンを指した。
「今のこの子じゃない」
エイリンは一瞬固まった。
ヴァンスの眉間の皺がさらに深くなる。
アーロンはその補足には構わなかった。
ただ聞いた。
「お前は全部見ていたのか?」
「いいえ」
小さな黒球は言った。
「少なくとも、全部ではない」
触手がゆっくり体のそばへ戻る。
「君たちはここへ来た」
「君たちは願いをかけた」
「あの方が、君たちに応えた」
あたしの耳が動いた。
あの方。
至頂群峰の中では、その言葉が急に重くなる。
水珠はあたしの腰で静かにしていた。
揺れない。
冷たくもならない。
知らせてもこない。
小さな黒球は続けた。
「だから君は、今日まで死なずにいる」
あたしは少し混乱した。
それが言う「彼女」。
それが言う「あの方」。
アーロンの過去。
百年以上。
すべてが洞穴の冷たく湿った空気の中で混ざり合い、深い潭に水滴が落ちるみたいだった。音は小さいのに、沈んだ先が見えない。
それでもアーロンは、とても真剣に聞いていた。
遮らない。
冗談も言わない。
あたしたちは最後に、洞穴の別の少し平らな場所で一時休むことにした。
松明は岩の隙間へ差し込まれている。
光は低い。
ハーンはまだ話せず、横に座って、自分の声が黒球から出てくるのを聞いている。
その表情は、あの黒球をロイの背負い袋に突っ込みたそうに見えた。
アーロンと小さな黒球の会話は続いた。
彼が一番気にしているのは、あの言葉だった。
「お前は、あの方が俺に応えたと言ったな?」
小さな黒球は、彼の疑問がわからないようだった。
「そう」
「違うの?」
アーロンの声が変わった。
とても軽い。
なのに、いつもより冷たい。
「この呪いのことを言っているのか?」
小さな黒球は少し止まった。
「違う」
ハーンの声が、それの体から出てくる。
「永遠に生きることは、君が望んだことじゃないの?」
「君たち二人が」
アーロンは沈黙した。
今度の沈黙は、洞穴全体が彼の動きを待っているみたいに長かった。
彼の指がかすかに強張るのが見えた。
そして、ほどける。
彼は聞いた。
「でもティナはもういない」
小さな黒球が答える。
「彼女は確かに、ここにはいない」
あたしは顔を上げた。
その言い方は違う。
ここにいない。
死んだ、ではない。
アーロンにも、それは聞き取れていた。
彼は小さな黒球を見る。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味」
小さな黒球の触手は石面に垂れていた。
「彼女は群峰を離れた」
「違う」
アーロンの返事は速かった。
その言葉が洞穴に一息ぶん長く残ることさえ、許さないみたいに速かった。
彼は少し止まった。
声が低くなる。
「彼女はあの年に死んだ」
あたしは初めて、アーロンがそう言うのを聞いた。
推測ではない。
物語でもない。
いつものように、本当の傷を冗談の下へ隠した言い方でもない。
彼は本当に信じていた。
百年以上。
洞穴でまた水滴が一つ落ちた。
小さな黒球は言い直さなかった。
ただハーンの声で、静かに答えた。
「いいえ」
火光がかすかに揺れる。
黒い小さな体は、地面に目立たない影を一つ落としていた。
「君たちは、二人とも永生を得た」
よかった。皆、無事でした。
少なくとも、この闇の生き物は人を傷つけるものではないようです。
とはいえ、やはり声を「借り」ていきました。今回は本当に借りるだけで、ちゃんと返してくれるようです。
以前、エイリンが視力を「借り」られた時と同じですね。
しかも、あの存在はたくさんのことを知っているようです。
百年以上前、アーロンとティナがここへ来た時に何が起きたのかまで知っています。
……待ってください。
アーロンとティナは、二人とも不死を得たのですか?!
どうぞ第十六節「災厄の証人」をお楽しみに。




