17-14 |浮空水潭《ふくうすいたん》
さあ、皆さん。山を登りましょう。
登山をしたことはありますか?
なかなか大変ですよね。
主人公たちにとっても、同じことです。
双墜林を離れると、道はずいぶんすっきりした。
いつでも閉じ合って人を食べようとする灰幕はない。
別の方向から落ちてくる折鳴獣もいない。
森全体が突然頭上へひっくり返ることもない。
山間は、下よりむしろ静かですらあった。
本当なら、喜ぶべきだった。
けれど半日歩いたあと、あたしは少なくとも目に見える怪物たちが恋しくなり始めた。
だってこの山、歩いても終わらない。
本当に終わらない。
中央群峰は遠くから見れば、ただ恐ろしく大きな山の集まりだった。実際に登ってみると、それぞれの主な山体が、自分だけの土地みたいなものだとわかる。山腹には草地があり、窪んだ谷があり、水音があり、木があり、果ての見えない岩階まである。
もちろん、あたしたちは真っすぐ上へ登れない。
ザカならできるかもしれない。
あたしも少しなら耐えられると思う。
でもハーンとロイは無理だ。
物資を背負ったヴァンスとエイリンだって、毎日命を賭けて岩壁に張りつくわけにはいかない。
だから傾斜の緩い山階を探すしかなかった。
問題は、緩い坂ほど山に沿って回りたがること。
ぐるぐる。
確かに上がってはいる。
けれど多くの場合、あたしたちは終わりのない壁の周りを歩いているみたいだった。
一度、朝には頭上左側にあった突き出た岩が、半日後に頭上右側へ現れたことがある。
それはまだ頭上にあった。
ただ方向が変わっただけ。
あたしは立ち止まって、それを長く見つめた。
ロイもつられて見上げた。
「あの石、見たことない?」
「うん」
「じゃあ道を間違えた?」
「違う」
「それ、もっと悪いな」
あたしは反論しなかった。
だって彼の言う通りだったから。
さらに面倒なことに、みんなでエイリンのズルを禁止した。
大きな急坂に出会うたび、エイリンの手はゆっくり上がり始める。
あたしが見る。
ロイが見る。
ハーンも見る。
最後にヴァンスが一言足す。
「歩け」
エイリンは手を下ろすしかなかった。
大気精霊に「親切に手伝って」もらう経験を何度かしたあと、あたしたちはみんな、自分の両脚のほうが少なくとも止まり方をわかっていると思うようになった。
高風山階は荒涼としているわけではない。
剥き出しの山稜には、地を這う草、厚い苔、岩肌に貼りついて育つ少しの植物しかない。葉はどれも低く厚く、同じ方向へ伏せている。風に吹かれ、永遠に頭を上げられないみたいだった。
けれど風下の窪谷へ入ると、緑が急に現れる。
草葉は幅広く厚く、足首を越える。
太い根は縄のように、自分を岩へしっかり巻きつけていた。
低木は窪地の中央に隠れ、樹冠は風で同じ側へ傾いているのに、根だけはその木自身のものとは思えないほど太い。
ここにある植物の種類は多くない。
でも生き残ったものは、どれも力いっぱい伸びている。
まるで全部が、一つのことを覚えたみたいに。
まず掴め。話はそれから。
あたしたちは山間の緑地で休んだ。
近くには実をつけた低木が一、二本あった。果実は丸く瑞々しく、ようやくまともな食べ物の一種に見えた。
見た目は。
あたしはいつも通り、匂いを嗅ぎ、切り開き、汁を試し、小さく一片を切った。
それから顔をしかめた。
すごく塩辛い。
ロイも一口かじった。
彼の表情はあたしより正直だった。
「これ、果物?」
「見た目はね」
「なんで塩水に漬けたみたいな味がするんだ?」
ハーンは嫌がらなかった。
長く歩いたあとで、あたしたちはかなり汗をかいていた。その果実はまずいけれど、水分と塩分を補うにはちょうどよかった。
だからみんな結局食べた。
ただ、二つ目を取るときに特別うれしそうな人はいなかった。
高度も体を不快にし始めた。
ハーンとロイが一番わかりやすい。
歩けないわけではないけれど、話が長くなると息が切れる。
ザカの呼吸音も普段より重かった。
あたしは最初、自分の状態は悪くないと思っていた。歩きながらエイリンへの文句を言っていて、途中で急に胸が足りないことに気づくまでは。
とても恥ずかしい。
だからあたしはすぐ口を閉じた。
アーロンは歩く速度を落とさせた。
「焦って吸い続けるな」
ロイが息を切らしながら聞いた。
「息が苦しいなら、多く吸うものじゃないのか?」
「焦るほど、呼吸が乱れる」
アーロンは一定の歩幅を保たせた。
ゆっくり吸う。
ゆっくり吐く。
少し歩いて、また止まる。
試してみて初めて、胸が確かにかなり楽になるとわかった。
エイリンはしばらくも静かにしていられず、また山下を指して話し始めた。
ヴァンスが彼女を見る。
「少し黙れ」
「私は息切れしてないよ」
「する」
エイリンは鼻を鳴らした。
でも彼女は地図を描き続けた。
高く立つほど、見えるものは増えていく。
至頂群峰の下には、あたしたちが歩いてきたいくつかの場所だけではない、はるかに多くの区域が散らばっていた。
ほとんど真っ白な土地がある。
地面は巨大な亀裂で覆われ、かつて湖が丸ごと干上がり、白い粉塵だけが風に巻き上げられているみたいだった。
エイリンは地図の横に書き込んだ。
乾竭の地。
反対側はまったく逆だった。
黒青色の水域がいくつもの山稜に囲まれている。これほど離れていても、水面がゆっくり押し寄せ、岸辺の低地を呑み込むのが見えた。しばらくすると、水はまた退いていく。
巨潮地。
さらに遠くには、赤黒い裂谷があった。
傷痕みたいに大地を横切り、視界の外まで伸びている。裂谷の両側では植生の色がまったく違い、まるで大地が二つの世界へ切り分けられたようだった。
エイリンは少しゆっくり書いた。
荒痕裂谷。
まだほかにもある。
遠すぎた。
エイリンでさえ輪郭しか記録できない。
そこに何が棲んでいるのかは、誰にもわからなかった。
エイリンは生態を見ている。
あたしは道を探していた。
高い場所から、外海へ戻れる道を、せめて早く山を下りられる道を見つけようとずっと思っていた。
ない。
水域、森、裂谷、盆地、浮雲が層になって重なっている。
まるで誰かが、通れない場所ばかりを積み重ねて世界にしたみたいだった。
ハーンとロイも見ていた。
彼らが見ているのは植物でも怪物でもない。
出口だ。
ハーンは遠くの水路を長く見つめていた。
「これだけの水なら、どこかへ流れているはずだ」
アーロンが言った。
「山の中へ流れている可能性もある」
それは楽しい答えではなかった。
アーロン自身も群峰を観察していた。
ある瞬間、彼は遠くの長い山稜を長く見つめた。
あたしも同じ方向を見る。
何もわからない。
アーロンは結局説明しなかった。
ただ、そのまま前へ進んだ。
午後、あたしたちは山壁に沿って伸びる狭い緑帯へ入った。
エイリンは岩壁に一番近い位置を歩いていた。
しばらくして、彼女が突然立ち止まった。
山体にとても細い裂け目がある。
外から見ると、せいぜいあたしが横向きで押し込めるくらいだった。
エイリンはしゃがんで覗いた。
それから本当に自分を押し込んだ。
「エイリン」
ヴァンスが止める前に、彼女はもう消えていた。
中は数息のあいだ静かだった。
次に聞こえてきたのは。
「わあ!」
全員がすぐ寄った。
あたしが最初に裂け目へ潜り込んだ。
ザカは外で入口を一目見た。
横向きで入るのが面倒だと思ったらしい。
だから、すでに緩んでいた岩を何個か直接砕いた。
落石を見たハーンの顔色はとても悪かった。
でも入口は確かに広くなった。
裂け目の奥は洞穴ではなかった。
二つの巨大な岩壁のあいだに隠れた露天夾谷だった。
頭上は完全に開けている。
青白い空は岩壁に細長く切り取られ、強風はさらに高い場所を吹き抜けていて、ときおり弱い気流が落ちてくるだけだった。
夾谷は深くないが、入口から見えるよりずっと広い。
低い草、苔、数株の背の低い植物が岩壁に沿って生えている。
エイリンが声を上げた本当のものは、中央にあった。
池ひとつ分の水が、丸ごと半空に浮かんでいる。
丸い水球ではない。
それはもとの池沼の、少し平たく広い形を保っていた。水草、小石、落ち葉さえ、いくつか一緒に地面を離れている。
その水潭の数尺下には、干上がった窪みがあった。
池底の輪郭は、空中の水体と完全に一致している。
岩壁には、かつての水線も見えた。
一部の水草の根は、今も下にある空の池へ向かって伸びている。
明らかだった。
この池の水は、昔は飛ばなかった。
ただ、ある日から池底にいたくなくなっただけだ。
夾谷の片側は少し外へ開いていて、浮池のそばに立つと、岩壁の切れ目越しに遠い山下の景色まで見えた。
一つの池が、脚がすくむほど高い山壁のあいだに、こうして掛かっている。
エイリンは登山の疲れを完全に忘れていた。
「飲んでみる?」
あたしは振り向いた。
「は?」
「ちょうど水を補充したいし」
その言い訳は、彼女自身も信じていなかった。
問題は、どう取るかだ。
水は地面から数尺の位置にある。
手を伸ばせば縁に触れられる。
でも払うと、水は変形するだけで、また全体へ戻ってしまう。
ハーンが何の容器を使うべきか考えているうちに、エイリンはもう低く大気精霊を呼んでいた。
風が彼女を支える。
次の瞬間。
どぼん。
彼女はまるごと浮空の水潭に潜り込んだ。
全員が固まった。
エイリンは水体と一緒に空中へ浮かび、その中で何度か泳いだ。彼女の頭が水面から出て、髪が顔の横へ張りつき、目が怖いくらい輝いていた。
「わあ、気持ちいい」
ヴァンスは目を閉じた。
もう止めるのを諦めたみたいだった。
ザカはしばらく見た。
それから彼も跳んだ。
また、どぼん、と音がした。
彼の体も水に包まれ、同じように地面へ落ちなかった。
しばらくして、ザカが水面から頭を出した。
「毛がきれいになった」
あたしは彼を見た。
この猟師も風呂を気にするんだ。
ハーンがとうとう我慢できずに言った。
「俺たちはその水を補給するんだぞ!」
ザカは周りを見た。
「飲んではいない」
そこは全然問題の中心ではない。
みんながまだ浮いた水の塊から一部を取る方法を考えていると、水潭の縁が突然動いた。
腕ほどの太さの水流がひとりでに離れる。
落ちない。
散りもしない。
そのまま空気の中を漂い、あたしの前で止まった。
アーロンとヴァンスもちょうどあたしの隣へ来ていた。
池の中のエイリンはそれを見ると、すぐ笑い出した。
「あはは、彼があなたに応えてくれた!」
あたしは一瞬反応できなかった。
「誰が?」
ヴァンスが言った。
「水精霊だ」
彼は少し止まった。
「きちんと感謝したほうがいい」
あたしは腰袋を見下ろした。
水珠の入った晶球を取り出す。
透明な水珠は中で静かにしていた。
表情はわからない。
当然だ。
水に表情なんてあるはずがない。
でも今のあたしには、彼がこちらを見ている気がした。
よく見ようとしたところで、その水流がまた小さな塊を分けた。
ゆっくり、あたしの口元へ漂ってくる。
あたしはそれを見つめた。
それから水潭の中のザカを見た。
*ザカに浸かった水?*
水塊が揺れた。
どうしてかわからないけれど、急かされた気がした。
アーロンが横で言った。
「拒めないぞ」
あたしは彼を睨んだ。
結局、口を開けて飲んだ。
最初は何も感じなかった。
次に、靴底が軽くなった。
あたしは下を向いた。
足がもう地面を離れていた。
「待って」
体はまだ上がる。
「ちょっと待って」
あたしは手足をばたつかせ始めた。
まったく役に立たない。
飛んでいるわけではない。
ただ体が突然、地面へ落ちることをあまり望まなくなっただけだった。
尻尾、耳、手足が全部空中でめちゃくちゃに動くのに、体はまだゆっくり上へ漂っていく。
エイリンは水の中でとても楽しそうに笑っていた。
あたしはあの一口を飲んだことを後悔し始めた。
最後にアーロンが縄を投げた。
あたしは掴んだ。
ザカが池から這い出し、ハーンと一緒にあたしを地面へ引き戻した。
効果はすぐには消えなかった。
だからあたしは縄で石のそばへ繋がれ、飛んでいきたがる皮袋みたいになるしかなかった。
続いて、全員にとって一番おなじみの段階に入った。
研究。
そしてあたしは最初の実験体だった。
あたしたちは少しずつ、いくつかのことを確認した。
少量飲むだけなら、体が軽くなるだけ。
もう少し多いと、体は本当に地面を離れる。
さらに多く飲んでも急に速く飛べるわけではないが、浮遊は長く続く。
重い荷物を持っていると、上昇速度は遅くなる。
物に水をかけても効果はない。
飲まなければならない。
煮沸すると、効果は完全に消える。
エイリンは半日調べても原因を言えなかった。
彼女に言えるのはこれだけだった。
「温めたら、あの感じがなくなっちゃう」
少なくとも煮た水は普通に水袋へ入れられるし、一日中袋口から上へ抜け出そうともしない。
煮ていない浮水は保存しにくい。
瓶の栓が少しでも緩いと、水が自分で上へ押し出てくる。
結局、あたしたちは少量だけ密封容器へ詰め、さらに縄でしっかり固定した。
ハーンは半空の池を見た。
それから、外の終わりの見えない山を見る。
「これで上がれる」
みんなが彼を見た。
彼も明らかに、山登りにうんざりしていた。
あたしは一番わかりやすい問題を出した。
「全員が浮いたら、誰があたしたちを地面へ引き戻すの?」
一瞬、誰も答えなかった。
あたしたちはたぶん、心の中で、どこかの精霊が口を開かないよう祈っていた。
「私!」
彼女はやっぱり口を開いた。
エイリンが興奮して手を上げる。
「大気精霊が、そっと私たちを山壁へ近づけてくれるよ」
あたしはヴァンスを見た。
ヴァンスは沈黙した。
あたしはまたアーロンを見る。
アーロンは、なんと考え込んでいた。
最後に彼は頷いた。
「できる」
一気に飛んで上がるわけではない。
彼らは分けて進むことにした。
浮水を飲む量を調整する。
一定の高さまで上がる。
山壁に近づく。
効果が切れたら休み、また続ける。
ザカは一番長い縄を取り出し、全員を順番につなげた。一人ひとりの腰には動ける余裕があるが、吹き散らされるほどではない。
ハーンは登攀鉤と重り袋を準備した。
パフ一家は籠ごとしっかり縛られた。
普通の飲み水と浮水も分けて置いた。夜中に誰かが間違って飲まないように。
ザカは最後に主縄を一度引いた。
「毛を落とすな」
彼が本当の毛のことを言っているのではないと、あたしにはわかった。
つまり。
一人も落とすな。
準備が終わると、全員が露天夾谷に立った。
それぞれの手には、事前に量った浮水がある。
アーロンが最後に確認した。
「全員、縛ったな?」
誰も反対しなかった。
みんな一緒に飲む。
足裏がゆっくり地面を離れた。
一尺。
二尺。
一本につながれた人の列が、だんだん上がっていく。
転がらない。
突然吹き飛ばされもしない。
想像より快適ですらあった。
エイリンは、大気精霊に少し横風を出してもらうだけでいい。あたしたちをそっと山壁へ押し、山体から離れすぎないようにする。
あたしたちはゆっくり上昇した。
すぐ岩の裂け目を越えた。
近くの低木も越えた。
それから、もう建物一つ分くらいの高さになっていた。
あたしは下を見る。
さっき休んだ山間の緑地が急速に小さくなる。半日かけて回り込んだ山道が、足元で曲がりくねって伸びていた。
歩けば長くかかる。
今はほとんど真っすぐ越えている。
本当に効果があった。
あたしは、自分はずっとエイリンを信じなさすぎだったのでは、とさえ疑い始めた。
その考えが浮かんだばかりのとき。
ザカが突然叫んだ。
「縄を掴め!」
山体の角の向こうから轟音が響いた。
狂風が隊列全体にぶつかる。
縄が一瞬で張り詰めた。
全員が別々の方向へ振り飛ばされる。
あたしはまるごと一回転した。
さらにもう一回。
誰かがあたしにぶつかった。
あたしも誰かにぶつかった。
ハーンの重り袋が空中で振り回され、ロイはもう少しで叩きつけられるところだった。
ヴァンスはエイリンを掴んでいる。
エイリンは風の中で詠唱し続け、大気精霊を呼んで全員を安定させようとしていた。
問題は、山風そのものがもう方向もなく乱れていることだった。
いくつもの風が、別々の谷と岩壁のあいだでぶつかり合っている。
大気精霊は確かに助けてくれている。
でもあたしにとっては、たくさんの見えない手が同時にあたしたちを別々の方向へ引っ張っているような感覚だった。
高い場所は空気がさらに薄い。
回転のせいで胃もひどくひっくり返る。
あたしはだんだん、ほかの人が何を言っているのか聞き取れなくなった。
ぼんやり聞こえるのは、エイリンが絶えず詠唱する声。
それからヴァンスの声。
次に、誰かが叫んだ気がした。
「あそこだ!」
あたしはどうにか目を開けた。
山壁に黒い裂け目がちらりと見えた。
エイリンも見た。
次の瞬間、風向きが急に変わった。
縄で繋がれた一列全員が、一緒に山壁へ飛んでいく。
あたしには岩が急速に大きくなるのだけが見えた。
それから。
何もわからなくなった。
目が覚めたとき、周囲は暗かった。
頭が痛い。
胃の中にも、まだ何かがひっくり返っていた。
あたしは目を開けた。
アーロンが隣に座っている。
「まだ吐きそうか?」
「……ここ、どこ?」
「先に少し飲め」
あたしは水を受け取った。
まず警戒して一目見た。
アーロンが補足する。
「煮てある」
それでようやく飲んだ。
ゆっくり起き上がると、周囲が見えた。
ここは山体内部の洞穴だった。
外の風音は、かなり遠い入口からしか入ってこない。ここまで届くころには、鈍い低鳴りに変わっている。
洞内にはほとんど気流がない。
荷物は近くに散らばっていた。
大半は残っている。
パフ一家も起きていて、籠の中で身を寄せ合い、頭を揺らしていた。
少なくとも、誰かが欠けてはいない。
エイリンとヴァンスは松明を持ち、片側の岩壁のそばに立っていた。
二人が何を見ているのかはわからない。
「何を見てるの?」
アーロンは少し沈黙した。
「ここには、人が住んでいた」
あたしは振り向いた。
「は?」
ここは中央群峰だ。
高さはもう、普通の集落がいられる場所をはるかに越えている。
入口だって、山壁の乱流の中に隠れていた。
誰がここに住むの?
あたしはエイリンたちのほうをよく見た。
火の光が岩壁を照らしている。
そこには大量の刻み跡があった。
適当に削られた線ではない。
それらは何度も現れ、互いに組み合わさり、固定された段落と間隔さえあった。
文字みたいだった。
ただ、誰にも読めない。
エイリンは精霊文字を試した。
違った。
自然霊語でもなかった。
ハーンにも見覚えがない。
アーロンも同じく見たことがなかった。
下から上へ並ぶ記号もある。
岩壁の窪みを囲むように書かれたものもある。
高い場所にもある。
地面にほとんど貼りつくほど低い場所にもある。
もっと奇妙なのは、刻み跡のそばに鑿で削ったような砕けがほとんどないことだった。硬い石へ無理に彫り込んだのではなく、石がまだ柔らかかったころ、何かが直接押しつけて作ったみたいだった。
洞穴そのものにも、不自然な痕跡がたくさん残っていた。
いくつかの石面は、長い時間をかけて磨かれたように滑らかだった。
いくつかの溝は、かつて何かを置くために使われていたらしい。
焚き火はない。
炭灰もない。
寝床もない。
普通の人が住んだあとに残すようなごみも見えない。
けれど、もっと奥へ続く通路が一本あった。
通路の中央には、あまり埃がない。
少し前に、何かが通ったみたいに。
あたしは反射的に腰の水珠に触れた。
彼はとても静かだった。
以前のように、自分から道を示すことはなかった。
そのとき、洞穴の奥からザカの声がした。
「おい、こっちだ」
続いてハーン。
「来て見ろ」
二人はさっきから、もっと奥を調べていた。
アーロンが立ち上がった。
彼はあたしへ手を差し出す。
「立てるか?」
あたしは彼の手を掴んだ。
脚はまだ少し柔らかい。
少なくとも歩ける。
「何を見つけたの?」
アーロンは暗い奥を見た。
「わからない」
彼は少し止まった。
「だから地元の人を探しに行く」
あたしは壁の、まったく知らない文字を見た。
それから埃のない通路を見る。
ふと、思った。
「人が住んでいた」ことは、たぶん一番心配すべきところではない。
本当の問題は。
ここの主人は、本当にもういないのか?
至頂群峰の周囲にある生態系は、これまで出会ったものだけではなかったようです。
まさか、山を下りる時にもまた出会うことになるのでしょうか?
ですが、まずはあの洞窟を見てみましょう。
ここには、誰かが住んでいた形跡があります。
いったい、誰が……?
どうぞ第十五節「増えた影」をお楽しみに。




