17-12 天へ落ちる
早く逃げて! 大変です。
ちなみに、この怪物はエイリンの記録では「折鳴獣」と呼ばれています。
とても恐ろしい捕食者です。
低い鳴りは一つだけではなかった。
最初の音がまだ承露苞の水面で震えているうちに、二つ目の低鳴が別の方向から響いた。
三つ目。
四つ目。
周囲で、あたしが太い藤だと思っていたものが同時に動いた。
枝の間に貼りついていた灰褐色の体が樹皮に紛れている。八本の鉤つきの長肢が離れる時、濡れた曲がり鉤が一本ずつ木から剥がれるみたいだった。
そのうち一匹が、上の雲上森林から体を離した。
落ちる。
でも落ちる先は、あたしたちの足元じゃない。
二つの森の間の白霧を抜け、まっすぐこちらへ砸ってくる。
同時に、別の一匹がこちら側の樹冠から離れ、上方のエイリンたちがいる位置へ落ちていった。
頭の中が一瞬空になった。
ここで上と下は役に立たない。
あるのは、あいつらがどこへ落ちるかだけだ。
「行くぞ」
ザカは返事を待たなかった。
片手であたしの後ろ腰の背帯をつかみ、もう片手でロイの肩後ろの荷袋紐を引っつかみ、樹根そばの斜面へそのまま跳んだ。
首が背帯で千切れかけた。
「ザカ!」
風が耳元を削る。
彼は下の太い枝へ着地し、膝を曲げ、今度はあたしとロイを肩に担ぎ上げて、さらに低い枝へ跳んだ。
あたしは彼の肩越しに振り返る。
あの怪物はもう中央の白霧を越えていた。
体の中央にある共鳴囊が裂けている。
あたしはそれを胸だと思っていた。
開いて初めて分かった。あれは口だ。
縦に長い口裂が囊膜の中に開き、内側へ曲がった細かな歯が何層にも並んでいた。低鳴はその口から溢れ出し、耳が痛むほど震わせる。
ロイは一目見ただけで、顔をザカの背中へ向けた。
「見た目は知らない方がよかった」
怪物が、さっきあたしたちのいた枝をかすめた。
鉤肢が閉じる。
大量の樹皮が弾け飛ぶ。
あいつは遠くまでは追ってこなかった。
あの白霧を通り抜けたあと、体が急に止まった。反対側の手に引き戻されたみたいに向きが変わる。長肢がまた高い枝をつかみ、灰褐色の体は樹冠の間へ貼り戻った。
また太い藤になる。
樹皮がまだ落ちていなければ、今のことは何も起きなかったと思ったかもしれない。
ザカは低鳴が聞こえなくなる場所まで退いて、ようやく止まった。
あたしたちを地面に下ろす。
あたしは幹に手をついて息をし、指はまだ震えていた。
ロイは隣にしゃがみ、苦根草を一束丸ごと食べたみたいな顔をしている。
「それで、あいつらはどうやって上へ行ったんだ?」
ザカは少し上を見た。
「空に立っていた」
何の解決にもならない言葉だった。
でも少なくとも、幻ではなかったと分かる。
あたしは上を見る。
エイリンの声は消えていた。
アーロンたちも雲霧と枝葉に飲まれている。
腰の水珠に手を置いた。
水珠は道を示さない。
少し冷たいだけ。
先に生きろ、と言っているみたいに。
あたしは深く息を吸った。鼻の中は湿った木、樹液、それからあの怪物が残した冷たい生臭さでいっぱいだった。
「まず、ここを理解する」
あたしは言った。
ロイが顔を上げる。
「今の君、エイリンみたいだぞ」
「悪口はやめて」
彼は黙った。
あたしたちはすぐ先へ進まなかった。
ザカが周囲を警戒し、あたしはこの森を見直した。
高いところでは、膜翼のある小さな生き物が枝葉の間を滑っている。翼を打ち、向きを変え、枝へ降りる。どれも普通に見えた。
少なくとも、あいつらにとっては普通なのだろう。
問題は空気だけじゃない。
一本の木の周りを回ると、すぐ一本の藤に気づいた。
その藤はロイの腰より太く、外側は紫紅色の半透明な膜に覆われている。中は節ごとに分かれ、細い隔膜で仕切られていた。近づくと、ごく薄い清水の匂いがする。
あたしはその一節を叩いた。
中に水音がある。
重い。
しかも水は上へ流れていた。
あたしが叩いたから揺れたのではない。
水珠と気泡はずっと藤の内腔を樹頂へ向かって動き続けている。傾きに沿って流れる小川みたいに安定していた。
あたしは長いこと見つめた。
「これは逆流藤だ」
ロイが言った。
あたしは彼を見る。
「あんたが名づけたの?」
「だめか?」
「直接すぎる」
「エイリンがいない。仮だ」
反論できなかった。
ザカは木のそばに立ち、しばらく耳を澄ませた。
「低鳴はない」
「じゃあ切ってみよう」
ロイは即座に一歩下がった。
切ると言った口より、手の方が正直だった。
あたしは水音が重い節を一つ選び、下側に小さな口を切った。
膜が破れた瞬間、水柱が勢いよく噴き出す。
三人そろって後ろへ下がった。
水はすぐ流れ尽きる。
その一節の藤腔だけが空になった。
隣の水は流れてこない。隔膜が止めているのだ。ほかの水珠は相変わらず樹頂へ向かっている。
あたしは顔を上げた。
高い枝葉の間に、水光が一瞬見えた。
反対側へ回ると、その藤のさらに高い位置にも自然の裂け口があるのが見えた。水滴がそこから出てくる。
その水は地面へ落ちなかった。
一瞬止まる。
それから雲層へ墜ちていく。
一粒。
また一粒。
白霧こそが地面であるみたいに。
ロイは顔をしかめて見ていた。
「あっちの重さは……上向きなのか?」
あたしは水滴が雲底に消えるのを見た。
「あたしたちにとっては上」
「あれらにとっては、たぶんただの下」
ザカが聞いた。
「どう渡る?」
あたしは二つの森の間にある白霧を見る。
怪物、水滴、さっき見た膜翼の生き物。全部、あそこを通ったあとで向きが変わった。
必ず線がある。
見えない。
匂わない。
でも越えれば、体が向こう側を下だと受け入れる。
喉が少し乾いた。
「両側の枝が一番近い場所を探す」
ロイがすぐ続けた。
「それで、天へ落ちる?」
「うん」
三人で黙った。
やるべきことが分かるのと、本当にやるのとの間には、悪態をつきたくなる距離がたっぷりある。
最後に先に立ったのは、やっぱりザカだった。
「行くぞ」
あたしたちは地勢の高い方へ移動した。
ここでは樹冠と雲上森林がさらに密に交差し、白霧も低く押し下がっている。逆さに生えた枝の中には、地面側の樹冠近くまで垂れているものもあった。両方の森が互いをつかもうとして、永遠に少しだけ届かないみたいだ。
道中で、さらに多くの証拠を見た。
高いところの藤に、橙赤色の果莢が下がっている。
熟すと、果莢は中央から裂けた。
半分の種は地面へ落ちる。
もう半分の種は最初ゆっくり下へ落ち、ある高さを越えた瞬間止まり、それから雲層へ墜ちていった。
同じ果実。
両側へ種を撒く。
「双墜果」
ロイが言った。
あたしは彼を見つめた。
「今日、すごく名づけたいの?」
「エイリンがいない」
堂々としていた。
また反論できなかった。
低いところにも同じ果莢がある。境界に触れていない果実は、裂けるとすべての種が地面へ落ちた。
違いは果実ではない。
裂ける位置だ。
あたしは種仁を一片拾った。
パフが籠から顔を出して匂いを嗅ぎ、すぐ深紫色の種仁を抱えて齧り始めた。四匹の小さな松果鼠もすぐ寄ってくる。
食べるのが早い。
あたしはすぐには食べなかった。
松鼠が食べられるものが、人間を生かすとは限らない。
先に匂いを嗅ぎ、汁を腕の皮膚へ塗った。ザカもごく少しだけ舐めた。しばらく待っても痺れも刺痛もない。
種仁には淡い甘さと油の香りがあった。
「煮れば食えるはずだ」
ザカが言った。
この数日では、ほとんど祝福みたいに聞こえる言葉だった。
夕方近く、あたしたちは中央の白霧から離れた枝根の下を休む場所に選んだ。
あたしは火を起こし、種仁を少量だけ煮た。
外皮が柔らかくなると、中は豆のようでもあり、木の実のようでもあった。少なくとも、残った乾糧よりは食べ物に見える。
食事中、あたしは何度も上を見ていた。
高く交差する枝層には、生き物がたくさん集まっている。
その中の一種は、巨大な輪に似ていた。
ここまで来て、ようやく大きさが分かった。中央の円盤状の体はザカに近く、六本の長肢を広げれば、違う方向の枝を同時に何本もつかめる。
固定された頭はない。
どちらが背中なのかも分からない。
体の中央には六枚の硬い口弁があり、体が回転するたび、近くの葉と果実をそこへ送っていく。腹部の膨らんだ褶囊からは、時々さらに細い肢が何本か伸びた。
幼獣だ。
ロイは顔を上げた。
「あれも名づける?」
あたしは種仁を噛みながら言った。
「あんたがつけて」
「輪肢盤獣」
ザカが彼を見た。
「まずい名だ」
ロイは不服そうだった。
「じゃあ、君がつけろよ」
ザカは少し黙った。
「大皿」
ロイがすぐ言った。
「輪肢盤獣でいい」
あたしは種仁でむせかけた。
遠くで、輪肢盤獣が果実をいくつか払い落とした。
それらは最初地面へ落ちる。
中央のある位置を過ぎると、今度は雲層へ飛んでいった。
長く見ていると、天へ落ちることまで普通に見え始める。
これはよくない。
こんな普通には慣れたくない。
あとでロイが近くから、藤蔓の節に生えた膨らんだ塊茎を何本か抱えて戻ってきた。外皮は紫と黄色が混じり、育つ場所を間違えた芋みたいだった。
パフは近づいて匂いを嗅ぎ、すぐ嫌そうに逃げた。
三人でそれを見る。
ロイが乾いた笑いを浮かべた。
「たぶん、あいつらは芋を食べないんだ」
あたしは薄く一片切った。
生の汁は渋く、刺すようで、舌先にほんの少し触れただけで痺れた。
「だめ」
薄片を火にかざす。
熱が入ると、刺す匂いはゆっくり引き、中もほぐれるように柔らかくなった。三人で少しだけ食べ、かなり長く待ってもおかしなことはなかった。それから残った数本も一緒に焼いた。
この食事はうまいとは言えない。
でも、倒れたり戻ったりするこの森で、初めて本当に腹を満たせるものを見つけた。
あたしは藤の塊茎を全部掘り尽くさなかった。
数本だけ取る。
残りは元の場所に掛けたままにした。
翌日の午前、あたしたちはついに合う場所を見つけた。
地面が高い斜面になり、一本の巨木が斜面の頂から枝を伸ばし、最も高い枝は中央の雲霧へ刺さっている。反対側には、雲地から生えて下へ伸びる逆さ木が一本あった。
両側の枝の間は、それほど遠くない。
周囲に低鳴はない。
灰色の厚幕も、新しい捕食痕もない。
ザカは長く見た。
「ここならいける」
まず試した。
ロイが石を拾い、雲層へ投げた。
石は最初、上へ飛ぶ。
だんだん遅くなる。
ある位置で、一瞬止まった。
次に別の手につかまれたみたいに、雲上森林へ向かって勢いよく墜ち、逆さ木の枝葉へぶつかった。
境界はそこだ。
あたしは紙に書いた。
折落層。
この名前はロイがつけたのではない。
だから少し残念そうだった。
ザカは縄を取り出し、先端に鉤輪を結んだ。
一投目は、鉤縄が折落層を越える前に戻ってきた。
二投目は越えた。でも縄の先は反対側でまったく別の方向へ引かれ、枝をかすめて飛んでいく。
同じ縄が宙で奇妙な折れ角を作っていた。
こちらに近い半分は地面へ垂れる。
境界を越えたもう半分は雲層へ垂れる。
両方が、それぞれの下へ引いている。
ザカは何度も試し、ようやく鉤縄を反対側の重さに沿わせて、逆さ木の太枝へ絡ませた。何度か強く引き、あたしとロイにも手伝わせる。
結び目は緩まない。
ザカは安全縄を腰に結んだ。
「俺が先だ」
彼は縄をつかみ、枝先から跳んだ。
最初は普通の跳躍だった。
体が上がる。
遅くなる。
折落層を越えたあと、衣の裾、鬣、尾が同時に雲層へ向いた。
体全体の向きが激しく変わる。
さっきまで彼は上へ跳んでいた。
次の瞬間、雲上の枝へ向かって墜ちていた。
縄が一気に張り、二つの下の間で彼を吊った。ザカは一度揺れ、反対側の枝幹をつかむと、縄に沿って登っていった。
立ち上がると、こちらへ合図する。
渡れる。
あたしは二番目にした。
水珠、薬包、小鍋、パフ一家の籠。全部結び直す。ひっくり返る時に落ちるものがないと確認してから、縄を握った。
「気をつけて」
ロイが言った。
あたしは彼を見る。
「輪肢盤獣」
「何?」
「名前、やっぱりひどい」
あたしは跳んだ。
最初は軽い。
ここではもともと体が外より跳びやすい。自分では、ちゃんと準備できている気がした。
折落層を越えるまでは。
胃が急に反対側へひっくり返った。
耳が上下を失う。
頭上にあった枝が、一瞬で足元の地面になり、あたしの顔へ向かってすごい速さで大きくなる。
さっきまで上へ跳んでいたのに。
体ははっきり告げてくる。
頭から落ちている。
姿勢を直す暇はなかった。
ザカが手を伸ばして腰帯をつかみ、あたしを幹の前から引きはがした。体ごと彼の肩にぶつかり、尻尾も四肢も、どちらへ力を入れればいいのか一瞬分からない。
「下ろして」
声は落ち着いている。
少なくとも、そう聞こえてほしい。
ザカはあたしを枝の上へ下ろした。
爪がすぐ樹皮をつかむ。
足元にあるのは、さっき頭上にあった木だ。それなのに、体はもうこの新しい下を受け入れていた。
最後にロイが来た。
彼は折落層を越えた瞬間、まっすぐ叫んだ。
体の反転はあたしよりひどく、頭から幹へ突っ込む。ザカが安全縄をつかみ、あたしはザカの腰に抱きついて、二人で彼を引き逸らした。
ロイは最後、枝の上に腹ばいになり、長いこと起きなかった。
「生きてる?」
あたしは聞いた。
「少し待ってくれ」
彼は顔を樹皮に貼りつけた。
「どっちが下か探してる」
しばらく休んでから、あたしたちは枝を伝って新しい地面へ向かった。
折落層を越えても、世界そのものが変わったわけではない。
木は木だ。
藤蔓も、花も、霧水も、全部そのまま。
けれど振り返ると、一日歩いてきた地面側の森が頭上に逆さにぶら下がっていた。空だと思っていた白い雲地は、今、足元をしっかり支えている。
衣の裾は新しい地面へ垂れる。
水袋も新しい地面へ垂れる。
腰の水珠は、袋の反対側へ転がった。
世界が裏返ったわけじゃない。
あたしたちが、下を変えたのだ。
枝に沿って雲地へ下りる。
今度の下降は、むしろ難しくなかった。周りにはつかめる枝と藤蔓がたくさんあり、さっき折落層へ登った時よりずっと楽だった。
雲地へ降り立つと、あたしは足元を踏んでみた。
湿っている。
柔らかい。
でも、確かに人を支えられる。
苔、鮮やかな花、背の低い植物が白い土層に生えている。逆さ木の根は深くそこへ刺さり、ここが最初から地面だったみたいだった。
残る問題は一つだけ。
アーロンたちはどこ?
「珂拉!」
エイリンの声がまた届いた。
あたしはすぐ振り返った。
左にはいない。
右にもいない。
本能で頭を上げる。
もとの地面側の森が、上に逆さに掛かっている。
エイリンはその岩の斜面の縁に立ち、あたしたちへ力いっぱい手を振っていた。ヴァンスは彼女の後ろにいる。アーロンとハーンも、少し離れた場所にいた。
今度、あの人たちは地面に立っている。
あたしは足元の雲を見下ろした。
それから頭上の、見慣れた四人の影を見る。
あたしたちは丸一日かけて、天へ落ちる方法を考えた。
向こうはもう、落ち戻っていた。
これはひどい。
エイリンが名前をつける前に、ロイが自分で名づけてしまいました。
どうやら彼は、ずっと何かに名前をつけたかったようです。
皆さんは、「自分を空へ落とす」という作戦を初めて見た時、賛成できましたか?
この世界の話でなければ、ずいぶん抽象的に聞こえるでしょうね。
それでも皆は、最後には成功しました。
ただ……
今度はアーロンたちが「地上」にいます。
文字どおりの意味での、「地上」です。
どうぞ第十三節「雲が歩く」をお楽しみに。




