17-11 どうしてあんなに速いの
前にある森は、少し変わっているようです。
今回は生態系だけでなく、そこにいる生き物そのものが想像力を試してきます。
あたしたちはまた丸一日追いかけた。
雷鳴はずっと背後で薄くなっていった。
最初のうちは、エイリンが残した風が、草先や岩の裂け目の間に細い光を見せていた。蘊魔草と雷脈草がくれた少しの魔力のおかげで、あたしにもそれが見えた。日差しに乾きかけた水痕みたいだった。
けれど進むほど、その痕は薄くなる。
しまいには、もうほとんど見えなくなった。
その代わり、腰の水珠があたしの脚へ軽く触れることが増えた。
左。
右。
止まれ。
もう少し前。
あの子は話さない。
でも、あたしは一日中、一滴の水に指図されていた気がする。
妙な感じだった。
そして、とても役に立った。
ロイは後半になると、方向が合っているのか聞く気力もなくしていた。ただうつむいて歩き、時々前を見上げ、また顔を下げて息を切らす。
ザカはずっと先頭を歩いていた。
あたしより足取りが安定している。
あたしより文句も少ない。
だから文句はあたしが言う。
「どうしてあの人たち、あんなに速いの?」
誰も答えない。
自分でも分かっている。この言葉はもう何度も言った。
それでも聞きたい。
アーロン、エイリン、ヴァンス、ハーン。
エルフが二人。
人間が二人。
あたしとザカの方が体力はあるはずなのに、ずっと追いつけない。
おかしい。
とてもおかしい。
「もしかして飛んだ?」
ロイが顔を上げてあたしを見た。
「それが答えであってほしいのか?」
少し考えた。
「ほしくない」
もし答えが飛んだ、なら、エイリンがまた何かやったということだ。
そしてエイリンのやり方は、だいたい最後に人を地面で転がす。
雷育盆地の縁に近づく頃、景色がようやく変わった。
低く垂れた黒い雷雲を、あたしたちは背後へ置いてきた。
前方に別の雲が現れる。
白い雲は、高い空にあるわけじゃない。
森の上に積もっていた。風にしわを寄せられた白い地面みたいに厚い。太い根が何本も雲へ刺さり、幹と枝葉は雲の底から下へ向かって伸びている。
低く垂れた枝もあった。
花は地面へ向けて咲く。
落ちた花弁は途中まで漂い、急に止まり、それからまた雲の層へ飛び戻っていく。
あたしは長いこと見ていた。
空に、もう一枚の地面がある。
地面側の森も、あまり森らしくない。
槍みたいに広がる巨大な羊歯木がそこらじゅうにあり、幹は縦横に絡み、藤蔓はどちらへ伸びているのか分かりにくい方向へ育っていた。色は雷育盆地の灰黒から、急に鮮やかな橙赤、青藍、藍紫、翠緑へ変わる。
見ているだけで、目が少し疲れた。
本当に入る前から、見知らぬ生き物を何種類も見た。
厚い円盤みたいな体の大きなものが、周囲から六本の長肢を伸ばし、枝の間でゆっくり回っている。
四角い甲殻がいくつか地面を歩いていた。短い脚が隙間から伸び、止まると道に捨てられた木箱みたいになる。
拳ほどの透明な小さなものが、二つの森の間を上下に揺れ渡る。地面へ落ちるかと思えば、次には雲の層へ滑っていく。
空気で膨らんだ長い袋状の動物が枝を離れ、下へ落ち、ある位置を過ぎた途端、別の方向から雲下の枝葉へぶつかっていった。
ロイは顔を上げたまま言った。
「空の神さま、ここも同じ世界なのか?」
とても分かる。
ザカとあたしは目を合わせた。
雷鳴がないからといって、ここが安全とは限らない。
残った魔力の痕跡は森の奥へ伸びている。
「入ってる」
あたしは上下逆さまの林を見て、腹の中にまた火が出てきた。
どうして境で待たないの。
どうしてこんな場所を見て、最初の考えが中へ進むことなの。
やっぱりエイリンだ。
それでも、あたしたちは後を追った。
森に入ると、速度はすぐ落ちた。
ここでは地面だけを見ていればいいわけじゃない。
枝の上に何かいる。
雲底にも何かいる。
空中に浮かぶ花には口があるかもしれない。
足元の腐木みたいな四角い殻も、急に短い脚を一列伸ばすかもしれない。
思いつく言葉は一つだけだった。
めちゃくちゃ。
ご先祖さまが世界を作った時、余った脚、口、翼、甲殻を、たぶん全部ここへぶちまけた。
あたしたちが通り過ぎた瞬間、真っ赤な大花が急に閉じた。
花蕊に止まっていた飛虫が丸ごと消える。
ロイが足を止めた。
「花も食うのか?」
「ここでは何でも食う」
あたしは言った。
「草も?」
あたしは足元を見る。
「食うと思っておいた方がいい」
木箱みたいな小獣が数匹、腐った果実と落ち葉を引きずり、自分の空洞へ順番に入れていた。甲板の隙間には菌がびっしり生え、そのうち一匹の背中には若芽まで出ている。
少し離れたところでは、長い怪物の群れが藤蔓に沿って動いていた。
体は長い袋のようで、両側に皮褶があり、中には硬い殻の実と光る石片が詰まっている。一歩進むたび、体の中から細かなからから音がした。
ロイはそれをじっと見ていた。
そして急に手を上げる。
「上に気をつけろ」
高いところに、灰色の厚い布が掛かっていた。
最初、あたしはそれが生き物だとは思わなかった。
表面には枯れ葉、苔、樹皮が貼りつき、両端は違う枝に固定されている。ただ気流に合わせて、ゆっくり揺れるだけだ。
膜翼のある飛獣が横をかすめた。
灰布が急に片側を離した。
体全体が重さに振られて反対側へ落ち、急に閉じる帳みたいに飛獣を中央へ包み込む。
飛獣は中で激しく暴れた。
布面が何度も膨らむ。
中央の細長い裂け目がゆっくり閉じた。
最後には、すべて静かになった。
その灰幕はまた枝の間へ掛かり、風に揺れ続けた。
ロイは長いこと見ていた。
「あれも生き物か?」
誰も答えなかった。
あたしにも、動物と呼べばいいのか、食べる布と呼べばいいのか分からなかった。
三人は浅い池のそばで止まった。
水面には色とりどりの胞子が浮き、下を泳ぐものには輪の形の体と透明な触手が何本かあった。もう魚と呼ぶのは難しい。
水は尽きかけている。
でもこの池の水は、飲んだあとも歩けるものには見えなかった。
ザカが、あたしがずっと水面を見ていることに気づいた。
「飲めなさそうだ」
「分かってる」
「水を飲む動物を探す」
あたしは彼を見た。
ザカはもう、周りの足跡と枝葉の爪痕を見始めていた。
彼には、なぜ上下二枚の森が違う方向へ生えているのかは分からないかもしれない。
でも猟師は、世界全体を先に理解する必要はない。
動物がどこへ水を飲みに行くか分かればいい。
休んだあと、道中で数匹の回囊獣に出会った。
あいつらは桃橙色の果実を身側の皮褶に詰め込んでいた。その中のいくつかが、熟したばかりでまだ酒の匂いがしない回升果だと分かった。
あたしたちは、あいつらの隠し枝穴から何個か取る方法を考えた。
長い袋状の怪物たちは気づくと気嚢を全部膨らませ、中の果核と石片をからから鳴らした。
多くは取らない。
果実は水気が多く、甘酸っぱい。少なくとも一時的には渇きを止められる。
発酵して酒臭いものは全部残した。
落ちる方向さえ決まっていない場所で酔うなんて、毒より早く死にそうだ。
また出発してから、高いところの動きを先に見つけたのはロイだった。
「見ろ」
巨大な車輪みたいな怪物が、交差した幹に沿って移動している。
円盤状の体には、はっきりした頭も尾もない。六本の長肢が順に枝をつかみ、体全体が巨大な木輪のように前へ回転していく。中央の盛り上がった場所からは、時々もう少し細い肢が何本か伸びた。
そこに幼獣がいる。
成体の円盤獣は、青藍色の巨大な花苞のそばまで登ると、二本の肢で体を固定し、別の三本で花苞を抱え、中央の六弁の口器で外側を噛み開けた。
透明な内壁の間から清水が見えた。
先に自分が水を飲む。
続いて幼獣が腹部の褶囊から細い肢を出し、裂け口の周りで水を飲み始めた。
ザカが高いところを見る。
「高すぎる」
「少なくとも、あそこに水があるのは分かった」
あたしは登る準備をした。
ザカがすぐ前に出る。
「俺も行く」
ロイは顔を上げた。もし彼を連れていかなければ、あたしたち獣人二人はたぶんずっと楽に進める。そんな樹上の道を見ている。
「俺を置いていくなよ」
あたしたちは、盤肢獣がいた巨木は選ばなかった。
近くに別のものがいる。
最初に、耳の骨で震えを感じた。
低い音が歯の根と胸を抜け、胃をひっくり返すような気持ち悪さを起こす。
短く分厚い動物が、高いところの太い藤にしがみついていた。鉤のついた八本の筋肢が体の周りに広がり、中央の共鳴囊がかすかに膨らむ。
目はない。
けれど低い鳴りは、近くの枝を一本一本撫でているみたいだった。
遠くで回囊獣が登っている。
太く刺の長い怪物が、突然すべての筋肢を離した。
体全体が上下の森の間へ落ちる。
ある場所を過ぎたあと、落ちる向きが猛然と変わった。体が見えない力で一度折られたみたいに、反対側の枝幹へ向かって落ちる。
八本の筋肢が同時に開く。
枝をつかんだ。
逃げ遅れた、あの袋のある長い怪物もつかんだ。
次の瞬間には、獲物ごと高いところへ縮んで戻っていた。
全部で数息しかかからなかった。
あたしたちはすぐ、その木を諦めた。
ザカが隣で絡み合う羊歯木の一帯を指した。
「あっちだ」
そこには、あの人食い怪物が残した爪痕がない。
低い鳴りも聞こえない。
正確に言うと、あたしたちは一本の幹を上へ登ったのではなかった。
木、巨大羊歯、藤蔓、逆さに伸びた枝が互いに交差し、傾いた空中の道を作っている。あたしたちは違う枝幹へ移りながら、あの水を溜めた花苞の高さへ少しずつ近づかなければならなかった。
ザカが先頭に立ち、枝が重さに耐えられるか確かめる。
ロイは真ん中。
あたしは最後尾で、濡れて滑る樹皮に爪を立てた。
道中、順調なんてものはなかった。
太い藤に見えたものをロイが踏むと、急に縮み、彼の足を枝の隙間へ引き込みかけた。
木匣獣が、唯一通れる幹の真ん中で止まっていた。あたしたちは樹皮に貼りつき、そいつがゆっくり這い去るのを待つしかなかった。
雲上森林から果実が一つ外れ、あたしたちの目の前を越えたあと、また上へ飛び戻っていき、ロイの顎にぶつかりかけた。
あたしは緩んだ樹皮を踏み抜き、体が下へ滑った。ザカが手首をつかみ、枝幹へ引き戻す。
高くなるほど、体の重さが安定しなくなった。
時々、自分が軽くなった気がする。
時々、腰の薬包が風もないのに持ち上がる。
枝先にぶら下がる水滴も、もう地面へだけ落ちない。宙に止まり、ゆっくり別の方向へ漂っていく。
境界に近づいている。
途中、規則的な音が聞こえた。
かつ。
かつ。
かつ。
まず盤肢獣の長肢が一本、頭上を跨いだ。
次に二本目。
巨大な円盤の体が、あたしたちのいる幹の上を転がるように進む。中央の褶囊からは、まだ幼獣の細い肢が何本か見えていた。
ザカはすぐ、あたしとロイに幹へ貼りつくよう合図した。
動かない。
盤肢獣の長肢が一本、ロイの頭から半歩もない場所へ降り、樹皮をつかんだ。それからゆっくり次の枝へ跨いでいく。
攻撃してきたわけじゃない。
でも少し踏み外しただけで、ロイはたぶんそのまま落ちていた。
盤肢獣が完全に離れてから、ロイはようやく息をした。
「今、俺たちは樹皮のふりをしてたのか?」
あたしは樹幹に食い込ませていた爪を抜いた。
「少なくとも、あいつは信じた」
あたしたちはようやく承露苞のそばへ着いた。
あたしは先に水の匂いを嗅ぎ、少量の水滴を皮膚で試した。刺痛も痺れもないと確かめてから、ザカに低い位置の花弁を切らせた。
清水が透明な花壁から流れ出す。
あたしたちは布で花粉と小虫を濾し、水袋へ詰めた。
本当に飲む前には、下りて煮沸する。
少なくとも今、水はある。
水袋をきつく縛っていると、遠くから急に声がした。
「珂拉!」
あたしは勢いよく顔を上げた。
前には誰もいない。
両側にもいない。
声は交差した枝葉と雲層に折られ、存在しない方向から聞こえたみたいだった。
「上!」
あたしは頭を上げた。
雲層に細い隙間が開いている。
エイリンが白い雲縁から半身を乗り出し、力いっぱい手を振っていた。ヴァンスは後ろに立ち、彼女の服を片手でつかんでいる。これ以上身を乗り出さないように。
アーロンとハーンも、もっと遠くにいた。
本当に雲の上に立っている。
あれは薄霧じゃない。
上には重さを支えられる土地があって、苔、藤蔓、鮮やかな花が生えていた。木の根は白い地面へ刺さり、枝葉はあたしたちの側へ垂れている。
無事な姿を見て、肩からようやく力が抜けた。
次に、一日分たまっていた文句が全部込み上げた。
「どうしてそんなに速いの!」
エイリンが境界越しに叫ぶ。
「上の道を見つけたの!」
つまり、あの人たちはずっと地面を歩いていたわけではなかった。
とっくに境界を越え、雲上の別の森へ入っていたのだ。そちらは枝葉が道を塞ぐことが少ない。魔力の痕跡が森の縁で上へ巻き始めたのも、そのせいだ。
どうやって上がったのか聞こうとした。
エイリンはまだ手を振っている。
「そこで待ってて! 方法を――」
近くで低い鳴りが響いた。
前に聞いたものより、さらに重い。
承露苞の水面に、輪がいくつも広がる。
先に歯の根が痺れ、続いて耳の骨が刺すように痛んだ。周りに浮いていた水滴が同時に震え、幹の奥で鉤つきの筋肢が何本もゆっくり離れる。
エイリンの声が、あたしたちの位置を晒した。
ザカが勢いよく顔を上げる。
あの太く刺の長い怪物が、さらに高いところにしがみついていた。中央の共鳴囊は完全に開いている。
あたしたちの位置を測っている。
雲上のヴァンスも見た。
彼はすぐエイリンを後ろへ引いた。
アーロンが下へ何か叫ぶ。
声は二度目の低鳴に引き裂かれた。
境界の水滴が突然二つに分かれる。
一部はあたしたちへ落ちる。
一部は雲層へ飛び戻る。
怪物が最初の筋肢を離した。
ザカは水で満ちた袋をつかみ、吠えた。
「走れ!」
ここには、見たことのない怪物がほとんどです。
囊を抱えた生き物たちは、いくつもの袋を体につけた巨大な毛虫のように見えます。
人よりも大きいのです。
食事中の方は、あまり想像しないほうがいいかもしれません。
では、木匣獣を見てみましょう。こちらのほうが、少し可愛らしいです。
足の生えた木箱のような姿で、膝ほどの高さしかなく、腐ったものを食べて暮らしています。
ただし、体中が口です。
どこが突然、ぱかりと開いてもおかしくありません。
うーん……。
やはり、観察はやめておきましょう。
まずは狩り手を避けなくては。
どうぞ第十二節「天へ落ちる」をお楽しみに。




