17-10 風のある場所
ここにいる生き物たちは、何をするにも気をつけなければなりません。
たとえば——雷を呼び寄せる鹿が、百頭以上も集まっているような場所では。
誰かに揺すられて目が覚めた。
目を開けると、アーロンがそばにしゃがんでいる。最初に浮かんだ考えはこれだった。
また走るの?
「起きろ」
彼はそれだけ言った。
岩稜の前から、ハーンの声がした。
「見ろ」
耳の中にはまだ昨夜の雷鳴が残り、頭は湿った泥を詰められたみたいに重かった。それでもみんなについて岩稜の縁まで行くと、眠気は勝手に逃げていった。
大量の雷冠鹿が、盆地のあちこちから奥へ向かって走っていた。
怯えているわけでも、雷から逃げているわけでもない。晶角にはまだ微かな白光が残っているのに、走る方向は奇妙なくらいそろっていた。全部、窪んだ荒地を指している。
「何してるの?」
あたしは聞いた。
エイリンはその低地を見て、目をゆっくり細める。
「追ってみよう」
ザカがすぐ言った。
「逆風だ」
鹿群が向かう方向は中央群峰から逸れている。地勢もずっと下っていた。ああいう窪地で雷が地面を走ったら、隠れられる石さえ見つからないかもしれない。
アーロンはすぐ反対しなかった。
「魔力はどう流れてる?」
彼はエイリンに聞いた。
エイリンは荒地の上を見つめた。
「全部、あそこへ集まってる」
だから、あたしたちは直接は下りなかった。少し高い縁に止まり、距離を置いて見た。
雷冠鹿が一頭ずつ到着する。
雷を呼ばない。
争いもしない。
乾いてひび割れた土地に散り、頭を下げ、尾を上げ、少し止まり、また別の場所へ歩いていく。
ロイは長いこと見ていた。
「何してるんだ?」
誰も答えなかった。
さらに少しして、ハーンが言った。
「糞だな」
周りが一瞬静かになった。
聞き間違えたのかと思った。
ほかの人の顔が、違うと教えてくれた。
雷冠鹿の群れが盆地中から、この魔力が濃すぎて気持ち悪い荒地へ駆けつけた。
糞をするために。
鹿糞は乾土の間に落ち、中には消化しきれなかった細かな種がぎっしり入っている。何頭かの鹿は分かれた蹄で表土を掻き、糞と種を一緒に踏み込んでいた。
エイリンはもう記録を始めている。
ザカが彼女を見る。
「それも書くのか?」
「もちろん」
ロイが声を低くした。
「絵は描かないでほしい」
鹿群はすぐ動きを止めた。
もう頭を下げず、一斉に空を見る。
雲の層から低い鳴りが来た。
最初は遠い。
次に低地全体の空気が震え、鹿群の頭上の晶角が一本、また一本と光り始める。エイリンの顔色が変わった。
彼女はすぐ詠唱を始めた。
今回は遠古の精霊に願う霊語ではない。声は短く、はっきりしていて、自分の魔力で一文字ずつ何かを積み上げているみたいだった。みんなの前の土が盛り上がり、低いけれど厚い土壁になる。
「来る」
鹿群が走り出した。
窪地の中央から四方へ散り、一頭また一頭、空へ跳ぶ。
最初の白光が落ちた。
その一瞬、雷は天坑の上から差し込む日光さえ押しつぶした。
次に轟音。
耳の中から何もかも消えた。
鋭い長鳴りだけが残る。視界は白光に焼かれてぼやけ、土壁が目の前で激しく震えた。細かな砂が顔を打つ。足元の地面では、巨大なものが寝返りを打っているみたいだった。
雷冠鹿は雷を受け、荒地へ着地した。
白光が鹿蹄から泥へ潜り、低地に沿って外へ走る。
凹地の中央で止まらない。
周りの高い土地へ向かって奔った。
あたしたちのいる縁が、先に裂けた。
黒い先端が土の中から突き出る。低地の下から何かが生えたのではない。あたしたちの周りにもともと埋もれていた樹種が、雷に呼び起こされたのだ。
短い黒刺が一本ずつ。
そして上へ抜ける。
焦げ黒い樹皮が空気の中で開き、根は岩の裂け目と泥を押し分ける。地面はあたしたちの足元から次々裂け、生えたばかりの黒脊木はすぐ人の背を越え、まだ伸び続けた。
低地の縁に、黒い槍林が急に立ち上がったみたいだった。
一本目の枝葉を見分けるより早く、ザカがあたしの腕をつかみ、今開いた地割れから引き離した。
鹿群もその時、こちらへ駆けてきた。
雷を呼び終え、凹地の外へ散ろうとしている。数百頭の雷冠鹿が、新しく生えた黒脊木の隙間を抜け、蹄音と雷鳴が混ざった。雲の中の低い鳴りは止まらない。伸びたばかりの黒脊木は、すぐ落雷の場所になった。
一つ。
また一つ。
白光が焦げ黒い幹を伝って裂け落ちる。
「走れ!」
ザカがあたしを引いて走った。
振り返らなかった。
足元が何度も裂けること、両側を鹿が狂ったように走っていること、背後の雷鳴にほとんど間がないことだけは分かった。裂け目を跳び越え、鹿角を避け、まだ成長している二本の黒脊木の間を潜る。
遠くで誰かが何か叫んだ。
聞こえない。
近くの人が一人ずつ、鹿群と根に隔てられていくことにも気づかなかった。
新しい黒脊木の範囲を抜け、足裏の痺れが消えてから、ザカはようやくあたしを止めた。
あたしは膝に手をつき、息をした。
顔を上げてから気づく。
そばにいるのは、ザカとロイだけだった。
ロイは息が切れすぎて、言葉も途切れている。
「ほかの人……たぶん……向こう側だ」
あたしはすぐ振り返った。
生えたばかりの黒脊木が、視界のほとんどを遮っている。雷光が何度も林へ落ち、時々、枝の間を鹿影がかすめるのを照らした。
「戻って探さなきゃ」
一歩踏み出しただけで、ザカが肩を押さえた。
「無理だ」
低地の周りの地面は、黒脊木の根に支え裂かれていた。もともとつながっていた高地は、いくつもの深い穴に切り分けられている。幹にはまだ雷光が絶えず滑り落ちていた。
あたしは黒い木を見る。
「登って、跳べば越えられる」
ザカは首を振った。
「俺たちはできる」
彼はロイを見た。
「人間は無理だ」
ロイはまだ息を整えきれていなかったが、すぐ付け足した。
「それに、あれは雷を呼ぶ木だ」
あたしはそれ以上、前へ出なかった。
諦めたわけじゃない。
ただ、今戻れば、探される人間が三人増えるだけだと分かった。
持っているものを確かめた。薬草包、水珠、小鍋はある。ザカには武器と冠躍鹿の肉が少し。ロイは水袋、火種、少量の乾糧を持っている。縄の大半と主な記録はハーンたちの組だ。方向を読めるエイリンもいない。
少ない。
でも、何もないわけじゃない。
「じゃあ先に動こう」
あたしは言った。
裂け谷に沿って戻ることも、逃げ出したばかりの黒脊木の林に近づくこともしなかった。あの凹地は全員が知っている目印だ。アーロンとエイリンも人を探すなら、反対側からまた戻るだろう。少なくとも、印を残すはずだ。
三人で低地へ向かって歩き直した。
午前いっぱい歩いた。
景色はほとんど変わらない。銀灰草、裸岩、低く垂れた黒雲、それから時々地面へ叩きつけられる白光。ただ、あたしたちはどう歩けば生きていられるかをもう覚えた。
銀灰草が低く鳴れば、止まる。
岩の裂け目の小獣が踏まない場所には、絶対に入らない。
雷冠鹿が頭を上げたら、先に裸岩を探す。
雷光が地面を散ったあとも、光っている伏電苔が完全に消えるまで待ってから歩く。
昼近く、あたしたちはまたあの低地に着いた。
ただ、目の前にはもう荒地がなかった。
乾いてひび割れていた土地は、生えたばかりの若草に覆われている。雷綻花が泥の間に開き、細かな種が残った熱に沿って上へ漂っていた。朝にはまだ裸だった凹地が、今はほとんど雷脈草で埋まっている。
鹿糞はまだ草の根元にあった。
その中の種殻はもう割れている。
ロイは目の前の草原を見た。
「これは?」
あたしは朝、鹿群が止まっていた場所を見る。
「鹿だよ」
ザカが振り向く。
「分かるのか?」
「そんな気がする」
雷冠鹿は雷脈草を食べる。
消化しきれない種を痩せた低地へ運ぶ。
そして呼んだ雷で、種を泥の中から目覚めさせる。
全部は口にしなかった。
目の前の草原だけで、もう十分語っていた。
空はしばらく落ち着いていて、近くに雷冠鹿も見えない。あたしは下りて見てみることにした。
ザカとロイが止めるより早く、軽い体を使って斜面を跳び下りていた。
「君は二人目のエイリンか?」
ロイが上から叫んだ。
あたしは振り返る。
「先に空は見た」
「彼女も毎回そう言う!」
結局、二人も下りてきた。
低地は雷脈草だらけで、葉の白光はゆっくり薄れつつあった。数株を採り、三人でまだ乾いている場所を探して火を起こし、昼食の準備をする。
冠躍鹿の肉を鍋に入れる。
果実と少しの塩も。
あたしは足元いっぱいの雷脈草を見て、昨夜の蘊魔草を思い出した。
今回は二種類の草をまとめて鍋に投げ込んだりはしなかった。まずそれぞれ少量を取り、別々に潰して熱い水に浸す。匂いを嗅ぎ、色を見る。腐らせる泡はない。どちらかが急に臭くなることもない。雷脈草の葉脈に残る一番強い光が少し散ってから、ようやく二つの薬液を混ぜた。
薬湯はやっぱり苦い。
口に入れると、細かな痺れが少し増えた。舌先から喉へ、ゆっくり這っていく。
あたしは数口だけ飲んだ。
最初は何も起きない。
しばらくして、体の中のどこか空いていた場所が、少しだけ満たされていった。
力じゃない。
筋肉が強くなったわけでも、疲れが消えたわけでもない。
ただ、周りに今までなかったものが一層増えた。
雷脈草の中には、まだ細かな白光が流れている。空気中の魔力はとても薄い霧みたいに、草葉、泥、水滴の間をゆっくり通っていた。腰の水晶球の中で、水精霊が妙にはっきり感じられる。ほとんど掌に貼りついているみたいだった。
しばらく言葉が出なかった。
ザカが、あたしがぼうっとしているのを見た。
「どうした?」
「今、あたしに魔力がある」
残った薬湯を彼へ渡した。
ザカは迷わず仰いで飲む。
少し待った。
何もない。
「感じない」
あたしは彼を見つめた。
同じ薬。
でも違う。
「エイリンを見つけたら聞く」
あたしは言った。
その少しの魔力が、体の中からゆっくり漏れていくのが分かった。だから急いで、さっき見たものと感じたものを全部書き留めた。
昼食のあと、出発しようとした時、草原の中に一か所だけ特に明るいところがあるのに気づいた。
「見て」
あたしは言った。
「あそこ、光ってる」
ザカとロイは、あたしの指した方を見る。
何も見えない。
あたしは歩いていった。
そこに発光する植物はなかった。
石で押さえられた羊皮紙が一枚あるだけだった。
紙には四人が描かれている。
アーロン。
エイリン。
ヴァンス。
ハーン。
エイリンは手を伸ばし、どこか前方を指していた。二人のエルフの耳は、頭から生えた四本の草みたいに描かれている。ヴァンスには片手しかなく、ハーンは槌を持った四角い人だった。
ロイは一目で見分けた。
「これ、エイリンだ」
確かに一目で分かる。
ただ、紙を地面に置いたあと、どっちが前なのか誰に分かるのか。
「ここに来たんだ」
あたしは言った。
それだけは確かだった。
羊皮紙を拾おうとした時、視界の端に、もっと淡い光が見えた。
その光は草の先と泥を伝って遠くへ伸びている。時には石の裂け目に絡み、時には宙に浮いた水滴に止まり、時には踏み曲げられた草葉の短い一筋でしかない。それでも、流れる向きだけが周りと違っていた。
「ここに道がある」
ロイは空っぽの草を見る。
「道?」
「魔力」
ザカにも見えない。
あたしは急に、おかしいと思った。
エイリンは、あたしたちに魔力が見えないと知っている。それなのに、どうしてエルフにしか分からない道を残したのか。
腰の袋が少し動いた。
水珠が中で、あたしの体へそっと触れてくる。
あたしは袋に手を置いた。
「あんた?」
水珠がもう一度揺れた。
その時ようやく分かった。
この道は、もともとあたしに見せるためのものじゃない。
水精霊に残したものだ。
エイリンは、水珠の中の遠古の精霊なら、大気の精霊が残した痕跡を感じられると知っていた。あたしが見えなくても、あの子は震えや温度や引っ張る感じで、あたしを連れていける。
ただ、エイリンは知らない。
今のあたしにも見えていることを。
それを全部、ザカとロイには言わなかった。羊皮紙を袋へしまい、遠くへ薄れていく微光の道を見る。
蘊魔草がくれた魔力は、まだ流れ出している。
道の光も少しずつ暗くなっていた。
ザカが聞く。
「どっちだ?」
前方の雷脈草が、軽く倒れた。
細い風が草原を抜ける。
あたしは荷袋を背負った。
「行こう」
あたしは、あたしと水珠だけが感じられる道を見た。
「風がある」
皆、離れ離れになってしまいました……。
今回は、アーロンの判断も、エイリンの魔法もありません。
早く二人を見つけなければなりません。
幸い、雷脈草と蘊魔草を煮たスープを飲んだおかげで、残された魔力の痕跡だけはまだ見えています。
これが魔法薬学の魅力、ということなのでしょうか。
ちなみに、この時代の技術はまだそれほど発展していません。特に、魔法に関する研究はそうです。
続編まで待っていただけるなら、もっと面白い仕組みもお見せできるはずです。
それではまず、第十一節「空へ落ちる」をお楽しみに。




