17-4 霧中の狩り手
霧の中を進むだけでも、前後左右を見失いそうになります。
……待ってください。
前にいるあの牛の背中、もしかして小さな山が生えていませんか?
餘暉号の人たちは、日が樹冠を越える前に取水地点へ着いた。
空の木桶、短斧、鉄釘、それから封口に使う布を大束で持ってきている。三本の煙を見た水夫たちは最初こそ足早だった。でも本当に林へ踏み込み、足裏を上へ支えるような根を踏むと、みんな速度を落とした。
ハーンは一本の攬霧木のそばにしゃがみ、あたしたちが塞いだ切り口を指して、取水する場所を一つずつ説明した。ロイはエイリンのあの恐ろしい告示を高く釘で留める。四本脚の碗を見逃す人がいないように。
「水は取りすぎるな」
ハーンが言った。
「木は倒れてるものと折れてるものだけだ」
「外皮には触らない」
あたしも一言足した。
水夫の一人が、あの白い塩殻を見る。
「触るとどうなる?」
「舌がなくなります」
エイリンが言った。
ヴァンスが彼女を見た。
エイリンは咳払いした。
「一時的に」
水夫の手はすぐ引っ込んだ。
引き継ぎは、思っていたより長くかかった。ここではどの木も水を飲めそうに見えるし、人間を食べそうにも見える。数言では、霧の中で少しでも長く生きる助けには足りない。
アーロンは最後の木桶が木の下に置かれるのを待ち、背負い袋を少し持ち上げた。
「行くぞ」
余計な言葉はなかった。
あたしたちは取水地点を離れ、また霧の中へ潜った。
進むほど、攬霧木の外皮についた塩殻は薄くなっていった。葉は相変わらず広く、霧水を一滴ずつ受けている。でも空気の海の匂いはゆっくり薄れ、湿った土と若い皮と草汁の青い匂いだけが残った。
地面には、大きなものが歩いた痕跡が出始めた。
最初の足跡は、あたしの顔より大きかった。泥は深く押し込まれているのに、縁には五本の太く長い跡が分かれている。誰かが開いた木の熊手を押しつけたみたいだ。さらに進むと、数本の木の若皮が大きく齧り取られていた。断面はまだ濡れていて、淡い樹液を流している。
ザカがその欠けた部分に触れた。
「一匹じゃない」
あたしにも匂った。
草臭さ、熱い毛、湿った泥。匂いは強い。でも捕食者の喉の奥にこもる、あの生臭く甘い圧はない。
「葉を食べるやつ」
あたしは言った。
アーロンは足跡の続く方向を見た。
「驚かせるな」
あたしたちは足を遅くした。
霧の中から咀嚼音が聞こえた。
ゆっくり。
かり。
かり。
濡れ木を、誰かが少しずつ折っているみたいな音だった。
前方の攬霧木の間に、灰白色の影が立っていた。
最初は、霧に浸かって白くなった幹が数本あるのだと思った。まっすぐすぎて、静かすぎた。けれど、その「幹」の先にある大きな耳がわずかにこちらへ回った時、あたしはそれがあたしたちを見ているのだと分かった。
霧蹄獣だった。
ザカより少し低い。でも肩はあたし二人分より高い。灰白の毛が細長い体に貼りつき、脚は折れそうなほど細かった。足は蹄ではない。一歩踏むたび、四、五本の太い指が泥の上で開く。攬霧木の気根みたいに、しっかり体重を支えていた。
逃げなかった。
ただそこに立ち、首をまっすぐ伸ばし、尻尾さえ動かさない。
しばらく見て、あたしはようやく分かった。
木のふりをしている。
泥水の魚め。
こんな大きなものが、木のふりで生きているなんて。
アーロンがゆっくり歩いていった。刀は抜かない。手も上げない。ただ足音を軽く落とした。
霧蹄獣の耳はずっと彼を追って回る。アーロンが目の前まで行き、手の甲を差し出して嗅がせると、ようやく前へ鼻を寄せた。
鼻息は熱かった。
それから、アーロンは手を上げ、首筋の濡れた毛を撫でた。
霧蹄獣は一度まばたきし、頭を下げて若葉をくわえ、また咀嚼し始める。
「怖がらないの?」
あたしは聞いた。
「怖がってる」
アーロンは言った。
霧蹄獣がゆっくり一口噛む。
「ただ、走る方をもっと怖がってる」
あたしは開いた足を見た。それから、周りの何もかもをぼかして飲み込む霧を見る。
走れば泥音が立つ。枝が折れる。水たまりに波が出る。この場所では、その全部が捕食者に向かって叫ぶのと同じなのだろう。
木のふりの方が賢い。
午後、あたしたちは数頭の苔背牛を見た。
霧蹄獣より背は低いが、ずっと分厚い。長い背毛に湿った泥が絡み、苔と小さな羊歯の芽が背中から肩まで生えていた。成獣の一頭が遠くを歩いていった時、あたしは動く小さな丘かと思った。小鳥が二羽、背中に止まり、自然にめくれた苔の端をつついている。
あたしは覚えのある涼しい匂いを嗅いだ。
寒石苔ではない。
もっと淡く、濡れ毛と土気が混じっている。火傷した皮膚を鎮める薬泥みたいな匂いだった。
近づこうとしたところで、アーロンが先に肩を押さえた。
「見ろ」
苔の下から、細い白い根糸が何本かのぞいていた。それは背毛にかかっているだけではなく、皮膚の外側にも絡み込んでいる。
あの鳥は、ゆるんだ端だけをつついていた。無理には引っ張っていない。
あたしは手を引っ込めた。
「あとで探す」
「ああ」
腫れを引かせるものはたくさんある。
牛を痛がらせて突進させるものは、今取る価値がない。
その日、あたしたちはまた長く歩いた。霧蹄獣の足跡はどんどん増え、苔背牛に齧られた樹皮も前方へ続いている。ハーンは最後に立ち止まり、まだはっきりしない空の色を見上げて見積もった。
「七、八キロ」
ロイが息を吐いた。
「この林、見た目より広いな」
「見た目は霧しかないよ」
あたしは言った。
「もっと悪い」
あたしたちは倒れた攬霧木のそばで夜を越した。倒木の根鉢が小さな地面を少し高く支えていて、少なくとも一晩中湿泥の上で寝ずに済む。火が起きると霧は少し退いたが、すぐ別のところから補われた。
パフ一家は、あたしから離れたがらなかった。
籠の中でぎゅうぎゅうに詰まっているのに、鼻だけは林のもっと奥へ向いている。そこには大きな獣の匂いがたくさんあり、あたしの好きじゃない冷たい生臭さも少しあった。深く隠れている。泥水の底に沈んだ魚の鱗みたいに。
夜中に一度目が覚めた。
遠くで枝葉が軽く触れる音がした。
近づかない。
離れもしない。
あたしは短刀を握ってしばらく聞いた。火の中の樹脂がぱちりと弾け、その音がまた止まっていたことに気づくまで。
翌日は霧がもっと重かった。
野営地を片づける時、ロイが根に結んだ布切れも赤い端が少し見えるだけだった。白灰の中に血を一滴落としたみたいに。
攬霧木は低くなり始めた。
木々の間は前ほど詰まっておらず、根もさっきまでのようには高くない。
低地を抜けた時、あたしは先に腐臭を嗅いだ。
重い。
死体が一つ腐った匂いじゃない。
血、内臓、濡れ毛、古い骨。それらが同じ場所に長く残って混ざった匂いだった。
あたしは止まった。
「前で何かが食べてる」
ザカはもう槍を握っていた。ヴァンスは肩から弓を下ろし、エイリンも羊皮紙をしまって、あたしたちと一緒に根をいくつか回り込む。
低地は濃霧に囲まれ、誰かがわざと根で作った碗みたいだった。
碗の中は、死体だらけだった。
一番外側には老いた苔背牛が一頭、背骨一本と乾いた苔の毛布の半分だけになっていた。泥毛が骨に貼りつき、もう肉の匂いはあまりない。反対側には霧蹄獣が一頭倒れ、腹を大きくえぐられている。蝿みたいな細い虫が中を出入りしていた。
一番新しい死体は、もっと小さい。
苔背牛の幼獣だ。背中の苔はまだ緑なのに、腹は裂かれ、いちばん柔らかいものが半分以上消えていた。
胃がぎゅっと縮んだ。
誰かがたまたまここで死んだんじゃない。
ここは、あいつの食事場だ。
アーロンは霧蹄獣のそばにしゃがみ、裂かれた場所を見た。
「まず噛みつく」
彼は首筋に残る深い痕を指した。
「それから引きずって戻る」
ザカは苔背牛の幼獣の、裂かれた腹を見ていた。
「薄い場所を知ってる」
苔背牛の背には泥と毛と苔の毛布がある。霧蹄獣の背筋は木みたいに厚い。
腹がいちばん柔らかい。
あたしは身をかがめ、鼻が湿った土に触れそうなところまで近づけた。腐臭の下に、別の匂いが押し込められている。
濡れた鱗。
冷たい魚。
泥水。
それに、まだ散りきっていない。
去ってから長くない。
「近くにいる」
あたしは言った。
全員が静かになった。
静かになると、林のあらゆる音が大きくなる。
右の草むらが急に揺れた。
ロイの手はもう刀の柄に触れていた。けれど葉の下から飛び上がったのは跳翅虫の群れで、まっすぐ霧の中へ跳ね込んだ。翅音は撒いた砂みたいに細い。
彼は罵りかけ、途中で飲み込んだ。
さらに進むと、ロイは垂れ枝を避けて頭を下げ、その額を別のものにぶつけた。
ぺたり。
それは柔らかく額に貼りついた。温かい息の詰まった湿った皮袋みたいだった。半透明で、縁から細い触手が何本か垂れている。驚いたあと、ゆっくり浮き上がり、霧の中で丸まった。
ロイの顔は真っ白になった。
エイリンはつま先立ちで、とても真剣に見ている。
「霧の中の胞子を食べてる」
「どうして分かるんだ?」
「今、小さい虫の塊を吸い込んだから」
エイリンはそれを浮囊水母と記した。
ロイは額を三回拭いた。そこに卵でも残されたのを恐れているみたいに。
また一枚、葉が頭上から漂ってきた。
それは別の幹に落ちると、急に四本の細い脚を伸ばし、長い舌を広げて樹皮の小虫を巻き取った。
「葉っぱに足がある」
ロイが言った。
「漂葉蜥」
エイリンが言った。
「なんでもすぐ名前をつけるなよ」
「じゃあ後で、どれの話かどうやって分かるの?」
ロイは口を開けたが、結局何も言わなかった。
小さなものが一つ、また一つと霧から現れる。胸がずっと吊り上げられて、そのたびにまた落ちる。長く続くと、あたしでさえ、腐臭に締めつけられすぎているだけなのかと思い始めた。
その時、本物の音が来た。
ぼき。
跳翅虫じゃない。
太い枝が折れる音だった。
振り向いた時、霧の端をかすめた尻尾だけが見えた。
大きい。
横に平たい。
鱗は濡れて光り、水から今振り上げられたばかりみたいだった。
尻尾の太さは、ほとんど人一人分ある。
「止まって」
自分で思ったより早く声が出た。
全員がすぐ寄った。背中合わせになり、武器を外へ向ける。パフ一家は籠へ押し込み、蓋を強く押さえた。中からすぐ不満げに引っかく音がした。
ザカは体を低くし、耳をさっきの方へ向けた。
「見たか」
「尻尾」
あたしは言った。
「大きい。魚みたい」
ザカは少し黙った。
「俺たちが気づいたと分かってる」
霧の中は、もう動かない。
動くより悪い。
鼻の中は冷たい魚と泥水でいっぱいだった。その匂いはあたしたちの周りを回り、近づいたり遠ざかったりする。でも本当の向きがつかめない。
後で知った。この種のものは霧中の狩り手と呼ばれる。
頭はまだ魚に似ている。広く、平たく、両側には膨らむ呼吸袋が裂けている。けれど体にはもう、重さを支える四肢がある。指の間には膜があり、先には曲がった爪。泥地、水路、濡れた幹の上を、人より速く走れる。
たぶん昔は海にいたのだろう。
ただ、この場所は海を山の中へ注ぎ込み、陸へ上がるべきでなかったものまで残してしまった。
エイリンはまだ羊皮紙を握っていた。それを防水袋へ入れようとした瞬間、左側の霧が内側へ大きくへこんだ。
飛び出してきた。
まず魚の頭。
次に開いた口と、光る鱗だらけの体。そいつは泥地に貼りつくように突進し、四肢を開き、長い尾を一振りして根を二筋越えた。そのままエイリンへまっすぐ飛びかかる。
エイリンは杖を上げるのがやっとだった。
「ᚾᚢᛚ-ᚡᛖᚪ ᚾ'ᚡᚪᚱ!」
いつもの詠唱じゃない。
声が胸を抜け、歯まで痺れた。
濾潮林の厚い空気が前へ爆ぜる。
霧が一面押し払われた。すべての葉が同時に淡い裏側を見せ、枝がめちゃくちゃに鳴る。霧中の狩り手は見えない大槌に正面から殴られたみたいに横へ飛び、若い攬霧木を一本へし折った。
エイリン自身も衝撃で数歩下がり、踵が泥穴に入りかけた。
彼女は振り返らなかった。
「走って!」
アーロンはもう霧の薄い方へ向きを変えていた。
「戦うな」
「霧の外へ出る」
理由は聞かなかった。
ここはあいつの狩り場だ。水路の一本一本、根の一本一本、鱗光を隠せる湿った樹皮のどこも、あいつの方が知っている。
背後で折れ木が押しのけられる音がした。
起き上がった。
あたしたちは走り出した。
泥地は滑る。根はわざと足を引っかけるみたいに伸びている。エイリンは真ん中を走り、ヴァンスが片側に張りつく。ハーンとロイが前で足場を探し、ザカが殿に残った。長槍はずっと構えたままだ。
走りながら、あたしは聞いた。
右で水が押し分けられる。
「右!」
ザカが身をずらした瞬間、濡れて光る尾が霧から薙ぎ出され、彼がさっき立っていた泥地を叩いた。泥水があたしの背中に跳ね、冷たさで毛が逆立ちかける。
前方の樹冠が揺れた。
「上!」
あいつは濡れた幹を伝って来ていた。曲がった爪で樹皮をつかみ、尾を枝に添えて釣り合いを取り、魚が水の中で向きを変えるみたいな速さで迫る。
ロイが顔を上げるのが一歩遅れた。
「頭を下げろ」
ヴァンスは二文字だけ言った。
矢はもうロイの頭上を抜け、霧中の狩り手の肩側、鱗の隙間に突き立っていた。
怪物は大きく傾き、落ちた時に低い枝を二枚泥へ押し込んだ。狭い岩の隙間から水を無理やり絞り出すような、奇妙な嘶きを上げる。
矢は傷をつけられる。
でも止められない。
「前に回った!」
冷たい生臭さが左から遠ざかり、急に前方へ現れるのを嗅いだ。アーロンはすぐ、巨大な根が並ぶ間へあたしたちを連れていく。
霧中の狩り手が正面から飛び出した時、ザカは迎え撃って斬らなかった。
槍の石突きを太い根の窪みに押し込み、両足を泥へ沈め、体ごと打ち込まれた杭みたいに立った。
怪物が槍身にぶつかる。
鈍い音。
魚の口は大きく開いたが、噛みつく向きは槍先に押され、横へ逸れた。ザカの腕と背中が全部張った。それでも半歩も余分に支えない。重さがまだ槍に乗っているうちに、彼はすぐ身をずらして引いた。
「行け!」
あたしたちは横を駆け抜けた。
アーロンが最後尾に落ちる。腰袋から灰白い粉の小包を取り出し、振り返らないまま、あいつがまた迫った瞬間に後ろへ叩きつけた。
粉が霧中の狩り手の濡れた顔と呼吸袋に張りつく。
そいつは激しく頭を振った。
嘶きが一気に鋭くなる。前爪がめちゃくちゃに掻き、細い木を二本倒し、尾が泥に深い溝を打った。
その匂いは覚えがある。
乾いた辛さ、苦根、それから鼻を痛くする樹脂が少し。
あいつはあたしたちを嗅げなくなった。
少なくとも今だけは。
あたしたちは止まらなかった。
しばらく走っても、霧はまだ散らない。けれど怪物の足音がまた後ろから追ってきた。
ぱしゃ。
ぱしゃ。
四肢が湿地を踏む音は重くない。それなのに、気持ちが焦るほど速い。地上にいる時もあれば、木の上へ登る時もある。振り切ったと思うたび、霧の端に鱗光がひらめき、冷たい魚の匂いがまた貼りついた。
どれくらい走ったのか分からない。
一キロ。
二キロ。
脚が酸っぱくなり、肺の中は冷たい霧でいっぱいだった。尻尾は泥水を浴びて重く、耳には自分の荒い息と、籠の中でくぐもって鳴くパフの声しか残っていない。
前方の光が急に変わった。
エイリンが押し払った白さじゃない。
温かい。
エイリンも気づいた。彼女は杖を上げ、今度は細い気流だけを放って前の霧を左右へ分けた。
低い攬霧木が終わりに見える。
その先は、褐色の乾いた土だ。
「前!」
あたしは叫んだ。
全員が最後にもう一度走った。
半乾きの水路を跨ぎ、最後の濡れ葉を踏み抜く。陽光がそのまま顔に落ちた。
霧がない。
水滴の落ちる樹冠もない。
目の前には、上へ伸びる広い草の斜面が広がっていた。草は高くないが密に生え、風が斜面の上から駆け下りてきて、あたしたちの体の湿りを冷たく吹いた。背後の白霧は林線の中で止まり、散ろうとしない壁みたいだった。
あたしは草地へ飛び込み、危うく顔ごと乾いた土に埋まりかけた。
背後で重い音がする。
霧中の狩り手が林線の端で止まっていた。
肩の矢はまだ揺れている。鱗の間の呼吸袋が開いたり閉じたりして、水に押される破れ皮みたいだった。そいつはあたしたちをにらみ、尾を泥に強く叩きつけ、黒い水を跳ね上げる。
それでも前へは来ない。
陽光が頭に当たった。皮膚はすぐ濡れた光を失い、呼吸袋の縮み方もさっきより急になる。
ここが嫌いなのだ。
霧の中なら、あいつは水滴一つ、足音一つを聞ける。この開けた草の斜面では、大きすぎる魚でしかない。隠れる木も、潜る泥もない。
そいつはしばらくあたしたちを見ていたが、最後には身を返し、白霧の中へ退いた。
冷たい魚の匂いが完全に散ってから、あたしは自分がずっと深く息を吸えていなかったことに気づいた。
ロイは草の上に寝転がり、まず自分の靴を確認した。
「今日は何にも噛まれなかった」
あたしはまだ息を切らしていた。
「あの魚、あんたを丸ごと飲みかけたけど」
「だから靴を噛まれたわけじゃない」
ハーンは目を閉じて一言罵った。でも否定はしなかった。
エイリンは息が少し整ったばかりなのに、もう防水袋へ手を伸ばした。
ヴァンスがその手を押さえる。
「先に呼吸しろ」
エイリンが彼を見る。
「してる」
「生きるための方だ」
彼女は少し黙り、本当に手を下ろした。
あたしたちは草の斜面に寝転がり、誰もすぐには起き上がらなかった。
木々に遮られなくなると、遠くの中央群峰がようやく姿を見せた。
まだずっと遠い土地を隔てているのに、信じられないほど大きい。山は大地から抜け上がり、峰の先を雲へ突き刺し、山腹はさらに別の雲海に断ち切られている。そのせいで、どれほど高いのかまるで分からない。
群峰とあたしたちの間には、深緑の場所が横たわっていた。
そこにある樹冠は、あまりにも大きすぎる。これほど遠くからでも、幾重にも重なる葉の輪郭が、持ち上がった緑の波みたいにはっきり見えた。
アーロンが身を起こし、長いこと見た。
「巨葉冠林」
あたしは、霧線を越えようとしない狩り手の方を見た。それから、理不尽なほど大きな山々を見た。
「よし」
あたしは言った。
「で、今度はどこにいるわけ?」
あと少しでした。
あの鋭い歯だらけの口が、あと少しで噛みつくところでした。
今回登場した霧中の狩り手は、手足を持つ細長い魚のような怪物を元にしています。彼らは一年中濃い霧に覆われた攬霧木の森で暮らしていて、彼らにとって霧は水とそれほど変わらないのかもしれません。
一方、霧蹄獣の蹄は一枚につながっているのではなく、枝のように外へ分かれています。そのため、湿って柔らかい地面にも、しっかりと立てるのです。
危険に出会った時、彼らが最初にするのは逃げることではありません。
その場で動かなくなることです。
少し間の抜けた姿にも見えます。
けれど、少なくともあの魚の怪物は本当に騙されました。
この世界には、互いに牽制しながら、それぞれの生き方を持つ不思議な生き物が、まだたくさん隠れています。
どうぞ第五節「巨葉の下」をお楽しみに。




