17-3 樹の中の水
霧に包まれた森。
そこには、いったい何が潜んでいて、何が噛みついてくるのでしょうか。
黒い礫は少し天光にさらされた後でも、触るとまだ冷たかった。
あたしはしゃがみ、数粒つまんで掌に乗せる。
ただの石砂じゃない。縁が、何年も水に磨かれたみたいに丸いものもあれば、表面だけ妙に光りすぎているものもある。とても熱い火の中で一度溶けて、急に冷えたみたいだった。細かな砂が数粒、手の甲に張りついた。二度振って、ようやく落ちる。
エイリンはもう小さな布袋を取り出していた。
「これは持って帰る」
彼女は言った。
「どれくらい持ってくの?」
「少し」
彼女の言う少しは、最後には袋半分になった。
ヴァンスが、彼女が袋口を縛るのを見ていた。
「それは少しじゃない」
「石にとってはね」
あたしが笑いかけたところで、ザカはもう突き出た黒石の前に立っていた。膝を少し曲げ、跨ごうとしている。
次の瞬間、彼の体が前へふわりと流れた。
走ったんじゃない。
浮いた。
踏み出した一歩が、いつもよりずっと遠かった。着地した時、靴底が砕け石の上で長く音を引き、両腕を何度か振ってようやく立ち止まる。
ザカは自分の足を見下ろした。
「地が軽い」
「あんたが重すぎるんでしょ」
「今は重くない」
あまりに真面目に言うので、あたしは一瞬返す言葉をなくした。
あたしもその石を跨いでみた。
尻尾を持ち上げて釣り合いを取った途端、体が思ったよりずっと先へ送り出された。前を歩いていたアーロンにぶつかりかけ、無理やり腰をひねって着地する。靴底が擦れて熱くなった。
アーロンが振り返る。
「足元」
「地面が先に軽くなった」
「否定はしてない」
泥水の魚め。
エイリンの目がきらりと明るくなり、同じように膝を曲げた。
「跳ぶな」
ヴァンスが言った。
「まだ跳んでない」
「だから先に言った」
エイリンは膝をゆっくり伸ばした。でも口元は上がっている。自分がどれだけ高く跳べるか、知りたくて仕方ない顔だった。ただヴァンスが隣に立っていて、その顔にはもう、跳んだら船まで縛って連れ戻す、と書いてあった。
あたしたちは礫浜で少し時間を使い、歩き方を覚え直した。
力は抑える。
向きを変える時はゆっくり。
荷物を背負っている時はもっと慎重に。でないと人は飛ばなくても、背中の鍋が先に飛ぶ。
ロイは実際に、縄束を一度飛ばした。二歩追いかけ、本人まで縄と一緒に浅瀬へ転がり込みかける。ハーンが襟首をつかみ、腕の筋が浮くほど力を入れて止めた。
「踏んでから運べ」
ハーンは言った。
ロイは顔を赤くしてうなずいた。
この二人にも、ようやく名前がついた。ハーンは四十を少し過ぎた船大工で、掌が広く厚く、指の間には洗っても落ちない木屑と古い樹脂が詰まっている。道中ずっと石を見て、漂ってきた木を見て、餘暉号の船首にあるあの数枚の継ぎ当てを見ていた。傷口を初めて見た医者みたいに。
ロイは、木桶を抱いて漂い戻ってきた若い水夫だ。
彼は自分から上陸についてきた。理由は簡単だった。
「船に残ったら、桶抱きのまま年寄りになるまで笑われる」
「上陸したら、別のことで笑われるかもよ」
あたしはそう忠告した。
「それなら新しい」
この人、ときどき木桶より硬い。
礫浜を離れると、足元の音が変わった。
黒石のさらさらした音は厚い土に飲み込まれ、残ったのは枝葉から水が落ちる細い響きだけだった。霧は低く押しつけられ、膝から樹冠の間にとどまっている。そのせいで前方の木々は、層を重ねるごとに薄くなっていった。あたしの毛にはすぐ小さな水玉がつき、耳の先も濡れて重くなる。
空気は最初、海水と濡れ岩と腐った海藻の匂いだった。
しばらく歩くと、塩の匂いが少しずつ薄れた。
代わりに、青い匂いがいっぱいに満ちてくる。折れたばかりの枝、水を吸いきった根、土から出たばかりの茸。全部が鼻の中へ押し合って入ってきた。この林は、たった今海からすくい上げたみたいに湿っているのに、地面には大きな水たまりがない。水は根と落ち葉に受け止められ、見えない隙間を通って下へ逃げている。
木はそれほど高くない。けれど、気持ち悪いほど密だった。
どの木の葉も幅広く、縁が少し内側へ巻いている。開いた手がいくつも並んでいるみたいだった。葉面には短い細毛が生え、霧が触れると水玉になって、葉脈を伝って枝へ滑っていく。
エイリンはこの木を、ひとまず攬霧木と記した。
エイリンが一本の木の前で止まる。
「ここを見て」
樹皮には白い結晶粒が一層こびりついていた。外側に近いところほど厚い。彼女は爪で少し削り、先に匂いを嗅いで、それから全員が止めるより早く舌を出して舐めた。
彼女の耳が先にぴくりと動いた。
「しょっぱい」
あたしは彼女を見つめた。
少しして、彼女は眉を寄せる。
「あと苦い」
さらに少しして。
「舌がどこかへ行った気がする」
あたしは腕を組んだ。
「記録するのに、必ず舌を使わなきゃいけないの?」
「味も特徴だから」
「毒も特徴だよ」
ヴァンスが水袋から少し水を出し、彼女に口をすすがせた。動きが、最初から用意していたみたいに早い。エイリンは水を吐き出し、それでも半乾きの羊皮紙に炭筆で数行書くのを忘れなかった。
アーロンは外皮を小さく割り、鼻先へ持っていった。
「塩。あと樹脂」
ハーンが受け取り、親指を樹皮の隙間に押し込んだ。すぐには刃物を抜かず、倒木を一本ゆっくり撫でていき、風で折れた枝を何本か見た。
「外皮は締まってるが、中は死んだみたいに硬くはない」
彼は小斧で細めの枝に浅い切れ目を入れた。木の色は淡く、繊維はそろっている。断面からは、少し甘い匂いと苦い匂いが混ざって立った。
「若いのは使える」
彼は言った。
「船板の補修、小舟の補修、手すり、支え、浮き具。船に残ってる腐り木よりはどれもいい。主帆柱は無理だ。乾いたら反るか、先に知らないといけねえ」
最後に、ハーンは密に重なる樹冠を見上げた。
「港に運ばれてきた木なら知ってる。こんな場所で生えてるやつは初めてだ」
ザカがその太い枝を何気なくつかみ、両手で曲げた。
枝は、引き絞られた弓みたいにしなった。
さらに少し曲がる。
ロイは隣で帰り道用の布を結んでいた。繊維の細い音を聞き、顔を上げる。
「待って、こっちに向けるな――」
ザカが手を離した。
ぱん。
枝はロイの耳元をかすめ、頭の上の水玉を一連れ叩き落とした。
ロイはその場で固まる。
ザカは枝を見た。
「よく粘る」
ハーンは目を閉じた。
「見れば分かる」
さらに奥へ進むと、ロイが絡まった根を避けようとして、厚い落ち葉に足を踏み入れた。
落ち葉の下から、短くぷっと音がした。
次に、何かが飛び出した。
大きさは靴一つ分ほど。四肢は太い根っこを四本切ったみたいに短いのに、頭はほとんど全部が口だった。その口が前へ開き、ロイの靴先にそのまま食いつく。
ロイは海に落ちた時より大きな声で叫んだ。
そして上へ跳ねた。
ここでは、その跳び方がまったく理不尽だった。
彼は小さな何かを靴につけたまま高く浮き、落ちた時には濡れ土の上を何歩も滑った。靴には、どうしても離れない毛皮の塊がまだぶら下がっている。
ザカの刀はもう半寸抜けていた。
「待って」
あたしは言った。
そいつから血の匂いはしない。獲物に飛びかかる捕食者の、あの生臭く熱い匂いもない。口は大きいけれど、歯が骨を削ったような匂いもしなかった。
あたしは少し近づいた。
ロイの靴面は無事だ。ただ、べたべたした唾液が輪になっている。
小獣は口を開けていた。中にあるのは厚い硬い唇で、歯は一本もない。ただ必死にくわえているだけだ。小さな前脚が靴面の上をばたばた踏み、あたしたちに離れろと警告しているみたいだった。
隣の草葉がふと揺れた。
薄い虫臭さがした。
低い草をめくると、葉裏に長い翅の小虫が数匹伏せていた。蝗に似ているが、翅はもっと細い。エイリンは後でこれを跳翅虫と記した。驚かせても遠くへ飛ばず、まっすぐ上へ跳ねるだけだ。
あたしは一匹つまみ、小獣の前へ投げた。
小獣はすぐ靴を離した。
大きな口を開け、息を吸うような変な音を立てる。その虫が跳び上がった途端、前へ傾くように吸い寄せられ、まるごと口の中に消えた。
ごくりと飲み込んだ小獣は、あたしたちを一度にらみ、落ち葉の下へ潜っていった。
ロイは自分の靴を抱え、歯のない魚に辱められたみたいな顔をしていた。
「噛まれた」
「歯、なかったよ」
「その方が恥ずかしい」
あたしは落ち葉の下の小さな輪郭を見た。
「大嘴娃って呼ぼう」
ザカが刀を納める。
「肉が少ない」
ロイはすぐ靴を少し後ろへ隠した。
「食べようとは言ってない」
「俺は言った」
あたしたちは進み続けた。
林はどんどん湿っていくのに、靴底は泥に沈まない。根が地面をしっかり支えていて、絡み合った網が何枚も重なっているみたいだった。少し進むたび、エイリンは止まって何かを書いた。霧がどの高さで止まるか、葉がどちらへ傾くか、海塩の匂いがどれくらいの速さで薄れるか。
ハーンは木を伐らなかった。
倒木や折れ枝だけを拾い、時々、斧の背で若い幹を叩いた。午後になって、彼は自然に裂けた側枝の前で止まる。
「ここだ」
彼は枝を半分ほど切り落とした。
外皮は硬い。けれど中の湿り方がおかしい。ザカが手で絞ると、淡い繊維からすぐ清水が滲み、指の間を伝って流れた。
全員が静かになった。
あたしが先に嗅いだ。
海塩はない。
外皮にあった、あの苦く痺れる匂いもない。
淡い木の甘い匂いだけ。
少し手の甲に塗り、しばらく待つ。皮膚は刺さない。痺れもしない。そこでようやく、舌先で触れた。
水は冷たかった。
きれいすぎて、味を間違えたのかと思うほどだった。最後にごく薄い甘さが残る。故郷で誰かが樹液を鍋で煮詰め、鍋底に残した味みたいに。
「飲める」
あたしは言った。
エイリンがすぐ身を寄せた。
ヴァンスが先に彼女の手首をつかむ。
「待て」
「珂拉は飲んだ」
「彼女が先に飲んだことと、おまえが急いで飲むことは別だ」
あたしは枝をアーロンへ渡した。
彼は少し飲み、それから樹皮の塩殻を見る。
「塩を外へ残してる」
エイリンは木のそばにしゃがみ、指で葉脈から下へなぞった。
「霧が葉に落ちて、水が枝を伝って中に入る。外皮が塩と悪いものを外へ押し戻して、中に水を残す」
「樹脂もある」
ハーンが言った。
半透明の粘りを少し削り、掌でこすった。
「温めれば軟らかくなって、冷えればまたくっつく。船板の割れ目を塞ぐ、縄に塗る、木片を仮止めする。どれもできる」
アーロンは切られた側枝を見た。
「少なく取れ」
ハーンはうなずいた。
「裂け目を探す。本当に切る時も少しだけだ。取ったら樹脂で塞ぎ直す」
あたしは樹皮の下にある、水を含んだ淡い軟らかい層を見て、ようやく分かった。この林がこんなに湿っているのに、足元が泥沼になっていない理由。
水を、自分の体の中に隠しているのだ。
あたしたちは木の幹に印をつけた。ロイは道々、根に短い布を結んでいく。この濾潮林に入った一日目、あたしたちは思っていたよりずっとゆっくりしか進めなかった。根を迂回し、知らない痕跡を嗅ぎ、使えるものと触れてはいけないものを記し、それから時々止まる。足に力を入れすぎないために。
---
空が暗くなり始めた頃、ハーンが見積もった。
「だいたい五、六キロだな」
エイリンが顔を上げる。
前方はまだ湿った霧と木影ばかりで、森が薄くなる様子さえ見えなかった。
「二十キロ前後」
アーロンが言った。
「まだ入ったばかりだ」
平たい声だった。それなのに、あたしの尻尾の先は知らずに張った。
あたしたちは木が少しまばらで、上から空の線が一本だけ漏れる場所を選んで野営した。地面には厚く乾いた葉があり、その下はやっぱり湿った土だった。ハーンとロイは折れていた枝を少し集め、ザカは使えそうな木材を何本か脇へ引きずって、きっちり積み上げた。
アーロンが石で三つの火を囲った。
乾いた枝は安定した火の舌を出した。湿った外皮と少しの樹脂を放り込むと、煙が一気に立ちのぼる。むせる白煙は葉の間の霧を抜け、上がるほど細くなり、最後にはまっすぐな灰色の線三本になった。
出発前、あたしたちは餘暉号と決めていた。
煙一本は、安全。
二本は、重要なものを一つ見つけた。
三本は、水、木材、それから拠点を置ける場所。
あたしたちは火を囲んで待った。
霧は音をゆっくり飲み込む。遠くの滴る水が聞こえた。火が樹脂を焼いて、小さく弾ける音も聞こえた。どこかで何かが根の下を掘る音も。
長い時間のあと、海岸の方から鈍い角笛が三度届いた。
短く。
短く。
長く。
ロイがぱっと身を起こした。
「見えたんだ」
みんなが息を抜いた。
ハーンは樹脂のついた指を火のそばに広げた。
「水、木、樹脂」
エイリンが足した。
「縄に編める繊維も。あっちの蔓の皮、剥ぐとかなり丈夫」
「食べ物は?」
ザカが聞いた。
火の光が、彼の真面目な顔を照らしていた。
本気で聞いているのは分かる。
あたしは少し離れた落ち葉を指した。
大嘴娃の輪郭が、ちょうどその中で動いた。
「跳翅虫か、あれを食べたいなら」
ザカは長いこと見ていた。
「肉が少ない」
ロイが自分の靴を見下ろす。
「提案してない」
夜は交代で火を見た。
あたしの番になった時、野営地はもう静かだった。火は低くなり、灰の中の樹脂が時々ぱちりと鳴る。霧は地面に貼りつき、湿った木と甘い水の匂いを連れていた。
まず野営地を一周する。
大型の獣が残す獣臭さはない。
血と腐肉もない。
大嘴娃は多い。落ち葉の下でこそここそ動くけれど、火には近づかない。樹冠の間では時々、小さなものが走る音がした。葉の上を雨粒が跳ねるくらい軽い。
今のところ、逆風の匂いはない。
あたしはパフの籠を開けた。
朝からこの林の匂いを嗅ぎつけて、あいつはずっと籠の蓋を鼻で突いていた。地面に降りた途端、根の一本に沿って走り出す。四匹の子リスも後ろに続き、尻尾を全部立てていた。小さな箒が四本並んでいるみたいに。
パフは一本の木の前で止まった。
そこの外皮は自然に細く裂け、中の淡い軟らかい層が見えていた。あいつは少しかじり、頭を突っ込んで舐め始める。子リスたちもすぐ真似して、団子みたいに押し合った。誰も譲らない。
あいつらは、最初から木の中の甘い匂いに気づいていたらしい。
パフは食べ終えると、急に幹を駆け上がった。
四匹の小さいのも追いかける。
「ちょっと」
あたしは声を低くして追った。
ここでは体が軽すぎて、木登りはいつもよりやりにくい。少し力を入れるだけで手足が上へ行きすぎる。慌てて枝に抱きつき、高い葉の中へ突っ込まないようにした。樹皮は濡れて滑り、掌には白い塩粒がつき、また雨水に流された。
樹冠に近づいた時、幹の中から鈍い音がした。
どん。
あたしは止まった。
もう一度。
どん。
音は木の芯を伝って下りてくる。空の桶に拳を突っ込んで叩いたみたいな、くぐもった音だった。
パフは上の枝に座り、あたしへ尻尾を振った。
あたしはあいつの見ている方へ登る。
樹冠の中央で、葉が浅い窪みを作っていた。その中に、丸々とした果実がいくつか転がっている。拳ほどの大きさで、小さな碗に近いものもあった。皮は厚く、霧で洗われた黄緑色をしている。
そのうち一つがちょうど果柄から外れ、葉の中央に開いた黒い穴へ落ちた。
どん。
そういうことか。
下を見ると、幹の中央は空洞だった。成木の外側はまだ生きているのに、中はまっすぐな通り道になっている。果実はそこへ落ち、内壁を転がって根元へ行く。樹上から遠くへ砕け飛ぶことも、潰れることもない。
パフ一家はもう果実を抱えてかじっていた。
皮が割れると、甘い匂いと少しの樹脂香があふれた。あたしは長く嗅ぎ、それから指先に淡黄色の果肉を少しつけた。汁に酸っぱく腐った匂いはない。毒草みたいに鼻を刺す苦さもない。
それでも一口だけにした。
果肉は柔らかく、木の中の水よりはっきり甘い。最後に淡い木の香りが残る。中央には硬い種がいくつかあって、噛むと小石みたいだった。
あたしは残りの果実を包み、野営地へ持って帰った。
松果鼠が嬉しそうに食べるからといって、人も必ず大丈夫とは限らない。
それは、もう何度も学んだことだ。
朝起きると、あたしはまず腹を触った。
痛くない。
舌も痺れていない。
体も熱くないし、発疹もない。
よし。
あたしは果実を包んでいた布を広げた。
「食べられる」
エイリンはまだ毛布にくるまっていたのに、その二文字を聞いた途端、起き上がった。ヴァンスが落ちかけた外套を引き上げてやる。でも彼女はもう羊皮紙をつかみ、書き始めていた。
あたしは彼らをあの中空の大木まで連れていき、果実が落ちる音を聞かせた。
ハーンは幹を叩き、頭を突っ込んで中まで見たくてたまらない顔をしていた。
「古い木はむやみに伐れねえ」
最後に彼は言った。
「中が空なら、倒れた時に人を潰す」
「小さな獣の棲み家にもなる」
あたしは言った。
パフは高いところに座り、果肉を口へ詰め込んでいた。明らかに賛成している。
最初の取水地点へ戻る頃には、エイリンが半乾きの羊皮紙を平らな根の上へ広げていた。炭筆で一枚の告示を描いている。船から来て資源地点を引き継ぐ人たちに残すため、一番目立つ攬霧木へ釘で留めるつもりらしい。
彼女はとても真剣に描いていた。
出来上がりはひどかった。
攬霧木は、水鉢を頭に乗せた大きな茸になっていた。
果実は石みたいだった。
大嘴娃は四本脚の、生きて怒っている碗みたいだった。
外皮の横には舌を出した顔まで描いてある。たぶん、舐めるなという注意だ。
あたしはその絵を長く見つめた。
最後にはこらえきれず、ぷっと笑った。
エイリンが振り返る。
「どこが分かりにくい?」
あたしは四本脚の碗を指した。
「これは何?」
「危険生物」
ロイは自分の靴を見た。靴先の唾液跡はまだ洗えていない。
「危険?」
エイリンは炭筆を取り、碗の口元に尖った線を何本か足した。
「これで少し危険になった」
ヴァンスは彼女の後ろに立ち、しばらく沈黙したあと、告示の隅に分かりやすい共通語をいくつか書き足した。
取水。
樹皮を塞げ。
外皮を舐めるな。
大口に注意。
字の方が絵よりずっと分かりやすかった。
エイリンはそれを見ても抗議せず、ただその描き損ねた告示を幹へ釘で留めた。
薄霧が林の間をゆっくり流れていく。
海岸の方から、かすかな騒ぎ声と櫂が水を叩く音が聞こえた。
餘暉号の人たちが近づいている。
そしてあたしたちは、まだ五、六キロしか進んでいなかった。
前方には長い濾潮林が、霧と根の向こうに隠れている。
あたしたちが入ってくるのを待ちながら。
今回の篇章では、生態域と生物のデザインを、これまで以上に意識してみました。
この世界の姿を、皆さんにより具体的に感じていただけたらと思っています。
もしかすると、そう遠くないうちに設定画のラフをお見せできるかもしれません。ただ、私はまだ絵を勉強中なので、どうか期待はほどほどに。ははは。
次回は、逃げる準備が必要になりそうです。
どうぞ第四節「霧中の狩り手」をお楽しみに。




