17-2 海の果て
すぐに上陸するわけではありません。
なにしろ、ついさっき上から落ちてきたばかりですからね。
でも、アーロンには皆さんに聞かせたい話があるようです。
どうぞご覧ください。
結局、あたしたちはすぐには上陸しなかった。
さっきまでみんな、組を分けて荷物を背負えば、そのまま奇妙な大地へ歩いていけるみたいに話していた。
実際は、岸はまだずっと下にあった。
船を寄せられそうな場所なんて、あたしにはまるで見えないほど遠く。
餘暉号のいる場所から見る天坑の底は、雲と霧に切り分けられた色の塊だった。濃い緑、灰黒、土色、それから中央の雲を貫く山群。森はぼやけた暗い帯で、川も道も見分けられない。船を寄せられる岸なんて、なおさらだ。
天坑は深すぎた。
あたしたちは入口から落ち込んだばかりで、まだ上のほうの壁海にいる。本当の底までは、餘暉号が何日も航行できるほどの距離があった。
あたしは舷からしばらく下を見た。
何も見えなかった。
ただ、目が回った。
クレイゲンはすぐ、船縁に群がっていた者たちを全部追い払った。
「見飽きたなら働け!」
水夫たちに、さっきの落下で傷んだ船板をもう一度調べさせ、樽、荷箱、道具を固定させた。壁に掛かった木杓子まで、縄を二重に巻かれている。
「結び目は全部二度確認しろ」
「船底ももう一度見ろ」
「知らないものを見たら、まず人を呼べ。矢を射るな、銛を投げるな、まして手を出して触るな」
若い水夫が小さく言った。
「船長、ここじゃ何もかも知らないものです」
クレイゲンは彼を見た。
「なら何にも触るな」
その男はすぐ樽を縛りに行った。
餘暉号は、下へ航行を続けるしかない。
下へ、とは言っても、甲板に立っているとまるで感じなかった。
船はまだ海面に浮いている。
風は帆を吹き、波は船にぶつかり、水夫が舵輪を回せば、船首も素直に片方へ向く。
すべて、普通の航海と同じだ。
遠くを除けば。
海の両側は地平線へ沈まず、途方もない彼方でゆっくり高くなっていた。距離のせいで波も水の色も溶け合い、天坑の内壁に沿って上へ曲がる一面の青だけが残る。それは薄霧と雲の中へ消えていった。
細かいところは見えない。
でも海全体が、横になってくれないことは分かる。
長く見ていると、胃まで変な向きへ傾いた。
遠くを見なければ、ここは海だ。
見れば、昔の海だってずっと曲がっていたのに、あたしが気づかなかっただけじゃないかと思い始める。
クレイゲンによると、今の潮と風なら、地形が平らになり始める場所に着くまで、少なくとも四、五日は航行するらしい。
あたしはほっとした。
少しがっかりもした。
ついさっき、あの森にはしばらく踏み込みたくないと思ったばかりなのに。
本当に行けないとなると、中に何がいるのか知りたくなる。
好奇心って、たぶんそういうものだ。
命が助かったそばから、次に自分を殺せそうなものを探し始める。
……
航行二日目、甲板はようやく少し船らしい姿に戻った。
壊れた荷箱は釘を打ち直され、縄は巻き直された。船首の裂け目はまだ水をにじませていたが、木片と膠でひとまず塞がれている。水夫たちも、地面に撒かれた魚みたいに甲板を走り回らなくなった。パフの一家も、ようやく籠から顔を出した。
四匹の子リスは、ここの海に興味がない。
船がほんの少し傾くたび、みんな一緒にパフの腹の下へ潜り込む。
よく分かる。
あたしの胃だって、隠れられる腹がほしい。
アーロンは舷のそばに立ち、天坑中央の山群を見ていた。
この二日、よくあそこに立っている。
ぼんやりしているわけじゃない。
アーロンがぼんやりしているときは、道端に置かれた石に似ている。今の彼の視線はゆっくり動き、中央の峰影から両側の雲へ移り、細部の見えない暗い一角で止まる。
焼かれ、水に浸かり、誰かにでたらめに縫い合わせられた地図を見分けようとしているみたいだった。
あたしは隣へ行った。
「前にも、この海はあった?」
「なかった」
「雲は?」
「今より高かった」
「雲の中を泳いでる、あれは?」
「見たことがない」
あたしは天坑の入口に近い雲を見上げた。
遠すぎて、巨大な獣の鱗も目も翼も見えない。ただ、ときどき平らな雲の面の下を大きな影が滑り、白さを一瞬だけ暗くする。
雲の面が膨らむこともある。
その向こうを、何かとんでもなく大きなものが泳いでいるということだ。
あたしはまた聞いた。
「下の森も、前はあんなに大きかった?」
アーロンは長く見ていた。
「前は木が見えた」
彼は言った。
「今は、まず緑の一面が見えるだけだ」
言ったのと、言っていないのと、あまり変わらない。
でも彼のせいじゃない。
底までは遠すぎる。
昔、入口から最高峰までどれくらいかかったのか、聞こうと思った。
道が残っているかも聞きたかった。
それから、彼と一緒に来た人のことも。
質問は舌先まで来て、また噛み戻した。
山を聞く。
水を聞く。
雲を聞く。
質問がたくさんあれば、うっかりあの人のことを聞かずに済む。
アーロンが、ちらりとこちらを見た。
あたしは海を研究しているふりをした。
彼も暴かなかった。
「入口は昔、大陸の中央山地にあった」
彼は言った。
「入れば、まず谷、断崖、霧だった。この環海はなかった。低い場所にも、こんなに水はなかった」
「じゃあ入口が海へ移ってから、海水が入ったの?」
「たぶんな」
「山も一緒に変わる?」
アーロンは遠くを見た。
天坑の底には、ずっと黒雲に覆われた一帯がある。距離のせいで山も地面も見えず、重い暗がりと、その中でときどき光る雷だけが見えた。
「位置の違う峰がいくつかある」
耳がぴくりと動いた。
「山の位置が違うなんて、あるの?」
「今はある」
その言葉は嫌いだった。
ここにはもう、今はある、が多すぎる。
羊皮紙の巻物を抱えたエイリンが走ってくると、足音のほうが本人より先に届いた。
後ろにはヴァンスがいる。
その顔を見るに、ゆっくり歩けと言ったんだろう。
無駄だった。
「最高峰の話?」
エイリンは中央の山群を見て、磨いたばかりのガラスみたいに目を輝かせた。
「祭壇もあそこにあるの?」
アーロンはうなずく。
エイリンの指先は、羊皮紙の端を絶えず叩いていた。中に、並んだ質問が一斉に出たがっているみたいだった。
「惜しいなあ。願いの材料、あたしたちにはないもの」
あたしは固まった。
あたしは遠回しに避けてきた。
彼女は一歩で踏み込んだ。
エイリンも、言ってからまずいと気づいた。唇を動かし、すぐに付け加える。
「本当に願いをかけたいわけじゃないの」
彼女はアーロンを見た。
「ただ、そのときの材料をどうやって探したのか知りたいだけ。あんなもの、市場でそろうはずないでしょう?」
アーロンの表情は変わらなかった。
少なくとも、あたしには分からない。
彼はしばらく黙り、視線は遠くに置いたまま言った。
「不滅灰」
エイリンはすぐ背筋を伸ばした。
あたしも耳を立てる。
「それも材料の一つ?」
「ああ」
「灰がどうして消えないの?」
「あいつらは、燃え切らない」
エイリンはまばたいた。
きっと質問は山ほどある。でも珍しく、こらえた。
アーロンによると、不滅灰は灰燼の地に棲む大型の鳥から採れる。
灰帰り鳥。
立ち上がれば二、三メートル。大きい個体はザカより背が高い。羽毛は普通の鳥の羽とは違い、ふわふわして乾いて温かい灰の層みたいな手触りらしい。
灰帰り鳥は長く生きる。
古い体が少しずつ衰え、翼が重くなり、飛ぶ高さが下がって、高空の熱い流れに長く留まれなくなると、決まった灰の巣へ帰る。
それから、自分を燃やす。
体は灰になる。
火が退いたあと、幼い灰帰り鳥が灰の中から、また這い出してくる。
エイリンが、とうとう我慢できなくなった。
「不死鳥!?」
叫び声は甲板じゅうに聞こえた。
アーロンは彼女を見た。
「不死じゃない」
彼は言った。
「死に方が少し面倒なだけだ」
ヴァンスの眉尻が少し動いた。
笑ったのかどうかは、分からない。
エイリンはもう、羊皮紙を勢いよく広げている。
「じゃあ、自然に巣へ帰るまで待ったの?」
「いや」
「どうやって取ったの?」
アーロンが一瞬止まった。
短い間だった。
でも、あたしには聞こえた。
「ティナの案だった」
ティナ。
名前は海風の中へ、とても軽く落ちた。
でもあたしの耳には、何かが触れたみたいだった。
アーロンが初めて、あの人に名前をくれた。
あたしは彼を見た。
彼はあたしを見なかった。
エイリンの注意は、すっかり灰帰り鳥に向いている。
「どんな方法を考えたの?」
アーロンは舷にもたれた。ずっと昔に残してきた厄介ごとを話すみたいに。
「自分が老いたと思わせた」
あたしはゆっくり振り向いた。
「何?」
「灰帰り鳥は年だけを見ているんじゃない」
アーロンは言った。
「体が重い。翼の釣り合いが悪い。だんだん低くしか飛べない。そうなると、古い体がもうもたないと思う」
エイリンの目がどんどん大きくなる。
あたしには、嫌な予感がした。
「それでティナは、寝ているあいつの翼の内側と尾羽の根に、石袋を結びつけた」
あたしは彼を見つめた。
「結べたの?」
「難しかった」
彼は言う。
「俺たちより背が高いし、寝ていても火を吹く」
想像してみた。
灰の山で眠り、体から熱を出す、ザカより背の高い大鳥。
二人がそのそばにしゃがみ、石の袋を抱え、一つまた一つと羽の間へこっそり結びつける。
勇敢なんかじゃない。
灰燼の地で頭まで焼かれたんだ。
「石袋は重すぎちゃいけない」アーロンは続けた。「重すぎればすぐ気づく。小さな袋に分けて、いろんな羽の根元に結ぶ。重さが体の中から生えたと思わせる」
「あなたも結んだの?」
「ああ」
「うまく結べた?」
アーロンは遠くを見る。
「ティナは、あまりうまくないと言った」
エイリンが吹き出した。
ヴァンスまで視線を逸らした。
アーロンの口元が、風に少しだけ動かされたように見えた。
「遅いって言われた。後はほとんど彼女が結んだ」
「じゃあ、あなたは何をしてたの?」
「起きないか見ていた」
「起きた?」
「一度、寝返りを打った」
アーロンは手を上げ、わずかな距離を示した。
「彼女を翼の下へ押しつぶしかけた」
エイリンは笑いすぎて、羊皮紙を持っていられない。
「それで?」
「石袋が一つ落ちた」
「誰に当たったの?」
アーロンは一瞬止まる。
「俺に」
ついに、あたしもこらえられなかった。
笑いが喉から漏れた。数日前に海水を飲んだせいで、少し痛みを帯びて。
海風、濡れた木、まだ乾かない縄の匂い。その全部が、ずっと昔の話に混じった。
ティナというエルフはもう、アーロンが避けてきた空白だけじゃなかった。
アーロンの結び方が遅いと文句を言う。
火を吹く鳥のそばに腹ばいになり、石袋を一つずつ羽の根元へ押し込む。
そして、二人まとめて踏み殺されそうな方法を思いつく。
数日後、灰帰り鳥は本当に、だんだん低く飛ぶようになった。
翼を振るたび、羽の根に隠した石袋がわずかに引っ張る。かつてのように高空の熱い流れへ留まれず、向きを変えるときも尾羽がいつも半拍遅れた。
とうとう、灰の巣へ帰った。
アーロンが言うには、その灰の巣は餘暉号より大きかった。
長年の燃焼で積もった灰は、黒赤い小山になって輪を描く。踏めば靴底まで熱くなる。
灰帰り鳥は中央に立ち、両翼を広げた。
羽の隙間に、まず赤い光が灯る。
次に火が来た。
膨大な魔力が炎を空へ巻き上げ、回り続ける火柱を作った。灰は高く運ばれ、黒い雪が逆さに飛ぶようだった。
古い体が、火の中でゆっくり崩れていく。
アーロンとティナは遠くの岩陰に隠れた。火が少し弱まると、二人はまだ熱を持つ灰の巣へ駆け込み、それぞれ小さな袋一つ分の灰をすくった。
「それが不滅灰だ」
あたしはアーロンの手を見た。
ここまで話したとき、彼の指の節がほんの少し縮んだ。
とても速く。
風が冷たかっただけに見えるほど速く。
ティナがそのあとどうなったか、あたしは聞かなかった。
エイリンも聞かなかった。
彼女はただ聞いた。
「それで?」
アーロンは言う。
「それから、あいつは生まれ直した」
あたしはまばたいた。
「成功したの?」
「ああ」
「気づかれなかった?」
アーロンは少し黙った。
「三日追われた」
エイリンは笑いすぎて、羊皮紙を海へ落としかけた。
あたしも舷を支えにして、肩を震わせた。
「雛じゃないの?」
「ティナもそう言っていた」
アーロンの口調は、やはり平らだった。
「生まれたばかりなら、速く飛べないはずだって」
「で、どうだったの?」
「若かった」
今度は、近くで縄を直しているふりをしていた水夫たちまで声を上げて笑った。船尾からクレイゲンが、誰がさぼっていると怒鳴る。笑い声はすぐ小さくなったが、完全には消えなかった。
あたしは舷にもたれ、雷光に何度も照らされる遠い暗がりを見た。
話の中のティナは、まだ走っている。
盗んだ灰の袋を抱え、髪を火で縮らせ、背後には生まれ直したばかりの、若い大鳥がいる。
アーロンは、この話を悲しまずにした。
わざと声を低くもしなかった。
でも、あの人は帰ってこなかったのだと、あたしには分かる。
何を言えばいいか、分からなかった。
だから何も言わなかった。
ただ彼と一緒に舷のそばに立ち、遠くを見た。
……
その後の数日、餘暉号は壁の海を下へ下へと航行した。
日々は、妙に日々らしくなった。
水夫は帆を上げ、舵を取り、縄を直し、魚を獲る。
あたしたちは、水に浸かってますますまずくなった乾パンを食べ、きっちり分けられた真水を飲み、船底から時々聞こえる細い音に、みんなで一度黙った。
目を船の近くに置いておけば、ここはまだ海だ。
波は船を叩く。
魚の群れは船底を横切り、向きを変えると銀白の腹をひるがえす。
風は毛に塩を吹き込み、乾いたあとには尻尾が殴りたくなるほどかゆくなる。
遠くの景色だけが、ここは外の海ではないと、ずっと思い出させた。
最初の二日、天坑の底はまだ遠い色の塊でしかない。
中央の山群は、雲に沈んだ濃い影の尖り。
森は木が見えず、濃さの違う緑が大きく広がっているだけ。
雷雨の一帯は、決して散らない黒い染みみたいで、その中に時々白い光が灯る。
幅の広い水の帯がいくつも、環海の縁から深みへ落ちていた。
距離のせいで、白い線のように細い。
滝なのか、雲霧なのか、光に照らされた裂け目なのか。誰にも確かなことは言えなかった。
三日目を過ぎて、ようやく底に層が見え始めた。
一つにつながっていた緑が、尾根で切り分けられる。
大きな雲の層が山と山のあいだに浮き、地面の一部をすっかり隠していた。ときどき巨大な影が雲の面の下を泳ぎ、一面の白を暗くできるほど広がる。
どんな姿かは見えない。
ただ、大きい。
ザカはそれを見るたび、耳を前へ向けた。
「でかい」
いつも、その二文字だけ言う。
誰も、どれほどかは聞かなかった。
ここではたぶん、終わりのない言葉だから。
四日目、餘暉号はずいぶん下っていた。
近くには、壁の海から低い場所へ流れる巨大な水路が現れ始める。
その一つは川ほども幅があり、船から遠く離れたところで海面を離れ、岩壁に沿って斜めに底へ流れていた。途中で別の向きから引かれ、水の帯全体が横へ曲がり、最後は雲の中へ消えた。
エイリンは水の流れを見るために、体の半分を舷の外へ出していた。
ヴァンスが彼女の帯をつかみ、引き戻す。
「まだ見終わってない」
「逃げない」
ヴァンスは言った。
そのとき、遠くの広い水帯がまた重力に引かれて少し曲がり、ゆっくり別の山壁のほうへ傾いた。
エイリンがすぐ彼を見る。
ヴァンスは長く黙った。
「次のは逃げない」
あたしは顔を反対側へ向けた。
笑いたくなかったからじゃない。
生きたかったからだ。
夜は、また別の景色だった。
外の星明かりは天坑の入口からしか差し込めない。雲と山を通るうち、底へ届くころには、もうばらばらに砕けていた。
ここには完全な夜空がない。
あるのは広い闇と、そこを違う場所の光がゆっくり切り分けることだけ。
雷雨の一帯は、一晩じゅう光っていた。
白い光が走るたび、遠くに広がる尾根が一瞬だけ浮かび、すぐまた暗闇へ沈む。
森によっては、夜になると薄く光る。
距離があるから葉も幹も見えず、緑青の光跡が闇の中でゆっくり明滅するのだけが見えた。地面の下で、何か大きなものが息をしているみたいに。
もっと高い山腹には、ときどき光の群れが動く。
飛ぶ生き物かもしれない。
歩く植物かもしれない。
エイリンは三頁書いた。
結論は何もなかった。
遠くから、生き物の遠吠えも届く。
音は底から出て、天坑全体を渡り、餘暉号に着くころには低い震えしか残っていない。耳が先に感じ、少ししてから胸の中までしびれた。
見張りの水夫たちは、もとは警戒のためにいる。
後には、かなりの者がこっそり見物していた。
クレイゲンは一度怒鳴った。
あの夜、あたしは水夫一人の薬を替えに起き、彼自身が船尾に立って、中央の山群を長く見ているのを見つけた。
あたしは告げ口しなかった。
獣人だって、ときどき慈悲深い。
……
五日目になって、底はようやく色だけではなくなった。
海と陸の境が少しずつはっきりする。
ほとんど垂直だった地形は緩くなり、黒岩と湿地が幾層にも広がった。いちばん近い森では、ようやく樹冠が見分けられる。巨大な葉のいくつかは風の中でゆっくり裏返り、幅は一枚の傾いた斜面ほどあった。
そこで初めて、前には色の塊にしか見えなかった緑の一部が、異様に大きな葉から来ていたのだと、はっきり見えた。
中央の山群は、数日前よりもっと理不尽なほど高い。
見上げていると、すぐ首が痛くなった。
船の匂いも変わった。
張りつめた汗。
濡れた縄。
何度もこすれた木。
それから、パフの一家が籠の内側をつかんで残した、かすかな木屑の匂い。
餘暉号がおかしくなり始めたからだ。
潮の流れが、だんだん速くなる。
帆はすでに小さく畳んだのに、船足はなお増していた。舵輪を回すと重い木の音がして、海底から何かが船尾をつかみ、向きを変えるなと言っているようだった。
固定の甘い樽が一つ、ゆっくり船首へ転がっていく。
水夫が押し戻し、結び直した。
しばらくすると、脇の木桶が斜めに船側へ滑った。
垂らした縄も、もう同じ向きを指さない。
船底へ向けて落ちたあと、先端がゆっくり船首のほうへ曲がる。二つの向きが、同時に奪い合っているようだった。
あたしも歩きにくくなった。
一歩踏めば、足の裏は甲板が下にあると分かる。
次の一歩では、胃のほうが前も下らしいと思う。
耳が伏せる。
尻尾が張りつめる。
また、この感じだ。
世界が地面を盗む前は、いつもこうだ。
エイリンは甲板にしゃがみ、一方の手を濡れた板に当て、自然の精霊語を低く唱えた。音節は細く、風が薄い葉を抜ける音に似ている。
顔を上げたとき、顔色はよくなかった。
「前に、下が二つある」
クレイゲンが眉を寄せる。
「人の言葉で言え」
エイリンは前を指した。
「この海がまだあたしたちを引いてる。坑の底も引き始めてる」
少し止めてから。
「船を取り合ってるの」
クレイゲンが悪態をついた。
船の水夫はみんな分かった。
エイリンは分からないふりをした。
問題はすぐ、誰の目にも見える形になった。
底へ近づくほど、前方の海面は下へ折れていくように見える。
水はまだ餘暉号を支えている。でももう別の向きへ加速し始めていた。海面には大量の斜めの波が現れ、互いに交差する。別々の方角から来た二つの潮が、ぶつかっているみたいだった。
もし天坑の底の重力が急に全部を引き受けたら、今の餘暉号の船底は側面になる。
でも、下の向きが変わる前に、どうやって船を正しい姿勢に直せばいいのか。誰も知らない。
水夫たちは、帆がどう風を受けるかを知っている。
舵がどう水をつかむかも知っている。
横波が来たとき、どう船体を押さえるかも知っている。
だが海面が向きを変えようとするとき、船のどちらを下へ向けるべきかは、誰も習ったことがない。
「右舷を下げろ!」
「右舷は今、上だ!」
「帆を畳め!」
「畳んだら何で船を回す!」
「船首を返せ、後ろから入れ!」
「どうやって船を後ろ向きに走らせるんだ!」
「錨を下ろせ!」
「錨をどこへ下ろすんだよ!」
「知るか、とにかく投げろ!」
本当に錨鎖をつかむ者がいた。
クレイゲンが駆け込み、片足で踏みつける。
「投げたら、お前をその上に縛る」
男はすぐ手を離した。
クレイゲンは甲板の中央に立ち、船、帆、舵、それから速くなる水流を見渡した。
ひどい顔色だった。
慌てているわけじゃない。
一生使ってきた経験が、急に全部役に立たなくなった。それでも皆の前で、生きる道を見つけなければならない顔だった。
最後に、彼は怒鳴った。
「転がる物は全部、死ぬほど縛れ!」
「転がりたくない奴も、自分を縛れ!」
今日、初めて誰もが分かった命令だった。
甲板はすぐ大混乱になった。
縄があちこちへ投げられる。荷箱、樽、道具袋が一つずつ固定台へ縛られる。腰に縄を三重に巻いても足りないと、さらに自分を帆柱と結ぶ者もいた。
あたしは薬袋を締め、パフの籠を主帆柱の脇へ固定した。
パフが顔を出し、あたしに一声鳴いた。
悪態に聞こえた。
「文句があっても、もう遅い」
あたしは四匹の子リスを、みんな押し戻した。
前の海は、ますます低くなっていく。
ある場所まで来ると、壁の海全体が、ついていた向きからついに離れ、坑の底へ注ぎ始めた。
本当の縁はなかった。
水面が突然まるごと沈み、両端の見えない幅の斜面になっただけだ。白い水霧は二つの重力に引かれ、空中で乱れた長い帯にねじられる。
もっと下には、坑底の海があった。
平らに広がっている。
少なくとも、ここからは平らに見える。
餘暉号は、環海全体に押され、その大きな水の坂へ向かっていた。
舵を切る。
効かない。
帆を畳む。
それでも速くなる。
クレイゲンが舵輪の前に立ち、両手で柄を握った。
船体が急に一度、光った。
金色の紋が舵輪の下から浮かび、甲板の継ぎ目、舷、竜骨へと伸びていく。傷んだ船首へ這い着いた光は、まだ治らない傷に触れたように震えた。
餘暉号の速さが少し落ちる。
ほんの少しだけ。
でもクレイゲンの腕は震え始めた。
血の匂いがした。
かすかに。
舵輪のほうから来る。
「船長!」
誰かが叫んだ。
クレイゲンは振り返らない。
金の光が強くなる。
船体は低く震え、船自身も歯を食いしばっているようだった。水は両側へ無理やり押し分けられる。砕けた飛沫は、立ち上がったそばから前方へ沈む海流に持っていかれた。
クレイゲンのこめかみに、青筋が浮く。
近づく水の坂を見つめる。
「全員、つかまれ!」
最近、この言葉を聞きすぎている。
餘暉号は、下へ傾いた海面へ突っ込んだ。
まず船首が水流に押し下げられた。
船尾が続いて持ち上がる。
それから船底が、海水を失った。
一瞬、船全体が飛んだ。
いや、壁の海から落ちたのだ。
船体の周りに貼りついていた水が、大きな水幕になって散る。重力は完全に坑の底へ向き、全員の体が一斉に船首へ引かれた。
樽、道具、縛りきれていない縄の端が、全部飛び出していく。
壊れた手すりに結ばれた安全縄が、急に弾けた。
三人の水夫が、固定されていなかった卓板一枚と一緒に、船の外へ投げ出される。
一人は樽の鉄輪をつかんだ。
もう一人は卓板の端へ抱きついた。
三人目は空中で手を振り、落ちてくる海水にすぐ呑まれた。
エイリンが杖を上げた。
彼女が最初の音節を吐いたところで、船体がまたひっくり返る。ヴァンスが彼女の腰の縄をつかみ、甲板へ引き戻した。
「間に合わない!」
エイリンは、投げ出された人影を見て、顔色を一瞬で失った。
でも彼らも餘暉号も、同じ海へ落ちている。
誰も、誰も助けられない。
「着地に備えて!」
彼女にできたのは、そう叫ぶことだけだった。
誰かが崩れた声で返す。
「またかよ!?」
急速に迫る坑底の海面を見ながら、あたしの頭にも一言だけ残った。
また?
餘暉号は、姿勢を戻せなかった。
船首は下。
船尾は高く持ち上がる。
主帆柱は、いつ折れてもおかしくない骨みたいに、後ろの水霧へ斜めに突き刺さっていた。
青がすぐ、視界のすべてを埋めた。
次の瞬間、船首が海へぶつかった。
音は水に呑まれた。
衝撃は足元から打ち上がり、歯の間から震えて抜けていく。海水は船首を越え、甲板へ叩きつけられ、あたしの体を板から丸ごと引きはがした。
あたしは縄をつかんだ。
手のひらがこすれて熱い。
目の前が青緑に変わる。
帆布が水の中で開く。
縄は長い草みたいに、ばらばら揺れている。
人影が一つ、船側を滑っていき、すぐ水に消えた。手を伸ばしたけど、つかめたのは冷たい海水だけだった。
餘暉号は、まるごと沈んだ。
あの数息は短い。
ひどく長すぎもした。
水が耳を押さえ、胸の空気は石に絞り出されるみたいだった。爪は縄の結び目に死ぬほど食い込み、鼻の中に塩水が満ちて、何の匂いもしない。
金の光だけが、水の中でまだ光っていた。
ぼやけて。
途切れ途切れに。
クレイゲンのいる舵輪から光が灯り、竜骨に沿って船首へ這う。餘暉号は一度震え、また震えた。沈みかけた獣が水の中でもがくように。
船首が、ゆっくり持ち上がる。
水が甲板から退いた。
空気が顔へ、勢いよく叩き返ってきた。
最初の水を咳き出したとき、肺まで吐いたかと思った。
餘暉号は、また海面へ浮かんだ。
今度は、海が普通の場所にいる。
少なくとも今だけは。
海水の溜まった甲板に伏せていると、耳には咳、荒い息、木が裂けるうめき、それから船板の隙間から船倉へ滴る水の音が満ちていた。
誰かがあたしのそばに寝そべり、巨大な穴に囲まれたあの光を仰いでいる。
あれが空なのか入口なのか、あたしは分けたくなかった。
海面から叫び声が来た。
「縄だ!」
「まだ人がいる!」
あたしは甲板を押して、顔を上げた。
さっき投げ出された水夫たちが、餘暉号の周りに散らばっている。
一人はまだ樽を抱え、青白い顔で波に上下していた。
もう一人はひっくり返った卓板に腹ばいになり、卓の脚を両手で死ぬほど抱いている。最後になぜ卓をつかんだのか、本人にも分からない顔だった。
もっと遠くには、あと二つ人影がある。
一人は切れた縄をつかんでいた。
もう一人は、ほとんど動かない。
横になっている時間はない。
エイリンは舷を支えに立ち上がった。杖からは水が絶えず滴っている。
目を閉じ、近くの海水へ低く呼びかけた。
今度は大波を起こさない。ただ、水の流れに頼み、落水者をゆっくり餘暉号へ押してもらう。
最初の流れはまだ速すぎた。
樽を抱えた水夫が、船体へ丸ごとぶつかりかける。
エイリンの顔色が変わり、すぐ声を調整した。
流れはゆるくなる。
初めて物を支えることを覚えた手のように、不器用に海上の人を少しずつ近くへ送った。
ヴァンスは船側に立ち、縄を投げる。
両手で引いた。
とても安定している。
縄が張ると肩が後ろへ沈み、手の甲に青筋が浮いた。その両手は、ずっと体を離れたことなどないみたいに、自然に動き合っている。
ザカはそのまま海へ飛び込んだ。
どの水夫より速く泳ぎ、数掻きでいちばん遠くの、ほとんど動かない者をつかみ、船側まで支えて戻った。二度目は片手に一人ずつ引き、口には半端な縄をくわえていた。
あたしは顔の水をぬぐい、最初に引き上げられた人へ這っていった。
「水を吐いて」
背を叩く。
「咳き出して。飲み込まないで」
彼は咳で体を丸めた。
額、後頭部、肩、肋骨、手足に触れ、目立つ骨折がないことを確かめる。
手はまだ震えていた。
怪我人に触れると、かえって震えが少し収まった。
薬袋はまだ腰にある。
初めて、あれにキスをしたくなった。
でも海水に浸かった後では、匂いが本当にひどすぎる。
最後の落水者が甲板へ引き上げられると、みんな数え始めた。
自分を数える。
隣の人を数える。
まだ咳ができる者、まだ悪態がつける者、まだ樽を抱いて離さない者を数える。
舵輪の前からクレイゲンの声がした。
「誰が足りない?」
水夫たちは互いの名を呼び始めた。
一人ずつ呼ぶ。
一人ずつ返る。
声の小さい者もいる。
でも、全員いる。
「欠けてません」
老水夫が息を切らして言った。
「船長、誰も欠けてません」
そこでようやくクレイゲンは舵輪を離した。
手が離れると、船体の金の紋はすぐに暗くなった。
一歩後ろへ下がる。
足元が揺れた。
そばの水夫が手を出したが、彼は振り払った。
もっと濃い血の匂いがした。
手のひらは木片と摩擦で裂け、血が手首を伝って甲板の海水に混じっている。
それでも彼が最初に聞いたのは、これだった。
「船底は?」
誰も、彼を長く待たせなかった。
数人の水夫が濡れた体を引きずって船倉へ下りる。残りは排水、裂け目を塞ぐこと、船側に掛かったままの切れ縄を回収することにかかった。
長い時間のあと、混乱はようやく数えられる損失になった。
船首の外板が裂けている。
もともと水のにじんでいた継ぎ目が、広がった。
横木が一本、真っ二つに折れた。
主帆柱の根元にあった細い裂け目が深くなった。
手すりがまた一段なくなった。
食料樽がいくつか、水に浸かった。
大切な修理道具が二つ、海へ落ちた。
船体の銘文は何か所か完全に暗く、ただ力が尽きたのか、木と刻み目まで傷んだのか、誰にも分からない。
人もましではなかった。
水夫一人は肩を外した。
一人は額が裂けた。
二人はひどく水を飲んだ。
脇腹を抱える者もいて、息を吸うたび顔が白くなる。
でも、死人はいない。
額を裂いた水夫に布を巻き終え、あたしは水と木屑だらけの甲板に座った。尻尾は濡れて、脚の横に貼りついている。
誰も死ななかった。
それだけで、とてもいい知らせだった。
あたしの、いい知らせへの望みは本当にどんどん低くなっている。
餘暉号はまだ浮かべる。
これも、ぎりぎりいい知らせに入る。
ただ、もう一度あんな衝撃に耐えることは、当分できない。
クレイゲンは少し休んでから、また舵輪の前へ歩いた。
布を巻いた手のひらを、柄へ置く。
船の奥で金の光が一筋灯った。
ほんの短く光って、すぐ消えた。
クレイゲンの息も、そこで重くなった。
彼は手を引いた。
誰も、すぐ銘文を動かせとは言わなかった。
餘暉号に刻まれた力は、ひとりで起きるわけじゃない。
誰かが自分の力を送り込まなければならない。
そしてクレイゲンは、さっきすでに渡せるものを全部渡していた。
肩を戻し、水を飲んだ者たちが自分で座れるようになり、船首の裂け目も板で仮に塞いでから、餘暉号はようやくまたゆっくり動き出した。
落ちてから、もうずいぶん時間が経っていた。
片側の高い場所に掛かっていた光も、位置を変えている。
クレイゲンは船を、近くの黒い礫浜へ寄せさせた。
ここはもう、坑の底の海だ。
遠くの陸地は、ようやく壁に見えなくなった。
岸は水の中へゆるく伸び、黒い石粒が波に押されて、さらさら鳴る。後ろには濡れて光る岩地があり、岩の隙間には低く厚い植物が生えていた。
さらに遠くでは、巨大な森が霧の中から持ち上がる。
ここまで来ると、ようやく何本かの木の生える向きが見えた。
地面から上へ伸びるものもある。
高い岩層や逆さの山体から、枝や幹が垂れているものもある。長い根と葉が下へ落ち、違う向きにある二つの大地を縫い合わせているみたいだった。
餘暉号は礫浜へ近づく。
水夫たちが鉄の錨を下ろした。
錨は海へ沈み、錨鎖は行くべき向きへまっすぐ伸びる。
その真っ直ぐな鉄鎖を見ていると、急に少し敬意が湧いた。
少なくとも錨は、あたしたちより早く慣れた。
船が固定されると、クレイゲンはまた人手を割り振った。
水夫の一部は餘暉号に残り、船首、船底、主帆柱を処置する。水に浸かった物資を救い、銘文を一つずつ調べる。
船が安全に航行できるようになったら、彼らは坑底の海岸に沿って水深と潮を測り、ほかの区域へ通じるかもしれない水路も探す。
もう一方は上陸する。
アーロンが率いる。
任務は、淡水、船を直せる木材か植物の繊維、近くの地形を探すこと。それから高い場所から、坑の底と中央の山群を観察すること。
クレイゲンは船に残る。
顔色はまだ、水に浸した帆みたいに白い。けれど背はまっすぐだった。
「暗くなる前に戻れ」
彼は言った。
「戻れなければ、夜を越せる場所を探せ。珍しいもの見たさに命を捨てるな」
エイリンは、四つ目の羊皮紙の巻物を防水袋へ詰め込んでいた。
顔を上げて言う。
「必要なものだけよ」
ヴァンスは、もう入りきらなそうな袋を一目見た。
何も言わなかった。
あたしは薬袋を背負う。
エイリンは杖を握る。
ヴァンスは弓弦を確認する。
ザカは濡れた上着を絞り、足元に小さな水たまりを作った。
ほかに二人の水夫が同行する。
一人は年長で、縄、測量、船を直す木材に詳しい。
もう一人は若く、さっき樽を抱いて流れ着いた水夫だった。
まだ顔は少し青い。それでも自分は歩けると言い張った。
あたしは彼を見た。
「本当に?」
彼はうなずく。
「船に残って三日笑われるのは嫌なんです」
「上陸しても三日笑われるかもよ」
「少なくとも、別のことで笑われます」
立派な心意気だ。
あたしたちは小舟で黒い礫浜へ寄った。
ここの波は外海より静かだ。でも音の返り方が変だった。水が石浜を叩くたび、遠い岩壁が送り返し、二つ目のもっと低い音になる。
あたしは岸の匂いを嗅ぎ始めた。
濡れた岩。
重い植物の汁。
普通の森より濃い水気。
雷雨が土へ染みて残した焦げた匂い。
それから、知らない生き物が通った後の、薄い生臭さ。風に絡み、どこから来るのか分からない。
小舟が礫浜に触れた。
ザカが先に飛び降り、数歩踏んで、石粒が人をそのまま海へ滑り戻さないことを確かめる。
アーロンが二番目に降りた。
靴底が黒い石を踏み、細かな音を立てた。
あたしの番になり、船縁に立ってその地面を見つめる。
それから、つま先を出した。
黒い石粒が少し押し分けられる。
あたしは止まった。
一息待つ。
もう一息待つ。
地面は左へ走っていかない。
急に頭上にもならない。
胃も飛び立たない。
尻尾も見えない手に、別の向きへ引かれない。
よし。
片足全部を下ろした。
黒い礫が靴底でさらさら鳴る。
パフの籠は胸の前に背負っていた。あいつが顔を出し、四匹の子リスも一匹ずつ頭を出して、同時に鼻をひくつかせる。
遠くで巨大な葉が、風の中でゆっくり裏返った。
今度は本当に、葉の縁が見える。
森の奥から、何か巨大な生き物の声が響いた。
山が喉の中で歯を研いでいるような、低い声。
上陸隊は足を止めた。
アーロンは遠くを見た。
どの山を、どの古い道を、あるいは彼だけが覚えている目印を探しているのか、あたしには分からない。
ただ、その背中がとても静かなのが見えた。
ここは彼の記憶にある至頂群峰と、もう完全に違うはずだ。
あたしは岸へ足を下ろした。
浮かない。
向きも変わらない。
地面も、急に左へ走っていかない。
よし。
ここの地面は、少なくとも今は、地面でいてくれるつもりらしい。
アーロンが彼女について語るのは、今回が初めてです。かつてアーロンと共に旅をした、女性のエルフ、ティナのことです。
第七章ではあれほど泣いていたアーロンも、少しずつ変わり始めているのかもしれません。
さて、話はここまでにしておきましょう。皆、ようやく上陸しました。
けれど、そこで待っているのは何なのでしょうか。
どうぞ第三節「樹の中の水」をお楽しみに。




