閉話7 戦争前の平穏な日々2
毎日18時に投稿しています。お読みいただければ幸いです。
プリシラと実家の場合
エリトリアの北西の町、トリノにある実家の両親あて、プリシラから手紙が来た。
「今度結婚することになった。相手を連れて挨拶に行くからよろしく」という手紙だった。
両親は心配になり、長女と次女に相談した。
長女は、婿を取って両親の商家を継いでいた。
次女はかなりの大店に嫁に行った。
プリシラは三女である。
両親と二人の姉は相談した。「プリシラが結婚することになったという。相手はいったいどんな男なのだろう」父親は心配そうに言った。
「手紙には何と書いてあるの?」長女が訪ねた。
「それが何も書いていないんだ。それで心配になって、対応をどうしようかと思って相談したんだ」父親は言った。
「あの子は言葉が足りないから。でもあの子も19歳よね。あの子愛想がないし、そろそろ年齢的に厳しくなるころだから、焦って変な男に捕まってなければいいのだけれど」母親が心配そうに言った。
「私思うにおそらく同業者じゃないかと思うのよ。冒険者同士でくっ付くってよくあるらしいわ。旦那から聞いたことがあるわ」次女が言った。
「同業者か、その可能性が一番高いか。変な奴でなければいいが」父親が言った。
「まあ、冒険者は荒っぽい連中が多いからね。旦那も商売柄付き合うことが多いけど、結構大変みたいよ」次女が言った。次女が嫁いだ家は交易の仕事をしており、専属の冒険者もいて、交易の際の護衛についていた。
「とりあえず、家の旦那に頼んで護衛の冒険者を呼んでおくよ。プリシラに何かあった時は実力で排除するから」次女は言った。
「私も旦那の実家に頼んで、腕っぷしの強そうなのを呼んでもらうよ」長女が言った。
長女の夫は道具職人の親方の次男で、商売上の付きあいから知り合い、婿にもらった経緯があった。
道具職人は、がたいも大きく、腕っぷしも強い男たちが多くいた。
「その時になったら頼む」両親は娘たちに行った。
「可愛い妹のプリシラのためだもの」姉たちは口をそろえていった。
しばらくしてまた手紙が来た。
「戦争で少し遅くなる。心配はいらない」
両親は顔を見合わせた。確かに冒険者が戦争に雇われ、兵士として戦闘に参加することがある。でもプリシラが戦争に参加するなんて、と両親は思い、ひたすら神に無事を願った。
そしてまたしばらくして手紙が来た。
「戦争が終わった。旦那連れて実家に挨拶に行くからよろしく。姉ちゃんたちにもお土産もっていく」
無事だったと知ってみな安堵した。さて、どんな男を連れてくるかと皆、虎視眈々?と待ち構えた。
約束の日、両親と姉夫婦たちは家でプリシラが返ってくるのを今か今かと待ち構えていた。そんな時に何台かの立派な馬車が家の前に止まった。何事かと思い、父親が表に出ると、プリシラがドレスを着て現れた。
「ただ今、父さん母さん、そして姉さんたち」いつも通りの声と顔であいさつした。
「ああ、ただいま」両親は拍子抜けしたように答えた。
後ろから一人の男の子が現れた。
「初めてお目にかかります。私はフィリップ・ブリンディジと申します。この度プリシラさんと結婚いたしました。よろしくお見知りおきを」と笑顔で言った。
「この人が私の旦那さん。フィル、この二人が両親で、こっちが上の姉さん、あっちが下の姉さん、そして二人の旦那さん」とプリシラが男の子に家族を紹介していた。
「プリシラ、この子があなたの旦那さん?今年はいくつなの?」上の姉が聞いた。
「12歳」とプリシラが何でもないように答えた。
「あんたいくら何でも……」
その時下の姉の夫が言った。「ブリンディジって、南の侯爵家だよな。確かこの前の戦争でアッピア家の方が後を継いで、シケリアの公王になったのではなかったのではないか」交易商人の出らしく、いろいろな情報に精通している下の姉の夫が言った。
「ええ、私はもともとパランク王国の出身なのですが、祖父がアッピア家の出身で、その縁でエリトリア王国に仕えることとなりました。今回の戦功で、ブリンディジ家をつぐことになり、シケリアに公国を立てる許可を王から頂きました」とその男の子は平然と言いった。
「ということは、プリシラ、あんた公王様の側室になったの?」と上の姉が聞いた。
「一応、正室格となっている。正式な正室はパランクのプルターク伯爵家のマリア様だけど、私もエリトリア王の養女になったから正室格としてなった」とプリシラは淡々と言った。
「王の養女になったって!」家族全員で驚いた。
みんな驚きすぎて声が出なくなっていた。
「ねえ、プリシラさん、家族にはこれまでの事情を手紙で知らせたといっていましたが、ご家族の方々、皆さん知らなかったようですよ。」公王様はプリシラにむかって言った。
「手紙に書いたはず……」
「「「「「「書いてない!、書いてない!」」」」」」皆が口をそろえていった。
「プリシラさん~」公王様はジト目でプリシラを見た。
「う~ん、言葉が足りなかったかも」プリシラさんは考えるように言った。
「ダメでしょう、ちゃんと言わないと。皆さん混乱しているみたいですよ」公王様はプリシラに注意した。
「うー、ごめんなさい」
「今度から手紙を書くときは私にも見せてくださいね」
「うん、そうする」
皆は思った。プリシラの言葉足らずは昔からで、全然直そうとしなかったのが、公王様が注意すると、素直に聞いているのを見て、「この子、プリシラより大人だ」と感心した。
「とにかく、遠いところよくおいでくださいました。中にお入りください」と家に入ることを進めると、「その前にお土産をお渡ししたい。どちらに入れればよろしいですか?」と聞いてきたので、商品を置く土間の方へ案内した。
公王様は部下に命じてたくさんのお土産を馬車から降ろして、その土間に積み上げていった。
プリシラの実家は家具や什器を扱う店で、かなりのスペースがある商品保管用の土間であったが、そこがいっぱいになった。
「とりあえず、皆さんの分を一緒に置いておきますので、あとで皆さんで分けてください」と公王様は微笑みながら言った。
そのあと、公王様とプリシラの家族は話をした。最初とても緊張していたが、公王様は人当たりがよく、すぐに打ち解けた。
売っているものは何か聞いてきたので、両親が店の商品を紹介した。公王様はプリシラと相談してかなりの数の商品を買い上げて、「プリシラさんの私室に置きます。プリシラさん、あと何か欲しいものありますか?」と尋ねたところ、「大丈夫」と言った。
両親は、お前もっと買ってくれよと思いつつ、公王様の前でそれも言えず、すこしイライラしていた。
次女の夫が、待機させていた部下を伝言を伝えるために実家に行かせた。しばらくすると、馬車を飛ばした次女の夫の父親がやってきて、「ぜひ私もご挨拶をしたいのですが」と言ってきた。
公王様は「別に構いませんよ」と言ったので父親は公王様に挨拶した。
公王様は丁寧に挨拶を返し、二人は話をしていた。父親が交易の仕事をしていること、ぜひともシケリアとも交易をしたいことを伝えると、公王様は快諾し、公王自らの交易許可の文章を書いて、渡した。
その日は公王様だけ宿泊先のホテルに戻り、プリシラは久しぶりに実家で過ごした。
「プリシラ、あんた凄い人捕まえたね」姉たちに言われて「うん、私もびっくり」と返した。
「どうやって知り合ったの?」母親が訪ねたので、「フィルはもともとパランク王国の王子。政治的理由で、パランク王国からエリトリアに来た。私と赤いバラ団の仲間達と、フィルと祖父のジョン様は旅で知り合った。私はフィルと一緒になったが、仲間のうち二人は祖父のジョン様の側室になった。一人はプルターク伯爵家嫡男の正室になった。ちなみにプルターク伯爵家嫡男の正室になった子もエリトリア王の養女になった」
「ジョンって、アッピア侯爵家を再興した英雄だよな。みんな玉の輿かよ。本当にすごいな」と上の姉の夫が言った。
もらったお土産を見てみると、最高級で有名なシケリアのワインや東方の香辛料やガラスの什器、貴重な装飾品があった。
「プリシラ、ありがとう」と家族みんなで感謝した。
「別に大したことない。旦那様が選んでくれた」と淡々と言った。
さすがだと皆感心した。その夜は家族で夜遅くまで、談笑した。
夜、フィルはひとりホテルのバルコニーに出て夜空を眺めながらつぶやいた。
「プリシラさん、これで思い残すことはないかな」
新しい戦争が始まる。
お読みいただきありがとうございました。もし少しでも気になりましたら星かブックマークをいただければ大変ありがたいです。
星一ついただければ大変感謝です。ブックマークをいただけたら大大感謝です。ぜひとも評価お願いいたします。