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ひょんなことから転生したおじさん、王子になって楽な人生を送れるかと思ったが、とっても大変な目に遭っています  作者: 信礼智義


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閉話6 戦争前の平穏な日々1

毎日18時に投稿しています。お読みいただければ幸いです。

 パランク戦争始まる前、一時の平和があった。皆思い思いに日を送っていた。


ジョン・アッピアの場合

 ジョン・アッピアが政務をとっていると、ジュリアとリンダがやってきて、ジョンに声をかけた。

 「忙しいところすみません、旦那様。今少し時間よろしいでしょうか」ジュリアが声をかけてきた。

 「ああ、どうしたんだい」とジョンはにこやかに答えた。

 「実は私たちの実家が隣のサロ侯爵領にあって、一度挨拶に行きたいのですが」とジュリアは恐る恐る尋ねた。

 「ほう、二人の実家か。ぜひ行きなさい。もし、可能ならば、わしも一度挨拶に伺いたいのだが」そう言って、「いや、やめておこう。こんな年寄りが婿と知ったら、ご両親は怒るだろうしな」と言って、少し悲しく微笑んだ。

 「全然問題ありません。旦那様さえよろしければ一緒に行きませんか」ジュリアはあわてたように言った。

 「いいのかい?」「ええ、ぜひとも」今度はリンダが言った。

 「じゃ、早速用意しよう」そう言って、使用人にいくつか命じた。

 「え~と、あまり大げさには……」ジュリアが慌てたようにいった。

 「大丈夫、任しておいてくれ」ジョンは少し悪い微笑みを浮かべて言った。


 その村は南スロベニア北部州の東の端にある寒村である。山がちの地で、農地として使える土地は少なくそのため、農業のほか、山での採取を主な生業としていた。

 それでも食べていける人口は限られており、長男、長女以外は原則村から出て、出稼ぎに行くのが習わしとなっていた。

 ただ、学問もなく、コネもない村人たちは町で肉体労働や雑用に着くぐらいしかなく、肉体的にも恵まれた者のみが冒険者として働くことができた。

 この村では冒険者として働くことは、ある種の成功者とみなされ、皆憧れていた。

 

 ジュリアとリンダの実家は貧しい農家だった。子沢山で、とても村の仕事だけでは食べていくことができなかった。

 その中で、二人の仕送りはこの両家にとってかけがいの無いものだった。

 それが、二人が結婚するという手紙が来て、近々婿を連れて帰るという連絡があった。

 二人の両親は娘の幸せを喜ぶと同時に、仕送りがなくなることにつらい思いがあった。金持ちの夫を捕まえてくれれば、いやあの二人の年齢と器量でそれは無理だろう、変な男でなければいい、でもこれからの生活が、二人の両親は葛藤した。

 

 村に立派な馬車が数台やってきた。何事かと村中の人々がやってきて、周りを取り囲んでみていた。

 静々と二人の貴婦人が馬車から現れた。美しいドレスにきらびやかな装飾品を身に着けていた。

 更に一人の偉丈夫が下りてきた。簡素だけれど上質の布地を使ったエリトリア軍の高級軍人用の軍服を着た男だった。

 どう見ても貴族のご一行という感じで、なんでこんな辺鄙な村に来たのかと皆訝し気に、こそこそと話していた。

 年老いた村長が、恐る恐る前に進み出て、「恐れ入ります。わたくしこの村の村長をしておりますトム・ボーガンと申します。貴族様、この村に何様でございましょうか」と震えながら聞いた。


 「村長お久しぶり、元気だった?」一人の貴婦人が声をかけた。

 「恐れ入ります、前にお会いしたことがありましたでしょうか?」村長は震えながら聞いた。

 「何言ってんだい、昔はよく悪さして怒られたじゃないか」その貴婦人は言った。

 「そんな恐れ多い、貴族様に声をかけたことなどございません。まして怒るなどと」村長は震えながら言った。もし、万が一そんなことをしていたら死刑にされるかもしれない、そう思い恐怖に震えながら答えた。

 「忘れたのかよ、リンダだよ」その貴婦人は笑いながら言った。

 「リンダ!お前か!」村長はびっくりした。冒険者として働いている村の娘が貴婦人として目の前に現れて、とても信じられなかった。


 「村長殿ですね」その時、偉丈夫の男が村長に声をかけた。

 「アッはい、そうです」

 「私はジョン・アッピア侯爵と申します。今回妻たちの実家に挨拶に参りました。おい村長殿にお土産をお渡ししろ」その命令を受けて、部下らしき男が酒や食料、調味料などを山積みした。

 村長はびっくりして、声が出なかった。


 ジュリアとリンダはその場にいた家族を見つけ、声をかけた。

 「ただいま、父さん、母さん、弟と妹たち」「父ちゃん、母ちゃん、ガキども今帰ったぞ」

ジュリアとリンダは家族に挨拶すると、「「この方が私たちの旦那様、ジョン・アッピア侯爵様だよ」」と紹介した。

 「初めてお会いします。二人の夫であるジョン・アッピアと申します」ジョンと名乗るその男は挨拶したあと、二人の家族に山盛りのお土産を渡そうとした。

 「旦那様、家に行ってから渡したほうがいいですよ、ねえ、父さん、母さん」

 「ここじゃ運ぶのが大変だよ、家についてからがいいよ」

 「先にどちらの家に伺えばよいか?」

 「大丈夫、隣同士だから家の側まで行って、お土産を渡せば大丈夫です」とジュリアが言った。


 二人の両親たちはびっくりして声が出なかった。

 「わあ~姉ちゃんの旦那さん?行く遅れの姉ちゃんたちよくもらってもらったね」

「旦那さん少し怖そ~」

 二人の弟妹たちは口々に勝手なことを言い始めた。

 「ちょっとお前たちやめなさい!」両親たちは慌ててやめさせようとした。

 「大丈夫ですよ、ご両親。おじさんは怖いか?」とニコニコ顔でジョンは子供たちに聞いた。

 「怖いけど、すごく立派。姉ちゃんたち凄いね!」と言って、ジョンの手を取って家に案内を始めた。

 ジュリアの家に着くと、「改めてご挨拶を。ひょんな縁からジュリアとリンダを娶ることとなりました。こんな年寄りですが、お許しいただければと」と頭を下げた。


 2人の両親は「いえいえ、こんな不肖の娘をもらっていただけるとは、本当にありがとうございます。大量のお土産までいただき、感謝の言葉もございません」と恐縮したように頭を下げた。

 「あっこれ、私達から仕送りね」とジュリアとリンダはお金を渡した。

 5千ブッシュづつあって、両親はまたびっくりした。

 「「こんな大金、良いのかい?」」

 「「うん、私たちのお小遣いから出しているから大丈夫」」と二人は言った。


 その夜は村で宴会が行われた。ジョンやジュリアとリンダも楽な服装に着替えて、宴会に参加した。

 その夜は皆楽しそうに過ごした。


 その後、村にはジョンから魔法使いや技術者が送られ、土地の開墾や水利の開発が行われたことで農地が3倍に拡大し、また換金作物の栽培や肥料の利用など新しい技術を教わり、村自体が豊かになった。

 ジュリアとリンダは村で伝説の存在となり、二人の幸運にあやかりたいと像を作って祠に飾り、村だけでなく、近隣の村からも拝みに来るようになった。


 ちなみに、二人はその話を聞いて、恥ずかしさのあまりもんどりうって悶えたという。


サロ伯爵とサロの街の場合

 「伯爵、おはよう」町の屋台のおばちゃんが声をかけた。

 「おはよう、景気はどうだい?」サロ伯爵は気楽に言い返した。

 「まあ、ぼちぼちかね」

 「そいつは結構、頑張ってな」

 「あはは、そうだね、ぼちぼち頑張るよ」とおばちゃんは返した。

 町の住民たちはみな、親しみを込めて声をかけた。

 それに対し、伯爵も気さくに答えていた。

 伯爵も町の民も死線を超えた同志の関係で、その距離はとても近かった。

 朝の散歩を終えると、屋敷に戻った。


 「お帰りなさい、あなた」一人の女性が声をかけた。

 「ただいま、朝食は食べたかい?」

 「あなたを待っていたの、一緒に食べましょう」

 「待たなくていいのに、ごめんね」

 「うふふ、さあ行きましょう」

 伯爵は結婚していた。相手は町長の娘で、一緒に特攻する予定だった女性だった。

 特攻前に一緒に最後の夕食を食べ、特攻直前に救援が来て気絶した時看病してくれた女性だった。

 伯爵になり、サロの街を復興する際、町長と打ち合わせをするため家に行ったときに再開し、徐々に交際を深めて結婚したのである。

 一緒に朝食をとってから、伯爵は執務を開始した。

 

 サロの街は伯爵と住民の努力と、王国からの戦功により伯爵に送られた報奨金を使って破壊された街並みや道路整備を行ったことで、交易も盛んになり、前よりも町は発展した。

 ドアがノックされ、「伯爵様、領軍のことでお話が」籠城戦の時、伯爵に代わって兵を指揮した元大隊長が入ってきた。

 彼はサロ解放後もこの地に残り、伯爵に陞爵した三男にそのまま仕えることにして、今の伯爵軍の総指揮官として働いていた。

 この地で戦った兵士たちのほとんどがこの地に残り、戦えるものは軍人として、また傷痍軍人は傷ついた体でもできる仕事をしていた。

 

 彼らは夫を失った女性たちと結婚して、新しい家庭を築いている者が多くいた。

 この前の戦争で男達の多くが戦死したため、夫を失った女性が数多くいた。その救済の意味もあり、この地に残った軍人たちとの婚姻を進めたためであった。


 「どうしました、総司令さん」伯爵は尋ねた。

 「なんかその呼び方恥ずかしいですな」元大隊長は少し照れたようであった。

 「何を言うんですか、国軍の大隊長だった方が、こんな新興伯爵の領軍に入ってもらえるなんて、こちらの方が申し訳ない」伯爵は慌てて行った。

 「私は男爵家の4男ですから、辺境配属の部隊だから何とか大隊長まで行きましたが、それ自身望外の出世だったと思っています。これ以上の出世はありえず、あとは退役してわずかな年金で生活するしかないところでした。ところが伯爵軍を任されたことで、男爵並みの身分を得ることができて、更に住まいと領地がもらえたので悠々自適の生活が保障されました。伯爵様には感謝しかありません」

 伯爵は上級貴族に位置しており、家宰と領軍長は男爵並みの待遇を受ける権利が王国では保証されていた。

 また、伯爵は村一つを支配地として元大隊長に与えており、サロの街と領地に小さいけれど屋敷が与えられていた。

 元大隊長は妻と一緒に住んでいた。息子が二人いたが、一人は官僚として国に勤めており、一人は軍に勤めていたが、軍に勤めていた次男はこのまま国軍に勤めていても出世の可能性がないと判断し、伯爵軍に移ってきており、中隊長格で働いていた。

 おそらく彼が領地等を引き継ぐことになるだろうと、伯爵は考えていた。


 兵士たちも下士官や下級将校として領軍で働いていた。平民出の兵士は大体下士官で打ち止めで、それすらも出世した方で下級将校に成れることは絶対になかった。

 

 傷痍軍人たちは一時金をもらって、商売を斡旋され、各々働いていた。

 あるものは商店主として、あるものは職人として働いていた。

 普通傷痍軍人の末路は悲惨である。何とか働き口が見つけられれば低賃金でもすごく幸運で、だいたいは道端で物乞いか残飯あさりがお決まりのコースだが、ここでは一端の商売を行ったり、職人として雇ってもらったりで、更に結婚までできた。


 伯爵も町の人達も一緒に戦った兵士たちのことは同志として扱っており、だから彼らは幸せをつかめたのであろう。


 サロの街は、平和だった。伯爵はこの平和がずっと続けばいいな、と思っていた。

 一本のエリトリア王からの命令書が来るまでは。


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