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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第9章 「定例会乙号事件」
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第9章 「定例会乙号事件」③

「なんで板橋にいるの!?」


 私は心の中で叫んだ。

 しかし時既に遅し。小川さんが叫んだ事によりJ&Jの一団の視線は私達のいる席に注がれていた。しかも名出しだ。

 久我山編集長も無視をする訳にはいかない。いや性格的に言ってもサービス精神旺盛な方だ。無反応なわきゃない。

 彼女は立ち上がった。そして私達のいるテーブル席へと近付いてきた。

「はい。私が久我山です」

 そう言うと例の人懐っこい笑顔を私達の前でしてみせた。

「おぉ~」

 カネコさんが口癖の「んぁ」が出ないほどに驚いている。

 小川さんもポカンと口を開けたままだ。

 そして、久我山編集長は私に視線を飛ばす。咄嗟に俯いたがそれは無駄なことだった。

 デビュー前の私の姿を知る数少ない人物の一人でもある。

 久我山編集長の前で、眼鏡とボサボサの髪型と野暮ったいコーディネート。そんなものは街中でギリースーツを着て擬装網を引きずって歩いてるようなもの。

 彼女からしてみれば目立たない訳がない。


 そしてバツの悪いことに久我山編集長は小川さんとカネコさんと面識がない。


 ただのファンサービスのつもりでこの私達のいるテーブルへと近付いてきたのだ。そしたら私がいた。

「んぁ。隊長ンとこの編集長じゃねーの?」

 ここでまさかの不意打ち。カネコさんが私の存在を思いきりバラしてしまった。

 別に今の姿を見られることが恥ずかしい訳ではない。

 この会合その物の存在が知られる事が私にとって今はナゼか嫌だったのだ。

 聖域を土足で踏みにじられる感触。

 久我山編集長は身体を屈めてテーブルの上に組んだ腕を置いた。そして小声で私達に話しかけた。

「お二人がリタちゃんのお友達ね。オフの所悪い事しちゃったわ。ゴメンね。でも今ここで私があなたの存在がバレるような事はしたくないから他人を装ってもらっても大丈夫よ」

 そう言うと彼女は立ち上がった。

 私は俯いたまま無言。

「大丈夫ダヨ~隊長があの人気のモデルなんて誰も気付いてないダヨ~」

「んぁ。ちげェねェ」

「え?そうなの」

「板橋にカリスマモデルが住んでるなんて普通は思わないダヨ~」

「んぁ」

「そうは思えないけど…。用心する事に越した事は無いかと」

 久我山編集長の表情に苦慮の表情が滲む。

「そういえば何で、ファッション雑誌の人が板橋にいるダカ?」

「んぁ。板橋に取材するようなお洒落な所あるのか?」

「んー。物凄く服を安く売ってるお店…。なんて名前だっけかな…」

「とのやカ?」

「そうそこ!!」

「んぁ。そんな所のモンがファッション雑誌に使えるのか?」

「確かに安いだけでトレンドなんてないダヨ」

「そ・こ・は。モデルさんの着こなし♪」

 と言って久我山編集長は私の方を見た。

「…」

 一瞬の静寂が訪れる。その事に反応しない私。そうすると。

「ブハハハハ!!」

 小川さんとカネコさんは思いきり笑い飛ばした。

「ン、ンァ、隊長のどこを叩けば着こなしとか出てくんだよ~」

「そういうのってスタイリストさんの仕事じゃないノカ~?」

 この事を聞いた瞬間私の中で何かが弾けた。

 気が付くとテーブルをバンと叩きながら立ち上がっていた。

「リタちゃんだめ!!」

 声を殺した感じで久我山編集は私を制した。

 しかしその制止は私には効かなかった。

「あんた達、いい加減にしなさいよ」

 そう静かに言い放つと、私の心に怒りとは別の感情が湧いていた。テーブルに打ち付けた右手に、痛みが残る。

 なにかこう、仲間に裏切られたというか、とにかくやるせない気持ちで一杯になり、その気持ちは吐き出し口を求めていた。


「モデルがどんな気持ちでブランドの服に袖を通してるか判ってるの?」


 そう言いながら、うつむけていた頭を私はゆっくりと上げていった。

 驚いた周囲の情況が視界に入る。それでも構わず、ゆっくりと口を開いた。


「私が着る事によっていろんな人の生活が変わるの、ある人はそれで救われる人もいるわ、でも全員が全員救われる訳じゃない。中には倒産して力尽きるブランドだってあるのよ。どういう気持ちでその人達は私に望みを託してるか知ってるの?

そういったプレッシャーの中、私達は生きてるの。それは世にいるモデル全員が感じるプレッシャーなの。

例えそれが地方のスーパーでも、有名なアパレルブランドでも変わらない。一企業、一個人の人生を、守るべき人達ががいる人々の思いを背負って私達はカメラの前に立つのよ!」


「あなた達が思ってるほどお気軽な仕事じゃないの!モデルは‼」


 いつの間にか私の頬を生暖かい液体がつたっていた。

 それは目から止めどもなく溢れてくる。

 私は会合の場所であるファミレスを飛び出た。

 そしてそのまま自宅のマンションへと走って帰った。

 とにかく悔しかった。悔しくて悔しくてたまらなかった。

 モデルとして歩んできた人生だが、今まで涙を流すほど悔しい思いをした事がない。

 例えオーディションで落選しても、表紙を他のモデルに取って変わられても、仕事をドタキャンされても、横取りされても、感じることはなかった。

 私には縁が無かっただなとか、実力不足だったんだろうとか、そうやって原因は自分にあると思わせて次の仕事に続くように努力をした。

 しかし今回は違う。

 私が信じてたものから裏切られたように感じたからだ。

 今までの積み上げてきたものが一気に瓦解したように思えた。

 それは私の努力不足が原因なのか?

 それとも何か配慮が足りなかったのか?

 そういう感情が沸くという事は、とにかく自分の中で何か許せ無い思いが芽生えてしまったとしかいえない。

 煮え切らない思いのまま私は、いつの間にか寝ていたらしい。

 ベットの上にいた。

 けたたましくなる仕事用の携帯。

 着信が尋常じゃない量あった。血相を変えて時間を確認する。

 時間は既に昼を過ぎていた。慌て電話に出る。

「リタさん何があったんですか!?」

 マネージャーさんから私の安否を気にする電話だった。

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