死なぬ男
私の手は血で汚れている。
刎ねた首は数知れず、ただの一度も失敗はしなかった。
何度後悔したか、何度絶望したか。
その間にも屍は数を増していく。
後悔しても絶望しても、なおも休むことなく殺し続ける。
私は、もう人形だから。
自分の意思では、指先ひとつ満足に動かせない。
邪魔者を排除するための殺戮人形。
どれだけ願っても、どれだけ抗っても主人の命令ひとつで私は人を殺す。
心と体は乖離している。
もうこの体は私のであって、私のではない。
何もできない私はただただ叫び続ける。
『たすけて』と。
だけどこの声は誰にも届かない。
そしてまた今日も私の体は人を殺すために動き出した。
その音は死の足音。
それは何の前触れもなく襲ってきた。
わずかに聞こえるは風を切る音。
ああいやこれはどうして、なかなかにすばらしい。いい腕を持っている。
だが残念だ、ああ残念だ。とエイゲンは静かに、だが楽しそうにそうつぶやいた。
神速の凶刃はエイゲンの首を逃がさず捕らえた。
首は転がり、血はとめどなくあふれ出す。
容赦なく、躊躇なく機械のごとく仕事を終わらせる。なんて完璧な仕事ぶりだろうか。
「ックク、いい腕だの」
その声は血だまりに沈む首から発せられた。
凶刃の襲撃者は声がすると同時にエイゲンから距離をとる。
その様子にエイゲンは、またもカカと笑う。
落とされた首を拾い、その首を体にくっつけた。
何の魔法か奇跡か、それだけで何事もなかったかのように元通りになる。
なんて悪夢。
先ほどの斬首は何一つエイゲンに痛痒を与えなかった。
首をつけ襲撃者を見やる。
しかし襲撃者の雰囲気は異様だった。今の光景に眉ひとつ動かさず、言葉も発しない。そしてその瞳はひどく虚ろであった。どこにも焦点はあってなく、こちらをただ眺めている。
感情というものをすべてそぎ落としているかのようだ。
エイゲンは人目で看破する。
操られていると。
エイゲンは内心笑いが止まらない。
なんて性悪だと。
こんなことをするやつはそろって屑だ、例外はない。
屑は即座に殺すのが、世のため人のためだ。
それに、屑は殺しても誰も困らない。
エイゲンのその顔に、一瞬悪魔のような笑みが浮かんだ。
首をコキコキと鳴らし、襲撃者、その奥を見る。
「いつまで隠れてるつもりや。そろそろ姿ぁみせぇや」
その言葉は虚空に向けて発せられた。本来ならば答えるものなどいはしない。
「ほほ、私に気づいたのですか。いやはやなかなか、やるようですね。さすが神といったところでしょうか。姿を見せなかった非礼は謝りましょう」
その声は、襲撃者の後方から聞こえた。
そこには何もなく、もちろん誰もいないはずだった。
次の瞬間、黒く深い、深淵を感じさせるような孔が現れた。
その声の主はカツンカツンと硬質な足音を響かせ、黒い孔から姿を現した。




