洛陽
いつの世も人間は変わらないとエイゲンは思う。
争いに争いを重ね、憎しみを連鎖させ、そしてまた争う。
「嘆かわしいのぉ。もうちぃと建設的なことに力使えんもんかね」
その声に乗った感情は、怒りか悲しみか。その顔からは感情を読み取ることはできない。
エイゲンの眼下では今まさに戦の真っ只中だった。
大地を赤と青の甲冑が埋め尽くしている様は、いっそ壮観とすら言えた。
趨勢は赤の軍が多少押していると感じだろうか。だがまだどちらにも転ぶだろう。
「どっちが勝ってもええが、こんまま普通にやぁててもつまらんじゃろ」
エイゲンは底意地の悪い笑みを浮かべる。
「これもひとつの神様の贈り物ってやつだ。心して受け取れよ馬鹿者共!! 」
そう叫び腕を振る。
すると影ひとつなかった戦場に影が生まれ、それは徐々に広がっていった。
空を見上げると、暗雲が垂れ込めはじめていた。
それは何かを思う間もなく空を覆いつくし、大粒の雫をこぼす。そよ風程度だった風はいまやその名残を残してはいない。そして網膜を焼きつけ、鼓膜をつんざかんばかりの光と轟音を響かせる。
「じゃあ、気張れよ。お前らの大好きな戦じゃ、誰んも遠慮せず楽しめぇや」
どこか楽しそうに言い、エイゲンは戦場に背を向け歩き出す。そして次の瞬間にはエイゲンの姿は掻き消えていた。まるで最初からいなかったかのように。
エイゲンが消えた後に残されたのは嵐と混乱に満ちた戦場だった。
この神域”洛陽”はエイゲンが作り管理する空間。半径30キロという巨大なこの空間はエイゲンがただ一人で作り出したものだ。
洛陽は世界の特異点であった。世界に関わりを持たず、独立して存在する場所。仮に世界が崩壊したとしても、エイゲンが無事ならばこの場所は変わらずあり続けるだろう。
さらにこの空間の周囲にはエイゲン独自の結界が張り巡らされている。その強度は何者でも容易に突破することはかなわない。
故にここに出入りできるものはエイゲンだけ。例外としてエイゲンに連れられた者ならば入ることはできる。しかしその後自由に出入りできるわけではない。出入りはすべてエイゲンと共にでなくばできない。
ここに単身で入ることができるものは、エイゲンをはるかに上回る力を持ったものか、もしくは特殊な力を持ったものだけだ。だがエイゲンの計り知れない力を超えるものなどほんの一握りだろう。だから実質、特殊な力を持つものしか単身で入ることはできないといえる。
だからこそ少女には、サクヤにはエイゲンの言っていたことが理解できていない。エイゲンの力を誰よりも知っているが故に、洛陽にエイゲンが不在の間にくるなど到底信じられるものではなかった。
だから、サクヤがそのとき茫然自失としてしまったのを誰も責められはしないだろう。
それは本来ありえず、起こりえないことなのだから。
洛陽に、ぴしり、と何かにひびが入るような音が響いた。




