神域×主
そこは人里から隔絶された未開の森。
人間は当然、それどころか野生の動物ですらそこには踏み入らない。
静謐で荘厳。どこか重苦しさすら感じる。まさに神域。
雰囲気、空気、気配どれをとってもすべてを凌駕していると感じる。
別格。ここにいるのは別次元の存在であることは、どんなに鈍感なものでも感じられる。その存在感は、誰であろうとその心に畏怖の念を抱かせるだろう。
それほどまでにここはおかしい。怪物の腹の中にいるかのような。
ここは神域。閉じた世界。どこにもつながっておらず、どこにでもつながっている。。それは神域の主が認めねば誰も入ることも出ることもできはしないということ。
この神域は、ただ己が住まうためだけに作った空間。
そこは人里から隔絶された未開の地。そこを踏破し、地図に記すものは現れない。そこは閉ざされているから。
静寂を少女の声が破る。
「主様、道中お気をつけください」
「・・・・・・・・・」
「主様? どうかなされましたか 」
その声はどこか不自然さを感じさせた。まるで本の台詞をそのまま棒読みしているかのような。
少女はそれを気にしていないのか、表情をほとんど変えず主と呼ぶ男を見る。
「お前、主様って誰じゃ? 」
少女は男をすっと指差す。
男は、はぁ~っとため息をつき、呆れたように言う。
「またなんかに影響されたんじゃの」
男がそういうと、少女はそういわれるのを予想していたかのように、男に持っていた本を見せる。
「帝都メイド物語じゃとぉ? まぁたけったいなもん読みよって、どこでこんなもん拾ってきやがったんじゃ」
「ないしょ」
どこか小悪魔めいたように少女は笑う。だが表情はやはりほとんど変わっていない。
男はまた盛大なため息をついた。
「わぁったわぁった、お前がどこで何を拾ってこようと、わしゃ別にかまわん」
「そう、気にしたら負け」
男は何に負けるのかと聞き返そうと思ったが、徒労に終わるのは目に見えている。つまり聞くだけ無駄だ。
「ふぅ、じゃあわしゃもう行くからの」
そういうと男は、軽く腕を振り外界とのゲートを作り出す。
「わしが出とる間に誰か来るはずじゃ。ようしてやれや」
男はゲートをくぐる前に思い出したように言った。
「わかった、だからなるべく早く帰ってきてエイゲン」
少女が言い終わると同時にゲートは閉じた。
少しの間少女はゲートがあった場所を見つめ、踵を返し家へと帰る。その背中にすこし寂しさを漂わせながら。
少女一人になると、あたりはまた静謐な空気に包まれる。
しかし男がここから離れたせいか、荘厳さ、重苦しさはどこかに消えていた。




