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「そうだ。ゼロエスなんちゃらという薬は、まだ、あるのか」
レオルドが、思い出したように言った。
「え? あー……あるけど、何?」
白衣のポケットに一本だけ入ってるし、あっちの世界にはもうそれはドカンと在庫が。
「それを、売ってほしい」
即答だった。
いやまあ、昨日も言ってたけどさ。
「いや、だからさ……薬じゃないんだよね」
「では何なのだ。昨日は回復魔法ではない、と言っていたな。ならば霊薬だろう?」
「何その二択」
「キョウニンが精霊の遣いだということは、既に分かっている」
セイレイノツカイ。なんかそういう魚、いそうだよね。
「だからさ、その霊薬っていう設定にされたヤツは、経口補水液っていう、栄養補給の飲み物で……もういいよ、細かいことは」
どうせ理解できないだろうし。
レオルドは、少しの間黙った。
それから、低く声で言う。
「——薬じゃなくてもいい」
「え?」
「売ってくれ」
「いいけど……誰が飲むの? 王子が?」
「王子と呼ぶな。レオルドだ」
「はいはい。で、誰が飲む?」
するとレオルドは、一瞬だけ視線を落とした。
「国中の者が、昨日の私のような症状で苦しんでいる」
「……え?」
思わず聞き返す。
「この一ヶ月ほどで、急激に気温が上がった。多くの者が倒れている。私の家族も、だ」
「それ、普通にヤバくない?」
「治癒師たちも手を尽くしているが、追いついていない」
……あー。なるほど。
「そりゃま、こんだけ暑けりゃ、そうなるよね」
じわっと汗が流れる。ほんとに、ただ立ってるだけでしんどいレベルだ。
まあ今の日本の真夏だって似たようなもんだけどね。
クーラーとか日傘が無いと、もう生きていけないよ。
「このままでは、国民が……」
「てか、みんなの暮らし、どうなってんの?」
エアコンとか、この世界に標準装備されてるとは、思えないんだよなぁ。
レオルドは少しだけ考えてから、頷いた。
「……やはり、貴重な薬を売るには実地を見なければということだな」
いやそんな大げさな話じゃないんだけど。
「分かった。では、あの家を訪問してみよう」
「いや、んっと、私、行くの?」
なにこれ、在宅患者訪問薬剤管理指導料が取れないのに行かなきゃなの?
事前の届け出してないからね。
もちろん介護保険もないし。
うん、そもそもここ日本じゃないからね。
……まあ、いっか。ちょっと面白そうだし。




