2-1
午後七時。閉店。
今日は、ちょっと忙しかったなー。
昨日、近所のクリニックが休みだったから、その分がまとめて来た感じ。
……まあ、それはいいとして。
裏口を見る。
昨日の夜、あそこが“どこか”と繋がっていた。
「……夢、じゃないよね」
確か、もらった金貨は——レジの下に、とりあえず突っ込んだんだっけ。
取り出す。ぴっかぴか。ずしっとした重み。
——いやこれ、やっぱり重さおかしくない?
「……本物の金っぽいなぁ、これ」
箱に入っている0S-Iを一本、手に取る。
いやあ、こんなものがねぇ。
白衣のポケットに0S-Iを入れる。
そしてもう一度、裏口を見た。
試しに、ドアノブに手をかける。
今日は忙しくて、一回も裏口から外に出てない。
つまり、ここがどうなってるか、まだ確認してない。
開ける。
——熱気。
むわっとした空気が、肌にまとわりつく。
あぁ。なんか人とか食べそうな花が咲いてる。
「……うん、異世界確定だね」
その瞬間。
「どうした」
ぬっと、殿下が現れた。
「いや、何でいるの!?」
「お前が来るのではないかと思ってな。待っていた」
「いや待たないで!?」
「大事なことを聞き忘れていたのだ」
え、なに? 0S-Iをまとめ買いしたら割引があるかとか?
いやまあ、それくらいはさせていただきますけど。
「お前の名は、なんという?」
「え、私? あー……橘 杏仁」
「タチバナ・キョウニン? 変わった名だな」
否定はしない。普通の世界でも初手で読める人、あんまりいないし。
杏仁は生薬の一種で、アンズの種の中身。
咳止めに使われるけど、一方で、青酸、つまり毒にもなる。
親が、毒にも薬にもなれる人になれってことでつけた。
結構、気に入ってるけど、今の私は……、どっちにもなれてない気がする。
「私はレオルド・ヴァルディウスだ」
「ヴァ? ちなみに、その……昨日言ってたけど、本当に殿下なの?」
「この国の第二王子だ。だが敬称は不要。レオルドと呼べ」
さらっと、とんでもないことを言われた。
「……はい? いや、ちょっと待って。ホントに?」
頭が追いつかない。異世界だけでも手一杯なのに、そこに王子まで乗ってくる?
「疑う理由があるのか」
んーーー。昨日のコスプレ家来集団の雰囲気と、金貨を思い出す。
たぶん、嘘じゃないんだろうなあ。
「……うわぁ」
思わず、変な声が出た。
「キョウニン、か。いい響きだな」
「あ、うん。ありがと。ところでさ」
「なんだ」
「大事なことを聞き忘れていたってなに? 0S-Iの件?」
「いや、大事なことは、もう聞いた。お前の名だ、キョウニン」
ああ、そうですか。




